元気でいられた日の証
2004年4月9日長かったのか短かったのか判らない1週間が終わる。
いい天気であろうがなかろうが朝はやっぱり辛いのだけど、今日1日乗り切れば週末なんだと思うと、いつもよりかは幾分気が楽になる。
ここ数日穏やかな魔境だったけれど、今日は少しばたばたした立ち上がり。
それでも全盛期に比べたらはるかに楽な立ち上がり。
今日1日頑張ったら、週末。
お花見の仕切り直しをするならば、この土日が最後のチャンスになるだろう。
明日、青空の下で元気な竜樹さんと今季最後の桜を見れたらいいなと思いながら仕事をしてるうちに、昼休み。
定例の作業を終え、屋上から電話してみたけれど今日は出られない。
…いい天気なのに、調子が悪いのかな?
ひとつ気を吐いて、空を見上げる。
雲ひとつない青空と涼しげな風。
それに触れていると、ネガティブな方向に流れていく思考がまたすっとフラットに戻っていく感じがする。
…大丈夫。
何にとはなく心の中で呟いて、また事務所へ戻る。
ここ数日の仕事のは流れ方なら、昼からもそうしんどくはないだろうと思っていたけれど、さすがにそう何日もそんな状態は続かなかった。
物量は少ないけれど、頭の痛い案件をいくつも片し続けて疲労困憊。
よれよれの状態で魔境を後にした。
いつも金曜日になると密かに寄り道プランを立てて実行に移すのだけど、今日はそんな気が起きない。
…竜樹さんに電話したら、今日はまっすぐ帰ろう。
そう思いながら電話を入れてみる。
「お疲れ。1週間大変やったなぁ」
「お疲れ様です。…もしかして今日は調子いい方?」
「今日は病院に行ってきてん。そしたら楽になったから、リハビリ兼ねてあちこち出かけてみてん。
いいもん仕入れられたし、気分いいねん♪
…あ、見に来る?
霄がしんどいんやったら、明日でもええけど」
何処となく楽しそうに話してる竜樹さんの声を聞いてると無性に会いたくなって電車に飛び乗った。
思わぬハプニングに疲労困憊はどこかへ飛んでいってしまった。
乗り換えの駅から連絡を入れた時、今晩の夕飯がないという話を耳にした。
「食材はある」とは言われたけれど、調理にあまり時間を取るものばかりだと限られた時間では無理があるので、頼まれたものを買い込むついでに夕飯の材料を物色。
頼まれていたもの+鰻と中落ち肉と魚そうめんを買ってバスに乗る。
随分日が長くなったなぁと思う。
移動してる時間帯は殆ど変わってないのに、夕闇の中の移動と夕暮れの移動とでは気分的に違う。
竜樹邸に着いたらあれをしよう、これをしようと考えてるうちに竜樹邸の前。
「お疲れ♪いろいろありがとうな(*^-^*)」
「お疲れ様です、おなか空いてませんか?」
買い込んだ食材を冷蔵庫に入れ、リビングへ。
多弁でない竜樹さんが珍しく話したそうにしてるので、お茶を煎れてお話を聞くことにする。
竜樹さんが買ったのは、小さな鞄。
最初は別のものを買いに行ったらしいのだけど、私のことを知ってるお店の人が「彼女にいかがですか?」と奥から出してきたらしい。
元々竜樹さんが好きで探していたラインの商品らしいけれど、その鞄の形はどう考えても男の人が使えそうにないデザイン。
財布と相談しつつ、結局買ってしまったらしい。
「店の人、霄のことをよう覚えてて『今日は彼女は一緒じゃないんですか?』って聞くねん。
『今日はひとりです』って言ったら、おじさんも奥さんもなんかがっかりしはってなぁ…」
「覚えて頂けるのは、ありがたいことですね」
「霄がおったら、いろいろ商品薦めやすいやん」
「…確かに(-_-;)」
そんな風に言いながら、どこか嬉しそうな竜樹さんを見てるのが嬉しい。
暫く鞄を間に置いて会話が続く。
ひとしきり竜樹さんが話し終えると「おなかが空いた」と一言。
慌てて台所に立ち、簡素な料理を始める。
買ってきた鰻を1.5?くらいの幅に切り、タレとあわせて少し温める。
その間に割ってほぐした卵にダシを加えて薄焼き卵を作り、千切りにしておく。
ごはんを器に入れ、その上に刻みネギ、金糸卵、鰻の順に乗せ、最後にタレをかけるだけ。
薄焼き卵を焼いていると「錦糸玉子作るの、手伝うな」と竜樹さん。
焼いた卵を切ってもらってる間別の作業をしてると「これ、美味いで」と声がする。
キレイに切れなかった卵を少し食べはったみたい。
卵焼きには煩い人なので、気に入ってもらえたならそれに越したことはない。
錦糸玉子の切れ端に機嫌を良くした竜樹さん。
何時の間にかコンロの前に立って、うどんを作り始めた。
竜樹さんが元気にいろいろしてる姿を見るのは本当に嬉しい。
暫く後片付けの手を止め、ぼけっと眺めてしまった。
「…霄、ちょっと手伝って」
声をかけられて、ふたりでひとつの鍋で温泉卵を作る。
狭い台所でふたりで作業をするのは厳しいものがあるけれど、ふたりで何かを出来ることが嬉しくて。
たかだか簡単なごはんを作るだけのことでも、心がほわんとする。
出来上がったご飯をリビングに運び込み、「頂きます♪」
一度に沢山食べれない竜樹さんが珍しくうどんも鰻もキレイに食べてしまった。
竜樹さんが休んでいる間、お風呂を沸かしたり後片付けをする。
ひとしきりするべきことを終え、リビングに戻って竜樹さんの傍に寄る。
「…元気でいられるのっていいですね」
「うん。しんどいのはもう嫌や」
「明日もいい天気みたいですから、こないだのお花見の仕切り直しできたらいいですね」
「晴れてたらいつもより早い時間から出かけたいな」
「…すいません、朝弱くて」
「無理ないわ、普段しんどい思いしてるんやから…」
そんなやり取りをしながら、くっついて時間を過ごす。
「今日はちゃんと送っていけそうやから、ゆっくりしてたらええで」
「明日もあるんだから、無理はしないで下さいね」
「動ける時にちゃんと動いとかなアカンから、送っていく」
そう言ってくっついたりじゃれたり、話したり。
あっと言う間に楽しい時間が流れていくのは毎度のこと。
竜樹さんは帰って欲しくないし、私は帰りたくないし。
でも現時点ではこのまま帰らずにいる訳にもいかないし。
気持ちのままに走れたらどれほどいいだろうと思うけれど、気持ちのまま走って許される状態でもなければそれでいいとも思わない。
暫くぐずぐずしつつも、どちらからともなくそれを解くようにして帰り支度をする。
車で自宅へ向かう途中、何箇所か桜並木のある場所を通る。
「明日は仕切り直し出来るといいですね」
「うん。この調子が持続してたら大丈夫やと思う」
そんな会話をぽつりぽつりと交わしながら、自宅前で別れる。
いつまで経ってもこの瞬間に慣れることはないけれど、また数時間後柔らかな笑顔の竜樹さんに会えるのだからと言い聞かせて、玄関の扉を開ける。
リビングで両親とひとしきり話して、自室に戻る。
竜樹さんのくれた鞄を取り出す。
青空を思わせる深い青の鞄を眺めて、明日のことを考える。
明日は竜樹さんが好きな青空が広がるといいな。
何より痛みや辛さのない、元気な竜樹さんに会えるといいな。
竜樹さんがくれた鞄は元気でいられた日の証。
やがて証がなくても元気でいられる日が続くことを、笑顔が続く日が来ることをそっと願う。
いい天気であろうがなかろうが朝はやっぱり辛いのだけど、今日1日乗り切れば週末なんだと思うと、いつもよりかは幾分気が楽になる。
ここ数日穏やかな魔境だったけれど、今日は少しばたばたした立ち上がり。
それでも全盛期に比べたらはるかに楽な立ち上がり。
今日1日頑張ったら、週末。
お花見の仕切り直しをするならば、この土日が最後のチャンスになるだろう。
明日、青空の下で元気な竜樹さんと今季最後の桜を見れたらいいなと思いながら仕事をしてるうちに、昼休み。
定例の作業を終え、屋上から電話してみたけれど今日は出られない。
…いい天気なのに、調子が悪いのかな?
ひとつ気を吐いて、空を見上げる。
雲ひとつない青空と涼しげな風。
それに触れていると、ネガティブな方向に流れていく思考がまたすっとフラットに戻っていく感じがする。
…大丈夫。
何にとはなく心の中で呟いて、また事務所へ戻る。
ここ数日の仕事のは流れ方なら、昼からもそうしんどくはないだろうと思っていたけれど、さすがにそう何日もそんな状態は続かなかった。
物量は少ないけれど、頭の痛い案件をいくつも片し続けて疲労困憊。
よれよれの状態で魔境を後にした。
いつも金曜日になると密かに寄り道プランを立てて実行に移すのだけど、今日はそんな気が起きない。
…竜樹さんに電話したら、今日はまっすぐ帰ろう。
そう思いながら電話を入れてみる。
「お疲れ。1週間大変やったなぁ」
「お疲れ様です。…もしかして今日は調子いい方?」
「今日は病院に行ってきてん。そしたら楽になったから、リハビリ兼ねてあちこち出かけてみてん。
いいもん仕入れられたし、気分いいねん♪
…あ、見に来る?
霄がしんどいんやったら、明日でもええけど」
何処となく楽しそうに話してる竜樹さんの声を聞いてると無性に会いたくなって電車に飛び乗った。
思わぬハプニングに疲労困憊はどこかへ飛んでいってしまった。
乗り換えの駅から連絡を入れた時、今晩の夕飯がないという話を耳にした。
「食材はある」とは言われたけれど、調理にあまり時間を取るものばかりだと限られた時間では無理があるので、頼まれたものを買い込むついでに夕飯の材料を物色。
頼まれていたもの+鰻と中落ち肉と魚そうめんを買ってバスに乗る。
随分日が長くなったなぁと思う。
移動してる時間帯は殆ど変わってないのに、夕闇の中の移動と夕暮れの移動とでは気分的に違う。
竜樹邸に着いたらあれをしよう、これをしようと考えてるうちに竜樹邸の前。
「お疲れ♪いろいろありがとうな(*^-^*)」
「お疲れ様です、おなか空いてませんか?」
買い込んだ食材を冷蔵庫に入れ、リビングへ。
多弁でない竜樹さんが珍しく話したそうにしてるので、お茶を煎れてお話を聞くことにする。
竜樹さんが買ったのは、小さな鞄。
最初は別のものを買いに行ったらしいのだけど、私のことを知ってるお店の人が「彼女にいかがですか?」と奥から出してきたらしい。
元々竜樹さんが好きで探していたラインの商品らしいけれど、その鞄の形はどう考えても男の人が使えそうにないデザイン。
財布と相談しつつ、結局買ってしまったらしい。
「店の人、霄のことをよう覚えてて『今日は彼女は一緒じゃないんですか?』って聞くねん。
『今日はひとりです』って言ったら、おじさんも奥さんもなんかがっかりしはってなぁ…」
「覚えて頂けるのは、ありがたいことですね」
「霄がおったら、いろいろ商品薦めやすいやん」
「…確かに(-_-;)」
そんな風に言いながら、どこか嬉しそうな竜樹さんを見てるのが嬉しい。
暫く鞄を間に置いて会話が続く。
ひとしきり竜樹さんが話し終えると「おなかが空いた」と一言。
慌てて台所に立ち、簡素な料理を始める。
買ってきた鰻を1.5?くらいの幅に切り、タレとあわせて少し温める。
その間に割ってほぐした卵にダシを加えて薄焼き卵を作り、千切りにしておく。
ごはんを器に入れ、その上に刻みネギ、金糸卵、鰻の順に乗せ、最後にタレをかけるだけ。
薄焼き卵を焼いていると「錦糸玉子作るの、手伝うな」と竜樹さん。
焼いた卵を切ってもらってる間別の作業をしてると「これ、美味いで」と声がする。
キレイに切れなかった卵を少し食べはったみたい。
卵焼きには煩い人なので、気に入ってもらえたならそれに越したことはない。
錦糸玉子の切れ端に機嫌を良くした竜樹さん。
何時の間にかコンロの前に立って、うどんを作り始めた。
竜樹さんが元気にいろいろしてる姿を見るのは本当に嬉しい。
暫く後片付けの手を止め、ぼけっと眺めてしまった。
「…霄、ちょっと手伝って」
声をかけられて、ふたりでひとつの鍋で温泉卵を作る。
狭い台所でふたりで作業をするのは厳しいものがあるけれど、ふたりで何かを出来ることが嬉しくて。
たかだか簡単なごはんを作るだけのことでも、心がほわんとする。
出来上がったご飯をリビングに運び込み、「頂きます♪」
一度に沢山食べれない竜樹さんが珍しくうどんも鰻もキレイに食べてしまった。
竜樹さんが休んでいる間、お風呂を沸かしたり後片付けをする。
ひとしきりするべきことを終え、リビングに戻って竜樹さんの傍に寄る。
「…元気でいられるのっていいですね」
「うん。しんどいのはもう嫌や」
「明日もいい天気みたいですから、こないだのお花見の仕切り直しできたらいいですね」
「晴れてたらいつもより早い時間から出かけたいな」
「…すいません、朝弱くて」
「無理ないわ、普段しんどい思いしてるんやから…」
そんなやり取りをしながら、くっついて時間を過ごす。
「今日はちゃんと送っていけそうやから、ゆっくりしてたらええで」
「明日もあるんだから、無理はしないで下さいね」
「動ける時にちゃんと動いとかなアカンから、送っていく」
そう言ってくっついたりじゃれたり、話したり。
あっと言う間に楽しい時間が流れていくのは毎度のこと。
竜樹さんは帰って欲しくないし、私は帰りたくないし。
でも現時点ではこのまま帰らずにいる訳にもいかないし。
気持ちのままに走れたらどれほどいいだろうと思うけれど、気持ちのまま走って許される状態でもなければそれでいいとも思わない。
暫くぐずぐずしつつも、どちらからともなくそれを解くようにして帰り支度をする。
車で自宅へ向かう途中、何箇所か桜並木のある場所を通る。
「明日は仕切り直し出来るといいですね」
「うん。この調子が持続してたら大丈夫やと思う」
そんな会話をぽつりぽつりと交わしながら、自宅前で別れる。
いつまで経ってもこの瞬間に慣れることはないけれど、また数時間後柔らかな笑顔の竜樹さんに会えるのだからと言い聞かせて、玄関の扉を開ける。
リビングで両親とひとしきり話して、自室に戻る。
竜樹さんのくれた鞄を取り出す。
青空を思わせる深い青の鞄を眺めて、明日のことを考える。
明日は竜樹さんが好きな青空が広がるといいな。
何より痛みや辛さのない、元気な竜樹さんに会えるといいな。
竜樹さんがくれた鞄は元気でいられた日の証。
やがて証がなくても元気でいられる日が続くことを、笑顔が続く日が来ることをそっと願う。
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