ふたりで撮った桜の写真
2004年4月3日窓の外はいい天気。
「今年は花見に行こう」と竜樹さんと話しながら、先週末そして記念日の日とずっと竜樹さんの体調が思わしくなくて延び延びになってた。
別に花見なんて出来なくてもいいけれど、花見に行くことでここんとこ塞ぎがちな竜樹さんの心が少しでも晴れたらそれが一番いいから。
そう思いながら用意をして家を出る。
吹く風が桜の花びらを散らしていく。
先週何故か咲く花の想いやら意志やら到底判るはずのないことを延々考えていた所為か、散る花を惜しむ気持ちと散っていく花にある種の潔さを見ながら坂道を降りていく。
駅に辿り着いたら、風に舞うのは花びらではなく何故か鳩の綿毛だったりして「何故鳩の綿毛?」と首を捻ってしまったけれど…
いつもなら竜樹邸に直行するのだけど、昨日の晩依頼してた書類を引き取りに行くと言ってしまったので、少し遠回りになるけれど先に書類を貰いに行くことにした。
お店の人は夕方に来るのだと思っていたようでちょっとバタバタされていたけれど、それほど時間を取ることもなく書類と作成に必要だった物品とを引き取って一路竜樹邸に急ぐ。
お店を出た頃は青空が広がってたのに、竜樹邸に着く頃には鈍色に変わっていた。
「これで雨が降ったらイヤやなぁ」と思いながらバスに乗り、窓を流れる景色を眺めていると満開の桜が何本も目に飛び込んでくる。
いつもなら視線をやることもない通りに桜並木があることに気づいて、「あ、これならここを歩くだけでもちょっとしたお花見気分を満喫できるかな?」なんて考えたり。
これで竜樹さんの体調が穏やかなら言うことはないんだけれど…
竜樹邸に着いて、少し遅くなってしまった訳を話し軽く食事を摂る。
バス通りを少し脇に入ったところに桜並木があることを話すと、少し考えて出かける用意をされる。
「体調はもひとつなんやけど、外に出ないと腐りそうやから出てみるわ」
そう言って車を出して、お散歩コースの公園に行く。
「…なんか、すっきりせぇへん空模様やなぁ」
「すいません。もう少し早く来たらよく晴れてたのにね」
「や、まさかこんなに早く曇ってくるなんて思わへんやろ?」
それでも、桜の木の下でマットを引いてプチ宴会やってる人々や広場でバトミントンやゲートのないゲートボールもどきのボール遊びをしてる人達がいて、何だか楽しそう。
ものすごく有名で広い公園という訳でもないのに、どういう訳か屋台まで出てる。
「たい焼き買いに行こう♪」
いつの間にチェックしてたのか竜樹さんはたい焼きの屋台のあるらしきところへとっとこ歩いていく。
「…あれ?こんな建物出来てた?」
「…いえ?私は知らないですよ。何時建ったんでしょうね?」
以前来た時には影も形もなかった建物が目に留まり、屋台に行くより先に中を探検。
なかなか面白そうなところなので、後日ゆっく遊ぼうかということで一旦出ることに。
たい焼きとたこ焼き、箸巻きチヂミを買って、ベンチ並んで座り桜を眺めながらもごもごと食べ始める。
体調が悪いという割に、よく歩き、よくたい焼きを食べる竜樹さん。
空が曇ってても2人で並んで桜を見ていられること、竜樹さんのやわらかい笑顔に触れられることが嬉しい。
ひとしきり食べ終わってベンチを後にし、また歩き始める。
「霄。この角度から桜撮ったらキレイやと思うで?」
カメラモードにした携帯を持つ私の手に手を添えて、ディスプレイ越しに「こうしたらいいんや」と指示をして一緒にシャッターを押す。
「なんかキレイに桜の色が出ぇへんなぁ」
「多分、曇っとうから光の入り方がいびつなんでしょうね」
そう言ってはまた2人であぁでもないこうでもないと言いながら場所や角度を変え、2人で携帯を握り締め2人でシャッターを押す。
写真を撮るという何気ないことですら一緒に出来ることがただ嬉しくて、何枚も何枚も桜を撮りつづけた。
吹く風が冷たくなってきたので、続きは明日にしようと公園を後にする。
このまま竜樹邸に戻っても良かったのだけど、せっかくだからと竜樹さんがよく行くお店で掘り出し物を探したり、ホームセンターに行って日用品を買ったりして戻ってきた。
買ってきたものを広げてみたり片付けてみたりしながら、竜樹さんが話したいと思ってたことを聞きながら楽しく過ごす。
多弁でない竜樹さんが自分から話したいと思うことを話してくれること。
それを出来るだけ壊さないように受け答えすることのすべてが愛しくて仕方ない。
何気ないことを受け止めて、受け止められすることが心にとても優しいこと。
それが竜樹さんとだから何倍増にもなること。
そんなことをかみ締めながら、暖かい時間を紡いでいく。
話の流れで抱き締めたり、くっついたり。
それを抱き締めながら自宅へ戻らずにここで過ごせたらなぁと思ってるうちに、竜樹さん抱き締めて眠ってしまってた。
「…そら、おなかが空いたから、ごはんを作ろ?」
そっと竜樹さんに起こされて久しぶりに2人で台所に立ち、何品か簡素なごはんを作って食べる。
「…このサラダは、ポテトベースにするといいんですよね」
「霄の炊いた揚げは介護士さんにも好評やってんで」
「温泉卵ってあんまり好きじゃないけれど、竜樹さんのは好き。美味しい」
あれやこれや食べ物談義をしながら遅い夕食を摂り、後片付け。
風邪が治ったところに車を長時間運転したり公園を長時間歩いたりして疲れてただろうと思うのに、自宅まで送ってくれた。
…気温が安定して竜樹さんの体調が落ち着いたら、私も次のことしなきゃ
延び延びになっていたことを始めなきゃ、次の手は打てない。
少しずつ竜樹さんに対して出来ることの可能性は増やさなきゃならない。
それを始めたら、竜樹さんの方のお世話が手薄になるのが気がかりだけど、そういっていつまでもせずに置いておくわけにもいかないなと思う。
「…明日にはこの雨、やむといいですね」
「そうやなぁ、やんだらちゃんと花見したいもんなぁ」
「しんどいのに、ありがとうね」
「…霄もちゃんと休みや?」
そう言って車を降りて、竜樹さんの車が見えなくなるまでお見送り。
…雨の中誰もいないおうちに帰るのはイヤだろうなぁ。
最近帰る時間が迫ると、寂しそうにする竜樹さんのことを思うと胸が痛む。
いろんな物事を動かす中で、難しいこと痛み伴うこと多いことは予測できてる。
でも片付けなきゃ、次にはいけない。
ふたりで何かをすること。
それが傍から見てとても知れたことであっても、2人でいればそれが幸せなんだと。
ふたりで何かを作り上げることが幸せなんだと。
だから前に進まなきゃって思う。
ふたりで撮った桜の写真を眺めながら、ふたりでひとつのことをする幸せな気持ちを思い返していた。
「今年は花見に行こう」と竜樹さんと話しながら、先週末そして記念日の日とずっと竜樹さんの体調が思わしくなくて延び延びになってた。
別に花見なんて出来なくてもいいけれど、花見に行くことでここんとこ塞ぎがちな竜樹さんの心が少しでも晴れたらそれが一番いいから。
そう思いながら用意をして家を出る。
吹く風が桜の花びらを散らしていく。
先週何故か咲く花の想いやら意志やら到底判るはずのないことを延々考えていた所為か、散る花を惜しむ気持ちと散っていく花にある種の潔さを見ながら坂道を降りていく。
駅に辿り着いたら、風に舞うのは花びらではなく何故か鳩の綿毛だったりして「何故鳩の綿毛?」と首を捻ってしまったけれど…
いつもなら竜樹邸に直行するのだけど、昨日の晩依頼してた書類を引き取りに行くと言ってしまったので、少し遠回りになるけれど先に書類を貰いに行くことにした。
お店の人は夕方に来るのだと思っていたようでちょっとバタバタされていたけれど、それほど時間を取ることもなく書類と作成に必要だった物品とを引き取って一路竜樹邸に急ぐ。
お店を出た頃は青空が広がってたのに、竜樹邸に着く頃には鈍色に変わっていた。
「これで雨が降ったらイヤやなぁ」と思いながらバスに乗り、窓を流れる景色を眺めていると満開の桜が何本も目に飛び込んでくる。
いつもなら視線をやることもない通りに桜並木があることに気づいて、「あ、これならここを歩くだけでもちょっとしたお花見気分を満喫できるかな?」なんて考えたり。
これで竜樹さんの体調が穏やかなら言うことはないんだけれど…
竜樹邸に着いて、少し遅くなってしまった訳を話し軽く食事を摂る。
バス通りを少し脇に入ったところに桜並木があることを話すと、少し考えて出かける用意をされる。
「体調はもひとつなんやけど、外に出ないと腐りそうやから出てみるわ」
そう言って車を出して、お散歩コースの公園に行く。
「…なんか、すっきりせぇへん空模様やなぁ」
「すいません。もう少し早く来たらよく晴れてたのにね」
「や、まさかこんなに早く曇ってくるなんて思わへんやろ?」
それでも、桜の木の下でマットを引いてプチ宴会やってる人々や広場でバトミントンやゲートのないゲートボールもどきのボール遊びをしてる人達がいて、何だか楽しそう。
ものすごく有名で広い公園という訳でもないのに、どういう訳か屋台まで出てる。
「たい焼き買いに行こう♪」
いつの間にチェックしてたのか竜樹さんはたい焼きの屋台のあるらしきところへとっとこ歩いていく。
「…あれ?こんな建物出来てた?」
「…いえ?私は知らないですよ。何時建ったんでしょうね?」
以前来た時には影も形もなかった建物が目に留まり、屋台に行くより先に中を探検。
なかなか面白そうなところなので、後日ゆっく遊ぼうかということで一旦出ることに。
たい焼きとたこ焼き、箸巻きチヂミを買って、ベンチ並んで座り桜を眺めながらもごもごと食べ始める。
体調が悪いという割に、よく歩き、よくたい焼きを食べる竜樹さん。
空が曇ってても2人で並んで桜を見ていられること、竜樹さんのやわらかい笑顔に触れられることが嬉しい。
ひとしきり食べ終わってベンチを後にし、また歩き始める。
「霄。この角度から桜撮ったらキレイやと思うで?」
カメラモードにした携帯を持つ私の手に手を添えて、ディスプレイ越しに「こうしたらいいんや」と指示をして一緒にシャッターを押す。
「なんかキレイに桜の色が出ぇへんなぁ」
「多分、曇っとうから光の入り方がいびつなんでしょうね」
そう言ってはまた2人であぁでもないこうでもないと言いながら場所や角度を変え、2人で携帯を握り締め2人でシャッターを押す。
写真を撮るという何気ないことですら一緒に出来ることがただ嬉しくて、何枚も何枚も桜を撮りつづけた。
吹く風が冷たくなってきたので、続きは明日にしようと公園を後にする。
このまま竜樹邸に戻っても良かったのだけど、せっかくだからと竜樹さんがよく行くお店で掘り出し物を探したり、ホームセンターに行って日用品を買ったりして戻ってきた。
買ってきたものを広げてみたり片付けてみたりしながら、竜樹さんが話したいと思ってたことを聞きながら楽しく過ごす。
多弁でない竜樹さんが自分から話したいと思うことを話してくれること。
それを出来るだけ壊さないように受け答えすることのすべてが愛しくて仕方ない。
何気ないことを受け止めて、受け止められすることが心にとても優しいこと。
それが竜樹さんとだから何倍増にもなること。
そんなことをかみ締めながら、暖かい時間を紡いでいく。
話の流れで抱き締めたり、くっついたり。
それを抱き締めながら自宅へ戻らずにここで過ごせたらなぁと思ってるうちに、竜樹さん抱き締めて眠ってしまってた。
「…そら、おなかが空いたから、ごはんを作ろ?」
そっと竜樹さんに起こされて久しぶりに2人で台所に立ち、何品か簡素なごはんを作って食べる。
「…このサラダは、ポテトベースにするといいんですよね」
「霄の炊いた揚げは介護士さんにも好評やってんで」
「温泉卵ってあんまり好きじゃないけれど、竜樹さんのは好き。美味しい」
あれやこれや食べ物談義をしながら遅い夕食を摂り、後片付け。
風邪が治ったところに車を長時間運転したり公園を長時間歩いたりして疲れてただろうと思うのに、自宅まで送ってくれた。
…気温が安定して竜樹さんの体調が落ち着いたら、私も次のことしなきゃ
延び延びになっていたことを始めなきゃ、次の手は打てない。
少しずつ竜樹さんに対して出来ることの可能性は増やさなきゃならない。
それを始めたら、竜樹さんの方のお世話が手薄になるのが気がかりだけど、そういっていつまでもせずに置いておくわけにもいかないなと思う。
「…明日にはこの雨、やむといいですね」
「そうやなぁ、やんだらちゃんと花見したいもんなぁ」
「しんどいのに、ありがとうね」
「…霄もちゃんと休みや?」
そう言って車を降りて、竜樹さんの車が見えなくなるまでお見送り。
…雨の中誰もいないおうちに帰るのはイヤだろうなぁ。
最近帰る時間が迫ると、寂しそうにする竜樹さんのことを思うと胸が痛む。
いろんな物事を動かす中で、難しいこと痛み伴うこと多いことは予測できてる。
でも片付けなきゃ、次にはいけない。
ふたりで何かをすること。
それが傍から見てとても知れたことであっても、2人でいればそれが幸せなんだと。
ふたりで何かを作り上げることが幸せなんだと。
だから前に進まなきゃって思う。
ふたりで撮った桜の写真を眺めながら、ふたりでひとつのことをする幸せな気持ちを思い返していた。
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