昨日は嬉しいこと盛り沢山で遠足に行く前の夜の子供みたいになかなか寝付けずにいた癖に、朝は妙に早い時間に目が覚める。
両親に週末外泊の許諾を再度確認するのを忘れてたことを思い出し、家を出る前にもう一度念押ししとかなきゃと思いながら、外泊分の用意も含めて身支度を整える。
リビングに降りるといつもと変わりない両親とプードルさん。
幾許か胸がドキドキするのを抑え、再度今晩から明日にかけて外泊する旨を念押しして、家を出る。

…いい加減、もっと堂々としてたいよなぁ

竜樹さんと過ごす時も友達と過ごす時も、毎度毎度家を出る許諾を得るのに心臓ばくばくいわせなきゃならないなんて本当はすごくイヤだったりする。
ましてや「竜樹邸に泊まります」なんてストレートに言おうものなら上を下をの大騒ぎ。
幾許かの工作をするのもとても嫌なものだから、いい加減やめたいなぁと思うけれど。
家の外に出てしまうまではある程度心配やら嫌な思いをさせないのも配慮のひとつなんだろうと詭弁めいたことで蓋をして魔境へ向かう。

今日は係長さまが休みなので、電話やら雑用やら孤軍奮闘は予想されるけれど、仕事が済めば竜樹さんが待っている。
そう思うと俄然元気が出てくる。
幸か不幸かそれほど厄介な案件が回ってこないので、落ち着いて少し先の日程の分まで書類を纏めておけるのも嬉しい。
時折話し掛けてくるボスの相手をし、仕事の予習をしたり、電話応対をしたりする。
そうしてるうちに、今日は帰社しない予定だったはずの部代も戻ってきて、事務所は奇妙なまでに賑やかになる。
仕事を早く片付けたいからと敢えて今日は昼休みもぶっつぶして仕事を進める。
気がつくと定例の竜樹さんへの電話を入れる時間がなくなっていた。

…あ、そういえば。

昨日の電話で今日の16時までにこないだ車を当てられた時の診断書を所定の機関に提出しなきゃならないって話をしてた。
本当ならそれは加害者がやるべきことなのにと私も竜樹さんもぶーたれながら、「まぁ、それが済めばひととおりこの件については解決することになるからしなきゃ仕方ない」と無理矢理飲み込んで一応しなければならないことだけは片付ける。

…ひととおり片付くとは言っても、竜樹さんの体にいらん後遺症が出なかったらいいねんけど

そういう心配はつきないけれど、それ以上のことは現時点の私にはできないから。
次に何かが起こったら如何に役立てるよう動けるかに心を配ればいいやと逸る気持ちを宥めて仕事を進めていく。
構えて臨んだものの昼からも気持ち悪いくらい仕事はなくて、また先の日程の分の書類を片付けていく。
午前中と同じく、時折ボスと部代の話に耳を傾け笑いながら、規定の時間は終了。
暖かい週末に向けて、全速力で駆け出す。

念のためにホームから電話を入れたら、弱い声の竜樹さん。

「お疲れー。1週間よう頑張ったなぁ」
「書類、ちゃんと出してこれた?」
「うん、何とか出してきてんけど、すんごい疲れてしもてん」
「今からそっちへ行くからね」
「…え?今日やった?」

……………( ゜^゜)!

この1週間私はすごく楽しみにしてたのに、当の竜樹さんはこんなもんだ。
別に怒りはしないけれど、ちょっとかくり。

「不都合やったら、私、このまま自宅へ戻りましょうか?」
「ちゃうねん、俺、今日まだ木曜日やと思ってたから。
来てやー」

「…判りました」

ホームに滑り込んできた電車に乗り込み、竜樹邸を目指す。
途中乗り換えの駅から何か買うものがないか聞こうと思って竜樹さんに電話を入れるけれど出られないので、メールをひとつ。
ほどなく返事が返ってくる。

「たまごとステーキ」

シンプルなメールには竜樹さんの定番商品が綴られている。
竜樹邸へ向かうバスに乗る前に食材を買い込み、また竜樹邸目指す。

竜樹邸の門を開けようとすると、玄関に人影。
扉を開けようとしたら、鍵は開いていた。
「すごいいいタイミングだよなぁ」と思ってると、奥の部屋から声がする。

「よぉ来てくれたなぁ」

愛しい週末の始まりだ。

「お疲れ様です」
「書類出しに行ったはいいけどすんごい疲れてしもて、おなかは空いてるのに食事を取る気がしないねん。
体を起こしつづけてるとすんごい背中が痛くなってくるし…」

竜樹さんのお布団の横にちょこんと座り込んでる私の手を握り返しながらそう話す。
痛み止めを飲んでもらうにしても、空きっ腹に結構キツイ薬を投げ込むのは却って体に悪い気がする。
幸い介護士さんが来られるようになってからは、私がこうして会社帰りに寄っても竜樹さんが食べる分の食事の用意は整ってるので、私が作り終えるまで辛抱してもらう必要性がなくなってる。
用意してもらった食事を温め、竜樹さんに横になってもらった状態で私が食事を口に運ぶ。

「霄はいいお母さんになれるわ」
「竜樹さん、よくそれ言いはりますよね?
いい奥さんの前にいいお母さんへ飛ぶのはちょっと悲しいんですが…」
「えー?そうかぁ。俺はいいと思ってんねんけど」

学生の時にも同性異性問わずそう言われ続けてきたから、慣れてしまってるといえば慣れてしまってるのだけど…
たまには「いい嫁さん」とかもちっとかわいらしい表現だといいなと思うあたりが大人気ない。
そうして何回も料理の熱を少し冷ましては竜樹さんの口へ運ぶを繰り返す。

「…ちょっと元気出てきたから、自分で食べれそうや」

そう言って起き上がり、そのまま食卓へ移動して二人で食事。
言葉少なだった竜樹さんもようやくいろんな話をするだけの余裕が出てきたみたいで、部屋に笑顔の花が咲くよう。

2人で過ごす時間は緩やかに過ぎていく。
2人で過ごす、長くて短い週末の始まり。

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