2人でいられるなら…
2002年8月17日夏休み終了まで、あと2日。
その最後の2日間は竜樹さんと一緒に過ごすことになっていた。
金岡父とプードルさんを残していくのは少々不安な気はするけれど、金岡母がお江戸に行く前から約束してたから反故にする気にはなれず。
さりとて終始遊びっぱなしもどうかと思うから、少しばかりの家事をこなして家を出た。
今日も外は蒸し暑い。
昨日異常なる暑さの中、姉さまとのデートに出かけた疲れは少しばかり残っていて、どことなくふらふらとはしてるけれど。
竜樹さんに逢えればそれでよし♪
いつものように電車を乗り継ぎ、食料を調達してバスに乗る。
バスを降りると少しばかり風がある。
…もしかしたら、行けるかも知れない
今日もこちらの方面では何箇所かで花火大会が行われる。
比較的行きやすい距離のところでも花火大会があると聞いていたので、竜樹さんの体調がよければ行こうかって話をしていた。
おそらくこれを逃すと、今年の花火は一度も見れないまま終わるだろう。
竜樹さん自身が再手術の前に何かひとつでも多く、楽しみごとを見出したかったというのは事実だし、私自身も竜樹さんが元気なら一緒に出かけられるに越したことはない。
あとは、竜樹さんの体調次第。
何となく、少しばかり湿気を帯びた空気に、その計画が実行されることはないかなぁと言う嫌な感じを受けたけれど…
「暑いのに、ようこそやなぁ♪(*^-^*)」
竜樹さんは幾分穏やかな感じ。
それは昨日、病院に行ってきはったからだろうか。
昨日、先生と何を話したのか、聞こうとする前竜樹さんが口火を切る。
「あんなぁ、俺の入院、早まってん。」
「…へ?また随分急な話ですね」
「そやねん、来週の月曜日から来いって言うねんで」
………………(゜Д゜)!!
「そんなに早くなるんですか!?」
「そやねん、俺もてっきり8月末頃やって踏んでたのに、明後日から来いやって」
確かにお盆休み明けならまだベットも空いているからだろう。
けれど、私が予想してたよりもはるかに竜樹さんの体調が悪いということなのかもしれない。
昨日も蒸し暑さと長距離の移動ですっかりダウンしてたというし…
もしかしたらちょっと曇った表情をしてたのかもしれない。
「霄、おなかすいたやろ?これ、食べ?(*^-^*)」
竜樹さんはほにゃと笑って、菓子パンとミルクコーヒーをくれた。
「…あ、ありがとう」
それをぱふんと口にする。
食べ物を口にしてる様子を見て安心されたのか、横になる竜樹さん。
渡されたパンとコーヒーをきれいにして、竜樹さんの隣に寄り添う。
傍によると触れてくる竜樹さんはまるで安心が欲しい子供のよう。
ただ伝わる感覚が安心に結びつくから触れるらしいけれど、私には少し感じを変えて伝わるので、どこかヘンな感じ。
やがて、少しばかり火がついてしまうような形で抱きしめ合う。
私が来た時間もそれほど早くはないからあまり悠長にしてると、花火に間に合わなくなる。
熱を帯びすぎたいちゃいちゃが過ぎれば、当然のように暫くは何も出来ないわけだし。
…て、単に離れたくなくて、ぺたとくっついてるのが悪いんだけど(^^ゞ
案の定、想いや熱を受け渡せば、そのままくっついて動こうともせず。
「花火、どうするんですか?竜樹さん」
「…俺、動かれへぇん(>_<、)"」
…結局、こうして花火を見に行くのはお流れになってしまった。
花火を見に行気なくなった時のために、家で楽しめるものは準備してきてたけれど、それが「外で夏を楽しみたい」という竜樹さんにとってそれがどれほどの気休めになるのかもわからないけれど。
少なくとも竜樹さんが思うほど、私は外に出ないことが苦痛でもなく、ただ竜樹さんの傍にいられたらそれでいいのだということだけ、そっと受け取ってもらえたらそれでいい。
眠る竜樹さんの隣からそっと置きだして着替えてまた竜樹さんの傍に座る。
すると携帯が鳴った。
出てみると姉さまだった。
姉さまに頼まれごとをして、その後話しつづける。
その間、竜樹さんはずっと私の身体に触れている状態なので、その手を握り締めながら話しつづける。
次に気がついたら、私のおなかに手を回したまま、再び竜樹さんは眠っていた。
電話を終え、そのままの姿勢で、ぼけっとしてる。
出かけないなら、ご飯の支度もしないといけない。
けれど、このぼんにゃりと暖かな時間を自ら壊す気になれなくて、そのままじっとしてる。
遠くからぼにょんとした花火の音が聞こえ始める。
意外と遠くの音も聞こえるものだなぁと感心しながら、けれど、やっぱりすぐ傍で見ることは出来なかったんだなぁと実感する。
ちょっとぺこんときかかった時、また携帯が鳴る。
出たはいいけれど、すぐに切れてしまった。
また暫くしたら、携帯が鳴る。
出てみると、今度は大好きなお友達。
電話の向こうはものすごい音。
「何の音か、判りますか?」
轟音の中から友達が問い掛けるのを聞いてるうちに思い出した。
…遠い地である花火大会に彼と2人で行くと言ってたっけ。
こちらでかすかに聞こえるぼにょんとした音ではなく、はっきりした音。
楽しそうな雰囲気は電話の向こうから確かに伝わる。
「ありがとうね(*^-^*)」
ちょっと機嫌を良くして降りていくと、竜樹さんが起きていた。
「そんなに喜んで、2階から花火見えたんか?」
「いいえ、そんな遠くのものが見えたらびっくりでしょう?
友達から電話だったんです」
暫く取り留めのない花火話をして、花火の代わりのイベントの準備を始める。
ちっさなコンロを囲んでのたこ焼きパーティ(笑)
「もしも花火が流れたら…」と思って密かに買って竜樹邸に置いといて貰ったんだ。
茹でたたこを切り、粉を溶いたり材料を準備したりする。
「ごめんなぁ、ホンマやったら花火見にいけたのに…"(ノ_・、)"」
「何言ってるんですか?何処にいても、楽しいことはそれなりにできるもんですよ?」
食卓にセッティングして、小さな宴を始める。
夏の花火は見損ねたけれど、楽しいことはどんなところにいてもあるものだから。
…2人でいられるなら、いつでも楽しいんだよ?
竜樹さんに伝わるといいな。
そう思いながら小さな宴に臨んだ。
その最後の2日間は竜樹さんと一緒に過ごすことになっていた。
金岡父とプードルさんを残していくのは少々不安な気はするけれど、金岡母がお江戸に行く前から約束してたから反故にする気にはなれず。
さりとて終始遊びっぱなしもどうかと思うから、少しばかりの家事をこなして家を出た。
今日も外は蒸し暑い。
昨日異常なる暑さの中、姉さまとのデートに出かけた疲れは少しばかり残っていて、どことなくふらふらとはしてるけれど。
竜樹さんに逢えればそれでよし♪
いつものように電車を乗り継ぎ、食料を調達してバスに乗る。
バスを降りると少しばかり風がある。
…もしかしたら、行けるかも知れない
今日もこちらの方面では何箇所かで花火大会が行われる。
比較的行きやすい距離のところでも花火大会があると聞いていたので、竜樹さんの体調がよければ行こうかって話をしていた。
おそらくこれを逃すと、今年の花火は一度も見れないまま終わるだろう。
竜樹さん自身が再手術の前に何かひとつでも多く、楽しみごとを見出したかったというのは事実だし、私自身も竜樹さんが元気なら一緒に出かけられるに越したことはない。
あとは、竜樹さんの体調次第。
何となく、少しばかり湿気を帯びた空気に、その計画が実行されることはないかなぁと言う嫌な感じを受けたけれど…
「暑いのに、ようこそやなぁ♪(*^-^*)」
竜樹さんは幾分穏やかな感じ。
それは昨日、病院に行ってきはったからだろうか。
昨日、先生と何を話したのか、聞こうとする前竜樹さんが口火を切る。
「あんなぁ、俺の入院、早まってん。」
「…へ?また随分急な話ですね」
「そやねん、来週の月曜日から来いって言うねんで」
………………(゜Д゜)!!
「そんなに早くなるんですか!?」
「そやねん、俺もてっきり8月末頃やって踏んでたのに、明後日から来いやって」
確かにお盆休み明けならまだベットも空いているからだろう。
けれど、私が予想してたよりもはるかに竜樹さんの体調が悪いということなのかもしれない。
昨日も蒸し暑さと長距離の移動ですっかりダウンしてたというし…
もしかしたらちょっと曇った表情をしてたのかもしれない。
「霄、おなかすいたやろ?これ、食べ?(*^-^*)」
竜樹さんはほにゃと笑って、菓子パンとミルクコーヒーをくれた。
「…あ、ありがとう」
それをぱふんと口にする。
食べ物を口にしてる様子を見て安心されたのか、横になる竜樹さん。
渡されたパンとコーヒーをきれいにして、竜樹さんの隣に寄り添う。
傍によると触れてくる竜樹さんはまるで安心が欲しい子供のよう。
ただ伝わる感覚が安心に結びつくから触れるらしいけれど、私には少し感じを変えて伝わるので、どこかヘンな感じ。
やがて、少しばかり火がついてしまうような形で抱きしめ合う。
私が来た時間もそれほど早くはないからあまり悠長にしてると、花火に間に合わなくなる。
熱を帯びすぎたいちゃいちゃが過ぎれば、当然のように暫くは何も出来ないわけだし。
…て、単に離れたくなくて、ぺたとくっついてるのが悪いんだけど(^^ゞ
案の定、想いや熱を受け渡せば、そのままくっついて動こうともせず。
「花火、どうするんですか?竜樹さん」
「…俺、動かれへぇん(>_<、)"」
…結局、こうして花火を見に行くのはお流れになってしまった。
花火を見に行気なくなった時のために、家で楽しめるものは準備してきてたけれど、それが「外で夏を楽しみたい」という竜樹さんにとってそれがどれほどの気休めになるのかもわからないけれど。
少なくとも竜樹さんが思うほど、私は外に出ないことが苦痛でもなく、ただ竜樹さんの傍にいられたらそれでいいのだということだけ、そっと受け取ってもらえたらそれでいい。
眠る竜樹さんの隣からそっと置きだして着替えてまた竜樹さんの傍に座る。
すると携帯が鳴った。
出てみると姉さまだった。
姉さまに頼まれごとをして、その後話しつづける。
その間、竜樹さんはずっと私の身体に触れている状態なので、その手を握り締めながら話しつづける。
次に気がついたら、私のおなかに手を回したまま、再び竜樹さんは眠っていた。
電話を終え、そのままの姿勢で、ぼけっとしてる。
出かけないなら、ご飯の支度もしないといけない。
けれど、このぼんにゃりと暖かな時間を自ら壊す気になれなくて、そのままじっとしてる。
遠くからぼにょんとした花火の音が聞こえ始める。
意外と遠くの音も聞こえるものだなぁと感心しながら、けれど、やっぱりすぐ傍で見ることは出来なかったんだなぁと実感する。
ちょっとぺこんときかかった時、また携帯が鳴る。
出たはいいけれど、すぐに切れてしまった。
また暫くしたら、携帯が鳴る。
出てみると、今度は大好きなお友達。
電話の向こうはものすごい音。
「何の音か、判りますか?」
轟音の中から友達が問い掛けるのを聞いてるうちに思い出した。
…遠い地である花火大会に彼と2人で行くと言ってたっけ。
こちらでかすかに聞こえるぼにょんとした音ではなく、はっきりした音。
楽しそうな雰囲気は電話の向こうから確かに伝わる。
「ありがとうね(*^-^*)」
ちょっと機嫌を良くして降りていくと、竜樹さんが起きていた。
「そんなに喜んで、2階から花火見えたんか?」
「いいえ、そんな遠くのものが見えたらびっくりでしょう?
友達から電話だったんです」
暫く取り留めのない花火話をして、花火の代わりのイベントの準備を始める。
ちっさなコンロを囲んでのたこ焼きパーティ(笑)
「もしも花火が流れたら…」と思って密かに買って竜樹邸に置いといて貰ったんだ。
茹でたたこを切り、粉を溶いたり材料を準備したりする。
「ごめんなぁ、ホンマやったら花火見にいけたのに…"(ノ_・、)"」
「何言ってるんですか?何処にいても、楽しいことはそれなりにできるもんですよ?」
食卓にセッティングして、小さな宴を始める。
夏の花火は見損ねたけれど、楽しいことはどんなところにいてもあるものだから。
…2人でいられるなら、いつでも楽しいんだよ?
竜樹さんに伝わるといいな。
そう思いながら小さな宴に臨んだ。
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生命の洗濯したような…
2002年8月16日今朝は昨日よりは早く目が覚めた。
夕方からお姉さまと神戸でディナーデート。
楽しみだけど、異常に暑さにめげ気味。
早く着替えて早めに出かけようと思いながらも、何処となくやる気も出ず、また着替えたものが汗づくのも嫌で部屋着でだらだらとしてしまう。
いい加減出かけた方がよさそうな時間になり、シャワーを浴びて準備するけれど何時に何処で待ち合わせするかすら決まってない有様(爆)
ディナーは18時から。
「予約の1時間ほど前に逢いましょう」メールを送っておいたのだけど、姉さまから数時間たった今も返事はない。
やっとこ姉さまからの返事が届いたと思ったら、「まだ家を出てないので途中の駅についたらメールする」とのこと。
そのお返事を見てまたでろっとしそうだったけれど、予約を入れてる店には今日始めていくので、ちょっと早めに神戸に入れるように家を出る。
今日竜樹さんは病院へ再手術の打ち合わせに行っているけど、具合が悪くしてないか気になる。
「病院について行こうか?」と申し出たけれど、「一人で行けるし、楽しんどいで」ということで今日は別行動したのはいいけれど、とても気になる。
そう言う私自身も歩くたびに体力が蒸発してく感じ。
電車は冷房の効きがいいとはいえ、どんどこ人が乗り込んでくるので、すぐに蒸し暑い空気に包まれる。
乗換えだけでぐったりしてるところに、姉さまからメールが入る。
それから逐一互いのいる場所を確認しながら、移動を繰り返し、ようやっと落ち合った。
神戸の町も輪を掛けて暑い。
お湯の中を歩いてるんじゃないだろうかと思いながら、目指す店を探し探し歩く。
途中、銀行やらコンビニで涼を取りながら店を探し当て、予約の時間がくるまで近くのコンビニで避暑(笑)
18時5分前にコンビニを出て、レストランに向かう。
18時丁度に店の前についたけれど、店は「準備中」
「嘘やん、予約入れたのに…」と言ってると、私たちの目の前を老婦人がすーーっと通り抜け店の中に入っていく。
「大丈夫かな?」と言いながら店に入ると、店員さんが出迎えてくれた。
姉さまと食事を終えた後好感しようと思っていた物品を座席まで持っていくつもりだったけれど、お店の人に取り上げられクロークに片付けられる。
少しばかり困ったけれど、すぐに意識はディナーの方に映っていった。
今日はフランス料理のコースを食べる。
冷製オードブル4種類と温製オードブル3種類、メインディッシュ7種類にデザート7種類、ドリンク十数種類の中から1品ずつ選ぶ。
値段も(私が食べるにしては)張るし、雰囲気も異常に上品な感じでちと固まってしまったけれど。
姉さまが一緒だから大丈夫だろうと、非常に根拠レスな勇気を持ってメニューを手にとる。
そうして選び取った料理をオーダーし、いよいよディナーのスタート。
付き出しは「鮎のクレープ包み・サワークリーム添え」。
塩コショウで味付けしたと思われる鮎の身をクレープで包んで炒め揚げしたものに、クレソンを混ぜたサワークリームを添えたもの。
ちびこいフォークで食べなければならなかったのは辛かったけれど、とても美味しかった。
お客さんも少なかったので、料理が運ばれるたびにこっそりデジカメで写真を撮っていた私。
それを余裕の表情で見てる姉さま。
途中から近くのテーブルにお客さんが入りだしたから、もっとひやひやしてたけれど「気にせんと、撮り撮り♪」と背中を押してくれた。
冷製オードブルが出てくる前に、じゃがいものパンが登場。
さいの目に切ったジャガイモの混ざったパン。
硬さも塩気も丁度いい、美味しいパンにほくほくしてると、冷製オードブル登場。
私は「ソラマメのムース・コンソメゼリー添え」(←多分、こんな陳腐な名前じゃなかった)、
姉さまは「岩牡蠣」をチョイス。
姉さまの前に運ばれてきた岩牡蠣の異常なる大きさにびっくりしながら、やってきたオードブルを食す。
ソラマメのムースの上に、ウニが沢山乗っている。
その周りに少しとろみがついてるかな?という程度の堅さのコンソメゼリーが添えられてる。
あっさりして美味しかったけれど、心持ちコンソメゼリーの味が薄かったような気がした。
けれど、ソラマメのムースのやらかさとウニが絶妙♪
(ちなみに、他のメニューには鱧のチーズフリットやギリシャ風サラダなるものもあったような…)
温製オードブルの前に届けられたのは、サツマイモのような形をしたバゲット。
2人ともバゲットが好きなので、喜んでいたけれど…
「ガリ、ボリ、ゴリ………」
ちぎるのも一苦労なら、食べるのも一苦労。
バゲットのしっぽをかじろうがおなかをかじろうが、「ガリ、ボリ、ゴリ…」の騒音付。
静かなる店内で肩を揺らして笑う二人。
近くのテーブルに賑やかな外国籍のお客様がやってこられたので、これ幸いと思いっきり笑ってしまった。
かったいバゲットくんの次は温製オードブル。
2人共「フォアグラのソテー・コーンパンケーキ添え」(←きっとこんな名前じゃない)
他にはカエルのリゾットやオマール海老が半身丸ごと出てくるソテーがあった。
ソテーしてソースを添えたフォアグラをちっさいコーンパンケーキに挟んで食べるというもの。
このコーンのパンケーキが美味しい♪
「一体どうやって作るんだろう?」と切ったパンケーキを眺めながら暫し考え込んでた金岡。
これには2人とも大満足、会話も弾む弾む。
…そうしてるうちに、メインディッシュ。
サーロインステーキ、牛の喉の肉の煮込み、イトヨリのソテー・ワイルドライスのサラダ添え、マナガツオの料理があって散々迷ってしまったけれど、結局姉さまは仔羊のローストと夏野菜のグラタンを、私は桃と鴨のロースト(←絶対こんな名前じゃない)をチョイス。
姉さまの仔羊のローストがあっさりしてて、美味しかった。
鴨のソテーは添えられた桃がやや甘すぎた気がして、ちょっとだけ後悔。
それでも機嫌よく食べてはいたけれど…
最後に、デザートとドリンク。
ここでもいろんなデザートメニューに迷いに迷って、なかなか決まらず。
結局私は、プティ・ポ・ド・クレームのジャスミンとアールグレーダージリン。
姉さまは、ピーチメルバ(クッキーの上にバニラアイスと桃のコンポートを乗せ、カスタードクリームをかけたもの)とジャスミンティをチョイス。
ここでギャルソンさんにクロークの荷物を持ってきてもらい、物品交換会も展開。
一気に賑やかになる。
プティ・ポ・ド・クレームというのは、簡単に言えばプリン(笑)
ココア風味のプリンにプルーンのシロップ煮とグレープフルーツが乗っていて、上からジャスミンの香りがついたカラメルソースがかかっている。
その隣に、クレープの皮で蓋なしの入れ物作って固く焼いたものにココアを降ったものにハチミツレモン味のシャーベットが小山のように入ってる。
…両方とも幸せ気分な味♪(*^-^*)
デザートも出てきたお茶も殆ど片付いているのに、グッズ交換会は賑やかに続いていく。
私たちよりも後からきたお客さんが引き上げはじめたので、慌てて撤収。
…お支払で泣いたけれど"(ノ_・、)"
店の外に出ると蒸し暑くて倒れそうになったけれど、姉さまと逢って楽しい時間が過ごせたことが嬉しかった。
再手術に向けて暫くはこんな風に遊びまわる機会は減るだろうけれど、またこんな楽しい時間を持てるといいな。
真夏日の中、暫し生命の洗濯をしたような、そんなディナーデートだった、
夕方からお姉さまと神戸でディナーデート。
楽しみだけど、異常に暑さにめげ気味。
早く着替えて早めに出かけようと思いながらも、何処となくやる気も出ず、また着替えたものが汗づくのも嫌で部屋着でだらだらとしてしまう。
いい加減出かけた方がよさそうな時間になり、シャワーを浴びて準備するけれど何時に何処で待ち合わせするかすら決まってない有様(爆)
ディナーは18時から。
「予約の1時間ほど前に逢いましょう」メールを送っておいたのだけど、姉さまから数時間たった今も返事はない。
やっとこ姉さまからの返事が届いたと思ったら、「まだ家を出てないので途中の駅についたらメールする」とのこと。
そのお返事を見てまたでろっとしそうだったけれど、予約を入れてる店には今日始めていくので、ちょっと早めに神戸に入れるように家を出る。
今日竜樹さんは病院へ再手術の打ち合わせに行っているけど、具合が悪くしてないか気になる。
「病院について行こうか?」と申し出たけれど、「一人で行けるし、楽しんどいで」ということで今日は別行動したのはいいけれど、とても気になる。
そう言う私自身も歩くたびに体力が蒸発してく感じ。
電車は冷房の効きがいいとはいえ、どんどこ人が乗り込んでくるので、すぐに蒸し暑い空気に包まれる。
乗換えだけでぐったりしてるところに、姉さまからメールが入る。
それから逐一互いのいる場所を確認しながら、移動を繰り返し、ようやっと落ち合った。
神戸の町も輪を掛けて暑い。
お湯の中を歩いてるんじゃないだろうかと思いながら、目指す店を探し探し歩く。
途中、銀行やらコンビニで涼を取りながら店を探し当て、予約の時間がくるまで近くのコンビニで避暑(笑)
18時5分前にコンビニを出て、レストランに向かう。
18時丁度に店の前についたけれど、店は「準備中」
「嘘やん、予約入れたのに…」と言ってると、私たちの目の前を老婦人がすーーっと通り抜け店の中に入っていく。
「大丈夫かな?」と言いながら店に入ると、店員さんが出迎えてくれた。
姉さまと食事を終えた後好感しようと思っていた物品を座席まで持っていくつもりだったけれど、お店の人に取り上げられクロークに片付けられる。
少しばかり困ったけれど、すぐに意識はディナーの方に映っていった。
今日はフランス料理のコースを食べる。
冷製オードブル4種類と温製オードブル3種類、メインディッシュ7種類にデザート7種類、ドリンク十数種類の中から1品ずつ選ぶ。
値段も(私が食べるにしては)張るし、雰囲気も異常に上品な感じでちと固まってしまったけれど。
姉さまが一緒だから大丈夫だろうと、非常に根拠レスな勇気を持ってメニューを手にとる。
そうして選び取った料理をオーダーし、いよいよディナーのスタート。
付き出しは「鮎のクレープ包み・サワークリーム添え」。
塩コショウで味付けしたと思われる鮎の身をクレープで包んで炒め揚げしたものに、クレソンを混ぜたサワークリームを添えたもの。
ちびこいフォークで食べなければならなかったのは辛かったけれど、とても美味しかった。
お客さんも少なかったので、料理が運ばれるたびにこっそりデジカメで写真を撮っていた私。
それを余裕の表情で見てる姉さま。
途中から近くのテーブルにお客さんが入りだしたから、もっとひやひやしてたけれど「気にせんと、撮り撮り♪」と背中を押してくれた。
冷製オードブルが出てくる前に、じゃがいものパンが登場。
さいの目に切ったジャガイモの混ざったパン。
硬さも塩気も丁度いい、美味しいパンにほくほくしてると、冷製オードブル登場。
私は「ソラマメのムース・コンソメゼリー添え」(←多分、こんな陳腐な名前じゃなかった)、
姉さまは「岩牡蠣」をチョイス。
姉さまの前に運ばれてきた岩牡蠣の異常なる大きさにびっくりしながら、やってきたオードブルを食す。
ソラマメのムースの上に、ウニが沢山乗っている。
その周りに少しとろみがついてるかな?という程度の堅さのコンソメゼリーが添えられてる。
あっさりして美味しかったけれど、心持ちコンソメゼリーの味が薄かったような気がした。
けれど、ソラマメのムースのやらかさとウニが絶妙♪
(ちなみに、他のメニューには鱧のチーズフリットやギリシャ風サラダなるものもあったような…)
温製オードブルの前に届けられたのは、サツマイモのような形をしたバゲット。
2人ともバゲットが好きなので、喜んでいたけれど…
「ガリ、ボリ、ゴリ………」
ちぎるのも一苦労なら、食べるのも一苦労。
バゲットのしっぽをかじろうがおなかをかじろうが、「ガリ、ボリ、ゴリ…」の騒音付。
静かなる店内で肩を揺らして笑う二人。
近くのテーブルに賑やかな外国籍のお客様がやってこられたので、これ幸いと思いっきり笑ってしまった。
かったいバゲットくんの次は温製オードブル。
2人共「フォアグラのソテー・コーンパンケーキ添え」(←きっとこんな名前じゃない)
他にはカエルのリゾットやオマール海老が半身丸ごと出てくるソテーがあった。
ソテーしてソースを添えたフォアグラをちっさいコーンパンケーキに挟んで食べるというもの。
このコーンのパンケーキが美味しい♪
「一体どうやって作るんだろう?」と切ったパンケーキを眺めながら暫し考え込んでた金岡。
これには2人とも大満足、会話も弾む弾む。
…そうしてるうちに、メインディッシュ。
サーロインステーキ、牛の喉の肉の煮込み、イトヨリのソテー・ワイルドライスのサラダ添え、マナガツオの料理があって散々迷ってしまったけれど、結局姉さまは仔羊のローストと夏野菜のグラタンを、私は桃と鴨のロースト(←絶対こんな名前じゃない)をチョイス。
姉さまの仔羊のローストがあっさりしてて、美味しかった。
鴨のソテーは添えられた桃がやや甘すぎた気がして、ちょっとだけ後悔。
それでも機嫌よく食べてはいたけれど…
最後に、デザートとドリンク。
ここでもいろんなデザートメニューに迷いに迷って、なかなか決まらず。
結局私は、プティ・ポ・ド・クレームのジャスミンとアールグレーダージリン。
姉さまは、ピーチメルバ(クッキーの上にバニラアイスと桃のコンポートを乗せ、カスタードクリームをかけたもの)とジャスミンティをチョイス。
ここでギャルソンさんにクロークの荷物を持ってきてもらい、物品交換会も展開。
一気に賑やかになる。
プティ・ポ・ド・クレームというのは、簡単に言えばプリン(笑)
ココア風味のプリンにプルーンのシロップ煮とグレープフルーツが乗っていて、上からジャスミンの香りがついたカラメルソースがかかっている。
その隣に、クレープの皮で蓋なしの入れ物作って固く焼いたものにココアを降ったものにハチミツレモン味のシャーベットが小山のように入ってる。
…両方とも幸せ気分な味♪(*^-^*)
デザートも出てきたお茶も殆ど片付いているのに、グッズ交換会は賑やかに続いていく。
私たちよりも後からきたお客さんが引き上げはじめたので、慌てて撤収。
…お支払で泣いたけれど"(ノ_・、)"
店の外に出ると蒸し暑くて倒れそうになったけれど、姉さまと逢って楽しい時間が過ごせたことが嬉しかった。
再手術に向けて暫くはこんな風に遊びまわる機会は減るだろうけれど、またこんな楽しい時間を持てるといいな。
真夏日の中、暫し生命の洗濯をしたような、そんなディナーデートだった、
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中休み
2002年8月15日竜樹さんにただぺたーとくっついたり、じゃれあったり。
竜樹さんの身体の具合が落ち着くまで、ずっと2人でくっついて横になっていた。
やがて「ちゅ〜ぼ〜ですよ」も終わり、日付が変わる。
「午前様なんてそう滅多にしないのだから」と思う自分がいる反面、「金岡母がいないからって、あまり遅くなるのもあかんかな?」と思う自分もいる。
けれど、やっぱり竜樹さんといたくて、たらたらしてしまう。
「霄ぁ、帰るで。用意しぃやぁ」
ゆっくりと起き上がった竜樹さんに声をかけられ、身体を起こす。
お昼に痛み止めと点滴を打ったせいだろうか?
いつもより元気そうな表情の竜樹さんがいる。
静まり返った夜道を歩いて、車に乗る。
2人で交わす会話もどことなく穏やかで、本当に家に帰るのが惜しいけれど。
また週末には会えるのだからと、互いに言い聞かせるようにして別れる。
こっそりと鍵を開け家に入り、リビングを見ると金岡父がソファーで横になっている。
私があまりに遅いものだから、テレビを見ながら待っていてくれたんだろう。
「遅くなってごめんなさい、お父さん。もうお布団に横になった方がいいよ」
「…うー(-"-;)」
金岡父、怒ることを忘れたのか、そのままはしゃぐプードルさんを連れて寝室へ戻っていった。
そして、私も自室に戻る。
ここのところ、竜樹さんと話したことや一緒にいたことを反芻すると眠れなくなるので、なるべく思い返さないようにしてるけれど。
どういう訳だか毎回反芻しては眠れなくなる。
意識が落ちるまで、いろんなことを考えながら時間をやりすごす。
…次に起きたら、昼前だった(-_-;)
今日は1日休養日に充てていたので、せっかくだから簡単な夕飯ぐらいはしようと思っていた。
金岡父が自分では作らないような、だけど簡単な料理を作ることだけ知らせておいて、買出しと用事を片しに出かける。
銀行に行って大振込大会を展開後、電車に乗ってスーパーへ行く。
夕飯の食材と金岡父に頼まれていた食材を買いに入り、たらりたらりとフロアを歩きながら、食材をぽこぽことカゴに放り込んでいく。
今日の夕飯はカレーにする予定(簡単すぎ…)
13日に出勤した時、お弁当を買いに出て「オムレツカレー」なるものを持って帰ってきた。
基本的に美味しいカレーだったのだけど、オムレツが焼けすぎてて堅かったのが気になった。
それと、身近な人たちがする、不思議なことがずっと気になってた。
竜樹邸でカレーを食べると、決まってカレーに生卵を落とす。
海衣も結婚してから何故か、カレーに生卵を落とす。
…これ、半熟のオムレツで作ったらどうなるのかなぁ?
思えばしょうもない好奇心から、今日の夕飯のメニューは決まった。
けれど、ただのカレーにしても面白くも何ともないので、金岡父の好きな特別辛いカレーを作ろうと決意。
さりとてただ闇雲に辛いだけでもなぁなどと考えながら、スーパーをちょろちょろする。
ふと調味料の棚を見ると、マンゴーピューレなるものが置いてある。
ガラムマサラは早々に買い物篭に放り込んでいて、もうこれ以上調味料に用はないはずだけど、どうしても気になったので棚の前で立ち止まる。
マンゴーピューレにも甘口と辛口がある。
辛口はピューレに唐辛子が混ざってる模様。
まさか1回のカレーに一瓶使うことはないだろうからと考えてるうちに、頭の中にぼわんと竜樹さんが出てくる。
「霄ぁ、唐辛子は勘弁してくれぇ・゜・(ノД`;)・゜・ 」
困り顔の竜樹さんが頭に浮かんで、スイートタイプの瓶をぼこん。
あとは金岡父から頼まれていたプードルさんへのお土産とカマスの開きを買って帰る。
重い食材を提げてバスに乗る。
金岡家の方面へ向かうバスに乗る人は殆どいなくて、2人掛けの席に一人で荷物を広げて座ったとしても、まだ座席が余るような状態。
竜樹邸に向かうバスが混み混みだったのとはうってかわっての閑散とした様子に「やっぱり世間様は休みなのだと実感。
クーラーががんがんに効いた空き空きのバスに乗ってぼんにゃりと家に帰る。
家に着いて食材を片付け、暫く金岡父と話したり、プードルさんと遊んだりして過ごし、夕飯を作り始める。
どうせなら、スパイスを混ぜてルーを作るところから始めたかった。
カレーを作る作業の中でそれはやったことがないから。
簡単な料理にひと手間加えるならその辺から始めてみたかったけれど、プードルさんの「遊んで攻撃」を一手に食らっている金岡父の消耗が激しいのであまり待たせる訳にも行かず。
仕方なく、ルーから作るのは次回に持ち越しになった。
肉を炒めて皿にあげ、野菜を炒めて皿にあげ。
鍋にお湯を沸かして、野菜からぼちゃんぼちゃんと放り込んでただひたすらことことと煮る。
あまりに楽な作業にヘンな感動を覚える。
竜樹邸で料理をする時、殆ど「料理の鉄人」よろしく常に動き回っているので、煮てる間に洗い物を片付けてまだ何かができる余裕が嬉しい。
「付け合せ何にしようかな?」と冷蔵庫の中を物色してると、プードルさんに攻撃され尽くしてよれっとした金岡父が「気分転換に俺が作る」と言い出したので、付けあわせだけはお願いして、鍋の番をしながらプードルさんと遊びまわる。
野菜も肉も柔らかくなってきたので、カレーのルーを入れ味付けを始める。
やや辛めに仕上げるつもりで、辛口のルーを多めに入れて調整してたけれど、マンゴーペーストを入れると途端に甘くなりすぎて、あれこれと調整を加えつづける。
とろみが丁度よくなってきたので、ガラムマサラを多めに入れて完成。
作業自体は楽でよかったけれど、ガスの熱ですっかり汗だらけ。
カレーを食べたらまた汗まみれになるのは判っていたけれど、ひとまずシャワーを浴びてひと息。
心持ち手を加えたカレーと金岡父作マカロニサラダを食す。
金岡父は(自分でも作れるのだけど)金岡母が作ったものしか口にしない傾向が強く、金岡母が不在の時は自分で作らない限り、海衣や私が作ったものは食べようとしなかったので「正直、こんなことをしても意味があったのかな?」と思ったり。
けれど、「上手にできてるやないか」と誉めながら、きれーに平らげてしまわれた。
その様子を見てると嬉しくなって、景気よく平らげてしまったけれど…
空になった食器を片付けてて気がついた。
…「オムレツカレー」にするんちゃうかったん?
汗まみれになって少々頭にうろがきたのか、半熟オムレツを焼いてカレーの上に乗せるという簡単な作業をすこんと忘れていた。
金岡父も私も卵は好きだ。
これがうまくいったら、竜樹さんにも食べさせてあげられたかもしれないのに…
「何をがっくりきてるんや?」
べっこりへこんでる私に金岡父が声を掛けてきたので、「オムレツカレー」にするつもりでいたのに、オムレツ焼くのを忘れたという話をすると…
「あー、俺はカレーの上には何も乗せへん方がええねや♪(*^-^*)」
一言で片付いてしまった。
スパイスを調合してルーからカレーを作ること。
半熟オムレツを乗せたカレーが美味しいのかどうか。
つまらない探究心から作ろうとした料理が中途半端な形で終わってしまって、少しべこんときたけれど、いい休養日にはなったんだと思う。
明日からまた予定は目白押し。
ぼんにゃりと適度に探究心を満たすことの出来た中休みも悪くはないなって思った。
竜樹さんの身体の具合が落ち着くまで、ずっと2人でくっついて横になっていた。
やがて「ちゅ〜ぼ〜ですよ」も終わり、日付が変わる。
「午前様なんてそう滅多にしないのだから」と思う自分がいる反面、「金岡母がいないからって、あまり遅くなるのもあかんかな?」と思う自分もいる。
けれど、やっぱり竜樹さんといたくて、たらたらしてしまう。
「霄ぁ、帰るで。用意しぃやぁ」
ゆっくりと起き上がった竜樹さんに声をかけられ、身体を起こす。
お昼に痛み止めと点滴を打ったせいだろうか?
いつもより元気そうな表情の竜樹さんがいる。
静まり返った夜道を歩いて、車に乗る。
2人で交わす会話もどことなく穏やかで、本当に家に帰るのが惜しいけれど。
また週末には会えるのだからと、互いに言い聞かせるようにして別れる。
こっそりと鍵を開け家に入り、リビングを見ると金岡父がソファーで横になっている。
私があまりに遅いものだから、テレビを見ながら待っていてくれたんだろう。
「遅くなってごめんなさい、お父さん。もうお布団に横になった方がいいよ」
「…うー(-"-;)」
金岡父、怒ることを忘れたのか、そのままはしゃぐプードルさんを連れて寝室へ戻っていった。
そして、私も自室に戻る。
ここのところ、竜樹さんと話したことや一緒にいたことを反芻すると眠れなくなるので、なるべく思い返さないようにしてるけれど。
どういう訳だか毎回反芻しては眠れなくなる。
意識が落ちるまで、いろんなことを考えながら時間をやりすごす。
…次に起きたら、昼前だった(-_-;)
今日は1日休養日に充てていたので、せっかくだから簡単な夕飯ぐらいはしようと思っていた。
金岡父が自分では作らないような、だけど簡単な料理を作ることだけ知らせておいて、買出しと用事を片しに出かける。
銀行に行って大振込大会を展開後、電車に乗ってスーパーへ行く。
夕飯の食材と金岡父に頼まれていた食材を買いに入り、たらりたらりとフロアを歩きながら、食材をぽこぽことカゴに放り込んでいく。
今日の夕飯はカレーにする予定(簡単すぎ…)
13日に出勤した時、お弁当を買いに出て「オムレツカレー」なるものを持って帰ってきた。
基本的に美味しいカレーだったのだけど、オムレツが焼けすぎてて堅かったのが気になった。
それと、身近な人たちがする、不思議なことがずっと気になってた。
竜樹邸でカレーを食べると、決まってカレーに生卵を落とす。
海衣も結婚してから何故か、カレーに生卵を落とす。
…これ、半熟のオムレツで作ったらどうなるのかなぁ?
思えばしょうもない好奇心から、今日の夕飯のメニューは決まった。
けれど、ただのカレーにしても面白くも何ともないので、金岡父の好きな特別辛いカレーを作ろうと決意。
さりとてただ闇雲に辛いだけでもなぁなどと考えながら、スーパーをちょろちょろする。
ふと調味料の棚を見ると、マンゴーピューレなるものが置いてある。
ガラムマサラは早々に買い物篭に放り込んでいて、もうこれ以上調味料に用はないはずだけど、どうしても気になったので棚の前で立ち止まる。
マンゴーピューレにも甘口と辛口がある。
辛口はピューレに唐辛子が混ざってる模様。
まさか1回のカレーに一瓶使うことはないだろうからと考えてるうちに、頭の中にぼわんと竜樹さんが出てくる。
「霄ぁ、唐辛子は勘弁してくれぇ・゜・(ノД`;)・゜・ 」
困り顔の竜樹さんが頭に浮かんで、スイートタイプの瓶をぼこん。
あとは金岡父から頼まれていたプードルさんへのお土産とカマスの開きを買って帰る。
重い食材を提げてバスに乗る。
金岡家の方面へ向かうバスに乗る人は殆どいなくて、2人掛けの席に一人で荷物を広げて座ったとしても、まだ座席が余るような状態。
竜樹邸に向かうバスが混み混みだったのとはうってかわっての閑散とした様子に「やっぱり世間様は休みなのだと実感。
クーラーががんがんに効いた空き空きのバスに乗ってぼんにゃりと家に帰る。
家に着いて食材を片付け、暫く金岡父と話したり、プードルさんと遊んだりして過ごし、夕飯を作り始める。
どうせなら、スパイスを混ぜてルーを作るところから始めたかった。
カレーを作る作業の中でそれはやったことがないから。
簡単な料理にひと手間加えるならその辺から始めてみたかったけれど、プードルさんの「遊んで攻撃」を一手に食らっている金岡父の消耗が激しいのであまり待たせる訳にも行かず。
仕方なく、ルーから作るのは次回に持ち越しになった。
肉を炒めて皿にあげ、野菜を炒めて皿にあげ。
鍋にお湯を沸かして、野菜からぼちゃんぼちゃんと放り込んでただひたすらことことと煮る。
あまりに楽な作業にヘンな感動を覚える。
竜樹邸で料理をする時、殆ど「料理の鉄人」よろしく常に動き回っているので、煮てる間に洗い物を片付けてまだ何かができる余裕が嬉しい。
「付け合せ何にしようかな?」と冷蔵庫の中を物色してると、プードルさんに攻撃され尽くしてよれっとした金岡父が「気分転換に俺が作る」と言い出したので、付けあわせだけはお願いして、鍋の番をしながらプードルさんと遊びまわる。
野菜も肉も柔らかくなってきたので、カレーのルーを入れ味付けを始める。
やや辛めに仕上げるつもりで、辛口のルーを多めに入れて調整してたけれど、マンゴーペーストを入れると途端に甘くなりすぎて、あれこれと調整を加えつづける。
とろみが丁度よくなってきたので、ガラムマサラを多めに入れて完成。
作業自体は楽でよかったけれど、ガスの熱ですっかり汗だらけ。
カレーを食べたらまた汗まみれになるのは判っていたけれど、ひとまずシャワーを浴びてひと息。
心持ち手を加えたカレーと金岡父作マカロニサラダを食す。
金岡父は(自分でも作れるのだけど)金岡母が作ったものしか口にしない傾向が強く、金岡母が不在の時は自分で作らない限り、海衣や私が作ったものは食べようとしなかったので「正直、こんなことをしても意味があったのかな?」と思ったり。
けれど、「上手にできてるやないか」と誉めながら、きれーに平らげてしまわれた。
その様子を見てると嬉しくなって、景気よく平らげてしまったけれど…
空になった食器を片付けてて気がついた。
…「オムレツカレー」にするんちゃうかったん?
汗まみれになって少々頭にうろがきたのか、半熟オムレツを焼いてカレーの上に乗せるという簡単な作業をすこんと忘れていた。
金岡父も私も卵は好きだ。
これがうまくいったら、竜樹さんにも食べさせてあげられたかもしれないのに…
「何をがっくりきてるんや?」
べっこりへこんでる私に金岡父が声を掛けてきたので、「オムレツカレー」にするつもりでいたのに、オムレツ焼くのを忘れたという話をすると…
「あー、俺はカレーの上には何も乗せへん方がええねや♪(*^-^*)」
一言で片付いてしまった。
スパイスを調合してルーからカレーを作ること。
半熟オムレツを乗せたカレーが美味しいのかどうか。
つまらない探究心から作ろうとした料理が中途半端な形で終わってしまって、少しべこんときたけれど、いい休養日にはなったんだと思う。
明日からまた予定は目白押し。
ぼんにゃりと適度に探究心を満たすことの出来た中休みも悪くはないなって思った。
「今よりも悪くはならない」
2002年8月14日今日から夏休み。
先週末からずっと夏休みの初日は会いに行くねと言ってたので、早く起きようと頑張った。
決意が固かったからか、昨日まで会社に行ってたからなのかは判らないけれど、休みの日にしては早く目が覚めた。
昨日竜樹さんに連絡が取れなかったので、約束したのを覚えてくれてるかどうか確認しておきたくて電話をするけれど、相変わらず捕まらない。
用意をしながら他の用事を片付け始める。
今日から金岡母はお江戸に行く。
世間様がお盆休みの間、海衣の会社は休みでないらしい。
海衣の旦那さんは海外赴任で今は不在なので、姪御ちゃんの保育園の送り迎えの手が足りないということで、金岡母が応援に出ることになった。
お昼ご飯を作ってみんなで食べ、金岡母より一足先に出かける。
外は相変わらず暑いけれど、今日は比較的風があるだけマシなのだろうか?
電車を乗り換え乗り換えし、バスに乗る前に定例の食材調達。
バスに乗ろうとすると、異常なる人の多さにびっくり。
…お盆休みの間って出かけないの?(゜o゜)
私が向かう先は住宅街。
乗る人の大多数も住宅街を目指してバスに乗る。
「遠出できなくて、なんだかな」と思う自分もいたけれど、このバスに乗り合わせてる人もまた遠出せずに住宅街へ向かうのかと思うと、何かヘンな感じ。
竜樹邸の最寄の停留所で降り、よたよたと竜樹邸を目指す。
歩いているとトンボの大群に出会い、またびっくり。
私の住んでるところよりはよほど開けた場所なのに、トンボが飛び交うほど自然が残っているのかと感心しきり。
つまないことに感心しまくって竜樹邸に着くと、出かけようとしてた竜樹さんと鉢合わせ。
「あれ?出かけるの?」
「うん、医者に行って痛み止めと点滴打って貰おうと思って。
少し時間かかると思うから先にあがって待ってて」
そう言って鍵を預かり私は中へ、竜樹さんは病院に行った。
竜樹邸にあがって少し涼んでから、買ってきた食材を片付けたり洗い物を片付けたりする。
することがなくなったので、テレビを見ながら掃除。
一段楽しておなかがすいたので、冷蔵庫の中の卵を2個拝借してオムレツを作る。
牛乳を入れて少し柔らかめにしたオムレツ。
久しぶりに上手に出来たので機嫌よくしてると、竜樹さんが帰宅。
「美味しそうに焼けてるやん?朝から殆ど食べてへんし、俺にも焼いてくれる?」
竜樹さんにも牛乳で柔らかくしたオムレツをひとつ焼いて渡した。
「あ、これくらい柔らかいの、好きやぁ♪(*^-^*)」
そう言ってもらえたのでほっとする。
食事の後、また少し身体が痛むらしく、横になる竜樹さん。
その隣でご飯を作るまでの間、一緒に横になる。
ふと、16日にお姉さまとディナーデートする予定のお店に予約を入れてなかったことに気づいて、起き上がる。
手だけじゃれついてる竜樹さんに気を取られすぎないように注意しながら、電話をしてディナーのコースを予約。
随分たっかいディナーなので、電話を切った途端意味もなく気を吐いてしまった。
その間もずっとじゃれつき気味の竜樹さん。
やっとこしないといけないことも済んでほっとしたからか、ぺとっと竜樹さんの隣に転がり込む。
腕枕をして抱きしめてくれる竜樹さん。
ここでスイッチが入ると間違いなく夕飯を作るのが遅れると知りながら、それでも互いの熱がただ欲しくて抱きしめ合う。
冷房で冷えすぎた部屋には互いの体温が心地よくて、ひとしきりやりとりが済んでも離れがたいのだけど。
今日はお泊りの日ではないから、あまり悠長にしてられない。
仕方なくそっとお布団を抜け出して、ご飯を作る用意を始める。
今日の夕飯は、サンダーボールとチキンサラダ。
サンダーボールは竜樹さんのリクエストで作ることになった、豚の角煮以来のヒット作(笑)
キャベツをはがし、芯の部分を薄く削いでから、湯通しして小さなどんぶり鉢に敷き詰める。
そこへみじん切りにして透き通るまで炒めた玉ねぎと合挽肉にオイスターソースを加えたものを混ぜ合わせ、キャベツを引いたどんぶり鉢に詰め、キャベツで蓋をして30分ほど蒸す。
(「サンダーボール」というネーミングは某テレビ番組でつけられた名前。
その番組では三田肉を叩いたものをキャベツを敷いたボールに詰め込んで蒸していた。
だから、「サンダーボール」。ベタに関西チックなネーミング…)
チキンのサラダ。
鶏ささみを茹でてこまかく裂き、胡麻ドレッシングで和えておく。
ちぎったレタスを敷き、その上に玉ねぎのスライスを乗せ、その上に胡麻ドレッシングで和えた鶏ささみをのせ、トマトと薄切りにしたラディッシュで飾って完成。
くすーっと眠っている竜樹さんに声をかけ、起きてこられるのを待つ。
その間にお魚に餌をあげたり、洗い物を片付けたりする。
「うわぁ、サンダーボールやぁ♪(*^-^*)」
竜樹さん、とても嬉しそう。
「いただきます♪(*^人^*)」
お昼間はのつのつと食べておられた竜樹さん。
今度はぱくぱくと食べておられる。
サンダーボールもサラダも彼の口にあったようで、どんどんなくなっていく。
それを見て安心した途端、少し疲れが出てしまったみたいで、先に休んでいる。
ぼけっと休んでると、竜樹さんが隣にやってきて、またじゃれじゃれ…
「美味しいご飯をありがとうなぁ」
そう言ってくれたのが嬉しくて、またぺたー。
だけど、こんな風に甘やかな時間はあまり残されてないんだろうなと思うと、少し胸が痛くなる。
決して「これっきり」でなどないのだろうとは思うけれど、絶対って言葉もない。
触れる感覚で、私の思うことが見て取れたのか。
「今以上に悪くはならへんで。
たとえ手術が失敗しても、絶対に今よりも悪くはならない。
そう言い切るんかって、ちゃんと根拠あんねんでぇ…」
そう言って、腕枕をしたままあれやこれやと説明を始める。
それをぺたーとくっついたまま、ふむふむと聞く私。
「たとえ今回あかんかっても、もっぺんやったらええねや。
だから、今よりも悪くはならへん」
「今よりも悪くはならへん」と繰り返すのは、自分に言い聞かせる部分もあるんだろうけど、私を安心させるためのような気がしてならなくて。
それを口にしなければならないほどの不安を私が滲ませていたのだとしたら、最低だなぁと思いながら。
竜樹さんの言葉を信じて、私も挑もう。
この温みは絶対になくなることはないと。
今よりもよくなるために2人で挑んでいくのだと。
身体に感じた温度と心に感じた温度の両方を抱きしめながら、気持ちを固めていった。
「今よりも悪くはならない」という言葉だけを信じて…
先週末からずっと夏休みの初日は会いに行くねと言ってたので、早く起きようと頑張った。
決意が固かったからか、昨日まで会社に行ってたからなのかは判らないけれど、休みの日にしては早く目が覚めた。
昨日竜樹さんに連絡が取れなかったので、約束したのを覚えてくれてるかどうか確認しておきたくて電話をするけれど、相変わらず捕まらない。
用意をしながら他の用事を片付け始める。
今日から金岡母はお江戸に行く。
世間様がお盆休みの間、海衣の会社は休みでないらしい。
海衣の旦那さんは海外赴任で今は不在なので、姪御ちゃんの保育園の送り迎えの手が足りないということで、金岡母が応援に出ることになった。
お昼ご飯を作ってみんなで食べ、金岡母より一足先に出かける。
外は相変わらず暑いけれど、今日は比較的風があるだけマシなのだろうか?
電車を乗り換え乗り換えし、バスに乗る前に定例の食材調達。
バスに乗ろうとすると、異常なる人の多さにびっくり。
…お盆休みの間って出かけないの?(゜o゜)
私が向かう先は住宅街。
乗る人の大多数も住宅街を目指してバスに乗る。
「遠出できなくて、なんだかな」と思う自分もいたけれど、このバスに乗り合わせてる人もまた遠出せずに住宅街へ向かうのかと思うと、何かヘンな感じ。
竜樹邸の最寄の停留所で降り、よたよたと竜樹邸を目指す。
歩いているとトンボの大群に出会い、またびっくり。
私の住んでるところよりはよほど開けた場所なのに、トンボが飛び交うほど自然が残っているのかと感心しきり。
つまないことに感心しまくって竜樹邸に着くと、出かけようとしてた竜樹さんと鉢合わせ。
「あれ?出かけるの?」
「うん、医者に行って痛み止めと点滴打って貰おうと思って。
少し時間かかると思うから先にあがって待ってて」
そう言って鍵を預かり私は中へ、竜樹さんは病院に行った。
竜樹邸にあがって少し涼んでから、買ってきた食材を片付けたり洗い物を片付けたりする。
することがなくなったので、テレビを見ながら掃除。
一段楽しておなかがすいたので、冷蔵庫の中の卵を2個拝借してオムレツを作る。
牛乳を入れて少し柔らかめにしたオムレツ。
久しぶりに上手に出来たので機嫌よくしてると、竜樹さんが帰宅。
「美味しそうに焼けてるやん?朝から殆ど食べてへんし、俺にも焼いてくれる?」
竜樹さんにも牛乳で柔らかくしたオムレツをひとつ焼いて渡した。
「あ、これくらい柔らかいの、好きやぁ♪(*^-^*)」
そう言ってもらえたのでほっとする。
食事の後、また少し身体が痛むらしく、横になる竜樹さん。
その隣でご飯を作るまでの間、一緒に横になる。
ふと、16日にお姉さまとディナーデートする予定のお店に予約を入れてなかったことに気づいて、起き上がる。
手だけじゃれついてる竜樹さんに気を取られすぎないように注意しながら、電話をしてディナーのコースを予約。
随分たっかいディナーなので、電話を切った途端意味もなく気を吐いてしまった。
その間もずっとじゃれつき気味の竜樹さん。
やっとこしないといけないことも済んでほっとしたからか、ぺとっと竜樹さんの隣に転がり込む。
腕枕をして抱きしめてくれる竜樹さん。
ここでスイッチが入ると間違いなく夕飯を作るのが遅れると知りながら、それでも互いの熱がただ欲しくて抱きしめ合う。
冷房で冷えすぎた部屋には互いの体温が心地よくて、ひとしきりやりとりが済んでも離れがたいのだけど。
今日はお泊りの日ではないから、あまり悠長にしてられない。
仕方なくそっとお布団を抜け出して、ご飯を作る用意を始める。
今日の夕飯は、サンダーボールとチキンサラダ。
サンダーボールは竜樹さんのリクエストで作ることになった、豚の角煮以来のヒット作(笑)
キャベツをはがし、芯の部分を薄く削いでから、湯通しして小さなどんぶり鉢に敷き詰める。
そこへみじん切りにして透き通るまで炒めた玉ねぎと合挽肉にオイスターソースを加えたものを混ぜ合わせ、キャベツを引いたどんぶり鉢に詰め、キャベツで蓋をして30分ほど蒸す。
(「サンダーボール」というネーミングは某テレビ番組でつけられた名前。
その番組では三田肉を叩いたものをキャベツを敷いたボールに詰め込んで蒸していた。
だから、「サンダーボール」。ベタに関西チックなネーミング…)
チキンのサラダ。
鶏ささみを茹でてこまかく裂き、胡麻ドレッシングで和えておく。
ちぎったレタスを敷き、その上に玉ねぎのスライスを乗せ、その上に胡麻ドレッシングで和えた鶏ささみをのせ、トマトと薄切りにしたラディッシュで飾って完成。
くすーっと眠っている竜樹さんに声をかけ、起きてこられるのを待つ。
その間にお魚に餌をあげたり、洗い物を片付けたりする。
「うわぁ、サンダーボールやぁ♪(*^-^*)」
竜樹さん、とても嬉しそう。
「いただきます♪(*^人^*)」
お昼間はのつのつと食べておられた竜樹さん。
今度はぱくぱくと食べておられる。
サンダーボールもサラダも彼の口にあったようで、どんどんなくなっていく。
それを見て安心した途端、少し疲れが出てしまったみたいで、先に休んでいる。
ぼけっと休んでると、竜樹さんが隣にやってきて、またじゃれじゃれ…
「美味しいご飯をありがとうなぁ」
そう言ってくれたのが嬉しくて、またぺたー。
だけど、こんな風に甘やかな時間はあまり残されてないんだろうなと思うと、少し胸が痛くなる。
決して「これっきり」でなどないのだろうとは思うけれど、絶対って言葉もない。
触れる感覚で、私の思うことが見て取れたのか。
「今以上に悪くはならへんで。
たとえ手術が失敗しても、絶対に今よりも悪くはならない。
そう言い切るんかって、ちゃんと根拠あんねんでぇ…」
そう言って、腕枕をしたままあれやこれやと説明を始める。
それをぺたーとくっついたまま、ふむふむと聞く私。
「たとえ今回あかんかっても、もっぺんやったらええねや。
だから、今よりも悪くはならへん」
「今よりも悪くはならへん」と繰り返すのは、自分に言い聞かせる部分もあるんだろうけど、私を安心させるためのような気がしてならなくて。
それを口にしなければならないほどの不安を私が滲ませていたのだとしたら、最低だなぁと思いながら。
竜樹さんの言葉を信じて、私も挑もう。
この温みは絶対になくなることはないと。
今よりもよくなるために2人で挑んでいくのだと。
身体に感じた温度と心に感じた温度の両方を抱きしめながら、気持ちを固めていった。
「今よりも悪くはならない」という言葉だけを信じて…
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小さな力のかけら
2002年8月13日今日の仕事が終われば、夏休み。
親会社は既に休みに入っているので、暇々デーになるのは目に見えてるけれど、後々のためにも休みは残しておいた方がいいので、敢えて出勤することを選んだ。
…と言いながら、単に休みを闇雲に取っても肝心の予定がないというのもあったのだけれど
どろりどろりと家を出て駅に着いてみると、いつも来るはずの電車が来ない。
反対側のホームを眺めていても、いつも来るはずの電車が来ない。
「あれれ」と思う。
反対側のホームにいる人も「あれれ?」という顔をしている。
そこへ、アナウンスがひとつ。
「本日は土曜ダイヤで運行しております」
……………。。゛(ノ><)ノ ヒィ
平日ダイヤならぎりぎりで間に合うものが、土曜ダイヤでは余裕で遅刻路線。
あまりのショックに思わずお姉さまにメールを送ると…
…お姉さまも土曜ダイヤの罠にかかったらしい(^-^;
2人して遅刻街道まっしぐらという、ヘンな仲のよさ。
不名誉だなぁと思うけれど、きっと多少遅れても仕事が立て込むことなんてないわさぁと半ば理不尽な居直りモードに切り替えて移動する。
…会社は読みどおり、気持ち悪いくらい暇だった。
親会社から書類が届かないので、先輩の許に書類を取りに走る必要もなければ、親会社からの書類を片す必要もない。
他の仕事があればまだしも、それすらない。
同僚さんが休んでいて雑用がまわってくると言え、それをしてもまだ暇。
こんなことは滅多にないと、喜んでいいのか悪いのか。
時間を潰すために、遅れがちの日記の下書きを始める。
1日分が終わってあとがきも終わって。
2日目に突入して書き終わって。
さすがにあとがきも3日目の日記の下書きに取り掛かるのは気が引けてやめてしまったけれど、本当にすることがない。
これでいいのだろうかと思いながら、パソコンの前でぱたぱた。
時折事務机に戻ってがさがさ。
…こんなに暇なら、竜樹さんところでゆっくりぺったりしてきたらよかったかなぁ。
忙しければ忙しいで文句たれるくせに、暇なら暇で文句たれる金岡霄(爆)
事務所にはボスしかいない。
ボスも暇らしく、他愛もない話をしてこられるので、それに受け答えする。
何の話から横道にそれたかは覚えていないけれど。
何となくここ数日ふつふつきてたことを口にした。
「何度言っても判ってくれない人に判って貰えるようにものを言うのは、難しいですね」
先輩を名指しで言う訳にはいかないし、言うつもりもない。
表立って彼の批判をすることはこの会社ではやらない方がいいんだろうし、他人を下げて自分をあげるような話のもっていき方自体が気に入らないから。
けれど、表に出してみたくなったのかもしれない。
先輩に事あるごとに足止めを食らって、昼休み食いつぶして仕事を片付けないとならないこと。
時には認めても貰えるはずのない残業にもつれ込むこともあること。
それが間違っても本意ではないということ。
何らかの形で示してみたくなったのかもしれない。
「たとえば、どんなことや?」
…言葉に詰まった。
ボスと話すと、ペース狂わされがちなんだ。
ただの世間話で終わらせるつもりがそうでなくなる。
5年間彼の下にいてて、何度そんなヘマをやらかしたか(-_-;)
極力、誰と特定できないような話を挟んでいく。
最初、ボスは親会社の社員のことを言ってるのだと思ったみたい。
けれど話をすすめていくうちに、先輩のことだと判ってしまったようだ。
俄かにボスの問いかけも核心に迫ってくる。
それを当り障りなく、よけよけしながら話すのもなかなかしんどい。
いくつか言葉を交わすうちに、つい溢してしまった。
「業務時間中に、仕事と関係のない話で30分も40分も話し込んでるのを見たら、傍の人は『何を遊んどんねん』って思うんでしょうね」
これで誰のことを言ってるのか、はっきりわかってしまっただろう。
この会社でさしたる用事もなく、私に足止め食らわせる人間なんて先輩を置いて他にいるはずなんてないんだから。
小さな会社でそれを知らない人なんてない。
今までみんな先輩に足止め食らわされてるのを見て見ん振りした人もいれば、面白おかしく噂を垂れ流して歩いてた人だっている。
回りまわって、その話が私に返ってきたことも。
「彼とは付き合わないの?」と無責任なことを面と向かって言って来た人もいる。
別に好き好んで業務時間中に話し込んでたわけじゃない。
けれど、先輩のやってること自体に誰も触れようとはしなかった。
社長にしても、ボスにしても、彼のお兄さんである幹部さんにしても。
彼の言うことに承服してるわけじゃないと、彼自身に対して自分で示すより他に方法なんてなかった。
だから先輩の嫌な言い方をされたときも、派手に真っ向から噛み付いた。
その結果、それを見ていたボスから「やりすぎだ」と窘められたこともあった。
…こんなことをここで話したって無意味だ。
「無意味なことを言ってしまった」というばからしさと暗黙の了解を破ったことについて「しまった」と思う気持ち。
それでもなお、「彼のやることを決して甘んじて受けてるわけじゃない」と示したかった気持ち。
いろんな気持ちが渦を巻く。
「誰もそんな風には見てへんで」
冗談めかしてない、すごく静かなボスの言葉がそこにあった。
ボスに話したところで、何の解決にもならないことは承知している。
何せ、自分が気に食わなければ、自分の親父さんの次に会社で偉いボスの言うことにでもケンカ腰で挑んでくるアホったれだ。
彼に意味もなくケンカ腰でつっかかられて、本気で叱り飛ばしそうになってたのを寸止めしたボスを何度も見ている。
だから、話しても何の問題解決にもならない。
そもそも、こんなこた自分自身で解決すべきことなんだとも思うし、都合が悪くなったからって大人の手を借りるというのもずっこいだろう?
けれど、無駄だと判っていてもなんだか嬉しかったんだ。
ただ「好き好んでやってることじゃない」ってこと。
同僚さん以外の人に判って貰えたなら、今はそれで十分なんだと思うから。
竜樹さんの手術の経過がよければ、来年の今頃には辞める準備に入っていることだろう。
自分の進退に目鼻がつけば、このくだらない我慢にもようやく期限が切れるんだ。
…こんなことを言って居残る羽目になったら洒落にならないけれど。
それでも、判ってもらえてるかもしれないこと。
それを少しの力に変えて、あと少しの間頑張ろう。
夏休み前に降って来た、小さな力のかけらを握り締めて夏休みを迎えよう。
親会社は既に休みに入っているので、暇々デーになるのは目に見えてるけれど、後々のためにも休みは残しておいた方がいいので、敢えて出勤することを選んだ。
…と言いながら、単に休みを闇雲に取っても肝心の予定がないというのもあったのだけれど
どろりどろりと家を出て駅に着いてみると、いつも来るはずの電車が来ない。
反対側のホームを眺めていても、いつも来るはずの電車が来ない。
「あれれ」と思う。
反対側のホームにいる人も「あれれ?」という顔をしている。
そこへ、アナウンスがひとつ。
「本日は土曜ダイヤで運行しております」
……………。。゛(ノ><)ノ ヒィ
平日ダイヤならぎりぎりで間に合うものが、土曜ダイヤでは余裕で遅刻路線。
あまりのショックに思わずお姉さまにメールを送ると…
…お姉さまも土曜ダイヤの罠にかかったらしい(^-^;
2人して遅刻街道まっしぐらという、ヘンな仲のよさ。
不名誉だなぁと思うけれど、きっと多少遅れても仕事が立て込むことなんてないわさぁと半ば理不尽な居直りモードに切り替えて移動する。
…会社は読みどおり、気持ち悪いくらい暇だった。
親会社から書類が届かないので、先輩の許に書類を取りに走る必要もなければ、親会社からの書類を片す必要もない。
他の仕事があればまだしも、それすらない。
同僚さんが休んでいて雑用がまわってくると言え、それをしてもまだ暇。
こんなことは滅多にないと、喜んでいいのか悪いのか。
時間を潰すために、遅れがちの日記の下書きを始める。
1日分が終わってあとがきも終わって。
2日目に突入して書き終わって。
さすがにあとがきも3日目の日記の下書きに取り掛かるのは気が引けてやめてしまったけれど、本当にすることがない。
これでいいのだろうかと思いながら、パソコンの前でぱたぱた。
時折事務机に戻ってがさがさ。
…こんなに暇なら、竜樹さんところでゆっくりぺったりしてきたらよかったかなぁ。
忙しければ忙しいで文句たれるくせに、暇なら暇で文句たれる金岡霄(爆)
事務所にはボスしかいない。
ボスも暇らしく、他愛もない話をしてこられるので、それに受け答えする。
何の話から横道にそれたかは覚えていないけれど。
何となくここ数日ふつふつきてたことを口にした。
「何度言っても判ってくれない人に判って貰えるようにものを言うのは、難しいですね」
先輩を名指しで言う訳にはいかないし、言うつもりもない。
表立って彼の批判をすることはこの会社ではやらない方がいいんだろうし、他人を下げて自分をあげるような話のもっていき方自体が気に入らないから。
けれど、表に出してみたくなったのかもしれない。
先輩に事あるごとに足止めを食らって、昼休み食いつぶして仕事を片付けないとならないこと。
時には認めても貰えるはずのない残業にもつれ込むこともあること。
それが間違っても本意ではないということ。
何らかの形で示してみたくなったのかもしれない。
「たとえば、どんなことや?」
…言葉に詰まった。
ボスと話すと、ペース狂わされがちなんだ。
ただの世間話で終わらせるつもりがそうでなくなる。
5年間彼の下にいてて、何度そんなヘマをやらかしたか(-_-;)
極力、誰と特定できないような話を挟んでいく。
最初、ボスは親会社の社員のことを言ってるのだと思ったみたい。
けれど話をすすめていくうちに、先輩のことだと判ってしまったようだ。
俄かにボスの問いかけも核心に迫ってくる。
それを当り障りなく、よけよけしながら話すのもなかなかしんどい。
いくつか言葉を交わすうちに、つい溢してしまった。
「業務時間中に、仕事と関係のない話で30分も40分も話し込んでるのを見たら、傍の人は『何を遊んどんねん』って思うんでしょうね」
これで誰のことを言ってるのか、はっきりわかってしまっただろう。
この会社でさしたる用事もなく、私に足止め食らわせる人間なんて先輩を置いて他にいるはずなんてないんだから。
小さな会社でそれを知らない人なんてない。
今までみんな先輩に足止め食らわされてるのを見て見ん振りした人もいれば、面白おかしく噂を垂れ流して歩いてた人だっている。
回りまわって、その話が私に返ってきたことも。
「彼とは付き合わないの?」と無責任なことを面と向かって言って来た人もいる。
別に好き好んで業務時間中に話し込んでたわけじゃない。
けれど、先輩のやってること自体に誰も触れようとはしなかった。
社長にしても、ボスにしても、彼のお兄さんである幹部さんにしても。
彼の言うことに承服してるわけじゃないと、彼自身に対して自分で示すより他に方法なんてなかった。
だから先輩の嫌な言い方をされたときも、派手に真っ向から噛み付いた。
その結果、それを見ていたボスから「やりすぎだ」と窘められたこともあった。
…こんなことをここで話したって無意味だ。
「無意味なことを言ってしまった」というばからしさと暗黙の了解を破ったことについて「しまった」と思う気持ち。
それでもなお、「彼のやることを決して甘んじて受けてるわけじゃない」と示したかった気持ち。
いろんな気持ちが渦を巻く。
「誰もそんな風には見てへんで」
冗談めかしてない、すごく静かなボスの言葉がそこにあった。
ボスに話したところで、何の解決にもならないことは承知している。
何せ、自分が気に食わなければ、自分の親父さんの次に会社で偉いボスの言うことにでもケンカ腰で挑んでくるアホったれだ。
彼に意味もなくケンカ腰でつっかかられて、本気で叱り飛ばしそうになってたのを寸止めしたボスを何度も見ている。
だから、話しても何の問題解決にもならない。
そもそも、こんなこた自分自身で解決すべきことなんだとも思うし、都合が悪くなったからって大人の手を借りるというのもずっこいだろう?
けれど、無駄だと判っていてもなんだか嬉しかったんだ。
ただ「好き好んでやってることじゃない」ってこと。
同僚さん以外の人に判って貰えたなら、今はそれで十分なんだと思うから。
竜樹さんの手術の経過がよければ、来年の今頃には辞める準備に入っていることだろう。
自分の進退に目鼻がつけば、このくだらない我慢にもようやく期限が切れるんだ。
…こんなことを言って居残る羽目になったら洒落にならないけれど。
それでも、判ってもらえてるかもしれないこと。
それを少しの力に変えて、あと少しの間頑張ろう。
夏休み前に降って来た、小さな力のかけらを握り締めて夏休みを迎えよう。
恋人距離
2002年8月12日あと2日でお盆休み。
あと2回会社に行けばいいだけなんだけど、その2回が非常に煩わしかったりする。
今日、明日と休めば夢の9連休だったけれど、9連休にしたところで何か予定があるわけでなし。
竜樹さんが手術後元気になって戻ってきてから、会社を休んで遊びに行く方がいい。
そうなることを願いながら、重い身体を起こして出かける用意をする。
電車はいつもよりもまして空いている。
これに慣れてしまうと、9月に入ると大変恐ろしいことになるのだけれど、空いた電車の中でぼんにゃりと過ごす時間が今の私にはありがたいものだったりする。
暫しぼんにゃりした後、自転車をかっとばして社屋を目指す。
親会社は明日から休み。
だから今日は仕事が立て込むと踏んでいたけれど、午前中はさして立て込む様子がない。喜んでいいのか悪いのかはわからないけれど。
別のフロアの人に仕事の依頼を出す書類を纏めた後、朝定例の書類取りに走る。
今日もだーーーっと書類棚に向かい、書類をひったくってだーーーっと戻る。
先輩に構われないことが仕事をスムーズに進めていく。
休みたいなぁと思ってる時に、比較的ストレスが小さくて済む状況で仕事が進められることはありがたい。
人に構われるのがありがた迷惑のように言うのはどうかと思うけれど、それまでのことを考えるとこのまま構われない方がいろんな意味でうまくいくような気がするのも事実。
…憑き物を落とすのも、時にはいいこと?
少々自分に都合のよいように解釈しながら仕事を進め、何食わぬ顔して定時に退社する。
朝に比べると少しばかり人が増えている電車の中で、ふと思い返す。
私が大好きな作家さんの本の中に出てきた、「恋人距離」。
それはアメリカの人類学者が唱えた説で、人間関係の距離感を実際の距離で計るというものらしい。
相手と自分がストレスなく近づける物理的距離というのは、 その相手が自分とどんな関係かで決まるらしく、 「恋人距離」「友達距離」「他人距離」という3つのレベルがあるそう。
その中で、「恋人距離」というのが最も近い距離で、数値的には30cmから45?くらいの範囲だとか。
他のソースも調べてみたけれど、「心理学の話」と書かれているところや実際の距離はよく判らないと書かれているものもあって、「これが正しい」という説にはまだ辿りつけてはないのだけれど…
これまで歩いてきた人生の中で、「恋人距離」の範疇にいて何の違和感もなかった人は極めて少なかった。
性別、血縁の有無を問わず、触れられることが極度に苦手だったために、友達ですら無意識のうちに近づいてこられると引いてしまうことがある。
今は多少改善されたとはいえ、急に腕とかに触れられそうになると、さっと引いては「へ?」って顔をされることがある。
女の人ですらこんな反応を見せる私は、男の人ではもっと露骨に出るらしい。
先輩に至っては、近づいてこられると近づいてこられただけ引いてしまう。
何をされたとかいうことがなくても、近づいてこられるとさっさか引いてしまう。
多分、話し掛けられたくないなぁと思ってる時に進路を塞がれたりするのは、相手は何らかの話をしたくてしてるんだろうとは思うけれど、それがとても嫌でならないと気がついたのはごくごく最近。
…結局、その場笑いながら話をしてるつもりでも、全然気持ちなんて許しちゃいなかったんだなぁ
なんだか今更なことを、適度に混み混みな電車の中で実感する。
途中下車して、昨日面白い催物場で頼んだ商品を受け取り、少しばかりお店の人と話して、また電車に乗る。
人と話す様子はあまり警戒心がないように受け止められるらしく、「人見知りしないよな」と言われることも多いけれど、実際の距離を縮めてこられるとずるりずるりと引いていく。
それは竜樹さんとて、かつては例外ではなかった。
触れようとすると、するりするり。
キスしようとしても、するりするり。
どことなく、ぎこちなく下がっていく私に、竜樹さんは容赦がなかった。
するりするりと下がると、捕まえられる。
それでもじりじりと下がろうとすると、抱きしめられる。
延々それの繰り返し。
人の熱にどきどきしながら、それが心地いいものに変わるまでそれほどの時間はかからなかった。
「好きな女の子に毎回毎回逃げられるの、嫌やもん。
霄ちゃんは俺のこと、嫌いなん?」
竜樹さんのことが大好きなのに、それがじりじりと下がっていく癖で疑われるのがたまらなくて。
てか、本人が直そうとする前に「矯正プログラム」を発動させたのは竜樹さんだけれど(^^ゞ
頑固者な私をよくぞ、逢えばべったり霄ちゃんに変えたものだと感心しきり。
それは年月によるものなのか、想いによるものなのか。
その正体は薄らぼんやりしてるけれど…
いずれにしても、私の恋人距離に入って大丈夫な人はほんの一握り。
その中で、恋人距離にあって心地いい男の人はたった一人。
そう竜樹さんだけ。
ふとしたことで、竜樹さんが自分にとって安心できる人なのだとつくづく実感した、そんな一日。
そして、常に自分の恋人距離の中に竜樹さんがいてたらいいのになぁと、少しばかり熱をもった想いはいつも心の中にあり続けているんだと、改めて思い知った、そんな一日。
あと2回会社に行けばいいだけなんだけど、その2回が非常に煩わしかったりする。
今日、明日と休めば夢の9連休だったけれど、9連休にしたところで何か予定があるわけでなし。
竜樹さんが手術後元気になって戻ってきてから、会社を休んで遊びに行く方がいい。
そうなることを願いながら、重い身体を起こして出かける用意をする。
電車はいつもよりもまして空いている。
これに慣れてしまうと、9月に入ると大変恐ろしいことになるのだけれど、空いた電車の中でぼんにゃりと過ごす時間が今の私にはありがたいものだったりする。
暫しぼんにゃりした後、自転車をかっとばして社屋を目指す。
親会社は明日から休み。
だから今日は仕事が立て込むと踏んでいたけれど、午前中はさして立て込む様子がない。喜んでいいのか悪いのかはわからないけれど。
別のフロアの人に仕事の依頼を出す書類を纏めた後、朝定例の書類取りに走る。
今日もだーーーっと書類棚に向かい、書類をひったくってだーーーっと戻る。
先輩に構われないことが仕事をスムーズに進めていく。
休みたいなぁと思ってる時に、比較的ストレスが小さくて済む状況で仕事が進められることはありがたい。
人に構われるのがありがた迷惑のように言うのはどうかと思うけれど、それまでのことを考えるとこのまま構われない方がいろんな意味でうまくいくような気がするのも事実。
…憑き物を落とすのも、時にはいいこと?
少々自分に都合のよいように解釈しながら仕事を進め、何食わぬ顔して定時に退社する。
朝に比べると少しばかり人が増えている電車の中で、ふと思い返す。
私が大好きな作家さんの本の中に出てきた、「恋人距離」。
それはアメリカの人類学者が唱えた説で、人間関係の距離感を実際の距離で計るというものらしい。
相手と自分がストレスなく近づける物理的距離というのは、 その相手が自分とどんな関係かで決まるらしく、 「恋人距離」「友達距離」「他人距離」という3つのレベルがあるそう。
その中で、「恋人距離」というのが最も近い距離で、数値的には30cmから45?くらいの範囲だとか。
他のソースも調べてみたけれど、「心理学の話」と書かれているところや実際の距離はよく判らないと書かれているものもあって、「これが正しい」という説にはまだ辿りつけてはないのだけれど…
これまで歩いてきた人生の中で、「恋人距離」の範疇にいて何の違和感もなかった人は極めて少なかった。
性別、血縁の有無を問わず、触れられることが極度に苦手だったために、友達ですら無意識のうちに近づいてこられると引いてしまうことがある。
今は多少改善されたとはいえ、急に腕とかに触れられそうになると、さっと引いては「へ?」って顔をされることがある。
女の人ですらこんな反応を見せる私は、男の人ではもっと露骨に出るらしい。
先輩に至っては、近づいてこられると近づいてこられただけ引いてしまう。
何をされたとかいうことがなくても、近づいてこられるとさっさか引いてしまう。
多分、話し掛けられたくないなぁと思ってる時に進路を塞がれたりするのは、相手は何らかの話をしたくてしてるんだろうとは思うけれど、それがとても嫌でならないと気がついたのはごくごく最近。
…結局、その場笑いながら話をしてるつもりでも、全然気持ちなんて許しちゃいなかったんだなぁ
なんだか今更なことを、適度に混み混みな電車の中で実感する。
途中下車して、昨日面白い催物場で頼んだ商品を受け取り、少しばかりお店の人と話して、また電車に乗る。
人と話す様子はあまり警戒心がないように受け止められるらしく、「人見知りしないよな」と言われることも多いけれど、実際の距離を縮めてこられるとずるりずるりと引いていく。
それは竜樹さんとて、かつては例外ではなかった。
触れようとすると、するりするり。
キスしようとしても、するりするり。
どことなく、ぎこちなく下がっていく私に、竜樹さんは容赦がなかった。
するりするりと下がると、捕まえられる。
それでもじりじりと下がろうとすると、抱きしめられる。
延々それの繰り返し。
人の熱にどきどきしながら、それが心地いいものに変わるまでそれほどの時間はかからなかった。
「好きな女の子に毎回毎回逃げられるの、嫌やもん。
霄ちゃんは俺のこと、嫌いなん?」
竜樹さんのことが大好きなのに、それがじりじりと下がっていく癖で疑われるのがたまらなくて。
てか、本人が直そうとする前に「矯正プログラム」を発動させたのは竜樹さんだけれど(^^ゞ
頑固者な私をよくぞ、逢えばべったり霄ちゃんに変えたものだと感心しきり。
それは年月によるものなのか、想いによるものなのか。
その正体は薄らぼんやりしてるけれど…
いずれにしても、私の恋人距離に入って大丈夫な人はほんの一握り。
その中で、恋人距離にあって心地いい男の人はたった一人。
そう竜樹さんだけ。
ふとしたことで、竜樹さんが自分にとって安心できる人なのだとつくづく実感した、そんな一日。
そして、常に自分の恋人距離の中に竜樹さんがいてたらいいのになぁと、少しばかり熱をもった想いはいつも心の中にあり続けているんだと、改めて思い知った、そんな一日。
笑顔を取り戻せる場所
2002年8月11日竜樹さんと他愛もないことを話しながら、くっついて横になってる時間は続く。
いつも食事をとると身体が痛んで辛いという竜樹さん。
今日はその症状は比較的軽いようで、横になりながらテレビを見ながら話したり、くっついたりじゃれたり…
極めて穏やかなる時間は過ぎていく。
バスと電車を乗り継いで帰るとなると、こんな風にはゆっくりしていられない。
竜樹さんの状態がある程度よくなるまで、いられることはありがたいこと。
…それが結果的に、竜樹さんに家まで送ってもらうことに繋がるってことには問題があると思うけれど(-_-;)
日付が変わる30分ほど前に2人で起き上がって帰り支度をして、車に乗る。
帰らなくて済むなら、どれほどいいかと思うのは毎週のこと。
それでも、今は折り合いをつける時期だと言い聞かせながら自宅に戻る。
自室に戻って一人になって、竜樹さんの嬉しい言葉を抱きしめてるうちに、いろんなことを思い返してはまた眠れなくなる。
思い返す全てがとても暖かく優しいものなのに、目はどんどん覚めていく。
まるで遠足が楽しみで眠れない子供のようだなぁと思いながら、意識が落ちるまでずっと暖かな時間を反芻していた。
次に目が覚めた時には海衣と姪御ちゃん、金岡母は出かけていなかった。
リビングで寝たくれてるプードルさんと遊んでると、金岡母たちが帰ってきた。
姪御ちゃんを市民プールに連れて行っていたらしい。
少し遅めの昼食を取り、洗濯物に取り掛かろうとして気がついた。
「あれ?姪御ちゃんの水着は?」
……………/( ̄□ ̄)\ !
どうやら、お店でラス1だったという、姪御ちゃん一番お気に入りの水着をシャワー室に置き忘れてきたらしい。
ちょうど遅くなりすぎた金岡母の誕生プレゼントを買いに行こうかと海衣と話していたので、おねむの姪御ちゃんを金岡父に託し、3人で水着を引き取りがてらちょっと遠出して電気屋に寄って帰ろうということになる。
姪御ちゃんが金岡母に異常に懐いてる所為もあって、姪御ちゃんの着替えを金岡母が一手に引き受けたはいいけれど。
それが元で水着を忘れて帰ってきたのだから、金岡母はしょげる。
海衣は「仕方ないよ」と言いながら、どこか不機嫌。
私はなるべく触れないようにと、ずっと携帯を眺めていた。
市民プールに着き、先に海衣は車を降りて、水着を探しに行った。
私と金岡母は車を駐車場に止めてから、シャワー室のある建物に向かう。
海衣は怒り出すととてつもなく恐ろしいので、どことなくびくびくとしてる。
玄関フロアに行ってみると海衣はまだ戻ってきていない。
「もしかしたら、なかったんかなぁ?」
「他人の着た水着なんて盗っても仕方ないでしょ?」
そんな会話を交わしていると、海衣が戻ってくる。
どうやら見つからなかったらしい。
職員の人に何か伝言をして、海衣は戻ってきた。
「…なかった(-"-;)」
一気に取り巻く空気が重くなった。
「あれと同じの、また買おうか?」
「あれと同じヤツはもう売り切れてないよ。だってラスいちのん、私が買うてんもん(-"-;)」
「他人の水着なんて盗ったってしゃあないやん、見つかるよ」
「子供用の水着やから盗る人多いねん。『子供のんやし』って(-"-;)」
「そんな意識低いヤツ、いるのん?」
「多いみたいよ、そういうの(-"-;)」
姪御ちゃんが一番気に入ってたものとあって、かなり海衣は不機嫌。
金岡母はますますしょげていく。
「電気屋に行くのを取りやめようか」という話も出たけれど、「せっかく出たのにかわずに変えるなんて辛気臭いの、ごめんだわ(-"-;)」という海衣の意見に右へ習えで電気屋へ。
どこまでも重苦しい空気にうんざりしながら、時折携帯に飛び込んでくる姉さまへのメールの返事をこちこちと打っていた。
最近、英会話のCDを聞いている金岡母は自分のデッキが欲しいと言っていたので、CDラジカセのコーナーに行く。
あまり長時間迷ってると、姪御ちゃんが起きた時金岡父が対処しきれなくなる可能性があるので、とっとと選んでとっとと店を出た。
そのまま一路金岡邸に帰還かと思いきや、
「お姉ちゃん、お茶して帰ろう」
…………(゜o゜)
さっきまでの不機嫌モードを思うとあまり気が進まなかったりもしたけれど(をい)、ひとまず駅で降ろしてもらって移動する。
いつも通りかかるだけで、気になっていたお店があるらしい。
そこでお茶することにした。
アンティークショップのような内装のお店はティータイムのせいか、ちょっと賑やか。
海衣はスコーンのセット、私はケーキのセットを注文。
久しぶりの「霄海衣会談」が始まる。
7月末の友達との食事会の時もそう思ったけれど。
どういう環境にあっても、嫌なことも問題も抱えてるんだなぁと思う。
聞いてもらったからどうなる訳でなし、話せばどうなる訳でもないのだけど、互いの思うことを話すということ自体が大事なのかなという気もしないではない。
それまで物事の結果しか話さないようにしてたけれど、海衣の話を聞いていると問いかけられついでに自分のことも話さざるを得なくなるから話してしまう。
「距離が離れると、なかなか話す機会もなくなるからねぇ」
「だいたい、お姉ちゃん、電話どころかメールもくれへんやん?
冷たいなぁって思うよ、ホント」
………m(._.)m ゴメン
暫し反省。
ケーキもスコーンも食べ尽くして、ポットの紅茶もなくなったところで撤収。
輸入物のおもちゃを扱う店に行って、姪御のおもちゃを購入。
そのすぐ近くで面白い催物をやっていたので暫く眺めてるうちに、海衣のツボにはまったらしく、作ってもらって帰ることに。
時間が少しばかりおしてきていたので、私の分は明日取りに来るということにして、金岡家に撤収。
家に着いた頃、姪御ちゃんはプードルさんを追い回して遊んでいた。
私も一緒くたになって夕飯までの間、プードルさんと姪御ちゃんを追っかけまわして遊んだ。
一家揃って食べる夕飯。
いつも多くても3人分しか乗ることのない食卓に5人分の食事はいささか窮屈に見えるけれど。
その珍しい食卓が何だか暖かい。
いろんなことがあるけれど。
疲れた時に戻ってきて、また元気を取り戻してそれぞれの環境で泳いでいく。
海衣は海衣の生活を。
私は私の生活を。
次に顔を合わすのはいつかな?
約束してた旅行は紆余曲折で延びてしまいそうだけど…
疲れたらまた帰っておいで。
ここ数ヶ月はちょっとこちらを離れる訳にいかないから、今はそっちへは行けないけれど。
そちらで話せないことを話そう。
そして笑顔を持ってまた自分の海を泳ごう?
暖かな笑顔を取り戻せる場所を用意しておくから…
いつも食事をとると身体が痛んで辛いという竜樹さん。
今日はその症状は比較的軽いようで、横になりながらテレビを見ながら話したり、くっついたりじゃれたり…
極めて穏やかなる時間は過ぎていく。
バスと電車を乗り継いで帰るとなると、こんな風にはゆっくりしていられない。
竜樹さんの状態がある程度よくなるまで、いられることはありがたいこと。
…それが結果的に、竜樹さんに家まで送ってもらうことに繋がるってことには問題があると思うけれど(-_-;)
日付が変わる30分ほど前に2人で起き上がって帰り支度をして、車に乗る。
帰らなくて済むなら、どれほどいいかと思うのは毎週のこと。
それでも、今は折り合いをつける時期だと言い聞かせながら自宅に戻る。
自室に戻って一人になって、竜樹さんの嬉しい言葉を抱きしめてるうちに、いろんなことを思い返してはまた眠れなくなる。
思い返す全てがとても暖かく優しいものなのに、目はどんどん覚めていく。
まるで遠足が楽しみで眠れない子供のようだなぁと思いながら、意識が落ちるまでずっと暖かな時間を反芻していた。
次に目が覚めた時には海衣と姪御ちゃん、金岡母は出かけていなかった。
リビングで寝たくれてるプードルさんと遊んでると、金岡母たちが帰ってきた。
姪御ちゃんを市民プールに連れて行っていたらしい。
少し遅めの昼食を取り、洗濯物に取り掛かろうとして気がついた。
「あれ?姪御ちゃんの水着は?」
……………/( ̄□ ̄)\ !
どうやら、お店でラス1だったという、姪御ちゃん一番お気に入りの水着をシャワー室に置き忘れてきたらしい。
ちょうど遅くなりすぎた金岡母の誕生プレゼントを買いに行こうかと海衣と話していたので、おねむの姪御ちゃんを金岡父に託し、3人で水着を引き取りがてらちょっと遠出して電気屋に寄って帰ろうということになる。
姪御ちゃんが金岡母に異常に懐いてる所為もあって、姪御ちゃんの着替えを金岡母が一手に引き受けたはいいけれど。
それが元で水着を忘れて帰ってきたのだから、金岡母はしょげる。
海衣は「仕方ないよ」と言いながら、どこか不機嫌。
私はなるべく触れないようにと、ずっと携帯を眺めていた。
市民プールに着き、先に海衣は車を降りて、水着を探しに行った。
私と金岡母は車を駐車場に止めてから、シャワー室のある建物に向かう。
海衣は怒り出すととてつもなく恐ろしいので、どことなくびくびくとしてる。
玄関フロアに行ってみると海衣はまだ戻ってきていない。
「もしかしたら、なかったんかなぁ?」
「他人の着た水着なんて盗っても仕方ないでしょ?」
そんな会話を交わしていると、海衣が戻ってくる。
どうやら見つからなかったらしい。
職員の人に何か伝言をして、海衣は戻ってきた。
「…なかった(-"-;)」
一気に取り巻く空気が重くなった。
「あれと同じの、また買おうか?」
「あれと同じヤツはもう売り切れてないよ。だってラスいちのん、私が買うてんもん(-"-;)」
「他人の水着なんて盗ったってしゃあないやん、見つかるよ」
「子供用の水着やから盗る人多いねん。『子供のんやし』って(-"-;)」
「そんな意識低いヤツ、いるのん?」
「多いみたいよ、そういうの(-"-;)」
姪御ちゃんが一番気に入ってたものとあって、かなり海衣は不機嫌。
金岡母はますますしょげていく。
「電気屋に行くのを取りやめようか」という話も出たけれど、「せっかく出たのにかわずに変えるなんて辛気臭いの、ごめんだわ(-"-;)」という海衣の意見に右へ習えで電気屋へ。
どこまでも重苦しい空気にうんざりしながら、時折携帯に飛び込んでくる姉さまへのメールの返事をこちこちと打っていた。
最近、英会話のCDを聞いている金岡母は自分のデッキが欲しいと言っていたので、CDラジカセのコーナーに行く。
あまり長時間迷ってると、姪御ちゃんが起きた時金岡父が対処しきれなくなる可能性があるので、とっとと選んでとっとと店を出た。
そのまま一路金岡邸に帰還かと思いきや、
「お姉ちゃん、お茶して帰ろう」
…………(゜o゜)
さっきまでの不機嫌モードを思うとあまり気が進まなかったりもしたけれど(をい)、ひとまず駅で降ろしてもらって移動する。
いつも通りかかるだけで、気になっていたお店があるらしい。
そこでお茶することにした。
アンティークショップのような内装のお店はティータイムのせいか、ちょっと賑やか。
海衣はスコーンのセット、私はケーキのセットを注文。
久しぶりの「霄海衣会談」が始まる。
7月末の友達との食事会の時もそう思ったけれど。
どういう環境にあっても、嫌なことも問題も抱えてるんだなぁと思う。
聞いてもらったからどうなる訳でなし、話せばどうなる訳でもないのだけど、互いの思うことを話すということ自体が大事なのかなという気もしないではない。
それまで物事の結果しか話さないようにしてたけれど、海衣の話を聞いていると問いかけられついでに自分のことも話さざるを得なくなるから話してしまう。
「距離が離れると、なかなか話す機会もなくなるからねぇ」
「だいたい、お姉ちゃん、電話どころかメールもくれへんやん?
冷たいなぁって思うよ、ホント」
………m(._.)m ゴメン
暫し反省。
ケーキもスコーンも食べ尽くして、ポットの紅茶もなくなったところで撤収。
輸入物のおもちゃを扱う店に行って、姪御のおもちゃを購入。
そのすぐ近くで面白い催物をやっていたので暫く眺めてるうちに、海衣のツボにはまったらしく、作ってもらって帰ることに。
時間が少しばかりおしてきていたので、私の分は明日取りに来るということにして、金岡家に撤収。
家に着いた頃、姪御ちゃんはプードルさんを追い回して遊んでいた。
私も一緒くたになって夕飯までの間、プードルさんと姪御ちゃんを追っかけまわして遊んだ。
一家揃って食べる夕飯。
いつも多くても3人分しか乗ることのない食卓に5人分の食事はいささか窮屈に見えるけれど。
その珍しい食卓が何だか暖かい。
いろんなことがあるけれど。
疲れた時に戻ってきて、また元気を取り戻してそれぞれの環境で泳いでいく。
海衣は海衣の生活を。
私は私の生活を。
次に顔を合わすのはいつかな?
約束してた旅行は紆余曲折で延びてしまいそうだけど…
疲れたらまた帰っておいで。
ここ数ヶ月はちょっとこちらを離れる訳にいかないから、今はそっちへは行けないけれど。
そちらで話せないことを話そう。
そして笑顔を持ってまた自分の海を泳ごう?
暖かな笑顔を取り戻せる場所を用意しておくから…
ずっと…
2002年8月10日昨晩久しぶりに明け方近くまで友達と話し、数時間寝た後、竜樹さんに電話をする。
話を聞いてみると、どうやら昨日くらいまで具合が悪くて殆ど食事も取れなかった模様。
今日、病院に行って痛み止めと点滴を打って貰って、ようやく元気になったのだとか。
「元気になった」と聞くのが嬉しくて、急いで用意をしようとすると、「今日はゆっくり目においで」とのこと。
よくよく話を聞いてみると、今日竜樹家で前倒しの法事があるらしい。
法事が終わる15時過ぎに着くようにおいでとのことだったので、暫く自宅で待機することにする。
途中、「早く来ても大丈夫なように置き鍵しておくから、好きな時間においで」と連絡があったので、どろりどろりと用意を始める。
用意ついでにリビングに降りてプードルさんと遊んでいると、金岡母がイライラしながら待っている。
聞いてみると、海衣と姪御ちゃんが今日と明日と金岡家に戻ってくるのだけれど、何時の新幹線もしくは飛行機に乗ってくるのか、一向に連絡がないのだという。
竜樹家の法事の加減で逢える時間が少なくなるのは残念でならなかったけれど、うちを出る前に、海衣にも姪御ちゃんにも挨拶はできるのだからこれはこれでいいのかもしれない。
…けれど、金岡邸到着が夕方になってしまったら、もう挨拶抜きで出かけなきゃならなくなるけどね
一向に連絡をしてこない海衣に両親はやきもきしながら、私は時折自室に戻って作業をしたり、降りてきてはプードルさんと遊んだりして過ごしていた。
ちょうど、13時前に海衣から連絡があり、金岡母が迎えに行った。
金岡母と戻ってきた姪御ちゃんを見てびっくり。
…随分大きくなっていたのだ。
話す言葉もはっきりしてて、成長の速さにただただ驚くばかりだった。
そんな私を気に留める様子もなく、「プードルくん、プードルくん♪」とはしゃいで、プードルさんを追い掛け回す姪御ちゃん。
暫く暴れまくっておねむになった姪御ちゃんを寝かせた後、海衣が持って帰ってきたお土産や食べ損ねたお寿司を分け分けして食べ、片付けた後竜樹邸に出かけた。
外は相変わらず蒸し暑い。
うだるような暑さの中、のたりのたりと坂道を降りていると、携帯が鳴る。
「今、どこまで帰ってるん?」
「いや、何処にも帰ってませんよ。そちらに向かってますよ?」
「…え?今、どこにおるん」
「これからそちらに向かうべく、坂道下ってます」
「よかったぁ(*^-^*)」
鍵を置いておくと話していたのに、鍵を置いてくるのを忘れたことに気づいて慌てたらしい。
「大丈夫ですよ。遅くはなりますけど、ちゃんとそちらに行きますから」
そう言って電話を切って、竜樹邸に急いだ。
いつものようにバスに乗る前に食材調達をしてバスに乗る。
重たい食材を持ってよたよたと竜樹邸に入ると、そこには元気そうな竜樹さんがいた。
「暑いのに、よぉ来てくれたなぁ(*^-^*)」
「法事あったのに、元気じゃないですか?」
「法事の前に病院に行ってきたから、少し調子いいみたいや」
お互いにお昼ご飯らしきものは少しだけ食べたけれど、夕飯までの間のつなぎとしてパンを分け分けして食べる。
互いに取り留めのない話をして、少しばかりじゃれて。
互いに流れる空気が少しばかりあまやかなのに、妙に満たされたような気がして自然と笑顔が出る。
「俺なぁ、最近、すんごい霄がかわいいなぁって思うねん。
多分、俺が身体を起こせなくて霄にご飯を食べさせてもらった、あの辺からやと思うわ」
「そう言ってても、私には執着せぇへんくせに」
「そんなことないで。今、霄持ってかれたら、すんごいヤやもん」
意外な台詞が飛び出すので、きょとんとしてると、軽いキス。
そのまま少し笑い合って、ゆっくりとお互いの熱を享受しあう。
7年前のあの日から繰り返される想いの受け渡しは、その都度心に違う色を挿す。
あまり雄弁でない竜樹さんから雄弁なキスが飛び、普段良く喋る私はただその熱に飲まれる。
何とも不思議な光景。
はっきり判るのは肌から伝わる熱。
そして、断片的に入る竜樹さんの声。
そのすべてに揺られるようにして、ただ竜樹さんを抱きしめて時間は過ぎていった。
竜樹邸の飲み水が切れていたので、自転車に乗って給水所までお水を貰いに行った後、夕飯を作り始める。
今日の夕飯は、鶏肉とピーマンのスイートバジル炒めと卵のスープ、じゃがいものサラダの3品。
3品とも出典はタイ料理の本からだったのだけど、相変わらず本を眺めながら作るのが途中でめんどくさくなって、本の通りでなくなるのはお約束。
鶏肉とピーマンのスイートバジル炒め。
鶏肉は小さめの一口大に切り、ヘタと種を取り除いたピーマン(赤や黄色のヤツ)とにんじん、玉ねぎはざく切りにしておく。
香菜の根3〜4本とにんにく1かけをすり鉢でつぶしたものを油を入れて熱したフライパンで香りが出るまで炒め、そこに玉ねぎ・にんじん・鶏肉・ピーマンの順に入れて炒め、オイスターソース大さじ1とナムプラー大さじ2、砂糖小さじ1と鶏がらスープカップ4分の1を入れ水分が飛ぶまで炒め、最後にスイートバジルを加えて完成。
じゃがいものサラダ。
じゃがいもは皮をむいて千切りにし、水に晒しておく。
鶏肉は茹でて細かく切り、エビは皮と背綿を除き、ゆでておく。
じゃがいもの水気を切ってから器に盛り、その上に鶏肉、エビをのせ、飾りにラディッシュを薄切りにしたものを乗せる。
サラダ油(適宜)とレモン汁(大さじ3)、チリソース(適宜)、ナムプラー(大さじ1)と砂糖(小さじ2分の1)と塩(適宜)を混ぜて作ったドレッシングで食す。
卵のスープ。
鶏肉とエビのゆで汁にナムプラーと塩で味を調えた後片栗粉でとろみをつけ、最後に余ったジャガイモの千切りと溶き卵を加えて完成。
食卓にご飯を並べ、待ちくたびれて横になってた竜樹さんを起こす。
「いただきます♪(*^人^*)」
タイ料理というと辛いものが多い気がしてたので、唐辛子の苦手な竜樹さんが食べやすいものを選んで作ってはみたものの、口に合うかどうかが心配。
「わぁ、これすんごい美味いわ♪」
竜樹さんは鶏肉とピーマンのスイートバジル炒めがいたくお気に召したらしい。
「冷房で冷えた身体にはちょうどいい」とスープも喜んでもらえる。
じゃがいものサラダは食感はお気に召したらしいけれど、ちょっとドレッシングが味気なかったらしく、和風ドレッシングに切り替えて食べておられた。
小食なる竜樹さんが沢山食べてるのを見て安心したからか、私自身はかくんと食欲が落ちた。
「夕飯作ってすぐに食べるのはしんどいやろ?休んでてええで?」
竜樹さんに進められるまま、横になっていた。
やがて食べ終わった竜樹さんが私の隣にやってきて、暫く二人でくっついている。
「ホンマ、霄ってかわいいなぁ(*^-^*)
ずっと俺の傍におるんやで?」
そう言って背中から抱きしめる竜樹さんの暖かさが体中に入り込んできて幸せな気分で一杯になる。
再手術に挑むまでの間、あと何回こうしていられるか判らないけれど。
ずっと傍にいて欲しいと思ってもらえる時間を少しでも沢山取れたらいいなぁって思う。
話を聞いてみると、どうやら昨日くらいまで具合が悪くて殆ど食事も取れなかった模様。
今日、病院に行って痛み止めと点滴を打って貰って、ようやく元気になったのだとか。
「元気になった」と聞くのが嬉しくて、急いで用意をしようとすると、「今日はゆっくり目においで」とのこと。
よくよく話を聞いてみると、今日竜樹家で前倒しの法事があるらしい。
法事が終わる15時過ぎに着くようにおいでとのことだったので、暫く自宅で待機することにする。
途中、「早く来ても大丈夫なように置き鍵しておくから、好きな時間においで」と連絡があったので、どろりどろりと用意を始める。
用意ついでにリビングに降りてプードルさんと遊んでいると、金岡母がイライラしながら待っている。
聞いてみると、海衣と姪御ちゃんが今日と明日と金岡家に戻ってくるのだけれど、何時の新幹線もしくは飛行機に乗ってくるのか、一向に連絡がないのだという。
竜樹家の法事の加減で逢える時間が少なくなるのは残念でならなかったけれど、うちを出る前に、海衣にも姪御ちゃんにも挨拶はできるのだからこれはこれでいいのかもしれない。
…けれど、金岡邸到着が夕方になってしまったら、もう挨拶抜きで出かけなきゃならなくなるけどね
一向に連絡をしてこない海衣に両親はやきもきしながら、私は時折自室に戻って作業をしたり、降りてきてはプードルさんと遊んだりして過ごしていた。
ちょうど、13時前に海衣から連絡があり、金岡母が迎えに行った。
金岡母と戻ってきた姪御ちゃんを見てびっくり。
…随分大きくなっていたのだ。
話す言葉もはっきりしてて、成長の速さにただただ驚くばかりだった。
そんな私を気に留める様子もなく、「プードルくん、プードルくん♪」とはしゃいで、プードルさんを追い掛け回す姪御ちゃん。
暫く暴れまくっておねむになった姪御ちゃんを寝かせた後、海衣が持って帰ってきたお土産や食べ損ねたお寿司を分け分けして食べ、片付けた後竜樹邸に出かけた。
外は相変わらず蒸し暑い。
うだるような暑さの中、のたりのたりと坂道を降りていると、携帯が鳴る。
「今、どこまで帰ってるん?」
「いや、何処にも帰ってませんよ。そちらに向かってますよ?」
「…え?今、どこにおるん」
「これからそちらに向かうべく、坂道下ってます」
「よかったぁ(*^-^*)」
鍵を置いておくと話していたのに、鍵を置いてくるのを忘れたことに気づいて慌てたらしい。
「大丈夫ですよ。遅くはなりますけど、ちゃんとそちらに行きますから」
そう言って電話を切って、竜樹邸に急いだ。
いつものようにバスに乗る前に食材調達をしてバスに乗る。
重たい食材を持ってよたよたと竜樹邸に入ると、そこには元気そうな竜樹さんがいた。
「暑いのに、よぉ来てくれたなぁ(*^-^*)」
「法事あったのに、元気じゃないですか?」
「法事の前に病院に行ってきたから、少し調子いいみたいや」
お互いにお昼ご飯らしきものは少しだけ食べたけれど、夕飯までの間のつなぎとしてパンを分け分けして食べる。
互いに取り留めのない話をして、少しばかりじゃれて。
互いに流れる空気が少しばかりあまやかなのに、妙に満たされたような気がして自然と笑顔が出る。
「俺なぁ、最近、すんごい霄がかわいいなぁって思うねん。
多分、俺が身体を起こせなくて霄にご飯を食べさせてもらった、あの辺からやと思うわ」
「そう言ってても、私には執着せぇへんくせに」
「そんなことないで。今、霄持ってかれたら、すんごいヤやもん」
意外な台詞が飛び出すので、きょとんとしてると、軽いキス。
そのまま少し笑い合って、ゆっくりとお互いの熱を享受しあう。
7年前のあの日から繰り返される想いの受け渡しは、その都度心に違う色を挿す。
あまり雄弁でない竜樹さんから雄弁なキスが飛び、普段良く喋る私はただその熱に飲まれる。
何とも不思議な光景。
はっきり判るのは肌から伝わる熱。
そして、断片的に入る竜樹さんの声。
そのすべてに揺られるようにして、ただ竜樹さんを抱きしめて時間は過ぎていった。
竜樹邸の飲み水が切れていたので、自転車に乗って給水所までお水を貰いに行った後、夕飯を作り始める。
今日の夕飯は、鶏肉とピーマンのスイートバジル炒めと卵のスープ、じゃがいものサラダの3品。
3品とも出典はタイ料理の本からだったのだけど、相変わらず本を眺めながら作るのが途中でめんどくさくなって、本の通りでなくなるのはお約束。
鶏肉とピーマンのスイートバジル炒め。
鶏肉は小さめの一口大に切り、ヘタと種を取り除いたピーマン(赤や黄色のヤツ)とにんじん、玉ねぎはざく切りにしておく。
香菜の根3〜4本とにんにく1かけをすり鉢でつぶしたものを油を入れて熱したフライパンで香りが出るまで炒め、そこに玉ねぎ・にんじん・鶏肉・ピーマンの順に入れて炒め、オイスターソース大さじ1とナムプラー大さじ2、砂糖小さじ1と鶏がらスープカップ4分の1を入れ水分が飛ぶまで炒め、最後にスイートバジルを加えて完成。
じゃがいものサラダ。
じゃがいもは皮をむいて千切りにし、水に晒しておく。
鶏肉は茹でて細かく切り、エビは皮と背綿を除き、ゆでておく。
じゃがいもの水気を切ってから器に盛り、その上に鶏肉、エビをのせ、飾りにラディッシュを薄切りにしたものを乗せる。
サラダ油(適宜)とレモン汁(大さじ3)、チリソース(適宜)、ナムプラー(大さじ1)と砂糖(小さじ2分の1)と塩(適宜)を混ぜて作ったドレッシングで食す。
卵のスープ。
鶏肉とエビのゆで汁にナムプラーと塩で味を調えた後片栗粉でとろみをつけ、最後に余ったジャガイモの千切りと溶き卵を加えて完成。
食卓にご飯を並べ、待ちくたびれて横になってた竜樹さんを起こす。
「いただきます♪(*^人^*)」
タイ料理というと辛いものが多い気がしてたので、唐辛子の苦手な竜樹さんが食べやすいものを選んで作ってはみたものの、口に合うかどうかが心配。
「わぁ、これすんごい美味いわ♪」
竜樹さんは鶏肉とピーマンのスイートバジル炒めがいたくお気に召したらしい。
「冷房で冷えた身体にはちょうどいい」とスープも喜んでもらえる。
じゃがいものサラダは食感はお気に召したらしいけれど、ちょっとドレッシングが味気なかったらしく、和風ドレッシングに切り替えて食べておられた。
小食なる竜樹さんが沢山食べてるのを見て安心したからか、私自身はかくんと食欲が落ちた。
「夕飯作ってすぐに食べるのはしんどいやろ?休んでてええで?」
竜樹さんに進められるまま、横になっていた。
やがて食べ終わった竜樹さんが私の隣にやってきて、暫く二人でくっついている。
「ホンマ、霄ってかわいいなぁ(*^-^*)
ずっと俺の傍におるんやで?」
そう言って背中から抱きしめる竜樹さんの暖かさが体中に入り込んできて幸せな気分で一杯になる。
再手術に挑むまでの間、あと何回こうしていられるか判らないけれど。
ずっと傍にいて欲しいと思ってもらえる時間を少しでも沢山取れたらいいなぁって思う。
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MVPシャツよりも嬉しい気持ち
2002年8月9日昨日歩き回ったせいか、朝起きてからも妙に足が痛かった。
左足につりそうな痛みを持ったまま出勤の準備をはじめる。
玄関を出ると、今にも雨が降りそうな鈍色の空。
けれど、「まだ降らなさそうだし、もし会社に着いてから降ったとしても置き傘してるし、いいか」とちょっと甘く見て家を出たのが失敗の元。
…電車に乗る頃、雨が降ってきた。
「朝からなんてついてないんだろ」と思いながらこちこちと朝メールを飛ばしていると、降りる駅が近づいてきた頃には雨はあがっていた。
少し機嫌を良く自転車をかっとばして、会社に向かう。
ビール配給大会に纏わる一件のあと、先輩の足止め攻撃に捕まらずにいてる。
それが妙に嬉しいけれど、一体この平和な状態はいつまで続くのか…
…ひどい時には人の進路を塞がれるからなぁ(-_-;)
本当にいつまで経っても人の都合など省みるということのない人だから。
でもまぁ、仕事に差し障りが出るほどの足止めを食らうなら、また吼えたらええわと感心できない居直りを抱えた状態で事務所に戻り、仕事を続ける。
昨日必死になって捜し歩いたカーン様のMVPTシャツ。
あるスポーツ用品店では今日入荷するとのこと。
ただ何時入荷するのかもどれくらい入ってくるのかも全くわからない状態。
いつもただ食事をとり、それが済むとボスと社長のお茶煎れで終わる昼休み。
…昼休みの時間内に店まで行って事務所に戻ってこれるかどうかは自信はないけれど、行ってみるか。
お昼ご飯を食べる時間が取れないのは辛いけれど、仕事の具合次第で決めることにした。
手持ちの仕事はそれほど多くもなく、親会社からも厄介な仕事は舞い込んでこない。
時計とにらめっこし、正午になった途端事務所を飛び出した。
自転車を飛ばして駅まで向かい、ホームに滑り込んできた電車に飛び乗る。
お昼の電車はもっと空いているイメージがあるのだけど、思ってた以上に混み合っていてびっくりした。
営業さんと思しき男性が携帯メールを打っていたり、これから遊びに向かうだろう学生さんがはしゃいでいたり、どことなく賑やか。
…何年か前は、この時期これくらいの時間から本社に帰って別の仕事してたなぁ
朝一から夏期講習のコマに入り、その後は本社に戻って別の仕事をする。
そんな夏休み期間。
その当時、移動の電車がこんなに混んでた印象もなくて、涼しい電車の中で暫しの睡眠をとったこと。
あの当時も早起きは苦手で夏期講習は苦痛に満ちたものだったけれど、それでもそこへ向かえば竜樹先生がいたから、竜樹先生の教室の日はことさら頑張って早起きしたこともあったなぁとか。
そんな過ぎてしまった日に少しばかり思いをはせながら、一路スポーツ用品店に(笑)
電車を降りてから、スポーツ用品店までダッシュで行ってみる。
店員さん捕まえて、シャツのありかを聞くと…
「確かに今日入荷するんですけれど、まだ宅急便がこちらに着いてないんですよぉ」
……………・゜・(ノД`;)・゜・
何のためにダッシュかけたんだろうと、自分の馬鹿さ加減にへなへなとなりそうだったけれど、ここでしょぼくれてても仕方がない。
念のため駅に向かう途中にあったスポーツ用品店でも聞いてみたけど、こちらは昨日抽選販売が済んでしまってるとのこと。
またへなへなときそうになったけれどへたってる場合ではないので、今度はなるべく時間内に会社に戻れるように再びダッシュかけて電車に飛び乗る。
ぜぇぜぇ言いながら電車に乗って、一応昼休みの大立ち回りの顛末をメールにしてお姉さまに送った。
しょぼくれてる暇もなく極めて危ない時間に電車は最寄駅に着き、お茶を買って自転車の前かごに投げ込み、自転車をかっ飛ばす。
途中で、先輩の車と出会う。
声をかけられたくなくて自転車を飛ばしたら、道が悪くてお茶がバウンドして歩道にごろり。
それを拾って社屋に入ると、エレベーターホールに待ち構えていた先輩。
「派っ手にペットボトル落とし取ったなぁ( ̄ー+ ̄)」
………………ヽ(`⌒´)ノ
めちゃめちゃ気分を害しながら少し遅れて事務所に戻り、また仕事を始める。
幸か不幸か、昼からの仕事はあまり増えることなく、定時には事務所を出ることが出来た。
またもや自転車をかっ飛ばして駅に向かい、寄り道路線の電車に飛び乗る。
何気なく携帯を見ると、姉さまからメールがふたつ。
…どうやら、会社を抜け出して、探しに行ってくれたらしい
「上司が嫌味をいってたけれど、強引に理由をつけて探しに行ったら2軒目で160cmのが見つかったよ。
でもこれって子供用やんなぁ?」
ドイツチームのレプリカを買った時もそうだったけれど、どうやら子供用160cmくらいの方が身体には合ってるみたい。
きちんと着れるサイズが見つかったってことも嬉しかったけれど、私が「見つからない」と言ったことを気に留めて探しに出てくれたことがとても嬉しかった。
…けれど。
お姉さまの職場の上司はかなり嫌味で口うるさいと聞いている。
彼女が事務所へ帰ってから、どんな嫌味を食らうのか、考えただけで気持ちが塞がる想いがする。
たかがTシャツ1枚ごときで動いてもらったことがひどく申し訳なく思えてならない。
「嫌味な上司やって聞いてたのに、気を遣わせたね、ごめん」
「転んでもタダじゃ、起きませんよ( ̄ー+ ̄)」
そんなメールをいくつか交わしながら、昼休み奔走した店に向かう。
中に入ってすぐのところに、子供用サイズから大人用サイズまでひと揃え並んでいた。
ずっと探していたMサイズを掴んでそのままレジへ。
…結局、自分が着る用と飾り用が出来てしまった(笑)
MVPTシャツの話題が出てきて2日。
随分走り回ったおかげで、長い長い獲得劇を繰り広げたような気がするけれど。
MVPシャツを手にして、心に残ったのはMVPシャツが手に入ったこと以上に自分のことを気にかけていてくれた姉さまの気持ち。
自分がいかにはた迷惑なヤツかってことも実感したけれど(-_-;)
自分のことを心のどこかに留めておいて貰えること。
それがとても嬉しいことだと知ってはいるけれど、こんな些細なことでも誰かの中で大事にされてたことが申し訳ない気持ち以上に嬉しいと。
カーン様のMVPTシャツよりも嬉しい気持ちに出会えたことが何よりの戦利品だったんだと思った。
左足につりそうな痛みを持ったまま出勤の準備をはじめる。
玄関を出ると、今にも雨が降りそうな鈍色の空。
けれど、「まだ降らなさそうだし、もし会社に着いてから降ったとしても置き傘してるし、いいか」とちょっと甘く見て家を出たのが失敗の元。
…電車に乗る頃、雨が降ってきた。
「朝からなんてついてないんだろ」と思いながらこちこちと朝メールを飛ばしていると、降りる駅が近づいてきた頃には雨はあがっていた。
少し機嫌を良く自転車をかっとばして、会社に向かう。
ビール配給大会に纏わる一件のあと、先輩の足止め攻撃に捕まらずにいてる。
それが妙に嬉しいけれど、一体この平和な状態はいつまで続くのか…
…ひどい時には人の進路を塞がれるからなぁ(-_-;)
本当にいつまで経っても人の都合など省みるということのない人だから。
でもまぁ、仕事に差し障りが出るほどの足止めを食らうなら、また吼えたらええわと感心できない居直りを抱えた状態で事務所に戻り、仕事を続ける。
昨日必死になって捜し歩いたカーン様のMVPTシャツ。
あるスポーツ用品店では今日入荷するとのこと。
ただ何時入荷するのかもどれくらい入ってくるのかも全くわからない状態。
いつもただ食事をとり、それが済むとボスと社長のお茶煎れで終わる昼休み。
…昼休みの時間内に店まで行って事務所に戻ってこれるかどうかは自信はないけれど、行ってみるか。
お昼ご飯を食べる時間が取れないのは辛いけれど、仕事の具合次第で決めることにした。
手持ちの仕事はそれほど多くもなく、親会社からも厄介な仕事は舞い込んでこない。
時計とにらめっこし、正午になった途端事務所を飛び出した。
自転車を飛ばして駅まで向かい、ホームに滑り込んできた電車に飛び乗る。
お昼の電車はもっと空いているイメージがあるのだけど、思ってた以上に混み合っていてびっくりした。
営業さんと思しき男性が携帯メールを打っていたり、これから遊びに向かうだろう学生さんがはしゃいでいたり、どことなく賑やか。
…何年か前は、この時期これくらいの時間から本社に帰って別の仕事してたなぁ
朝一から夏期講習のコマに入り、その後は本社に戻って別の仕事をする。
そんな夏休み期間。
その当時、移動の電車がこんなに混んでた印象もなくて、涼しい電車の中で暫しの睡眠をとったこと。
あの当時も早起きは苦手で夏期講習は苦痛に満ちたものだったけれど、それでもそこへ向かえば竜樹先生がいたから、竜樹先生の教室の日はことさら頑張って早起きしたこともあったなぁとか。
そんな過ぎてしまった日に少しばかり思いをはせながら、一路スポーツ用品店に(笑)
電車を降りてから、スポーツ用品店までダッシュで行ってみる。
店員さん捕まえて、シャツのありかを聞くと…
「確かに今日入荷するんですけれど、まだ宅急便がこちらに着いてないんですよぉ」
……………・゜・(ノД`;)・゜・
何のためにダッシュかけたんだろうと、自分の馬鹿さ加減にへなへなとなりそうだったけれど、ここでしょぼくれてても仕方がない。
念のため駅に向かう途中にあったスポーツ用品店でも聞いてみたけど、こちらは昨日抽選販売が済んでしまってるとのこと。
またへなへなときそうになったけれどへたってる場合ではないので、今度はなるべく時間内に会社に戻れるように再びダッシュかけて電車に飛び乗る。
ぜぇぜぇ言いながら電車に乗って、一応昼休みの大立ち回りの顛末をメールにしてお姉さまに送った。
しょぼくれてる暇もなく極めて危ない時間に電車は最寄駅に着き、お茶を買って自転車の前かごに投げ込み、自転車をかっ飛ばす。
途中で、先輩の車と出会う。
声をかけられたくなくて自転車を飛ばしたら、道が悪くてお茶がバウンドして歩道にごろり。
それを拾って社屋に入ると、エレベーターホールに待ち構えていた先輩。
「派っ手にペットボトル落とし取ったなぁ( ̄ー+ ̄)」
………………ヽ(`⌒´)ノ
めちゃめちゃ気分を害しながら少し遅れて事務所に戻り、また仕事を始める。
幸か不幸か、昼からの仕事はあまり増えることなく、定時には事務所を出ることが出来た。
またもや自転車をかっ飛ばして駅に向かい、寄り道路線の電車に飛び乗る。
何気なく携帯を見ると、姉さまからメールがふたつ。
…どうやら、会社を抜け出して、探しに行ってくれたらしい
「上司が嫌味をいってたけれど、強引に理由をつけて探しに行ったら2軒目で160cmのが見つかったよ。
でもこれって子供用やんなぁ?」
ドイツチームのレプリカを買った時もそうだったけれど、どうやら子供用160cmくらいの方が身体には合ってるみたい。
きちんと着れるサイズが見つかったってことも嬉しかったけれど、私が「見つからない」と言ったことを気に留めて探しに出てくれたことがとても嬉しかった。
…けれど。
お姉さまの職場の上司はかなり嫌味で口うるさいと聞いている。
彼女が事務所へ帰ってから、どんな嫌味を食らうのか、考えただけで気持ちが塞がる想いがする。
たかがTシャツ1枚ごときで動いてもらったことがひどく申し訳なく思えてならない。
「嫌味な上司やって聞いてたのに、気を遣わせたね、ごめん」
「転んでもタダじゃ、起きませんよ( ̄ー+ ̄)」
そんなメールをいくつか交わしながら、昼休み奔走した店に向かう。
中に入ってすぐのところに、子供用サイズから大人用サイズまでひと揃え並んでいた。
ずっと探していたMサイズを掴んでそのままレジへ。
…結局、自分が着る用と飾り用が出来てしまった(笑)
MVPTシャツの話題が出てきて2日。
随分走り回ったおかげで、長い長い獲得劇を繰り広げたような気がするけれど。
MVPシャツを手にして、心に残ったのはMVPシャツが手に入ったこと以上に自分のことを気にかけていてくれた姉さまの気持ち。
自分がいかにはた迷惑なヤツかってことも実感したけれど(-_-;)
自分のことを心のどこかに留めておいて貰えること。
それがとても嬉しいことだと知ってはいるけれど、こんな些細なことでも誰かの中で大事にされてたことが申し訳ない気持ち以上に嬉しいと。
カーン様のMVPTシャツよりも嬉しい気持ちに出会えたことが何よりの戦利品だったんだと思った。
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つまらないことに熱くなった1日
2002年8月8日昨日の夜からずっと風が心地よい。
昨日会社で憑き物を落としてきたのも心地よく感じられる原因のひとつではあると思うけれど、あまり居直りばかり表に出すとろくなことがないから、注意しないとなと思いながら家を出る。
事務所に入って仕事に取り掛かる。
書類を取りにいく時、先輩の顔も見ずにだーーーっと書類棚に向かっていって、書類引ったくってだーーーっとフロアを後にする。
今日もまた捕まらずに済んだ。
…これも余り長く続けると考え物なんだよな(-_-;)
あまり邪険にすると業務上の問題にまで支障が出る。
仕事とそれ以外の話を分けては考えて下さらない方なので、対処の仕方が難しい。
業務に支障が出たところで、他の社員さんに移管すればそれはそれで仕事としては流れていくので、最終的には問題ないのだろうけれど。
自分で出来ることまで人に移管するのもどうだろうねとは思うから、頭が痛い。
受け持たされてる仕事ですら面倒事が多くて煩わしいのに、何でこんなことでまで頭痛めんなんねんと思ったら、大概うんざりするけれど。
これはきっとこの会社を辞めるまで脈々と続いていくんだろう。
そう思っただけで、どんどんうんざりしていく。
…まぁ、また火の粉が飛んできたら、吼えて掃えばええわ。
仕事をするために居直りモードを発動させて、また黙々と仕事を片付けていく。
今日は他にもうんざりするようなことがあって、なるべく早く事務所を出たかった。
ぐったりしながらお昼休みを迎え、ふと携帯を見ると姉さまからメールがひとつ。
「さっきテレビで見たんだけど、カーン様のMVPTシャツ、今日からスポーツ用品店で発売やって」
……………ヽ(^。^)丿イヤッホー
俄然元気が出た。
煩わしい問題はとっとと片付けて、なるべく早く事務所を出て探しに行ってみよう。
昼からも黙々と仕事を片付けた。
やっとこ仕事が片付いて、脱兎の如く事務所を飛び出す。
完全に寄り道コースを目指して電車に乗る。
そうして、久しぶりに取り立てて用事という用事でもない寄り道をする。
大きなスポーツ用品店を何軒かまわってみたけれど、カーン様のTシャツは姿も形もない。
何軒かまわった一軒で聞いてみると、「アディダスの本社では今日発売だけれど、こちらに来るのは明日になります」とのこと。
明日の何時に入るかも全く不明、予約も取らないという話にがっくりこっくり。
大きな店でそう言われたなら、他でもきっとダメなんだろうと思いながら、時折入る姉さまからのメールに返事をこちこち打ちながら、ふらりふらりと彷徨い歩く。
帰宅ラッシュに差し掛かった街の空気は蒸し暑く、体中に纏わりつくような湿気が不快感を増幅させる。
「もうここで最後にしよう」と思ったお店でハンガーにつられたMVPTシャツを発見。
…けれど、サイズが異常にでかかった(゜o゜)
店の人に聞いたら「昨日から売り出してて、もう出てるだけのサイズしかない」とのこと。
しょうもないことだけど、はたと困ってしまった。
明日になったら、大きな店のうちの一軒には入荷してくる。
ただ、明日の終業後に寄ってみて希望するサイズがあるとは限らない。
姉さまとのメールのやり取りは殆ど実況中継状態。
「サイズOかXOしかないんだって、困ったよ」
「竜樹さんは着ないの?」
「竜樹さんはその手のシャツは着ないのだ。困った」
「明日に賭ける?」
「その方がいいかなぁ?」
「今そのやたらでっかいの抑えといて、オークションで売ったら?(笑)」
そんなやり取りを繰り返しながら、結局歩き疲れてしまって明日出直すことを勝手に決意。疲労の色だけ漂わせながら、家に戻った。
自転車をかっとばす程度の運動は毎日してるけれど、長時間街中を歩き回るなんてのは本当に久しぶりで、太ももやらふくらはぎやらが痛くて仕方なかった(情けない)
本当はこんなしょうもないことで熱くなってる場合じゃないんだけれど。
もっと竜樹さんに役立つことが何かを考えながら日々暮らしてかなきゃならないんだけど。
…ちょっと息切れ気味なのかな?
ひとまずカーン様のTシャツを追いかけるのは明日でやめにしよう。
明日手に入ればラッキー、なければそこで諦めよう。
どういう訳か、そんなつまらないことに熱くなった1日だった。
昨日会社で憑き物を落としてきたのも心地よく感じられる原因のひとつではあると思うけれど、あまり居直りばかり表に出すとろくなことがないから、注意しないとなと思いながら家を出る。
事務所に入って仕事に取り掛かる。
書類を取りにいく時、先輩の顔も見ずにだーーーっと書類棚に向かっていって、書類引ったくってだーーーっとフロアを後にする。
今日もまた捕まらずに済んだ。
…これも余り長く続けると考え物なんだよな(-_-;)
あまり邪険にすると業務上の問題にまで支障が出る。
仕事とそれ以外の話を分けては考えて下さらない方なので、対処の仕方が難しい。
業務に支障が出たところで、他の社員さんに移管すればそれはそれで仕事としては流れていくので、最終的には問題ないのだろうけれど。
自分で出来ることまで人に移管するのもどうだろうねとは思うから、頭が痛い。
受け持たされてる仕事ですら面倒事が多くて煩わしいのに、何でこんなことでまで頭痛めんなんねんと思ったら、大概うんざりするけれど。
これはきっとこの会社を辞めるまで脈々と続いていくんだろう。
そう思っただけで、どんどんうんざりしていく。
…まぁ、また火の粉が飛んできたら、吼えて掃えばええわ。
仕事をするために居直りモードを発動させて、また黙々と仕事を片付けていく。
今日は他にもうんざりするようなことがあって、なるべく早く事務所を出たかった。
ぐったりしながらお昼休みを迎え、ふと携帯を見ると姉さまからメールがひとつ。
「さっきテレビで見たんだけど、カーン様のMVPTシャツ、今日からスポーツ用品店で発売やって」
……………ヽ(^。^)丿イヤッホー
俄然元気が出た。
煩わしい問題はとっとと片付けて、なるべく早く事務所を出て探しに行ってみよう。
昼からも黙々と仕事を片付けた。
やっとこ仕事が片付いて、脱兎の如く事務所を飛び出す。
完全に寄り道コースを目指して電車に乗る。
そうして、久しぶりに取り立てて用事という用事でもない寄り道をする。
大きなスポーツ用品店を何軒かまわってみたけれど、カーン様のTシャツは姿も形もない。
何軒かまわった一軒で聞いてみると、「アディダスの本社では今日発売だけれど、こちらに来るのは明日になります」とのこと。
明日の何時に入るかも全く不明、予約も取らないという話にがっくりこっくり。
大きな店でそう言われたなら、他でもきっとダメなんだろうと思いながら、時折入る姉さまからのメールに返事をこちこち打ちながら、ふらりふらりと彷徨い歩く。
帰宅ラッシュに差し掛かった街の空気は蒸し暑く、体中に纏わりつくような湿気が不快感を増幅させる。
「もうここで最後にしよう」と思ったお店でハンガーにつられたMVPTシャツを発見。
…けれど、サイズが異常にでかかった(゜o゜)
店の人に聞いたら「昨日から売り出してて、もう出てるだけのサイズしかない」とのこと。
しょうもないことだけど、はたと困ってしまった。
明日になったら、大きな店のうちの一軒には入荷してくる。
ただ、明日の終業後に寄ってみて希望するサイズがあるとは限らない。
姉さまとのメールのやり取りは殆ど実況中継状態。
「サイズOかXOしかないんだって、困ったよ」
「竜樹さんは着ないの?」
「竜樹さんはその手のシャツは着ないのだ。困った」
「明日に賭ける?」
「その方がいいかなぁ?」
「今そのやたらでっかいの抑えといて、オークションで売ったら?(笑)」
そんなやり取りを繰り返しながら、結局歩き疲れてしまって明日出直すことを勝手に決意。疲労の色だけ漂わせながら、家に戻った。
自転車をかっとばす程度の運動は毎日してるけれど、長時間街中を歩き回るなんてのは本当に久しぶりで、太ももやらふくらはぎやらが痛くて仕方なかった(情けない)
本当はこんなしょうもないことで熱くなってる場合じゃないんだけれど。
もっと竜樹さんに役立つことが何かを考えながら日々暮らしてかなきゃならないんだけど。
…ちょっと息切れ気味なのかな?
ひとまずカーン様のTシャツを追いかけるのは明日でやめにしよう。
明日手に入ればラッキー、なければそこで諦めよう。
どういう訳か、そんなつまらないことに熱くなった1日だった。
態度ひとつ、言い方ひとつ
2002年8月7日昨日は会社であれこれ考えすぎたのか、帰宅後夕飯を食べたら少しお夜寝してしまった。
ちょうど途中のまま放ってた作業があったので、その続きを済ませてからまた眠った。
夜に涼しい風が吹いていたので、このまま明日も涼しければいいなぁと思っていたら、その涼しさは朝まで続いていてくれた。
移動するにも心地よくて、たとえこれから向かう場所が気の進まない場所であっても、少しだけ気分よくいられるのがありがたい。
会社について、毎朝定例の書類取り。
今日はだーーーっと書類棚のところに行き、書類を引ったくってだーーーーっと事務所に戻ってきた。
不謹慎だとは思ったけれど、少しばかり幸先がいいような気がする。
事実、昨日よりも仕事の量は多かったにも関わらず、昨日よりも早く仕事は片付いた。
このまま問題なく一日が済めばよかった。
…けれどそのままで終わらないのが、ここが人外魔境と呼ばれる所以(笑)
何が起こるとも知らず、久しぶりにフルに昼休みを休み、元気よく後半戦に入っていく。
15時前になって、夕方にしなければならない大きな仕事の準備をしてると流し場でごとごとと音がする。
気になって見に行くと、同僚さんが沢山の箱と格闘している。
話を聞くと、去年のお歳暮と今年のお中元に届いたビールを社員さんに配るために仕分けをしていたらしい。
彼女は本数を数え、人数分に分ける作業をしている。
私は散らかった箱を纏めて片付ける。
…そこでひとつ、小さな問題が発生した。
人数分に分けたはいいけれど、個別に持って帰ってもらう袋が足りないのだという。
いろいろと考えた結果、フロアごとに箱ごと配って個別に対処してもらおうということで落ち着いた。
最近、同僚さんは先輩と仲が非常に悪く、彼女の代わりに先輩のフロアの分のビールを取りに着てもらうために電話を入れた。
「個別に分けてはいないんだよ」ということを伝えたら、
「こっちに有る袋を持って上がるから、個別に分けてよこせ」と仰る。
これが別に忙しくも何ともない時なら、「めんどくさいなぁ」と思いながらも承るのだけれど、今回は少々(あくまでも私的に)具合が悪かった。
毎月15日までに親会社に渡さなければならない書類がある。
それは親会社の方から元になる書類が届いて、チェックを加えた後報告書と一緒に親会社に送り返さねばならない。
今月はお盆休みがあって、明日中には返さないと具合が悪いらしい。
なのにその書類、今朝届いた(-"-;)
あと2時間ちょっとでそのチェックを済ませ、返す段取りをつけなければならない。
その2時間の間に一日のうちで一番重要な仕事も控えてる。
…ビールごときにこれ以上時間を取られるわけにはいかない(大袈裟)
「そちらの階には人数いらっしゃるから、大丈夫でしょう?そちらで分けて下さい」
どうして私が出来ないのか、その事情を説明する必要はあったのかもしれない。
けれど、「仕事が立て込んでるから」ということをいくら説明しても、自分の都合ばかり押し通す人だから、するだけ無駄。
だから敢えて触れなかったのだけど…
「アホか!?そんなんしたら、こっちの連中取り合いして血ぃ見るぞ!どないすんねん!?」
………………(゜Д゜)!………………
開いた口が塞がらない。
ビールを個別に分けてくれと言っただけで、何で「お前」呼ばわりされなアカンねん?
ええ加減にせぇよ?と思ったけれど。
「そちら様が取り合いをなさろうが、血をご覧になろうが、私の預かり知らないことですので、そちらで分けて下さい」
事務所にいるボスと課長になるべく聞こえないよう、いつものように一段低いトーンで言い放った。
5分ほどしてエレベーターに乗って現れた先輩。
「お前、12時まで残業なんてしたことないやろ?俺はしたことがあるくらい忙しいねんぞ!!」
開口一番そうすごんでこられたので、
「12時まで残業しないといけないだけの仕事があれば、私でも残りますよ?それくらいなら」
すこーしだけ見得を切ってそう言った。
先輩は黙ってビールの箱を台車に積んで、フロアに帰っていかれた。
周りの人は同僚さんを始め、真っ白けになっている。
社長の息子に強気に物を言うなんて自殺行為だってことなんだろう。
けれど、私が忙しいからと撥ね付ければ、代わりに同僚さんとこに話が飛んでいくだけ。
こんなお願い、毎回毎回するわけでない。
5年かそこらで初めてしたお願いで、ここまで言われる筋合いないと思うのだけど…
いずれにしても大人気ない物言いを私もしてたには違いない。
もっと言い方があっただろうなぁと思いながら、流し場に散らかった箱の残骸を片付ける。
ごみ捨て場に箱を持って行き事務所に戻ってくると、ボスが先日行ってこられた親会社の人の昇進祝いの席での話を課長にしてる。
「『昇進したい、昇進したい』とあれほど言ってたくせに、昇進したらしたで文句言うとんねんで。
そんなん俺の預け知る話……あれ?預かる知らん?
金ちゃぁん、あれ、なんて言ったっけなぁ?」
……………/( ̄□ ̄)\ !
「…『預かり知らない』ですけど、聞いてらっしゃいましたか?」
「そうやそうや、『預かり知らない』や
金ちゃんが静かに怒ってる時、必ず出てくるねんなぁ、これ。
わしも覚えなぁ」
……………。。゛(ノ><)ノ ヒィ
「あいつ、あんな言い方しかせぇへんからなぁ。もっと普通に言えばいいのに。
大体今日の昼かって…」
どうやらボスもお昼間に先輩に喧嘩腰で文句を言ってこられたとこだったらしい。
「そんなん、気にすんな」って言葉がボスの本心かどうかはわからないけれど、少しだけ救われたような気がした。
態度ひとつ、言い方ひとつ。
それに注意してても問題は起きるけれど、それひとつで良くも悪くも自体は変わる。
表面何も変わってないように見えても、それに触れた人の中に生まれる感情の色が変わることもある。
それが変わったところで、別に私の何が変わるとは思えないけれど、自分も回りも上手く立ち回れるならそれに越したことはないんだろうと思うから。
堪えるべきところ、堪える必要のないところ。
言うべきこと、言わないで置いた方がいいこと。
その見極めの難しさだけを痛烈に感じた。
ちょうど途中のまま放ってた作業があったので、その続きを済ませてからまた眠った。
夜に涼しい風が吹いていたので、このまま明日も涼しければいいなぁと思っていたら、その涼しさは朝まで続いていてくれた。
移動するにも心地よくて、たとえこれから向かう場所が気の進まない場所であっても、少しだけ気分よくいられるのがありがたい。
会社について、毎朝定例の書類取り。
今日はだーーーっと書類棚のところに行き、書類を引ったくってだーーーーっと事務所に戻ってきた。
不謹慎だとは思ったけれど、少しばかり幸先がいいような気がする。
事実、昨日よりも仕事の量は多かったにも関わらず、昨日よりも早く仕事は片付いた。
このまま問題なく一日が済めばよかった。
…けれどそのままで終わらないのが、ここが人外魔境と呼ばれる所以(笑)
何が起こるとも知らず、久しぶりにフルに昼休みを休み、元気よく後半戦に入っていく。
15時前になって、夕方にしなければならない大きな仕事の準備をしてると流し場でごとごとと音がする。
気になって見に行くと、同僚さんが沢山の箱と格闘している。
話を聞くと、去年のお歳暮と今年のお中元に届いたビールを社員さんに配るために仕分けをしていたらしい。
彼女は本数を数え、人数分に分ける作業をしている。
私は散らかった箱を纏めて片付ける。
…そこでひとつ、小さな問題が発生した。
人数分に分けたはいいけれど、個別に持って帰ってもらう袋が足りないのだという。
いろいろと考えた結果、フロアごとに箱ごと配って個別に対処してもらおうということで落ち着いた。
最近、同僚さんは先輩と仲が非常に悪く、彼女の代わりに先輩のフロアの分のビールを取りに着てもらうために電話を入れた。
「個別に分けてはいないんだよ」ということを伝えたら、
「こっちに有る袋を持って上がるから、個別に分けてよこせ」と仰る。
これが別に忙しくも何ともない時なら、「めんどくさいなぁ」と思いながらも承るのだけれど、今回は少々(あくまでも私的に)具合が悪かった。
毎月15日までに親会社に渡さなければならない書類がある。
それは親会社の方から元になる書類が届いて、チェックを加えた後報告書と一緒に親会社に送り返さねばならない。
今月はお盆休みがあって、明日中には返さないと具合が悪いらしい。
なのにその書類、今朝届いた(-"-;)
あと2時間ちょっとでそのチェックを済ませ、返す段取りをつけなければならない。
その2時間の間に一日のうちで一番重要な仕事も控えてる。
…ビールごときにこれ以上時間を取られるわけにはいかない(大袈裟)
「そちらの階には人数いらっしゃるから、大丈夫でしょう?そちらで分けて下さい」
どうして私が出来ないのか、その事情を説明する必要はあったのかもしれない。
けれど、「仕事が立て込んでるから」ということをいくら説明しても、自分の都合ばかり押し通す人だから、するだけ無駄。
だから敢えて触れなかったのだけど…
「アホか!?そんなんしたら、こっちの連中取り合いして血ぃ見るぞ!どないすんねん!?」
………………(゜Д゜)!………………
開いた口が塞がらない。
ビールを個別に分けてくれと言っただけで、何で「お前」呼ばわりされなアカンねん?
ええ加減にせぇよ?と思ったけれど。
「そちら様が取り合いをなさろうが、血をご覧になろうが、私の預かり知らないことですので、そちらで分けて下さい」
事務所にいるボスと課長になるべく聞こえないよう、いつものように一段低いトーンで言い放った。
5分ほどしてエレベーターに乗って現れた先輩。
「お前、12時まで残業なんてしたことないやろ?俺はしたことがあるくらい忙しいねんぞ!!」
開口一番そうすごんでこられたので、
「12時まで残業しないといけないだけの仕事があれば、私でも残りますよ?それくらいなら」
すこーしだけ見得を切ってそう言った。
先輩は黙ってビールの箱を台車に積んで、フロアに帰っていかれた。
周りの人は同僚さんを始め、真っ白けになっている。
社長の息子に強気に物を言うなんて自殺行為だってことなんだろう。
けれど、私が忙しいからと撥ね付ければ、代わりに同僚さんとこに話が飛んでいくだけ。
こんなお願い、毎回毎回するわけでない。
5年かそこらで初めてしたお願いで、ここまで言われる筋合いないと思うのだけど…
いずれにしても大人気ない物言いを私もしてたには違いない。
もっと言い方があっただろうなぁと思いながら、流し場に散らかった箱の残骸を片付ける。
ごみ捨て場に箱を持って行き事務所に戻ってくると、ボスが先日行ってこられた親会社の人の昇進祝いの席での話を課長にしてる。
「『昇進したい、昇進したい』とあれほど言ってたくせに、昇進したらしたで文句言うとんねんで。
そんなん俺の預け知る話……あれ?預かる知らん?
金ちゃぁん、あれ、なんて言ったっけなぁ?」
……………/( ̄□ ̄)\ !
「…『預かり知らない』ですけど、聞いてらっしゃいましたか?」
「そうやそうや、『預かり知らない』や
金ちゃんが静かに怒ってる時、必ず出てくるねんなぁ、これ。
わしも覚えなぁ」
……………。。゛(ノ><)ノ ヒィ
「あいつ、あんな言い方しかせぇへんからなぁ。もっと普通に言えばいいのに。
大体今日の昼かって…」
どうやらボスもお昼間に先輩に喧嘩腰で文句を言ってこられたとこだったらしい。
「そんなん、気にすんな」って言葉がボスの本心かどうかはわからないけれど、少しだけ救われたような気がした。
態度ひとつ、言い方ひとつ。
それに注意してても問題は起きるけれど、それひとつで良くも悪くも自体は変わる。
表面何も変わってないように見えても、それに触れた人の中に生まれる感情の色が変わることもある。
それが変わったところで、別に私の何が変わるとは思えないけれど、自分も回りも上手く立ち回れるならそれに越したことはないんだろうと思うから。
堪えるべきところ、堪える必要のないところ。
言うべきこと、言わないで置いた方がいいこと。
その見極めの難しさだけを痛烈に感じた。
白と黒の狭間
2002年8月6日「死が迫って来てる時の感情って、怖いもんやでぇ。
死ぬしかないヤツの傍にいてるヤツってホンマに無力なもんやねんでぇ」
…あなたは実際に「それ」に出逢ったことがあるの?
あなた自身が差し迫って死と直面したことがあるの?
自分の身近な人が死と向き合い、その傍にいて自分の無力さを痛感したことがあるというの?
作り物で知ったような気になることを咎める気にはならないけれど。
作り物から得た知識をあなたのものとして握り締めてるのも自由だけれど。
今「そこ」にいる私の感情の形をあなたの感じたそれに押し込もうとしないで。
何をどうやったところで、あなたの感じたことが私の立ってる基盤と交差することなど、有りはしないのだから…
毎朝、先輩のいるフロアまで1日最初の仕事を取りに行かなければならない。
その時先輩が面白いと感じたことがあると、話し掛けられては足止めを食らう。
彼の話題は、漫画の話やゲームの話、アニメの話。
昔ならついていけたかもしれない話も、縮小傾向にある今では訳のわからない話と化しているけれど、彼は自分が暇なら延々と話し続ける。
こちらがどれほど立てこんでいようが、事務所に人がいなくて早く戻らなければならなかろうが関係なく、だらだらと話が続く。
「今日は立てこんでるので…」と予め牽制しても、全く意味がない。
他の社員さんが先輩に仕事の用があってやってきても、後回しにして一人話しつづけてる。
殆ど毎回お付き合いせざるを得ない状態でいてるけれど。
…最近、我慢ならなくなってきている。
ここ数週間、先輩はギャルゲーの移植版のゲームにご執心で、人の顔を見ればその話ばかりしておられる。
どうもそのゲームのテーマが人の死について取り扱ってるらしく、話の展開や台詞回しが彼にとってはリアルで気に入ってるらしい。
…正直今の私は、人の生き死にの話をエンターテイメントとして楽しめる心境にはない。
正確には、竜樹さんがその生き死にの境界線を歩く場面に出会ってからずっと、それを娯楽の延長のようになど見ることなど出来なくなっているのだけど。
今回の手術は、前回のものと比べればはるかに生命を脅かす危険性はないものの、難しい手術であるには変わりはない。
これから私にとって一番大切な人の生命の問題と再び向き合っていく中で、その生命纏わる影の部分の話に面白おかしく触れられたくない。
それが竜樹さんと直結したことでないからこそ、余計にそんなものの話をしたくはないのかもしれない。
創作物から感銘を受けることや共鳴することを否定する気はない。
それはごくごく自然な心の動きだと思うから。
けれど、自分が感じたことをすべての事実のように語るだけでは飽き足らず、ただ話題を共有してたら面白いからと言うだけの理由でお仕着せられたんじゃ堪らない。
竜樹さんや私は、再び「そこ」へ向かおうとしてるんだから。
嬉々として語り続ける先輩を他所に、壁にかかってる時計を見上げて時間を気にする私。
私がどういう聞き方をしてようが、お構いなしに思うことだけを捲し立てる先輩。
ふと、問いかけ口調で話が飛んできた。
「死が迫って来てる時の感情って、怖いもんやでぇ。
死ぬしかないヤツの傍にいてるヤツってホンマに無力なもんやねんでぇ。
姉やん、そんなん知らへんやろぉ?」
…誰に向かって、言ってんですか?
死と隣り合わせにある怖さを竜樹さんを通してどれだけ眺めてきたか。
竜樹さんはそんなものじゃ足りないくらいの怖さを見てきたんだよ。
尤も、生きていても死んでいてもその向こうに絶望は待っていたけどね。
私自身も、身体の痛みに苦しむ竜樹さんの傍で何をすることも出来ず、ただ立ち尽くすしかない屈辱にも似たやるせなさの中をずっと歩いてきたんだよ。
多分、今も、これからもずっと。
理解を求める必要のない人になど、説明を施す必要はない。
だから私は彼にそれを伝えようとは思わない。
どういうつもりでそんな話を延々聞かせるのか、よく判らないけれど。
自分の見た疑似体験的な話を共有する誰かが欲しくてただ捲くし立てるのなら、悪いけど他所でやってくんないかなぁ?
今の私はそれにお付き合いするだけの余裕なんて持ち合わせちゃあいないんだから。
時間だけがぼんぼん過ぎていって、いい加減苛立たしさを覚え始めた時、
「俺らも人生の折り返し点に差し掛かったけれど、そんな怖さを見るのはまだ先なんやろうなぁ」
へらへら笑って話し掛けてくる先輩に、時計を見上げてた視線をぐっと落とす。
「そりゃ、生きてりゃいずれは出会うでしょうよ?
けれど別に遠い話やのうて、突然やってくるものなんじゃないですかね?」
踵を返し、書類を抱えてフロアを後にした。
心をぶつけたような感覚が抜けないまま、自分の仕事を始める。
自分に合わない人や物について、簡単に合わないと切り捨てるのは努力が足りない気がして、なるべくその安直さに気安く乗らないようにはしているけれど。
どうやら、私にとって本当に先輩は合わない人らしい。
今までも人の気持ちにずかずか踏み込んできては癇に障ることをほたえ、それにカチンときて低く吼えて噛み付くなんてことは何度となくあったこと。
だから、今更それについてどうこう思うこともないのだけれど。
娯楽として生命の影の部分に踏み込まれて、すっかり気分が滅入ってしまった。
気分の悪いまま、仕事を片付けていく。
勝手気侭な喋りに時間を取られてしまったのもあって午前中に仕事は片付かず、昼休みに入っても暫く仕事を続けていた。
ようやっと片付き、昼食を取ろうとして鞄を覗くとメールがひとつ。
…先日生まれた友達の赤ちゃんの写真だった。
白い産着に包まれた、華奢でかわいい赤ちゃん。
姪御が生まれた時あまりに大きかったという印象があるため、余計に友達の赤ちゃんが華奢に感じられるのだけれど。
真っ白な生命の強さと伸びやかさを、小さなディスプレイから垣間見ることが出来て、俄然元気が出た。
物事に表裏があるように、生命に纏わることにも光と影の部分がある。
今までその影の部分に触れる面ばかりを眺めてきたので、なかなか気がつかなかったのだけれど。
生命はとても力強いのだということ。
確かにその傍に影があるのだけれど、その影の存在を一瞬忘れていられるほどの強さを持ち合わせているということ。
…確かに手術後、絶望は待っていた。
生きることと死ぬことのどちらが幸せなのかを考えあぐねるほどの影を見つめたことがある。
けれど、生命はまたその影をひっくり返すだけの力を持ち合わせてるのだと。
傲慢でもそれを信じて、来る手術に臨むしかないのだろうと。
生命の光と影の部分を同時に眺めることで、自分の指針を得た気がする。
白と黒の狭間を迷いながらでも歩きつづけて、いつかはよりよい場所に竜樹さんと2人で辿り着きたいと思う。
死ぬしかないヤツの傍にいてるヤツってホンマに無力なもんやねんでぇ」
…あなたは実際に「それ」に出逢ったことがあるの?
あなた自身が差し迫って死と直面したことがあるの?
自分の身近な人が死と向き合い、その傍にいて自分の無力さを痛感したことがあるというの?
作り物で知ったような気になることを咎める気にはならないけれど。
作り物から得た知識をあなたのものとして握り締めてるのも自由だけれど。
今「そこ」にいる私の感情の形をあなたの感じたそれに押し込もうとしないで。
何をどうやったところで、あなたの感じたことが私の立ってる基盤と交差することなど、有りはしないのだから…
毎朝、先輩のいるフロアまで1日最初の仕事を取りに行かなければならない。
その時先輩が面白いと感じたことがあると、話し掛けられては足止めを食らう。
彼の話題は、漫画の話やゲームの話、アニメの話。
昔ならついていけたかもしれない話も、縮小傾向にある今では訳のわからない話と化しているけれど、彼は自分が暇なら延々と話し続ける。
こちらがどれほど立てこんでいようが、事務所に人がいなくて早く戻らなければならなかろうが関係なく、だらだらと話が続く。
「今日は立てこんでるので…」と予め牽制しても、全く意味がない。
他の社員さんが先輩に仕事の用があってやってきても、後回しにして一人話しつづけてる。
殆ど毎回お付き合いせざるを得ない状態でいてるけれど。
…最近、我慢ならなくなってきている。
ここ数週間、先輩はギャルゲーの移植版のゲームにご執心で、人の顔を見ればその話ばかりしておられる。
どうもそのゲームのテーマが人の死について取り扱ってるらしく、話の展開や台詞回しが彼にとってはリアルで気に入ってるらしい。
…正直今の私は、人の生き死にの話をエンターテイメントとして楽しめる心境にはない。
正確には、竜樹さんがその生き死にの境界線を歩く場面に出会ってからずっと、それを娯楽の延長のようになど見ることなど出来なくなっているのだけど。
今回の手術は、前回のものと比べればはるかに生命を脅かす危険性はないものの、難しい手術であるには変わりはない。
これから私にとって一番大切な人の生命の問題と再び向き合っていく中で、その生命纏わる影の部分の話に面白おかしく触れられたくない。
それが竜樹さんと直結したことでないからこそ、余計にそんなものの話をしたくはないのかもしれない。
創作物から感銘を受けることや共鳴することを否定する気はない。
それはごくごく自然な心の動きだと思うから。
けれど、自分が感じたことをすべての事実のように語るだけでは飽き足らず、ただ話題を共有してたら面白いからと言うだけの理由でお仕着せられたんじゃ堪らない。
竜樹さんや私は、再び「そこ」へ向かおうとしてるんだから。
嬉々として語り続ける先輩を他所に、壁にかかってる時計を見上げて時間を気にする私。
私がどういう聞き方をしてようが、お構いなしに思うことだけを捲し立てる先輩。
ふと、問いかけ口調で話が飛んできた。
「死が迫って来てる時の感情って、怖いもんやでぇ。
死ぬしかないヤツの傍にいてるヤツってホンマに無力なもんやねんでぇ。
姉やん、そんなん知らへんやろぉ?」
…誰に向かって、言ってんですか?
死と隣り合わせにある怖さを竜樹さんを通してどれだけ眺めてきたか。
竜樹さんはそんなものじゃ足りないくらいの怖さを見てきたんだよ。
尤も、生きていても死んでいてもその向こうに絶望は待っていたけどね。
私自身も、身体の痛みに苦しむ竜樹さんの傍で何をすることも出来ず、ただ立ち尽くすしかない屈辱にも似たやるせなさの中をずっと歩いてきたんだよ。
多分、今も、これからもずっと。
理解を求める必要のない人になど、説明を施す必要はない。
だから私は彼にそれを伝えようとは思わない。
どういうつもりでそんな話を延々聞かせるのか、よく判らないけれど。
自分の見た疑似体験的な話を共有する誰かが欲しくてただ捲くし立てるのなら、悪いけど他所でやってくんないかなぁ?
今の私はそれにお付き合いするだけの余裕なんて持ち合わせちゃあいないんだから。
時間だけがぼんぼん過ぎていって、いい加減苛立たしさを覚え始めた時、
「俺らも人生の折り返し点に差し掛かったけれど、そんな怖さを見るのはまだ先なんやろうなぁ」
へらへら笑って話し掛けてくる先輩に、時計を見上げてた視線をぐっと落とす。
「そりゃ、生きてりゃいずれは出会うでしょうよ?
けれど別に遠い話やのうて、突然やってくるものなんじゃないですかね?」
踵を返し、書類を抱えてフロアを後にした。
心をぶつけたような感覚が抜けないまま、自分の仕事を始める。
自分に合わない人や物について、簡単に合わないと切り捨てるのは努力が足りない気がして、なるべくその安直さに気安く乗らないようにはしているけれど。
どうやら、私にとって本当に先輩は合わない人らしい。
今までも人の気持ちにずかずか踏み込んできては癇に障ることをほたえ、それにカチンときて低く吼えて噛み付くなんてことは何度となくあったこと。
だから、今更それについてどうこう思うこともないのだけれど。
娯楽として生命の影の部分に踏み込まれて、すっかり気分が滅入ってしまった。
気分の悪いまま、仕事を片付けていく。
勝手気侭な喋りに時間を取られてしまったのもあって午前中に仕事は片付かず、昼休みに入っても暫く仕事を続けていた。
ようやっと片付き、昼食を取ろうとして鞄を覗くとメールがひとつ。
…先日生まれた友達の赤ちゃんの写真だった。
白い産着に包まれた、華奢でかわいい赤ちゃん。
姪御が生まれた時あまりに大きかったという印象があるため、余計に友達の赤ちゃんが華奢に感じられるのだけれど。
真っ白な生命の強さと伸びやかさを、小さなディスプレイから垣間見ることが出来て、俄然元気が出た。
物事に表裏があるように、生命に纏わることにも光と影の部分がある。
今までその影の部分に触れる面ばかりを眺めてきたので、なかなか気がつかなかったのだけれど。
生命はとても力強いのだということ。
確かにその傍に影があるのだけれど、その影の存在を一瞬忘れていられるほどの強さを持ち合わせているということ。
…確かに手術後、絶望は待っていた。
生きることと死ぬことのどちらが幸せなのかを考えあぐねるほどの影を見つめたことがある。
けれど、生命はまたその影をひっくり返すだけの力を持ち合わせてるのだと。
傲慢でもそれを信じて、来る手術に臨むしかないのだろうと。
生命の光と影の部分を同時に眺めることで、自分の指針を得た気がする。
白と黒の狭間を迷いながらでも歩きつづけて、いつかはよりよい場所に竜樹さんと2人で辿り着きたいと思う。
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季節の贈り物
2002年8月5日今朝も相変わらず蒸し暑いけれど、珍しいくらいすっきり起きれた。
それはきっと昨日殆ど寝たくれてたせいだとは思うけれど(^^ゞ
気分はあまり晴れはしないけれど、身体が楽だとどうにかなるような気がしてくるから不思議な感じ。
朝から方々にメールを飛ばして移動、チャリをぶっとばして社屋に入る。
仕事は忙しいのか暇なのかもよく判らない状態。
けれど、そろそろお盆休みが近づいてるせいか、俄かに前倒しされるジョブが出始めてきてるので、空き時間に自分の想いを纏めつつも前倒しになりそうだと予想できる仕事の準備だけは怠らないように、ちまちまと添付書類等を作成しておく。
何とか定時に済ませておきたい物件の添付書類もすべて作り上げて、社屋を出た。
やっとこ賞与も出たので、遅ばせながらお中元を買いに大阪まで出た。
盆暮れには、社長とボス、竜樹家に贈り物をすることにしている。
本当なら社長とボスに贈る必要はないらしいのだけれど、入社当時から何かと気にかけて頂いているのでするようにしている。
今年は竜樹家からは、「お世話になっているのはこちらの方だから、気を遣わないでね」と言われていたけれど、こちらもなんやかんやと気遣って頂いてるので、せめてもの気持ちということで。
百貨店につき、どろりどろりと申込書を書く。
社長には三田屋ギフト。
ボスには好物の銘茶セット。
竜樹さんところには、佃煮の詰め合わせを贈ることにした。
例年、竜樹家に何を送っていいのか判らずに、うんうん考え込むのだけれど。
今年の夏は竜樹さんが再手術のために入院するので、何かと竜樹さんのご両親の負担も増える。
忙しさが増してくると、食欲が落ちるというのはよく聞いていたので、簡単にご飯を済ませたいときに食べてもらえたらいいなぁと思ったこと。
入院して時間が経ってくると、決まって差し入れして欲しそうにする竜樹さん。
簡単なおにぎりでも喜んでくれるので、おにぎりの具に使ってもいいだろうなぁと思ったこと。
そんなこんなで今回はすんなり贈るものが決まった。
受付で書類を出して、支払いを済ませて帰宅コースに。
なけなしの賞与を貰っても贈り物で吐き出してたんじゃ、一緒なのかもしれないけれど。
たまには贈り物をするのもいいかもしれない。
社長やボスはともかく、竜樹さんファミリーの面々に喜んでもらえたらいいなぁと思う。物を贈った程度で何が伝わるとも思わないけれど。
贈り物の季節が来る度に、いつもよりいっそう強く思うんだ。
いつも大切にしてくださって、ありがとうって。
そんな気持ちのかけらでも届けばいいなぁと、季節の贈り物に小さな思いのかけらを託して、家路を急いだ。
それはきっと昨日殆ど寝たくれてたせいだとは思うけれど(^^ゞ
気分はあまり晴れはしないけれど、身体が楽だとどうにかなるような気がしてくるから不思議な感じ。
朝から方々にメールを飛ばして移動、チャリをぶっとばして社屋に入る。
仕事は忙しいのか暇なのかもよく判らない状態。
けれど、そろそろお盆休みが近づいてるせいか、俄かに前倒しされるジョブが出始めてきてるので、空き時間に自分の想いを纏めつつも前倒しになりそうだと予想できる仕事の準備だけは怠らないように、ちまちまと添付書類等を作成しておく。
何とか定時に済ませておきたい物件の添付書類もすべて作り上げて、社屋を出た。
やっとこ賞与も出たので、遅ばせながらお中元を買いに大阪まで出た。
盆暮れには、社長とボス、竜樹家に贈り物をすることにしている。
本当なら社長とボスに贈る必要はないらしいのだけれど、入社当時から何かと気にかけて頂いているのでするようにしている。
今年は竜樹家からは、「お世話になっているのはこちらの方だから、気を遣わないでね」と言われていたけれど、こちらもなんやかんやと気遣って頂いてるので、せめてもの気持ちということで。
百貨店につき、どろりどろりと申込書を書く。
社長には三田屋ギフト。
ボスには好物の銘茶セット。
竜樹さんところには、佃煮の詰め合わせを贈ることにした。
例年、竜樹家に何を送っていいのか判らずに、うんうん考え込むのだけれど。
今年の夏は竜樹さんが再手術のために入院するので、何かと竜樹さんのご両親の負担も増える。
忙しさが増してくると、食欲が落ちるというのはよく聞いていたので、簡単にご飯を済ませたいときに食べてもらえたらいいなぁと思ったこと。
入院して時間が経ってくると、決まって差し入れして欲しそうにする竜樹さん。
簡単なおにぎりでも喜んでくれるので、おにぎりの具に使ってもいいだろうなぁと思ったこと。
そんなこんなで今回はすんなり贈るものが決まった。
受付で書類を出して、支払いを済ませて帰宅コースに。
なけなしの賞与を貰っても贈り物で吐き出してたんじゃ、一緒なのかもしれないけれど。
たまには贈り物をするのもいいかもしれない。
社長やボスはともかく、竜樹さんファミリーの面々に喜んでもらえたらいいなぁと思う。物を贈った程度で何が伝わるとも思わないけれど。
贈り物の季節が来る度に、いつもよりいっそう強く思うんだ。
いつも大切にしてくださって、ありがとうって。
そんな気持ちのかけらでも届けばいいなぁと、季節の贈り物に小さな思いのかけらを託して、家路を急いだ。
元気の素でありたい
2002年8月4日(3日の続き)
頼んだ食材が底をつき、追加の肉とホタテのバター焼きを頼む。
竜樹さんがご飯物が食べたいと仰るけれど、ビビンバを食べるにはちょっと苦しいなぁということ。
2人で半分こにして丁度よさそうなおじやがあったので、迷うことなく注文した。
…一抹の不安はあったのだけれど。
そのおじや、お店の名前がついてるのだけど、どんな具が入っててどんな味をしてるのか、メニューを眺めても全く判らない。
店員さんを呼び止めて聞いても良かったけれど、かなり人が多くて忙しそうだったので、何となく聞きそびれてしまった。
…その「何となく」が命取りだった。
運ばれてきたおじやを見てびっくり。
おじやのスープが真っ赤なのだ。
多分豆板醤やら唐辛子系の調味料がふんだんにばら撒かれてたと思われるいでたち。
普段の私なら涼しい顔をして食べられたと思うけれど、生憎腹11分目くらい食べてからの登場。
そんな状態に唐辛子系調味料満載のおじやはキツかった。
唐辛子が苦手な竜樹さんにお任せするにはあんまりなおじやだし、せっかく頼んだのだからと、一人で黙々と食べ始める。
卵もご飯もやわらかで、確かに美味しいのだけれど。
食べ進めるに連れて、唐辛子にじりじりと胃を締め上げられるような感覚を覚える。
「…なぁ、霄ぁ。無理に食べんでええねんで?」
時折そう言って竜樹さんが声をかけてくれるのを、「大丈夫、大丈夫」とやりすごしてたけれど、唐辛子の攻撃にちょっと参り気味。
「ちょっと貰うなぁ(*^-^*)」
よこからおじやを掬った蓮華を奪っていった竜樹さん。
次の瞬間にはけふんけふんとむせ返っておられた。
「なぁ、ケフ、もうやめとき?ケフン(>。<)゜゜゜ 」
むせ返る竜樹さんを見てようやっと諦めをつけて、席を立つ。
少しばかりの賞与も出たことだし、今日はご馳走しようと思ってると、竜樹さんはとっとと精算を済ませておられた。
「少しやけどボーナスも出たんだし、私、おごったのに」
「ええねん♪焼肉を食べたかったんは俺やし、いつも夕飯を作ってもらってるから」
そう言ってにこにこしてる竜樹さんが何だかかわいくて、お隣にあるアイスクリーム屋でアイスクリームをプレゼント。
テイクアウト仕様にしてもらって、仲良く竜樹邸に戻った。
竜樹邸に帰り着くと、二人揃ってごろり。
「焼肉食べてすぐに横になったら、牛になるの確実な気が…」
「そやけど、頑張ってんもん」
意味不明なる会話を交わし暫く横になってから、買ってきたアイスを食べ、またごろり。
大好きな焼肉を食べに出れたこと、そのあと竜樹さんとくっついて横になってる時間。
その全てが心を満たしていくけれど。
…私のお腹は唐辛子攻撃に負けたらしい。
唐辛子攻撃の最中もそして今も冷房漬けの状態の上に、アイスまで食べてしまったためにお腹の調子がすこぶる悪い。
時折、お腹をさすってくれる竜樹さんの手の温度が心地よかったけれど、立ち上がる気力が削がれていく。
そのまま調子が良くなるのを待っていたら、またしても午前様コースになるのは目に見えていたけれど、「無理せんと、ゆっくり休んどき?」という竜樹さんのお言葉に甘えてしまった。
しんどい身体に竜樹さんの熱だけが、心地よくてそのまま竜樹邸に留まっていたいなぁと思ったけれど。
竜樹さんのところに来ていると知れている状態で「泊まって帰ります」は通用しないことは十二分に判っている。
「泊まって帰れるんやったら、ええねけどな」という竜樹さんの表情もどこか諦めの色が挿している。
…このままずっと一緒にいられたらなぁ。
身体が弱った時、竜樹さんが私が傍にいたらいいなぁって思うというのが何となく判ったような気がした。
そうして横になってじっと回復するのを待ち、「大丈夫」ってところでそっと起き上がる。
ずっと触れてた竜樹さんの熱が徐々に冷房で冷やされていくのが、何だか切なかったけれど帰り支度を始める。
部屋着から着てきた服に着替えるためにまた部屋の隅でごそごそしてると、竜樹さんが寄ってきてじっとこちらを見てる。
「何見てんですか?(-.-;」
「いや、今週の見納め♪(*^-^*)」
どうしていいのか判らずにちょっとオタついてると、「もういいで。着替え」と竜樹さんがほにゃと笑いかける。
そうして慌てて着替え、竜樹邸を後にした。
竜樹邸の外は深夜だというのに、湿気を帯びて肌に纏わりついてくるような感覚すら与える。
「相変わらず、蒸し暑いなぁ」
「早く涼しくなってくれるといいのにね」
話したところで気温が変わるわけでもないのに、そんな会話をしながら駐車場に行く。
…今日二度目の運転、大丈夫かなぁ?
竜樹さんだって体調がそれほどいい訳でもないのに、一生懸命動いてくれるので何だか申し訳ない気がする。
車の中で、竜樹邸の流しの洗い物をして帰ってくるのを忘れたことに気づいた。
今日は本当に申し訳ないくらい何もしていない。
「たまにはそういう日もなかったら、霄かってまいってまうで」
そんな風にほにゃと笑って返してくれた竜樹さんに、「来週は頑張って家事やるからね」と返すと、「うんうん(*^-^*)」とまた笑う。
…どしてなんだろう?
手術を目前に控えて、余裕などあるはずのない人が笑顔を贈ってくれる。
いろんなことに思い煩いがちの私に対する精一杯の気持ちなのかもしれない。
竜樹さんの放つ空気が柔らかいのは嬉しいけれど、それ以上に私からも何かを届けたいなぁと思う。
目一杯張り詰めるだろう彼の中の空気を柔らかいものにしたいなぁと思う。
竜樹さんと別れ、次の朝目覚めてからもどこかお腹の調子は悪くて、結局、1日寝たり起きたりを繰り返していたけれど。
竜樹さんに会うときに元気でいられるように、休むことだって必要なんだろう。
竜樹さんがくれる笑顔にきちんと応えられるだけの元気を以って竜樹さんの隣に立ちたいから。
…竜樹さんが私の元気の素であるように、私も竜樹さんの元気の素でありたい。
竜樹さんが心にくれた温みを思い返しながら、休み休み日曜日を過ごした。
頼んだ食材が底をつき、追加の肉とホタテのバター焼きを頼む。
竜樹さんがご飯物が食べたいと仰るけれど、ビビンバを食べるにはちょっと苦しいなぁということ。
2人で半分こにして丁度よさそうなおじやがあったので、迷うことなく注文した。
…一抹の不安はあったのだけれど。
そのおじや、お店の名前がついてるのだけど、どんな具が入っててどんな味をしてるのか、メニューを眺めても全く判らない。
店員さんを呼び止めて聞いても良かったけれど、かなり人が多くて忙しそうだったので、何となく聞きそびれてしまった。
…その「何となく」が命取りだった。
運ばれてきたおじやを見てびっくり。
おじやのスープが真っ赤なのだ。
多分豆板醤やら唐辛子系の調味料がふんだんにばら撒かれてたと思われるいでたち。
普段の私なら涼しい顔をして食べられたと思うけれど、生憎腹11分目くらい食べてからの登場。
そんな状態に唐辛子系調味料満載のおじやはキツかった。
唐辛子が苦手な竜樹さんにお任せするにはあんまりなおじやだし、せっかく頼んだのだからと、一人で黙々と食べ始める。
卵もご飯もやわらかで、確かに美味しいのだけれど。
食べ進めるに連れて、唐辛子にじりじりと胃を締め上げられるような感覚を覚える。
「…なぁ、霄ぁ。無理に食べんでええねんで?」
時折そう言って竜樹さんが声をかけてくれるのを、「大丈夫、大丈夫」とやりすごしてたけれど、唐辛子の攻撃にちょっと参り気味。
「ちょっと貰うなぁ(*^-^*)」
よこからおじやを掬った蓮華を奪っていった竜樹さん。
次の瞬間にはけふんけふんとむせ返っておられた。
「なぁ、ケフ、もうやめとき?ケフン(>。<)゜゜゜ 」
むせ返る竜樹さんを見てようやっと諦めをつけて、席を立つ。
少しばかりの賞与も出たことだし、今日はご馳走しようと思ってると、竜樹さんはとっとと精算を済ませておられた。
「少しやけどボーナスも出たんだし、私、おごったのに」
「ええねん♪焼肉を食べたかったんは俺やし、いつも夕飯を作ってもらってるから」
そう言ってにこにこしてる竜樹さんが何だかかわいくて、お隣にあるアイスクリーム屋でアイスクリームをプレゼント。
テイクアウト仕様にしてもらって、仲良く竜樹邸に戻った。
竜樹邸に帰り着くと、二人揃ってごろり。
「焼肉食べてすぐに横になったら、牛になるの確実な気が…」
「そやけど、頑張ってんもん」
意味不明なる会話を交わし暫く横になってから、買ってきたアイスを食べ、またごろり。
大好きな焼肉を食べに出れたこと、そのあと竜樹さんとくっついて横になってる時間。
その全てが心を満たしていくけれど。
…私のお腹は唐辛子攻撃に負けたらしい。
唐辛子攻撃の最中もそして今も冷房漬けの状態の上に、アイスまで食べてしまったためにお腹の調子がすこぶる悪い。
時折、お腹をさすってくれる竜樹さんの手の温度が心地よかったけれど、立ち上がる気力が削がれていく。
そのまま調子が良くなるのを待っていたら、またしても午前様コースになるのは目に見えていたけれど、「無理せんと、ゆっくり休んどき?」という竜樹さんのお言葉に甘えてしまった。
しんどい身体に竜樹さんの熱だけが、心地よくてそのまま竜樹邸に留まっていたいなぁと思ったけれど。
竜樹さんのところに来ていると知れている状態で「泊まって帰ります」は通用しないことは十二分に判っている。
「泊まって帰れるんやったら、ええねけどな」という竜樹さんの表情もどこか諦めの色が挿している。
…このままずっと一緒にいられたらなぁ。
身体が弱った時、竜樹さんが私が傍にいたらいいなぁって思うというのが何となく判ったような気がした。
そうして横になってじっと回復するのを待ち、「大丈夫」ってところでそっと起き上がる。
ずっと触れてた竜樹さんの熱が徐々に冷房で冷やされていくのが、何だか切なかったけれど帰り支度を始める。
部屋着から着てきた服に着替えるためにまた部屋の隅でごそごそしてると、竜樹さんが寄ってきてじっとこちらを見てる。
「何見てんですか?(-.-;」
「いや、今週の見納め♪(*^-^*)」
どうしていいのか判らずにちょっとオタついてると、「もういいで。着替え」と竜樹さんがほにゃと笑いかける。
そうして慌てて着替え、竜樹邸を後にした。
竜樹邸の外は深夜だというのに、湿気を帯びて肌に纏わりついてくるような感覚すら与える。
「相変わらず、蒸し暑いなぁ」
「早く涼しくなってくれるといいのにね」
話したところで気温が変わるわけでもないのに、そんな会話をしながら駐車場に行く。
…今日二度目の運転、大丈夫かなぁ?
竜樹さんだって体調がそれほどいい訳でもないのに、一生懸命動いてくれるので何だか申し訳ない気がする。
車の中で、竜樹邸の流しの洗い物をして帰ってくるのを忘れたことに気づいた。
今日は本当に申し訳ないくらい何もしていない。
「たまにはそういう日もなかったら、霄かってまいってまうで」
そんな風にほにゃと笑って返してくれた竜樹さんに、「来週は頑張って家事やるからね」と返すと、「うんうん(*^-^*)」とまた笑う。
…どしてなんだろう?
手術を目前に控えて、余裕などあるはずのない人が笑顔を贈ってくれる。
いろんなことに思い煩いがちの私に対する精一杯の気持ちなのかもしれない。
竜樹さんの放つ空気が柔らかいのは嬉しいけれど、それ以上に私からも何かを届けたいなぁと思う。
目一杯張り詰めるだろう彼の中の空気を柔らかいものにしたいなぁと思う。
竜樹さんと別れ、次の朝目覚めてからもどこかお腹の調子は悪くて、結局、1日寝たり起きたりを繰り返していたけれど。
竜樹さんに会うときに元気でいられるように、休むことだって必要なんだろう。
竜樹さんがくれる笑顔にきちんと応えられるだけの元気を以って竜樹さんの隣に立ちたいから。
…竜樹さんが私の元気の素であるように、私も竜樹さんの元気の素でありたい。
竜樹さんが心にくれた温みを思い返しながら、休み休み日曜日を過ごした。
ほんのりと暖かな時間
2002年8月3日今日はあちらこちらで花火大会がある。
特に大きいのは神戸と淀川の花火で、予てより竜樹さんはどちらかの花火大会に行きたいと話していた。
早く起きてなるべく早く竜樹邸に向かおうと目覚ましまでかけて起きたけれど、体を起こそうとした途端、激しい頭痛で目が眩む。
暫く暑苦しい布団の中でくるりと丸くなりながら、うんうんうめいていた。
ようやっと起きて用意が出来た頃には昼前だった。
ひとまず竜樹さんに電話を入れたけれど、出ては貰えず。
暫く用意をしながら涼んでいると、竜樹さんから電話が入る。
「今日の調子はどうですか?」
「朝、ずっと頭が痛かってんけど、少し寝直したらマシになったわ」
「あ、私も頭が痛かったんですよ」
「そっか、俺だけやなかってんなぁ」
他愛もない話をして、ひとまず花火大会に行っても行けなくてもどちらでもよいような準備をして出かける。
外は相変わらず蒸し暑い。
むせ返りそうな熱気を肌で感じながら、何となく花火大会には行けないだろうなぁという気がする。
花火が始まる直前に現地に入ってただぼけっと見てられるならともかく、花火が上がる3時間も前から場所取りをして、それから花火を見てまた竜樹邸に戻ってくるなんてことが出来るような気にはとてもじゃないけれどなれない。
…夕方にはせめて蒸し暑いのだけでもマシになりますように(-人-)
そんな風に祈りながら、電車を乗り継ぎ、改札を出る。
バス停前のスーパーで買出しをして、重い荷物を提げながらバスに乗る。
土曜日の昼間はどういう訳かバスの中には人がいっぱい。
窓の外を浴衣を着た女の子たちが楽しそうに通り過ぎていく。
…確実に行けると判っているなら、着てきたんだけどなぁ
2年前に2人で買いに行った浴衣は竜樹さんのお気に入り。
それを着て花火大会に出かけられたなら、きっと心持ち機嫌はよかっただろうけれど。
花火に行けないなら浴衣はいろんな作業をしにくくするだけ。
…どっちに転んでも、今日はこれでいいんだろうね?
竜樹邸の最寄のバス停に着き、のたのたと竜樹邸に向かう。
「暑いところをよぉ来てくれたなぁ」
口調は相変わらずだけど、顔色は心なしかいつもよりも少しばかりよいような気がする。
少しでも元気そうだと、とても嬉しくなる。
「霄のお母さんがくれた紅茶、飲んでみるか?」
そう言ってポットを暖め、紅茶を入れてくれる。
ちょっと葉を多く入れてたせいか濃かったけれど、ミルクを入れるととても美味しいミルクティが出来た。
それを飲みながら花火の話をする。
「何かねぇ、いい場所を取るには17時頃には現地で場所取りしないとダメだってさ」
「それやったら、今から出ないと間に合わへんやんか」
すぐに竜樹邸を出て場所取りに挑むには辛いらしい。
結局、出るとも出ないともつかない状態で2人で話を続ける。
そのうち部屋着に着替えようと部屋の隅っこの方でちょろちょろしてると、竜樹さんに捕獲される。
そのままずるりずるりと抱っこされる形に…(/-\*)
普段口下手なのが、ぱちんとスイッチが入れ替わるように。
触れる指先も交わすキスもどこか饒舌な気がする。
想いの底を浚うように、ゆっくりと熱を帯びながら互いの持つものを受け渡しあう。
そこで交わした言葉自体がどれほどの真実を握り締めてるかを確かめる間もなく、堰を切ったような想いの渦に飲み込まれてくような気がする。
受け渡した熱情の果てに、ちいさな睡魔がひとつ。
それに捕らわれ続ける私をそっと抱きしめてくれてた竜樹さん。
花火に行くどころの話ではなく、ただ抱きしめあって横になっていた。
時計を見ると、花火が始まる1時間ほど前。
「花火に行けないなら、せめて夕飯くらい作らないと」と起き上がる私に、「今日は外食しよう?」と竜樹さん。
「だいじょぶ?移動中にしんどくなったりしない?」
「いや、車を運転して出かけるくらいならできそうな気がするし、俺、久しぶりに焼肉食いたいねん♪」
外食するなら、竜樹さんのご両親にも一応声をかけておこうということでお誘いしたのだけれど、食べるものが焼肉ということであっさりお断りを言われてしまった。
出かける前に紙包みをひとつ。
開けてみると、竜樹さんが何年か越しで探していたという小さな鞄が入っていた。
「俺からのボーナス。霄やったら似合うやろうなぁと思って(*^-^*)」
前々から「霄ちゃんにボーナス、何を贈ろうかなぁ?」と話してた竜樹さんに、「何もいりませんから、竜樹さんをください」とだけ返してきたけれど。
最後まで何かを贈ろうと考えていた竜樹さんに脱帽。
で、喜んで鞄に最低限の荷物を詰め替え、出かける用意をする。
本当に、本当に久しぶりの外食。
竜樹さんの家から比較的近いところに、焼肉屋さんが出来ていたことを思い出し、薄らぼんやりした記憶を頼りに車で出かける。
少しばかり入る道を間違えたりはしたけれど、無事に焼肉屋さんに到着。
カウンター席だとすぐに用意できるとのことで、そのままカウンターに並んで二人で食べ始めることにした。
カウンターで並んで食べるということも随分ご無沙汰していたので、ちょっとヘンな感じ。
竜樹さんは身体を支えがてら、私の方に寄り添う形でお座りになっている。
傍目にはあまあまモードを醸し出しているようだけど、いざ食べ始めるとその近すぎる距離が却って食べにくいなと感じてしまう。
「…せっかく外食してるんやし、俺、霄と話したいのに。
何か肉焼いてると、それに夢中で会話になれへんなぁ…"(ノ_・、)"」
竜樹さんがちょっと情けなげにそう言った時初めて、ただただ黙々と食べていたことに気づく。
一生懸命あまあまな雰囲気を醸し出そうと竜樹さんが頑張っていたのかもしれないのに、私は七輪の上の食材の様子ばかり見ていた。
「俺、ちゃんとよく焼けてる肉を霄に渡してるのに、霄は黙々と食べてばっかり…"(ノ_・、)"」
「いや、お肉が目の前にあると食べないとダメだぁって思って、食べるのに一生懸命になるから…」
「そう言えば、先週の日曜日の話、俺、聞いてへんかったよなぁ?
女の子同士の集まりやって言うてたけど、ホンマは合コンかなにかやったんちゃん?(-"-;)」
…竜樹さんがここまで拗ねるとは思わなかった。
日曜日の昼下がりに話してたちょっぴり不穏な話を、七輪の上の食材を気にしつつ話す。
すると、相槌打つ竜樹さんはいつもよりも心なしか穏やか。
「形にならない関係もそれなりに厄介だけど、結婚したらしたでいろいろあるんですね?」
ハラミを食べながらそう呟いた私に、
「何言ってるん?俺ら籍入れてへんだけで、夫婦みたいなもんやろ?」
…………(゜д゜)!?…………
大真面目にそう言う竜樹さんに、箸で掴んだ玉ねぎをぽとりと落としてしまった。
「え?そうだったんですか?」
「おんなじようなもんやろ?8年も一緒にいたら」
そうだったのかぁと素で感心しながら食べつづける私をよそ、焼肉の宴は続く。
ただ外へ食べに出たというだけの話なのに、それが花火を観に行く以上の特別なもののように思える。
ささやかな外食が連れてくるのは、ほんのり暖かな時間。
それを享受しながら、やってくる食材を食べつづけた。
特に大きいのは神戸と淀川の花火で、予てより竜樹さんはどちらかの花火大会に行きたいと話していた。
早く起きてなるべく早く竜樹邸に向かおうと目覚ましまでかけて起きたけれど、体を起こそうとした途端、激しい頭痛で目が眩む。
暫く暑苦しい布団の中でくるりと丸くなりながら、うんうんうめいていた。
ようやっと起きて用意が出来た頃には昼前だった。
ひとまず竜樹さんに電話を入れたけれど、出ては貰えず。
暫く用意をしながら涼んでいると、竜樹さんから電話が入る。
「今日の調子はどうですか?」
「朝、ずっと頭が痛かってんけど、少し寝直したらマシになったわ」
「あ、私も頭が痛かったんですよ」
「そっか、俺だけやなかってんなぁ」
他愛もない話をして、ひとまず花火大会に行っても行けなくてもどちらでもよいような準備をして出かける。
外は相変わらず蒸し暑い。
むせ返りそうな熱気を肌で感じながら、何となく花火大会には行けないだろうなぁという気がする。
花火が始まる直前に現地に入ってただぼけっと見てられるならともかく、花火が上がる3時間も前から場所取りをして、それから花火を見てまた竜樹邸に戻ってくるなんてことが出来るような気にはとてもじゃないけれどなれない。
…夕方にはせめて蒸し暑いのだけでもマシになりますように(-人-)
そんな風に祈りながら、電車を乗り継ぎ、改札を出る。
バス停前のスーパーで買出しをして、重い荷物を提げながらバスに乗る。
土曜日の昼間はどういう訳かバスの中には人がいっぱい。
窓の外を浴衣を着た女の子たちが楽しそうに通り過ぎていく。
…確実に行けると判っているなら、着てきたんだけどなぁ
2年前に2人で買いに行った浴衣は竜樹さんのお気に入り。
それを着て花火大会に出かけられたなら、きっと心持ち機嫌はよかっただろうけれど。
花火に行けないなら浴衣はいろんな作業をしにくくするだけ。
…どっちに転んでも、今日はこれでいいんだろうね?
竜樹邸の最寄のバス停に着き、のたのたと竜樹邸に向かう。
「暑いところをよぉ来てくれたなぁ」
口調は相変わらずだけど、顔色は心なしかいつもよりも少しばかりよいような気がする。
少しでも元気そうだと、とても嬉しくなる。
「霄のお母さんがくれた紅茶、飲んでみるか?」
そう言ってポットを暖め、紅茶を入れてくれる。
ちょっと葉を多く入れてたせいか濃かったけれど、ミルクを入れるととても美味しいミルクティが出来た。
それを飲みながら花火の話をする。
「何かねぇ、いい場所を取るには17時頃には現地で場所取りしないとダメだってさ」
「それやったら、今から出ないと間に合わへんやんか」
すぐに竜樹邸を出て場所取りに挑むには辛いらしい。
結局、出るとも出ないともつかない状態で2人で話を続ける。
そのうち部屋着に着替えようと部屋の隅っこの方でちょろちょろしてると、竜樹さんに捕獲される。
そのままずるりずるりと抱っこされる形に…(/-\*)
普段口下手なのが、ぱちんとスイッチが入れ替わるように。
触れる指先も交わすキスもどこか饒舌な気がする。
想いの底を浚うように、ゆっくりと熱を帯びながら互いの持つものを受け渡しあう。
そこで交わした言葉自体がどれほどの真実を握り締めてるかを確かめる間もなく、堰を切ったような想いの渦に飲み込まれてくような気がする。
受け渡した熱情の果てに、ちいさな睡魔がひとつ。
それに捕らわれ続ける私をそっと抱きしめてくれてた竜樹さん。
花火に行くどころの話ではなく、ただ抱きしめあって横になっていた。
時計を見ると、花火が始まる1時間ほど前。
「花火に行けないなら、せめて夕飯くらい作らないと」と起き上がる私に、「今日は外食しよう?」と竜樹さん。
「だいじょぶ?移動中にしんどくなったりしない?」
「いや、車を運転して出かけるくらいならできそうな気がするし、俺、久しぶりに焼肉食いたいねん♪」
外食するなら、竜樹さんのご両親にも一応声をかけておこうということでお誘いしたのだけれど、食べるものが焼肉ということであっさりお断りを言われてしまった。
出かける前に紙包みをひとつ。
開けてみると、竜樹さんが何年か越しで探していたという小さな鞄が入っていた。
「俺からのボーナス。霄やったら似合うやろうなぁと思って(*^-^*)」
前々から「霄ちゃんにボーナス、何を贈ろうかなぁ?」と話してた竜樹さんに、「何もいりませんから、竜樹さんをください」とだけ返してきたけれど。
最後まで何かを贈ろうと考えていた竜樹さんに脱帽。
で、喜んで鞄に最低限の荷物を詰め替え、出かける用意をする。
本当に、本当に久しぶりの外食。
竜樹さんの家から比較的近いところに、焼肉屋さんが出来ていたことを思い出し、薄らぼんやりした記憶を頼りに車で出かける。
少しばかり入る道を間違えたりはしたけれど、無事に焼肉屋さんに到着。
カウンター席だとすぐに用意できるとのことで、そのままカウンターに並んで二人で食べ始めることにした。
カウンターで並んで食べるということも随分ご無沙汰していたので、ちょっとヘンな感じ。
竜樹さんは身体を支えがてら、私の方に寄り添う形でお座りになっている。
傍目にはあまあまモードを醸し出しているようだけど、いざ食べ始めるとその近すぎる距離が却って食べにくいなと感じてしまう。
「…せっかく外食してるんやし、俺、霄と話したいのに。
何か肉焼いてると、それに夢中で会話になれへんなぁ…"(ノ_・、)"」
竜樹さんがちょっと情けなげにそう言った時初めて、ただただ黙々と食べていたことに気づく。
一生懸命あまあまな雰囲気を醸し出そうと竜樹さんが頑張っていたのかもしれないのに、私は七輪の上の食材の様子ばかり見ていた。
「俺、ちゃんとよく焼けてる肉を霄に渡してるのに、霄は黙々と食べてばっかり…"(ノ_・、)"」
「いや、お肉が目の前にあると食べないとダメだぁって思って、食べるのに一生懸命になるから…」
「そう言えば、先週の日曜日の話、俺、聞いてへんかったよなぁ?
女の子同士の集まりやって言うてたけど、ホンマは合コンかなにかやったんちゃん?(-"-;)」
…竜樹さんがここまで拗ねるとは思わなかった。
日曜日の昼下がりに話してたちょっぴり不穏な話を、七輪の上の食材を気にしつつ話す。
すると、相槌打つ竜樹さんはいつもよりも心なしか穏やか。
「形にならない関係もそれなりに厄介だけど、結婚したらしたでいろいろあるんですね?」
ハラミを食べながらそう呟いた私に、
「何言ってるん?俺ら籍入れてへんだけで、夫婦みたいなもんやろ?」
…………(゜д゜)!?…………
大真面目にそう言う竜樹さんに、箸で掴んだ玉ねぎをぽとりと落としてしまった。
「え?そうだったんですか?」
「おんなじようなもんやろ?8年も一緒にいたら」
そうだったのかぁと素で感心しながら食べつづける私をよそ、焼肉の宴は続く。
ただ外へ食べに出たというだけの話なのに、それが花火を観に行く以上の特別なもののように思える。
ささやかな外食が連れてくるのは、ほんのり暖かな時間。
それを享受しながら、やってくる食材を食べつづけた。
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途中下車だらけの1日
2002年8月2日急転直下、再手術の具体的な日程が決まったという報告の電話に、一瞬少しばかりの緊張感は走ったけれど、竜樹さん本人からは随分静かな印象を受けた。
「再手術することで、また前に抑えた方の症状が再発する可能性はあるの?」
「それはわからんってさ。確約できへんってことやろ?
けれど、また症状が悪化したらその時考えたらええと思うねん。
今日みたいに少し気温が下がればある程度動けるとは言え、異常に蒸し暑い日が続いたら身体を起こしてられないっていう状態をこれ以上長引かせたくないねん」
前回の手術の規模と同じ規模の手術をもう一度するのだから、かなり大掛かりな手術に臨むことになる。
身体の何処にも不自由のない状態でもう一度戻ってこれるとは限らない。
やらなくて済むのなら、やらないままでいられた方がよかっただろうと今でも思ってる。
けれど、年々彼の身体の具合が悪くなってるのは目に見えて判ってること。
不安やその怖さや悪い意味での可能性を慮って足踏みしてる状態でもないということ。
きっと私以上に、竜樹さんはいろんなことを考えてるんだろうと思う。
けれど、それをおしてでも突き進むというのなら、それをフォローしてくしかないんだと。
前回のように「これが済めばすべてがよくなるんだ」なんて信じることはもう出来そうにないけれど。
それでも、よくなるという可能性があるのなら、そっちに飛び込むしかないのだと。
小さく渦巻いてる自分の気持ちに言い聞かせるように、心の中で呟きつづける。
「本当はなぁ、昨日まで寝込んでて霄にずっと逢いたかってん。
今日も気温が下がって身体もそうしんどくなかったから、逢いたいなぁと思っててん」
「声かけてくれたら、いつでも出向きますよ?」という私に「会社帰りに寄ってもらうのは悪いなぁって思うからさ」と竜樹さん。
「元気になって外で逢える方がええやんか?」
そんな言葉に、竜樹さんの元気になりたいって思いが見え隠れする。
土曜日の淀川の花火か神戸の花火には行きたいんだという竜樹さん。
それが叶いますようにとそっと願いながら、電話を切った。
電話を切って完全に一人になって、頭を掠めるのは小さな不安のかけら。
やる前から考えてみたところで仕方ないとは思っても、前回のことがあるからどうしても思い切って飛び込む気になれない。
竜樹さんの状態が今よりよくなっても悪くなっても、私の置かれる環境はいろんな意味で今とは違うものとなるから。
今の状態に決して満足なんてしてはいないけれど、変わってしまうことに漠然とした不安は付き纏う。
半日近くかかる手術を乗り切るだけの体力は彼の中にまだ残っているのだろうか?
そこへ辿り着くまでの間、彼の中の不安を少しでも小さくするだけの余力が私や竜樹さんのご両親の中に残っているのだろうか?
もう一度絶望がやってきたときに、また生きる気力を繋いでいけるのだろうか?
気がつくと、不安交じりの疑問符ばかりが転がっている。
「こんなんじゃ、あかへんやんか?」
一人で不安に思うならまだしも。
それが度を過ぎれば、当然のように竜樹さんにだって影響を齎す。
大掛かりな手術にリスクが付き纏わないはずはない。
それを越えてでも手に入れたいものがあるんだろ?
2人でそれを手に入れたいって思うんだろ?
「そしたら、答は簡単だよな?」
竜樹さんの傍で何が出来るのかを考えながら、2人で不安を払拭しながらただそこへ向かって歩いていくしかないんだから、今まで以上に自分自身のコンディションをいい方向に保つべく歩いていかなあかんなぁと思いながら、眠りについた。
竜樹さんの置かれる状況が変わるからといって、職場での自分の状況が変わるわけではないし、ストレスフルな状況であるには変わりないけれど。
過剰なストレスを抱えないようにあまり余計なことに意識は割かないようにしようと思いながら、社屋に入る。
降ってくる仕事をキリキリと片付け、時折ちゃちゃを入れてこられるボスのお話相手になりながら、業務時間を過ごす。
お昼になってふと竜樹さんのことが気になってメールを飛ばす。
体調が悪かったら、放課後竜樹邸に出向けばいい。
この会社にいてる中で唯一の恩恵は時間が自由になるということだと思うから。
手が要るならいつでも出向くよ?ということだけ、伝えられたらそれでよかった。
昼から少しばかり仕事が降ってくるペースが落ちてきたせいもあって、余力は残したまま会社を出ることが出来た。
会社を出て自転車をかっとばして駅に向かい、電車に乗る。
竜樹邸に向かうなら反対方向の電車に乗らないとならないけれど、連絡がないからそのまま家に帰る方向の電車に乗る。
暫くすると、携帯にメールが飛び込む。
「連絡、頂戴!」
慌てて乗り換えの駅の手前で降りて、竜樹さんに電話をすると…
「明日来て貰うねんし、今日は早く帰ってゆっくり休み?
先週も出ずっぱりでしんどいやろ?」
…わざわざそれだけのために連絡をくれたんだ。
そんなちょっとした気遣いに気を良くして、本屋で明日の夕飯に役立ちそうな本を物色しようと思い立ち、途中下車。
明日花火大会に行くなら豪勢な夕飯は出来ないけれど、たとえ行けないなら行けないで夕飯くらいは楽しいものにしたいから。
「これだったら喜んでもらえるかな?」と思うようなレシピの載った本を見つけ、レジに向かおうと思った時、身体が震えるような怒りの元がひとつ、鞄を揺らした。
本を持つ手が震えてならないので、本を買うのを辞めてそのまま駅に向かった。
ひっさしぶりに震えが来るほどの怒りがやってきた。
震えが止まらなくてゴージャスなお姉さまにメールを飛ばしたら、すぐに電話をくれた。
電話をくれた時、電車の中だったのでまたしても途中下車。
携帯の充電池が切れるまで、小一時間くらいお話し
した。
怒ってたことの原因について話したのはほんの5分ほどで、殆どはワールドサッカーの話で終わってしまったけれど。
私の気持ちが振れた時、ただ心の傍にいて一生懸命話し続けてくれたことがとても嬉しかった。
気持ちが柔らかくなったので、また途中下車して先ほど買い損ねた本を買って、家に帰った。
家に帰って夕飯を食べて一息ついて。
またゴージャスなお姉さまとワールドサッカー話メールを交わす。
そうして、リラックスして眠れそうなところまで気持ちを柔らかくしてくれた。
目的に向かってがーーっと走れない迷い混じりの心に、途中下車してひと休みさせてくれる出来事。
そこにいるのは、暖かな思いを持つ人。
甘えてばかりはいられないけれど、時に寄っかからせてもらいながら、寄っかかってもらいながら。
いつか、自分の足で目指す場所に辿り着けるように。
大切な人と共に辿り着けますようにと、途中下車だらけの一日の終わりにそう願った。
「再手術することで、また前に抑えた方の症状が再発する可能性はあるの?」
「それはわからんってさ。確約できへんってことやろ?
けれど、また症状が悪化したらその時考えたらええと思うねん。
今日みたいに少し気温が下がればある程度動けるとは言え、異常に蒸し暑い日が続いたら身体を起こしてられないっていう状態をこれ以上長引かせたくないねん」
前回の手術の規模と同じ規模の手術をもう一度するのだから、かなり大掛かりな手術に臨むことになる。
身体の何処にも不自由のない状態でもう一度戻ってこれるとは限らない。
やらなくて済むのなら、やらないままでいられた方がよかっただろうと今でも思ってる。
けれど、年々彼の身体の具合が悪くなってるのは目に見えて判ってること。
不安やその怖さや悪い意味での可能性を慮って足踏みしてる状態でもないということ。
きっと私以上に、竜樹さんはいろんなことを考えてるんだろうと思う。
けれど、それをおしてでも突き進むというのなら、それをフォローしてくしかないんだと。
前回のように「これが済めばすべてがよくなるんだ」なんて信じることはもう出来そうにないけれど。
それでも、よくなるという可能性があるのなら、そっちに飛び込むしかないのだと。
小さく渦巻いてる自分の気持ちに言い聞かせるように、心の中で呟きつづける。
「本当はなぁ、昨日まで寝込んでて霄にずっと逢いたかってん。
今日も気温が下がって身体もそうしんどくなかったから、逢いたいなぁと思っててん」
「声かけてくれたら、いつでも出向きますよ?」という私に「会社帰りに寄ってもらうのは悪いなぁって思うからさ」と竜樹さん。
「元気になって外で逢える方がええやんか?」
そんな言葉に、竜樹さんの元気になりたいって思いが見え隠れする。
土曜日の淀川の花火か神戸の花火には行きたいんだという竜樹さん。
それが叶いますようにとそっと願いながら、電話を切った。
電話を切って完全に一人になって、頭を掠めるのは小さな不安のかけら。
やる前から考えてみたところで仕方ないとは思っても、前回のことがあるからどうしても思い切って飛び込む気になれない。
竜樹さんの状態が今よりよくなっても悪くなっても、私の置かれる環境はいろんな意味で今とは違うものとなるから。
今の状態に決して満足なんてしてはいないけれど、変わってしまうことに漠然とした不安は付き纏う。
半日近くかかる手術を乗り切るだけの体力は彼の中にまだ残っているのだろうか?
そこへ辿り着くまでの間、彼の中の不安を少しでも小さくするだけの余力が私や竜樹さんのご両親の中に残っているのだろうか?
もう一度絶望がやってきたときに、また生きる気力を繋いでいけるのだろうか?
気がつくと、不安交じりの疑問符ばかりが転がっている。
「こんなんじゃ、あかへんやんか?」
一人で不安に思うならまだしも。
それが度を過ぎれば、当然のように竜樹さんにだって影響を齎す。
大掛かりな手術にリスクが付き纏わないはずはない。
それを越えてでも手に入れたいものがあるんだろ?
2人でそれを手に入れたいって思うんだろ?
「そしたら、答は簡単だよな?」
竜樹さんの傍で何が出来るのかを考えながら、2人で不安を払拭しながらただそこへ向かって歩いていくしかないんだから、今まで以上に自分自身のコンディションをいい方向に保つべく歩いていかなあかんなぁと思いながら、眠りについた。
竜樹さんの置かれる状況が変わるからといって、職場での自分の状況が変わるわけではないし、ストレスフルな状況であるには変わりないけれど。
過剰なストレスを抱えないようにあまり余計なことに意識は割かないようにしようと思いながら、社屋に入る。
降ってくる仕事をキリキリと片付け、時折ちゃちゃを入れてこられるボスのお話相手になりながら、業務時間を過ごす。
お昼になってふと竜樹さんのことが気になってメールを飛ばす。
体調が悪かったら、放課後竜樹邸に出向けばいい。
この会社にいてる中で唯一の恩恵は時間が自由になるということだと思うから。
手が要るならいつでも出向くよ?ということだけ、伝えられたらそれでよかった。
昼から少しばかり仕事が降ってくるペースが落ちてきたせいもあって、余力は残したまま会社を出ることが出来た。
会社を出て自転車をかっとばして駅に向かい、電車に乗る。
竜樹邸に向かうなら反対方向の電車に乗らないとならないけれど、連絡がないからそのまま家に帰る方向の電車に乗る。
暫くすると、携帯にメールが飛び込む。
「連絡、頂戴!」
慌てて乗り換えの駅の手前で降りて、竜樹さんに電話をすると…
「明日来て貰うねんし、今日は早く帰ってゆっくり休み?
先週も出ずっぱりでしんどいやろ?」
…わざわざそれだけのために連絡をくれたんだ。
そんなちょっとした気遣いに気を良くして、本屋で明日の夕飯に役立ちそうな本を物色しようと思い立ち、途中下車。
明日花火大会に行くなら豪勢な夕飯は出来ないけれど、たとえ行けないなら行けないで夕飯くらいは楽しいものにしたいから。
「これだったら喜んでもらえるかな?」と思うようなレシピの載った本を見つけ、レジに向かおうと思った時、身体が震えるような怒りの元がひとつ、鞄を揺らした。
本を持つ手が震えてならないので、本を買うのを辞めてそのまま駅に向かった。
ひっさしぶりに震えが来るほどの怒りがやってきた。
震えが止まらなくてゴージャスなお姉さまにメールを飛ばしたら、すぐに電話をくれた。
電話をくれた時、電車の中だったのでまたしても途中下車。
携帯の充電池が切れるまで、小一時間くらいお話し
した。
怒ってたことの原因について話したのはほんの5分ほどで、殆どはワールドサッカーの話で終わってしまったけれど。
私の気持ちが振れた時、ただ心の傍にいて一生懸命話し続けてくれたことがとても嬉しかった。
気持ちが柔らかくなったので、また途中下車して先ほど買い損ねた本を買って、家に帰った。
家に帰って夕飯を食べて一息ついて。
またゴージャスなお姉さまとワールドサッカー話メールを交わす。
そうして、リラックスして眠れそうなところまで気持ちを柔らかくしてくれた。
目的に向かってがーーっと走れない迷い混じりの心に、途中下車してひと休みさせてくれる出来事。
そこにいるのは、暖かな思いを持つ人。
甘えてばかりはいられないけれど、時に寄っかからせてもらいながら、寄っかかってもらいながら。
いつか、自分の足で目指す場所に辿り着けるように。
大切な人と共に辿り着けますようにと、途中下車だらけの一日の終わりにそう願った。
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急転直下
2002年8月1日昨晩友達にゲリラ的に電話をした後、何をするでもなく暫く起きていた。
あちらこちらの友達に送る物の荷造りもしなければならなかったけれど、何となく何をするでもなくだらりだらりと寝付けずにいた。
何か思うことがあったからではなく、単に部屋の温度が上がりすぎてて眠れなかっただけに過ぎないのだけど…
意識が落ちたと思ったら、あっという間に朝がきてしまった。
朝、ふとしたことから、今日がPLの花火大会の日だったことを思い出した。
…あれからもう2年経ったんやぁ
2年前の今日、竜樹さんと2人でバスツアーに参加して観に行った。
「手術の後のリハビリがしたいねん」という竜樹さんは、予てよりバスツアーを見つけ出して申し込んでいてくれた。
どうせなら浴衣を着ていこうと花火大会の前の週の週末に2人で浴衣を買いに行ったり、いろんな打ち合わせをして楽しい時間を過ごした。
当日はやたら蒸し暑い中、ナイアガラが正面に見える道路に陣取り、時折買い込んだ食糧を食べながらじっと花火が始まるのを待ちつづけた。
時折、激しい雨が降ったと思ったらいきなり近くに雷が落ちて目の前の世界が一瞬真っ白になったり。
…ナイアガラのクレーンに雷が落ちて、白昼ナイアガラが打ちあがってしまった(-_-;)
観に来てる人々と俄かに騒いでみたり、話してみたり、夜店で買い物をしたり、竜樹さんといろんな話をしたり。
花火が始まる前も始まってからもずっと楽しかった。
竜樹さんの体調はそれほどよくはなかったみたいだけど、時折身体を動かしに行きさえしたらなんとか持ち堪えられた。
花火が終わった後1kmほど離れた駐車場まで戻り、またバスに乗って地元に戻る。
花火会場の町を抜けるまでにものすごい時間がかかってしまい、結局自宅に帰り着いたのは深夜の2時を回っていたのだけど。
会社を休んで、思いっきり楽しんで。
こんな風に楽しい時間を場所は違えど、重ねていけるんだと思ってた。
…けれど。
今の竜樹さんの身体の状態でその当時と同じことをしたら、それこそ大事。
現地で動けなくなってしまう可能性だってある。
今週末は大阪と神戸で花火がある。
今年は大きな花火が同じ日に行われるから、多少例年よりは観やすいだろうと話していて、「体調がよかったら行こうね」って話をしていたけど…
よほど体調が良くなかったら、行くことは無理やろうなぁと思う。
別にどうしても花火大会に行きたい訳じゃない。
大小問わなければ、8月の終わり頃までぽつぽつと花火大会はある。
竜樹さんと一緒にいられる時間が取れるなら、イベントはおまけのようなものなのも確か。
けれど、一度も行けなかった時、また竜樹さんは抱え込むんだろうってことが判り切ってるから。
「行きたかったのに、どっこも行かれへんかった」という落胆と、「霄をどこにも連れて行ってやれへんかった」という自責と。
落胆を取り去ることができなくても、せめて自責だけは取っ払っておきたい。
「家にいても、外に出て遊びまわるのと同じくらい楽しいことはあるんだよ」
そんな想いを伝えられる何かを探し出したいなぁと思ってる。
日常で累積してる鬱屈が竜樹さんの前で出さずにいられたらと思ってる。
最近はどこにいても、そんなことをずっと考えている。
時折過去に思いをめぐらせながら、目の前に降ってくる仕事に今日も取り掛かろうと事務所に入ると、社員さんはみんな事務所を出て行く。
「何かあったかな?」と思いながら、人の流れについていくと社長とボスの訓辞が始まる。
…この時期になって、ようやっと寸志に限りなく近い賞与が出た。
先月の業績がよかったから出せたというよりも、ほとんど社長の気持ちだったようで。
額面云々よりも、これで竜樹さんにご馳走を振舞えるかもしれないということが嬉しかった。
それでも、会社の業績が悪いには違いはないから、時間中にいかに沢山の仕事を片付けるかを考えながら、いつものように時折ちゃちゃを入れてこられるボスに笑顔で応対しながら、目の前に降ってくる仕事をきりきりと片付けた。
よれっと会社を出ると、携帯にメールがひとつ。
…竜樹さんからだった。
「明日が花火だったっけ?
今日執刀医のとこに行ってきた。只今、散髪の順番待ち」
なるべく早く執刀医の先生には会いに行かないとダメだろうなぁという話はしていた。
ここ数週間ずっと体調が悪い体調が悪いと聞いていたので、行くのはもっと涼しくなってからになるんだろうなぁと思っていたけれど。
ひとまず、執刀医の先生に会いに行って散髪にも行けるのだから、今日はうんとこマシなんだろう。
大きな花火は明後日あるということ、寸志に近い賞与が出たことを報告するメールを飛ばしてみる。
すると、比較的早くお返事が帰ってきた。
「よかったねー。
ところで、日曜は遅れずに行けたぁ?
浮気は楽しかった出すかぁ?」
冗談が出るほど元気なのだと思うと嬉しくなって、日曜日にあったことを簡単にまとめてまたお返事を出す。
…でも、あの場所で話題になったことの詳細を書くと、あまり気分のいいものじゃないだろうなぁ
竜樹さんも私も大概いい年齢だから、「旦那に飽きたー」と話しておられる主婦’sの話には別に取り立てて衝撃受けたりはしぃへんやろけど、あらぬ疑いかけられても困るしなぁと思って大まかな話だけにとどめておいた。
電車を乗り換え、バスターミナルのある駅に着き、頼まれたお寿司の盛り合わせを買いに行く。
今日は金岡母の誕生日。
だから今日は家事なしデーにするべく、金岡母の一番の好物を買って帰ることに。
盛り合わせ5人前を注文し、出来る迄の間本屋で涼んで帰宅。
金岡父も早く戻ってきてて、家族(プードルさん含む)揃って寿司パーティ。
5人前のお寿司は、3人の胃袋に均等に収まった。
暫くリビングでプードルさんや猫と遊び、部屋に戻ってぼけっと過ごしていると、部屋の電話が鳴る。
…竜樹さんからだった。
何よりも先に、執刀医の先生とどんな話をしたかを聞いた。
いろんなものの数値は最後に診察してもらった時と殆ど違わないようで、もう一度手術をしなおすしか解決策はないだろうという結論に達した模様。
「で、何時頃になるんですか?再手術」
「もう予定日は決まってるねん」
「…いつなんです?」
「9月の真ん中頃やって」
…決まる時は案外早く決まるもんなんだ。
手術に纏わる諸々のことを思い起こしていると、
「だから、8月は遊ぼうなぁ」
竜樹さんは俄然張り切っておられる。
「無理はしなくていいよ」という私に、「否が応でも手術前になったら遊べなくなるんやから、今のうちに楽しまなぁ(*^-^*)」と竜樹さん。
自分の中でいろんなことに思いをめぐらせているのをよそに、私を取り巻く物事は容赦なく変わっていく。
…そろそろ、また気持ちを入れてなきゃならないね
急転直下でやってきた様々な出来事がこれからの自分をどう換えていくかは判らないけれど。
ひとまず、やって来た物事に対して精一杯向かってみようと思う。
あちらこちらの友達に送る物の荷造りもしなければならなかったけれど、何となく何をするでもなくだらりだらりと寝付けずにいた。
何か思うことがあったからではなく、単に部屋の温度が上がりすぎてて眠れなかっただけに過ぎないのだけど…
意識が落ちたと思ったら、あっという間に朝がきてしまった。
朝、ふとしたことから、今日がPLの花火大会の日だったことを思い出した。
…あれからもう2年経ったんやぁ
2年前の今日、竜樹さんと2人でバスツアーに参加して観に行った。
「手術の後のリハビリがしたいねん」という竜樹さんは、予てよりバスツアーを見つけ出して申し込んでいてくれた。
どうせなら浴衣を着ていこうと花火大会の前の週の週末に2人で浴衣を買いに行ったり、いろんな打ち合わせをして楽しい時間を過ごした。
当日はやたら蒸し暑い中、ナイアガラが正面に見える道路に陣取り、時折買い込んだ食糧を食べながらじっと花火が始まるのを待ちつづけた。
時折、激しい雨が降ったと思ったらいきなり近くに雷が落ちて目の前の世界が一瞬真っ白になったり。
…ナイアガラのクレーンに雷が落ちて、白昼ナイアガラが打ちあがってしまった(-_-;)
観に来てる人々と俄かに騒いでみたり、話してみたり、夜店で買い物をしたり、竜樹さんといろんな話をしたり。
花火が始まる前も始まってからもずっと楽しかった。
竜樹さんの体調はそれほどよくはなかったみたいだけど、時折身体を動かしに行きさえしたらなんとか持ち堪えられた。
花火が終わった後1kmほど離れた駐車場まで戻り、またバスに乗って地元に戻る。
花火会場の町を抜けるまでにものすごい時間がかかってしまい、結局自宅に帰り着いたのは深夜の2時を回っていたのだけど。
会社を休んで、思いっきり楽しんで。
こんな風に楽しい時間を場所は違えど、重ねていけるんだと思ってた。
…けれど。
今の竜樹さんの身体の状態でその当時と同じことをしたら、それこそ大事。
現地で動けなくなってしまう可能性だってある。
今週末は大阪と神戸で花火がある。
今年は大きな花火が同じ日に行われるから、多少例年よりは観やすいだろうと話していて、「体調がよかったら行こうね」って話をしていたけど…
よほど体調が良くなかったら、行くことは無理やろうなぁと思う。
別にどうしても花火大会に行きたい訳じゃない。
大小問わなければ、8月の終わり頃までぽつぽつと花火大会はある。
竜樹さんと一緒にいられる時間が取れるなら、イベントはおまけのようなものなのも確か。
けれど、一度も行けなかった時、また竜樹さんは抱え込むんだろうってことが判り切ってるから。
「行きたかったのに、どっこも行かれへんかった」という落胆と、「霄をどこにも連れて行ってやれへんかった」という自責と。
落胆を取り去ることができなくても、せめて自責だけは取っ払っておきたい。
「家にいても、外に出て遊びまわるのと同じくらい楽しいことはあるんだよ」
そんな想いを伝えられる何かを探し出したいなぁと思ってる。
日常で累積してる鬱屈が竜樹さんの前で出さずにいられたらと思ってる。
最近はどこにいても、そんなことをずっと考えている。
時折過去に思いをめぐらせながら、目の前に降ってくる仕事に今日も取り掛かろうと事務所に入ると、社員さんはみんな事務所を出て行く。
「何かあったかな?」と思いながら、人の流れについていくと社長とボスの訓辞が始まる。
…この時期になって、ようやっと寸志に限りなく近い賞与が出た。
先月の業績がよかったから出せたというよりも、ほとんど社長の気持ちだったようで。
額面云々よりも、これで竜樹さんにご馳走を振舞えるかもしれないということが嬉しかった。
それでも、会社の業績が悪いには違いはないから、時間中にいかに沢山の仕事を片付けるかを考えながら、いつものように時折ちゃちゃを入れてこられるボスに笑顔で応対しながら、目の前に降ってくる仕事をきりきりと片付けた。
よれっと会社を出ると、携帯にメールがひとつ。
…竜樹さんからだった。
「明日が花火だったっけ?
今日執刀医のとこに行ってきた。只今、散髪の順番待ち」
なるべく早く執刀医の先生には会いに行かないとダメだろうなぁという話はしていた。
ここ数週間ずっと体調が悪い体調が悪いと聞いていたので、行くのはもっと涼しくなってからになるんだろうなぁと思っていたけれど。
ひとまず、執刀医の先生に会いに行って散髪にも行けるのだから、今日はうんとこマシなんだろう。
大きな花火は明後日あるということ、寸志に近い賞与が出たことを報告するメールを飛ばしてみる。
すると、比較的早くお返事が帰ってきた。
「よかったねー。
ところで、日曜は遅れずに行けたぁ?
浮気は楽しかった出すかぁ?」
冗談が出るほど元気なのだと思うと嬉しくなって、日曜日にあったことを簡単にまとめてまたお返事を出す。
…でも、あの場所で話題になったことの詳細を書くと、あまり気分のいいものじゃないだろうなぁ
竜樹さんも私も大概いい年齢だから、「旦那に飽きたー」と話しておられる主婦’sの話には別に取り立てて衝撃受けたりはしぃへんやろけど、あらぬ疑いかけられても困るしなぁと思って大まかな話だけにとどめておいた。
電車を乗り換え、バスターミナルのある駅に着き、頼まれたお寿司の盛り合わせを買いに行く。
今日は金岡母の誕生日。
だから今日は家事なしデーにするべく、金岡母の一番の好物を買って帰ることに。
盛り合わせ5人前を注文し、出来る迄の間本屋で涼んで帰宅。
金岡父も早く戻ってきてて、家族(プードルさん含む)揃って寿司パーティ。
5人前のお寿司は、3人の胃袋に均等に収まった。
暫くリビングでプードルさんや猫と遊び、部屋に戻ってぼけっと過ごしていると、部屋の電話が鳴る。
…竜樹さんからだった。
何よりも先に、執刀医の先生とどんな話をしたかを聞いた。
いろんなものの数値は最後に診察してもらった時と殆ど違わないようで、もう一度手術をしなおすしか解決策はないだろうという結論に達した模様。
「で、何時頃になるんですか?再手術」
「もう予定日は決まってるねん」
「…いつなんです?」
「9月の真ん中頃やって」
…決まる時は案外早く決まるもんなんだ。
手術に纏わる諸々のことを思い起こしていると、
「だから、8月は遊ぼうなぁ」
竜樹さんは俄然張り切っておられる。
「無理はしなくていいよ」という私に、「否が応でも手術前になったら遊べなくなるんやから、今のうちに楽しまなぁ(*^-^*)」と竜樹さん。
自分の中でいろんなことに思いをめぐらせているのをよそに、私を取り巻く物事は容赦なく変わっていく。
…そろそろ、また気持ちを入れてなきゃならないね
急転直下でやってきた様々な出来事がこれからの自分をどう換えていくかは判らないけれど。
ひとまず、やって来た物事に対して精一杯向かってみようと思う。
元気な私で逢いに行くね
2002年7月12日昨日竜樹邸からタクシーで帰宅し、お風呂に入ってそのまま休んだ。
帰宅後、何もしないまま眠るのはなんだかもったいない気がしたけれど、仕事の後に翌日から竜樹邸にお泊りできるだけの体力は維持しておきたくて、ただ体を休めることを優先した。
なのに、朝から恒例の胃痛に加えて、下腹部痛。
立ち上がると眩暈までオプションつき。
…これはどう考えても無理だわ
これから会社に行って仕事して、その足で竜樹邸に向かって昨日よりももっと体調が悪いだろう竜樹さんのフォローができるような状態なのかと自分に問い掛けたなら、「無理だろう」としか言いようがない。
よろよろと家を出て、会社に向かう途中で竜樹さんに断りのメールを入れる。
…こんな機会、またとないのになぁ
竜樹さんが「しんどい時におってくれたら嬉しいから」なんて言うのは滅多に聞けないから。
いつも「しんどい顔をできるだけ見せたくないねん」と言う彼から聞ける貴重な言葉に対して何らかの形を成したかったのに…
…どうしてこんなときに限って、身体は言うことを聞かないんだろう?
私が竜樹さんの役に立てることなんてそうそうありはしないのに。
傍にいたところで竜樹さんの体調が悪くなれば何も出来ないのは確かだけど、離れた場所からしんどい思いをしてるだろうことを思いながら手伝いすらできない状態に陥る方が、私自身にとってはるかに辛いのに…
肝心な時に役にすら立てない自分に腹立たしさを覚えながら、社屋に入った。
ありがたいのか、ありがたくないのか、仕事は切れる間もなく降ってくる。
余計なことを考える暇がないのはありがたいけれど、体調が悪い時に仕事が立てこむのは身体的には辛い。
判断力が落ちてないことだけが救いだったかもしれない。
ただ、随分余裕のない表情はしてたかもしれない
書類との格闘がピークに差し掛かるときに限って、ボスがちゃちゃを入れてくるから。
笑顔がぷつっと消えると、時折そういうことをボスはなさる。
…気ぃつけんとアカンなぁ
上司に気を遣わせてる下っ端ちゃん社員なんて目も当てられないと思うし、こんなんボスやからもってるようなもんだ。
自己嫌悪とボスに対して申し訳ないって思いと「さっさと会社を出たい」という悲鳴に近い感情とが入り混じったへんな状態のまま目の前に降りかかる仕事をきりきりと片付けて、定時より少し遅れて事務所をあとにした。
体調の悪さは社屋を出ても一向に良くなる様相をみせず、よろよろと自転車を飛ばし、ふらふらと電車に乗る。
それでも、竜樹さんがどうしてるかが気になって、会社帰りになど滅多にかけない電話をひとつ。
案の定、竜樹さんは電話に出なかった。
…やっぱりしんどいのかなぁ?
車を運転してるか、体調が悪過ぎない時以外は大抵電話には出られるのだけれど、昨日もすこぶる体調は悪そうだったから、尾を引いているのかもしれない。
いつものことといえばいつものことなのに気になって仕方がなくて、メールをひとつ飛ばしてみた。
「具合悪くしてませんか?
今日そちらに行けなくてごめんなさい。
私の体調は少し持ち直したものの、仕事が立て込んでぐったりです。
明日は元気で逢えるように、今日は早く休むね。
明日は笑顔で逢えますように。」
そうして電車を乗り換え、また移動。
暫くすると、メールの着信音。
「ゆっくり、休んでね」
何気ない言葉だけど、今の私にはひどく暖かな言葉のような気がした。
自分だってしんどくて、手を借りたいって思ってたからこそ、「泊まりにおいで」と行ってたのに。
私が体調を崩すと、根本的に役には立たない。
いてても役に立たなかったとしても、結果的に役に立たなかったのと、根本的に役に立たないのとでは立ってる基盤ごと違うのだから。
…今日はきっちり休んで明日は元気になって、そっちへ行くからね。
いつもは付けっぱなしで寝るゾンビっちも、日付が変わる前には電源落としてしまおう。
どちらかというと夜型シフトな生活パターンが染み付いてるけれど、今日も何もしないで寝てしまおう。
自由な時間にできることをいろいろしたい気持ちは確かにあるけれど、元気を損ねて大事な人の声に応えられないのなら、自由な時間にしたことのどれも私にとっては意味がないから。
…明日は元気な私で逢いに行くね?
私の元気は竜樹さんの元気に、結果的には繋がるものだと。
私が元気でいれば、竜樹さんの手が要る時に少しでも役に立つための努力はできるから。
だから。
元気な私になるために、今日は休もう。
帰宅後、何もしないまま眠るのはなんだかもったいない気がしたけれど、仕事の後に翌日から竜樹邸にお泊りできるだけの体力は維持しておきたくて、ただ体を休めることを優先した。
なのに、朝から恒例の胃痛に加えて、下腹部痛。
立ち上がると眩暈までオプションつき。
…これはどう考えても無理だわ
これから会社に行って仕事して、その足で竜樹邸に向かって昨日よりももっと体調が悪いだろう竜樹さんのフォローができるような状態なのかと自分に問い掛けたなら、「無理だろう」としか言いようがない。
よろよろと家を出て、会社に向かう途中で竜樹さんに断りのメールを入れる。
…こんな機会、またとないのになぁ
竜樹さんが「しんどい時におってくれたら嬉しいから」なんて言うのは滅多に聞けないから。
いつも「しんどい顔をできるだけ見せたくないねん」と言う彼から聞ける貴重な言葉に対して何らかの形を成したかったのに…
…どうしてこんなときに限って、身体は言うことを聞かないんだろう?
私が竜樹さんの役に立てることなんてそうそうありはしないのに。
傍にいたところで竜樹さんの体調が悪くなれば何も出来ないのは確かだけど、離れた場所からしんどい思いをしてるだろうことを思いながら手伝いすらできない状態に陥る方が、私自身にとってはるかに辛いのに…
肝心な時に役にすら立てない自分に腹立たしさを覚えながら、社屋に入った。
ありがたいのか、ありがたくないのか、仕事は切れる間もなく降ってくる。
余計なことを考える暇がないのはありがたいけれど、体調が悪い時に仕事が立てこむのは身体的には辛い。
判断力が落ちてないことだけが救いだったかもしれない。
ただ、随分余裕のない表情はしてたかもしれない
書類との格闘がピークに差し掛かるときに限って、ボスがちゃちゃを入れてくるから。
笑顔がぷつっと消えると、時折そういうことをボスはなさる。
…気ぃつけんとアカンなぁ
上司に気を遣わせてる下っ端ちゃん社員なんて目も当てられないと思うし、こんなんボスやからもってるようなもんだ。
自己嫌悪とボスに対して申し訳ないって思いと「さっさと会社を出たい」という悲鳴に近い感情とが入り混じったへんな状態のまま目の前に降りかかる仕事をきりきりと片付けて、定時より少し遅れて事務所をあとにした。
体調の悪さは社屋を出ても一向に良くなる様相をみせず、よろよろと自転車を飛ばし、ふらふらと電車に乗る。
それでも、竜樹さんがどうしてるかが気になって、会社帰りになど滅多にかけない電話をひとつ。
案の定、竜樹さんは電話に出なかった。
…やっぱりしんどいのかなぁ?
車を運転してるか、体調が悪過ぎない時以外は大抵電話には出られるのだけれど、昨日もすこぶる体調は悪そうだったから、尾を引いているのかもしれない。
いつものことといえばいつものことなのに気になって仕方がなくて、メールをひとつ飛ばしてみた。
「具合悪くしてませんか?
今日そちらに行けなくてごめんなさい。
私の体調は少し持ち直したものの、仕事が立て込んでぐったりです。
明日は元気で逢えるように、今日は早く休むね。
明日は笑顔で逢えますように。」
そうして電車を乗り換え、また移動。
暫くすると、メールの着信音。
「ゆっくり、休んでね」
何気ない言葉だけど、今の私にはひどく暖かな言葉のような気がした。
自分だってしんどくて、手を借りたいって思ってたからこそ、「泊まりにおいで」と行ってたのに。
私が体調を崩すと、根本的に役には立たない。
いてても役に立たなかったとしても、結果的に役に立たなかったのと、根本的に役に立たないのとでは立ってる基盤ごと違うのだから。
…今日はきっちり休んで明日は元気になって、そっちへ行くからね。
いつもは付けっぱなしで寝るゾンビっちも、日付が変わる前には電源落としてしまおう。
どちらかというと夜型シフトな生活パターンが染み付いてるけれど、今日も何もしないで寝てしまおう。
自由な時間にできることをいろいろしたい気持ちは確かにあるけれど、元気を損ねて大事な人の声に応えられないのなら、自由な時間にしたことのどれも私にとっては意味がないから。
…明日は元気な私で逢いに行くね?
私の元気は竜樹さんの元気に、結果的には繋がるものだと。
私が元気でいれば、竜樹さんの手が要る時に少しでも役に立つための努力はできるから。
だから。
元気な私になるために、今日は休もう。
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嬉しいを握り締めて…
2002年7月11日蒸し暑さで目が覚めた。
どうやらぼけっとしてるうちに眠ってしまってたらしい。
簡単なお夜寝をしただけなのに寝汗を沢山かいてしまったので、お風呂に入る。
また暫くぼけっとしてると、部屋の電話が鳴る。
…竜樹さんからだった。
「…ごめん、こんな時間に。寝てたか?」
「ううん、さっきまで寝ててお風呂入ってきたとこなん」
「そしたら、落ち着いた頃にもっぺん電話しよか?」
「構わないよ、もう落ち着いてるから」
「霄はどうしてるんかなぁって思って…」
受話器から聞こえる竜樹さんの声は、とても弱い。
元気な時だと、その声は張りがあってよく通るのに…
きっと連日の湿気と昨日からの台風の影響で、体調はすこぶる悪いんだろう。
話を進めているうちに、その予感は的中してたのだと判った。
去年の今頃も竜樹さんの体調は思わしくはなかったけれど、今の竜樹さんの状態はその時よりも明らかに悪い。
再手術を含めてこれからどうするのかを考えるにしたって、お伺いを立てるべき先生に会いに行くのですら自力で行けるのかどうか…
…一体、私にどれくらいのことが出来るんだろう?
「ちゃんとご飯は食べれてますか?」
「…それがちゃんと食べれてないねん」
「明日の帰りにそっちに寄って帰るから、食べられそうなものがあったら教えてくださいね?」
暫くそんな会話を続けて電話を切った。
台風が通り過ぎた朝は青空。
少々蒸し暑い気もするけれど、雨が降ってるよりかははるかにマシ。
…何が何でも今日は定時に会社を出るぞ
そう思いながら仕事を始める。
台風到来でてんてこまいだった昨日とは打って変わって、仕事は楽に進んでいく。
昼休みに、「冷凍してあるお肉を解凍しておいてね」とメールをひとつ。
それを竜樹さんが出来る状態でいるのかどうかも判らないけれど、お願いだけしておいた。
あとは定時で会社を飛び出せるように、きりきりと仕事を片付ける。
…けれど、また帰りがけに仕事を持ってきた社員さんがいて、出るのは少しばかり遅れたのだけれど
延びてしまった時間が取り戻せるはずもないのに、自転車を飛ばしたり駅まで走ってみたり。
乗り換えの時もホームからホームの間をダッシュかけてみたり。
自分が竜樹邸に行けば万事オッケーな訳でもないのに、ただただ竜樹邸までの道程を急いだ。
竜樹邸に着くと、竜樹さんはよれていらっしゃった。
昨日も夜に食事を取った後ずっと体調が悪くて、さっきまで休んでおられたとのこと。
けれど、流しを見ると夕飯用の肉は解凍して置いてあった。
「しんどかったのに、ありがとうね」
「いや、来て貰うんだから、ちゃんとしとかなな」
そんな言葉を交わして、食事の用意に取り掛かるべく荷物を置いて動こうとすると…
「…まぁ、ちょっと休みぃや?」と手招きする竜樹さん。
あんまりゆっくりもしていられないけれど、竜樹さんの言葉に従うことにした。
昨日の電話では具合の悪さについてあまり詳細に触れなかった竜樹さんが、ぽつりぽつりと話してくれる。
食事をすると痛んでくるというのは、手術をする前からずっと続いてることだけれど。
横になったら起き上がれなくなるくらい痛むなんてことは、今まで聞いたことがない。
傍でそれを見てきた私も驚いているけれど、悪化している状況に一番驚いているのは他ならぬ竜樹さん自身で。
出来たはずのことが出来なくなっていることがとてもやるせないのだと、悔しいのだと。
ぽつりぽつりと静かに語る中から痛いほど伝わってくる。
泣くことも出来ず、投げ出すことも出来ず。
この人の痛さを代わることなど出来よう筈のないことは、十分に判ってる。
けれど、出来ないことに変わる何かでこの人の痛さを軽くは出来ないのだろうか?
身体の痛みが取れないのなら、心の痛みだけでも。
ずっと苦しいだけの時間が続くのだとしたら、一緒にいてる中のほんの一瞬でも楽しいと思える時間を作り出せないだろうか。
百々巡りな命題ではあるけれど、竜樹さんの痛みが消えるまでそんなことを延々と考えつづけるのだろう。
そして、彼が必要とすることをなるべく渡せるような自分でありたいと、いつでも思いつづけるんだ。
そっと手を伸ばす竜樹さんが触れるのは、私。
それで気が紛れるなら、気が済むまでそのままでいよう。
竜樹さんの言葉に答える私がどんな表情をしてたのかは判らないけれど、少しずつ強張った表情は柔らかなものに変わっていく。
少し落ち着かれたようなので、夕飯を作り始めた。
夕飯はここのところ定番のしゃぶしゃぶ。
洗ってちぎったレタスに茹でた肉を乗せ、トマトを添えて淡々と完成。
茹でたあとのお湯で玉ねぎと卵の味噌汁も作ってみた。
これが定番ってのもある意味不名誉ではあるけれど、食欲があまりなくて調理に時間が取れない時にはありがたいメニュー。
食卓のセッティングが済んだ頃、ようやっと竜樹さんが起きられるようになったので、食べ始めることにする。
あまり食欲がないと言ってた割にはきちんと食べてくれてるので、ほっとしながら見ている。
効き過ぎかな?と感じる竜樹邸の冷房に、味噌汁の熱さが丁度よかった。
食事が終わり、後片付けをして帰ろうと思ったけれど、「少し休んでいき?」という竜樹さんの言葉にまたもや甘えてしまう。
壁にもたれながら座る竜樹さんにまた膝枕をしてもらう形で横になる。
取り留めのない、さして意味もない会話をしながら、竜樹さんの表情が柔らかくなってきてることを確認してにこにこ。
「かわいいなぁ(*^-^*)」
最近俄かに増えてきたそんな言葉にほだされて、ちょっとしたいたずらを繰り出してしまった。
「かわいいなぁ(*^-^*)」はしょーがねぇなぁっていう表情付きの「あほやなぁ」に変わる。
それでもまだ空気は柔らかく、少々甘い時間は続いていく。
本当に帰らないといけない時間になって帰り支度を始めると、
「明日から泊まりにおいで?」
突然、竜樹さんがそう言った。
「体調も悪いし、ずっといてくれたら嬉しいねんけど…」って言葉がただただ嬉しかったけれど。
予定外の外泊の許可を取るのが難しいことが頭を掠める。
「取り敢えずこっちへこれるかどうかの返事は明日でいいですか?」とだけ答えて竜樹邸を後にした。
竜樹さんの放つ空気に刺がなくなったこと。
どういう事情であれ、「いてくれたら嬉しい」と思ってもらえること。
それは間違いなく私にとっては嬉しいこと。
私からは何が出来る?
竜樹さんに対して何が出来る?
自分の中でその命題に対する答は出ないままだけど、ただ傍にいて何かに応えられるならそれでいいのかな?
必要とされることの中にある嬉しいって気持ちを握り締めて、命題の答を探そうと思う。
どうやらぼけっとしてるうちに眠ってしまってたらしい。
簡単なお夜寝をしただけなのに寝汗を沢山かいてしまったので、お風呂に入る。
また暫くぼけっとしてると、部屋の電話が鳴る。
…竜樹さんからだった。
「…ごめん、こんな時間に。寝てたか?」
「ううん、さっきまで寝ててお風呂入ってきたとこなん」
「そしたら、落ち着いた頃にもっぺん電話しよか?」
「構わないよ、もう落ち着いてるから」
「霄はどうしてるんかなぁって思って…」
受話器から聞こえる竜樹さんの声は、とても弱い。
元気な時だと、その声は張りがあってよく通るのに…
きっと連日の湿気と昨日からの台風の影響で、体調はすこぶる悪いんだろう。
話を進めているうちに、その予感は的中してたのだと判った。
去年の今頃も竜樹さんの体調は思わしくはなかったけれど、今の竜樹さんの状態はその時よりも明らかに悪い。
再手術を含めてこれからどうするのかを考えるにしたって、お伺いを立てるべき先生に会いに行くのですら自力で行けるのかどうか…
…一体、私にどれくらいのことが出来るんだろう?
「ちゃんとご飯は食べれてますか?」
「…それがちゃんと食べれてないねん」
「明日の帰りにそっちに寄って帰るから、食べられそうなものがあったら教えてくださいね?」
暫くそんな会話を続けて電話を切った。
台風が通り過ぎた朝は青空。
少々蒸し暑い気もするけれど、雨が降ってるよりかははるかにマシ。
…何が何でも今日は定時に会社を出るぞ
そう思いながら仕事を始める。
台風到来でてんてこまいだった昨日とは打って変わって、仕事は楽に進んでいく。
昼休みに、「冷凍してあるお肉を解凍しておいてね」とメールをひとつ。
それを竜樹さんが出来る状態でいるのかどうかも判らないけれど、お願いだけしておいた。
あとは定時で会社を飛び出せるように、きりきりと仕事を片付ける。
…けれど、また帰りがけに仕事を持ってきた社員さんがいて、出るのは少しばかり遅れたのだけれど
延びてしまった時間が取り戻せるはずもないのに、自転車を飛ばしたり駅まで走ってみたり。
乗り換えの時もホームからホームの間をダッシュかけてみたり。
自分が竜樹邸に行けば万事オッケーな訳でもないのに、ただただ竜樹邸までの道程を急いだ。
竜樹邸に着くと、竜樹さんはよれていらっしゃった。
昨日も夜に食事を取った後ずっと体調が悪くて、さっきまで休んでおられたとのこと。
けれど、流しを見ると夕飯用の肉は解凍して置いてあった。
「しんどかったのに、ありがとうね」
「いや、来て貰うんだから、ちゃんとしとかなな」
そんな言葉を交わして、食事の用意に取り掛かるべく荷物を置いて動こうとすると…
「…まぁ、ちょっと休みぃや?」と手招きする竜樹さん。
あんまりゆっくりもしていられないけれど、竜樹さんの言葉に従うことにした。
昨日の電話では具合の悪さについてあまり詳細に触れなかった竜樹さんが、ぽつりぽつりと話してくれる。
食事をすると痛んでくるというのは、手術をする前からずっと続いてることだけれど。
横になったら起き上がれなくなるくらい痛むなんてことは、今まで聞いたことがない。
傍でそれを見てきた私も驚いているけれど、悪化している状況に一番驚いているのは他ならぬ竜樹さん自身で。
出来たはずのことが出来なくなっていることがとてもやるせないのだと、悔しいのだと。
ぽつりぽつりと静かに語る中から痛いほど伝わってくる。
泣くことも出来ず、投げ出すことも出来ず。
この人の痛さを代わることなど出来よう筈のないことは、十分に判ってる。
けれど、出来ないことに変わる何かでこの人の痛さを軽くは出来ないのだろうか?
身体の痛みが取れないのなら、心の痛みだけでも。
ずっと苦しいだけの時間が続くのだとしたら、一緒にいてる中のほんの一瞬でも楽しいと思える時間を作り出せないだろうか。
百々巡りな命題ではあるけれど、竜樹さんの痛みが消えるまでそんなことを延々と考えつづけるのだろう。
そして、彼が必要とすることをなるべく渡せるような自分でありたいと、いつでも思いつづけるんだ。
そっと手を伸ばす竜樹さんが触れるのは、私。
それで気が紛れるなら、気が済むまでそのままでいよう。
竜樹さんの言葉に答える私がどんな表情をしてたのかは判らないけれど、少しずつ強張った表情は柔らかなものに変わっていく。
少し落ち着かれたようなので、夕飯を作り始めた。
夕飯はここのところ定番のしゃぶしゃぶ。
洗ってちぎったレタスに茹でた肉を乗せ、トマトを添えて淡々と完成。
茹でたあとのお湯で玉ねぎと卵の味噌汁も作ってみた。
これが定番ってのもある意味不名誉ではあるけれど、食欲があまりなくて調理に時間が取れない時にはありがたいメニュー。
食卓のセッティングが済んだ頃、ようやっと竜樹さんが起きられるようになったので、食べ始めることにする。
あまり食欲がないと言ってた割にはきちんと食べてくれてるので、ほっとしながら見ている。
効き過ぎかな?と感じる竜樹邸の冷房に、味噌汁の熱さが丁度よかった。
食事が終わり、後片付けをして帰ろうと思ったけれど、「少し休んでいき?」という竜樹さんの言葉にまたもや甘えてしまう。
壁にもたれながら座る竜樹さんにまた膝枕をしてもらう形で横になる。
取り留めのない、さして意味もない会話をしながら、竜樹さんの表情が柔らかくなってきてることを確認してにこにこ。
「かわいいなぁ(*^-^*)」
最近俄かに増えてきたそんな言葉にほだされて、ちょっとしたいたずらを繰り出してしまった。
「かわいいなぁ(*^-^*)」はしょーがねぇなぁっていう表情付きの「あほやなぁ」に変わる。
それでもまだ空気は柔らかく、少々甘い時間は続いていく。
本当に帰らないといけない時間になって帰り支度を始めると、
「明日から泊まりにおいで?」
突然、竜樹さんがそう言った。
「体調も悪いし、ずっといてくれたら嬉しいねんけど…」って言葉がただただ嬉しかったけれど。
予定外の外泊の許可を取るのが難しいことが頭を掠める。
「取り敢えずこっちへこれるかどうかの返事は明日でいいですか?」とだけ答えて竜樹邸を後にした。
竜樹さんの放つ空気に刺がなくなったこと。
どういう事情であれ、「いてくれたら嬉しい」と思ってもらえること。
それは間違いなく私にとっては嬉しいこと。
私からは何が出来る?
竜樹さんに対して何が出来る?
自分の中でその命題に対する答は出ないままだけど、ただ傍にいて何かに応えられるならそれでいいのかな?
必要とされることの中にある嬉しいって気持ちを握り締めて、命題の答を探そうと思う。
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受けて立つから…
2002年7月10日昨晩、ゴージャスなお姉さまから電話を貰った。
昨日1日盛り上がったカーン様の伝聞の話題はとうに終わっていて、今度はドイツのユニの話で盛り上がる。
ユニフォームのレプリカにはオーセンティック(選手が試合で実際に着てるものと同仕様のもの)やらスポンサーとのダブルネームのものやらいろいろとあって、お姉さまがくれる情報がちょこっと錯綜してたので、整理がてらまたワールドサッカー話で盛り上がる。
ただ、話し出したらサッカーの話だけで留まらなくのが常で。
4月に観に行った「天保十二年のシェイクスピア」のDVDの話やら、果ては会社の愚痴まで。
このところよくお姉さまとはお話するなぁと感心しながら、夜の会話を続けていた。
長い会話が終わって横になる頃、激しい雨の音が聞こえてくる。
…竜樹さん、ちゃんと眠れてるだろうか?
雨が降る前後はすこぶる調子の悪い竜樹さんのことを思うと気が気ではない。
傍にいても何一つ出来ないのに、ここにいて思ってるだけで何が出来るわけでないこと判ってはいるけれど。
ただ長い夜の間、ずっと身体の不調に苦しんでるだろう竜樹さんを思うと、ただ胸が痛んでならなかった。
出勤する時間には雨は小降りになっていた。
予定では、今日の昼頃台風が上陸するらしい。
あまり大きな台風で河川が増水したら、電車が足止め食らって帰るに帰れなくなる。
それに雨ばかり続くと、竜樹さんが辛い思いをする時間もまた長くなる。
雨で電車が足止め程度なら何とでもなるけれど、竜樹さんの身体が痛むことの方がずっと気がかりだ。
途中、友達からの朝メールにうっかり「鬼」を出してしまう。
しんどくて目一杯の癖にまだ無理をしようとする友達に、ついごくごく親しい人に放つ言葉と同じ種類の言葉を返してしまった。
「無理なんてせんでええ」
10年選手クラスの友達にでも、そう滅多に吐かない荒けない言葉遣いに反省しながら。
もう必要以上に友達が無理するのを見たくはなかった。
…逢うたこともないのに、何をやってんだか
自分がどんな想いから「鬼」を発したかを相手に慮って貰おうなんて図々しいわなぁと自嘲気味に思いながら社屋に入った。
今日は人外魔境にお客さんが来ることになっている。
一部の社員さん向の講習会の千秋楽のゲストということで。
だから通常よりも少々業務は短い時間に押し込み気味。
なのに、一番手のかかる仕事に限ってそこにいない人の物件だったりするので、どう対応していいか判らず、右往左往してる状態。
しかも、この社員さん。出張に出た先で新幹線が止まってしまい、こちらに戻ってこれないんだとか。
縦しんば講習会の時間までにこちらに戻ってこれても、溜まった業務が机を押し潰しそうな勢いで積まれているし、新幹線に缶詰にされたままでもまたしんどいし。
…気の毒だよなぁ(-_-;)
この社員さんがいないおかげでみんなばたばたしてるにもかかわらず、何だかそんな風に思えた。
ようやっと午前中の業務が終わりお昼ご飯にありつくけれど、何となくものを食べる気がしないくらい疲れてしまってる。
がくーーーっと机に臥せってると、遠いところからテレビニュースの声がする。
頭を上げてきょろきょろしてると、社長が携帯用のテレビを見てる。
「なぁんだ、台風さん。肩透かしやったなぁ」
テレビで報じられてるのは、岐阜の方面の被害の話ばかり。
「台風の関西上陸は今日の昼過ぎ」なんて報道、何処へいったのやら。
テレビを見飽きた社長が窓を開けると、どういう訳か青空が広がってる。
「ちぇーーーっ、つまんねぇのー(-"-;)」
などと、子供のような発言を繰り返す社長。
二度目のお茶を煎れ直し、ようやっと昼食を食べ始める。
食べて一息つくと、また後半戦。
静岡で足止めを食らってる社員さんの仕事で右往左往がエンドレス。
その合間に通常業務を片付け、さぁ帰ろうという段になって、お客様登場。
…なんでもお客様、新幹線で6時間半かけてこちらにお見えになったそうだ。
慌てて講習会の準備を手伝い、暫くの間無人の事務所で電話取りをしてから退社。
台風の通り過ぎた、青空の見える空の下、よろよろと家路を急いだ。
寄り道する気力も起こらず、誰にもメールを飛ばす気力も起こらず。
家に帰ってからご飯を食べて、ひと心地ついて思う。
子供の頃だと、台風が来て警報なんぞが出たりすると、そのまま授業は休講で家に帰ってのんびりできた。
そうして、家の中から荒れ狂う外の景色をどこかわくわくしながら眺めていた。
その嵐のために、誰かが足止めを食らって動けなくなる人がいることも、家が水浸しになって困る人がいることも。
気圧や天気の加減に左右される人にとって、こんな天気が身体に堪えるだろうことも。
あの当時は、何も知らなかったんだ。
ごくごく自分の身の回りの世界にだけ意識を置いて、その範疇でいろんなことを考えることを許されたこと、少し懐かしく思ったりする。
今でも嵐吹く風景をどきどきしながら見つめる自分は確かにいるんだけど、そのどきどきに素直にのれない。
それは年齢のせいだってことは言うまでもないんだろうけど、出逢ってしまったから…
天候が崩れることに依って、その日の体調が左右される人に。
その人が雨が降る前からどんな風に体調が悪くなって、雨がやむまでどんな風でいるのかをつぶさに知ってしまってるから。
もう昔のように、嵐が来るわくわくにのることは出来ない。
昔のように、雨降り空をどこか詩的な気分で眺めることは出来ない。
随分、遠いところへきてしまったんだなぁと思う。
竜樹さんに出逢わなければ、雨で服やら靴やらが濡れて気持ちが悪いとかいう瑣末なこと以外で雨を嫌うことなどなかった。
窓の外の雨の風景も、雨の降る前の匂いも、今はいいものとして受け止めることはできないけれど…
台風が齎した強い風が湿気の塊のような雨雲を吹き飛ばしていって、青空ひとつを残していくように、いつかは大切な人の辛さを吹き飛ばすような強い風に出会えるのだろうか?
…その時は頼むから、今回の台風みたいに肩透かし食らわしたりなんてしないでね?
竜樹さんと笑顔でいられる場所に辿り着くために、いいことも辛いことも相応に受けて立つから。
その威力がどれほど強くても、逃げずにきっちり受けて立つから。
いつか来るかもしれない強い風と向き合って、笑顔ひとつ残したいなぁと肩透かしの台風のことを振り返りながらそう思った。
昨日1日盛り上がったカーン様の伝聞の話題はとうに終わっていて、今度はドイツのユニの話で盛り上がる。
ユニフォームのレプリカにはオーセンティック(選手が試合で実際に着てるものと同仕様のもの)やらスポンサーとのダブルネームのものやらいろいろとあって、お姉さまがくれる情報がちょこっと錯綜してたので、整理がてらまたワールドサッカー話で盛り上がる。
ただ、話し出したらサッカーの話だけで留まらなくのが常で。
4月に観に行った「天保十二年のシェイクスピア」のDVDの話やら、果ては会社の愚痴まで。
このところよくお姉さまとはお話するなぁと感心しながら、夜の会話を続けていた。
長い会話が終わって横になる頃、激しい雨の音が聞こえてくる。
…竜樹さん、ちゃんと眠れてるだろうか?
雨が降る前後はすこぶる調子の悪い竜樹さんのことを思うと気が気ではない。
傍にいても何一つ出来ないのに、ここにいて思ってるだけで何が出来るわけでないこと判ってはいるけれど。
ただ長い夜の間、ずっと身体の不調に苦しんでるだろう竜樹さんを思うと、ただ胸が痛んでならなかった。
出勤する時間には雨は小降りになっていた。
予定では、今日の昼頃台風が上陸するらしい。
あまり大きな台風で河川が増水したら、電車が足止め食らって帰るに帰れなくなる。
それに雨ばかり続くと、竜樹さんが辛い思いをする時間もまた長くなる。
雨で電車が足止め程度なら何とでもなるけれど、竜樹さんの身体が痛むことの方がずっと気がかりだ。
途中、友達からの朝メールにうっかり「鬼」を出してしまう。
しんどくて目一杯の癖にまだ無理をしようとする友達に、ついごくごく親しい人に放つ言葉と同じ種類の言葉を返してしまった。
「無理なんてせんでええ」
10年選手クラスの友達にでも、そう滅多に吐かない荒けない言葉遣いに反省しながら。
もう必要以上に友達が無理するのを見たくはなかった。
…逢うたこともないのに、何をやってんだか
自分がどんな想いから「鬼」を発したかを相手に慮って貰おうなんて図々しいわなぁと自嘲気味に思いながら社屋に入った。
今日は人外魔境にお客さんが来ることになっている。
一部の社員さん向の講習会の千秋楽のゲストということで。
だから通常よりも少々業務は短い時間に押し込み気味。
なのに、一番手のかかる仕事に限ってそこにいない人の物件だったりするので、どう対応していいか判らず、右往左往してる状態。
しかも、この社員さん。出張に出た先で新幹線が止まってしまい、こちらに戻ってこれないんだとか。
縦しんば講習会の時間までにこちらに戻ってこれても、溜まった業務が机を押し潰しそうな勢いで積まれているし、新幹線に缶詰にされたままでもまたしんどいし。
…気の毒だよなぁ(-_-;)
この社員さんがいないおかげでみんなばたばたしてるにもかかわらず、何だかそんな風に思えた。
ようやっと午前中の業務が終わりお昼ご飯にありつくけれど、何となくものを食べる気がしないくらい疲れてしまってる。
がくーーーっと机に臥せってると、遠いところからテレビニュースの声がする。
頭を上げてきょろきょろしてると、社長が携帯用のテレビを見てる。
「なぁんだ、台風さん。肩透かしやったなぁ」
テレビで報じられてるのは、岐阜の方面の被害の話ばかり。
「台風の関西上陸は今日の昼過ぎ」なんて報道、何処へいったのやら。
テレビを見飽きた社長が窓を開けると、どういう訳か青空が広がってる。
「ちぇーーーっ、つまんねぇのー(-"-;)」
などと、子供のような発言を繰り返す社長。
二度目のお茶を煎れ直し、ようやっと昼食を食べ始める。
食べて一息つくと、また後半戦。
静岡で足止めを食らってる社員さんの仕事で右往左往がエンドレス。
その合間に通常業務を片付け、さぁ帰ろうという段になって、お客様登場。
…なんでもお客様、新幹線で6時間半かけてこちらにお見えになったそうだ。
慌てて講習会の準備を手伝い、暫くの間無人の事務所で電話取りをしてから退社。
台風の通り過ぎた、青空の見える空の下、よろよろと家路を急いだ。
寄り道する気力も起こらず、誰にもメールを飛ばす気力も起こらず。
家に帰ってからご飯を食べて、ひと心地ついて思う。
子供の頃だと、台風が来て警報なんぞが出たりすると、そのまま授業は休講で家に帰ってのんびりできた。
そうして、家の中から荒れ狂う外の景色をどこかわくわくしながら眺めていた。
その嵐のために、誰かが足止めを食らって動けなくなる人がいることも、家が水浸しになって困る人がいることも。
気圧や天気の加減に左右される人にとって、こんな天気が身体に堪えるだろうことも。
あの当時は、何も知らなかったんだ。
ごくごく自分の身の回りの世界にだけ意識を置いて、その範疇でいろんなことを考えることを許されたこと、少し懐かしく思ったりする。
今でも嵐吹く風景をどきどきしながら見つめる自分は確かにいるんだけど、そのどきどきに素直にのれない。
それは年齢のせいだってことは言うまでもないんだろうけど、出逢ってしまったから…
天候が崩れることに依って、その日の体調が左右される人に。
その人が雨が降る前からどんな風に体調が悪くなって、雨がやむまでどんな風でいるのかをつぶさに知ってしまってるから。
もう昔のように、嵐が来るわくわくにのることは出来ない。
昔のように、雨降り空をどこか詩的な気分で眺めることは出来ない。
随分、遠いところへきてしまったんだなぁと思う。
竜樹さんに出逢わなければ、雨で服やら靴やらが濡れて気持ちが悪いとかいう瑣末なこと以外で雨を嫌うことなどなかった。
窓の外の雨の風景も、雨の降る前の匂いも、今はいいものとして受け止めることはできないけれど…
台風が齎した強い風が湿気の塊のような雨雲を吹き飛ばしていって、青空ひとつを残していくように、いつかは大切な人の辛さを吹き飛ばすような強い風に出会えるのだろうか?
…その時は頼むから、今回の台風みたいに肩透かし食らわしたりなんてしないでね?
竜樹さんと笑顔でいられる場所に辿り着くために、いいことも辛いことも相応に受けて立つから。
その威力がどれほど強くても、逃げずにきっちり受けて立つから。
いつか来るかもしれない強い風と向き合って、笑顔ひとつ残したいなぁと肩透かしの台風のことを振り返りながらそう思った。
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