受容と訣別

2004年4月8日
昨日の雨で気温が下がり、体がびっくりしたのか。
今度は私が風邪をひいたらしい。
頭も痛ければおなかも痛い。
頭痛腹痛共に風邪だけが原因ではないのかもしれないけれど…

原因はともかく、竜樹さんの具合が未だよい状態でない以上、私まで一緒になってよろけてる訳にもいかない。
薬に頼るのは嫌だけど、軽いうちに飲んで治せるなら治してしまおう。
最近飲むことのなかった風邪薬を胃薬と一緒に流し込んで、魔境へ向かう。

昨日親会社から届いた不幸の手紙にも似た書類の処理を始める。
提出期限は明日。
処理の難しい案件がいくつも散りばめられた上に、書類の文責担当の名前を見てテンション急降下していくけれど、放置して積み残すわけにもいかないので、問題点の検証と書類に添える資料を黙々と作成していく。

出来上がった書類と資料を親会社に提出するにあたって、処理にてこずりそうな案件についてはボスに話を通しておき、いざとなったら手を貸して頂けるようお願い。
こういう根回しは気が進まないけれど、今回の文責担当相手だと根回しなしに処理を進めるなんてことは不可能だからと自分に言い聞かせいて書類を送り込む。

その後は取り立てて処理の難しい仕事もなく、午前中のフローは午前中のうちに片付けられた。

昼休みに入り、ボスと部代が新聞を読みながらぶつぶつニュースをぶった切る、なんちゃってワイドショーみたいなトークに肩を揺らしながら耳を傾けて食事をとり、後片付けとボスティを済ませて屋上に出る。

頭の上に広がる空は青く、日差しも柔らかい。
昨日は体調が悪かった竜樹さんが今日は少しでも元気でいてくれたらいいなぁと思いながら電話をしてみる。

「…昨日、ありがとうなぁ。疲れ出てへんか?」
「うん、ちょっとあちこち痛いところはあるんだけど、仕事は問題なく進んでるから大丈夫。
厄介な案件も午前中に片付けたし。
竜樹さんの方はいかがですか?」
「昨日来て貰ってだいぶ楽になったから、今日はちょこっとでも動けたらって思ってるねん。霄も頑張ってるし」
「…や、私のは嫌や嫌や言うてても片付かないし、その書類の件でややこしくなってきたらボスが手を貸してくれるそうだから。
『上司の口を使わなければ言いたいことも言えないのか』って思われるのはすんごい嫌なんですけどね」
「仕事を上手く流すのも重要なことやねんし、上司の手を借りた方がスムーズにいくならそれでええねんで?」
「…ありがとう」

楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。
青空と柔らかな日差しと竜樹さんの声が気持ちよくてずっと屋上で篭城したい気分に駆られるけれど、そういう訳にもいかず会話を終えて事務所に戻る。

「午前中穏やかな魔境は昼から大荒れ」がここでのお約束なんだけど、今日は珍しく昼からも緩やかな仕事の流れ。
それは私だけじゃなく、フロアにいる課員さんみんな共通してるようで、妙に和みムードのまま進行していく。
こんな状態が長く続くようじゃ、会社側からしたら大いに問題だとは思うけれど…

そうしてるうちに手持ちの仕事は殆ど片付き、ぽつりぽつりと雑用をしながらふと思う。

魔境における人々の雰囲気や仕事の内容がどれくらい自分と相容れないかを列挙したらキリがない。
染まってしまえない部分と染まってしまいたくない部分の両方が自分の中に存在してて、それが余計に魔境にいてることに抵抗を覚える原因になってるのかもしれないけれど…

数日前、魔境の人々のひとりがここを去ると聞いた時心の底から「いいなぁ」って思った。
自分自身を取り巻く諸事情を考えると「辞めたらぁ」で飛び出せない部分が多くて、鬱屈するものを抱えながら現在に至ってるから余計にそう感じてるのだけれど…

こんな風に緩やかに流れる日に魔境の中で起こることを見渡すと、無理に染まる必要なんてないけれど、染まることを過度に嫌うこともないかという気になってくる。

昨夜の雨で春の鬱々しい想いを流したせいなのか、少し頭が冷えてる感じがする。
感情が冷めてるというよりは、思考が以前に比べてはるかにクリアになってる気がする。

相容れないものは相容れないものとしてあってもいい。
無理矢理力技かまして消し炭にする必要もない。
ただ、どうやってでも自身の中から排除しなきゃならないものが出てきたら、必要に応じて対応すればいい。

春のアンニュイを通り抜けたら、こんなに簡単に腹が括れるものかと首を傾げながら、ボスと部代のトークショー拡大版に耳を傾けつつ、いつもよりもうんと穏やかに業務を終えた。

魔境を後にして竜樹さんに電話をすると、「今日は大丈夫だよ」というお返事。

「本当は元気な時に来て貰って、一緒に楽しい時間を過ごしたいねんけどな。
しんどい時ばっかり手を借りるような形になってごめんなぁ」
「ううん。本当に元気な日が続くようになったら、お伺い立てなくてもこの辺まで迎えに来てくれとうでしょ?」
「そうやぁ」

「ひとまず今日は休養して?」という言葉に甘えて、自宅方面に向かう電車に乗る。

ここんところ受容の部分の神経が眠ってるような状態が続いていたけれど、思考がクリアになることでいい意味でいろんなものを受け止めて進めたらいいな。
そう実感しながら1日を終えられたらなんて、車窓を流れる景色を見ながら思っていた。

そんな想いは数時間も経たないうちにものの見事に壊れてしまった。

穏やかだった1日の終わりに差し掛かる頃、心に漣が立つようなものがひとつ飛び込んできた。
それは、ここ数年それが起こる度に対処について頭を痛めてきたこと。
これまではぐるぐるきながらも無理矢理飲み込んでどうにかやり過ごしてきたけれど、今回ばかりはその作業をする気が起きない。
穏かな1日が打ち壊しになることで再び思考がぐるぐると迷走を繰り返す日々に逆戻りかと思っていたら、そんな状態でも頭が冷えてる状態は持続してたらしい。

不愉快さがじわじわと心の中で広がっていく前に、黙って不愉快溜まりごと消し飛ばしてた。

自分でも思い切りが悪くて辛気臭い性格が嫌で嫌でならないけど、ある点を通り越すと思考より行動の方が先に出ることもあるらしい。
すべて消し飛ばした後で自分の行動を振り返ってあまりの思い切りのよさにただただびっくりしたのだけど、不思議と後悔はなかった。

…昨日の雨で鬱々は流してきたんだ。辿り着きたい場所目指して進んでくよ?

「今まで葛藤してたのは、一体何だったの?」と首を傾げてしまうけれど、何度思い返しても気持ち悪いくらい後悔はない。
この先どう思うかは別として、これでいいんだと思ってる。
心に鬱屈を抱えたまま騙し騙し歩いて手に入れられるほど、私の欲しいものは容易いところにはないのだから…

受容と訣別の混在する時間。
何かを受け入れ何かを手放しながら、大切な想いを握り締めて歩いていく。

            
              
            

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