暖かな時間を育めるように…
2003年10月5日窓越しの空はすっかり夜の色に染まりつつある。
薄暗い中時計を見ると、そろそろ買出しに行かないとならない時間になってきた。
抱っこしつづけると手が痺れてくるのか、抱き締める腕の力がちょっと緩んできたので、そっと起き上がり竜樹さんに声をかける。
「…そろそろ夕飯の買出しに行かないとならないんですけど、何か買ってきましょうか?」
「………ん、2人で食べれる甘いものを………(p_-) …………」
いつもの竜樹さんなら口にしなさそうな台詞にびっくりしながらも「2人で食べれる甘いものですね?」と聞き返したら「…ゆっくり行っておいでぇ……(p_-) …………」とお返事が返ってきたので、静かに起き上がり着替えて竜樹邸を出る。
先にコンビニに出向いて2人で食べれる甘いものを買い、その足でスーパーに行こうと思ったけれど、不意に探し物を思い出して竜樹邸の近くにある模型屋さんへ行く。
あいにくそこにも私が探してるものはなかったけれど、次の週に入荷の予定があるということで取り置きのお願いをして暫くいつものように話し込む。
おかみさんの旦那さんが後片付けを手伝いに来られたので随分長いこと話し込んだんだなぁとは思っていたけれど、時計を見てびっくり。
1時間近く話し込んでいた。
おかみさんと旦那さんに謝り倒して、慌てて自転車に飛び乗りスーパーまでかっ飛ばす。
お昼に「きのこ鍋が食べたい」と話しておられたので、いろんな種類のきのこを買い込み、会計を済ませて竜樹邸にダッシュ。
竜樹邸の前まで戻ってくると、台所の電気が晧々とついている。
鍵を開けようと鞄をごそごそしてると、中から鍵を開けてくれる。
「…あ、起きてはったんですか?遅くなってごめんなさい」
「何時に出てったん?あんまり遅かったから模型屋さんに行ってるんやろうとは思ってたけど、もしかしたら事故にあったんちゃうかって思って心配しててん」
本当に心配そうな表情に食材片すのも忘れてひたすら謝りつづける。
「…いや、無事に戻ってきてんからええよぉ」とほっとしたように笑いかける竜樹さんの表情を見てほっとして食材を片付け始める。
「…そのキャミソール、かわいいなぁ」
「なかなかいいでしょー?(*^-^*)」
「でもその上にジャケットだけやったら寒かったんちゃうん?」
「結構寒かったですよー。寒くなるのも早いですよね?」
竜樹さんが私の着ていたキャミソールをかわいいと誉めてくれるのでジャケット半脱ぎ状態で食材を片しながら話をしてたけれど、しゃがんで作業をしてる私の腕をさするようにして話を聞いてる竜樹さん。
食材を片し終え、隣の部屋に移り暫く竜樹さんとくっついて話を続ける。
自転車走行で冷えた私の腕をさすり続ける竜樹さんの感じが何となく嬉しくて、そのままされるままになってる。
腕をさすりながら時折首筋やら鎖骨やらにキスをする竜樹さんの頭を抱え込むようにして抱き締める時間が続く。
何時の間にか熱を受け渡し、暫くくっついて横になっていた。
時計を見ると夕飯を作らないといけない時間になっていて、また慌てて起き上がり台所に立つ。
「おなか空いたー」と仰る竜樹さんに買ってきたチーズケーキを渡すと、きょとんとしておられる。
「霄が自分から甘いものを買ってくるなんて珍しいなぁ」
「何言うてはるんですか?甘いものを買ってきてって頼んだの竜樹さんやないですか?」
「えー、俺、そんなん言うたぁ?」
「ええ。出かける前に『何か買う物ないですか?』って聞いたら『ふたりで食べれる甘いものを』って言わはったん、竜樹さんやないですか」
「…俺、言うた覚えないで」
竜樹さんは寝ぼけて甘いものを買ってきてと仰ったのかと思ったら、寝てる時見た夢は前の会社でぼっこぼこに詰られいじめられてる夢だったという。
すごく嫌な夢で目が覚めたら、隣にいるはずの私がいなくて慌てたとのこと。
…なるほど。
それならあの心配ぶりも合点がいく。
よしよしとばかりにちょっと抱き締めて台所に戻り、きのこ鍋の用意をする。
鍋にだしを入れてありったけのきのこと豚肉を放り込み、ただただ煮込むだけの簡単料理。
煮込んでる間にお風呂を掃除してお湯を沸かす。
きのこ鍋はあっさり出来上がったものの、チーズケーキが思った以上におなかに溜まってしまったらしく、暫くテレビを見ながらまたくっついてお話。
暖かくて柔らかい時間はそっと流れていく。
ようやく竜樹さんがごはんを食べられるようになってきのこ鍋を食べ始めたけれど、気がつくと帰らなきゃならない時間まであと1時間半ほどしかなかった。
「…なぁ、そらちゃん帰るん?」
「うん。決して家に帰りたい訳じゃないんですけどね」
「帰ったらいややー "(ノ_・、)"」
「私も帰りたくはないんだけど、今日はお母さん一人になるから帰らんと…」
「…それやったら、しゃあないなぁ。
ホントはおって欲しいねんけど…」
今日から金岡父が旅行に出てる上にプードルさんも体調不良。
朝からてんてこまいだった金岡母をひとりにするのはさすがに具合が悪い気がしてそう言ったけれど…
…本当は私もここにいたいんですよ?
そんな気持ちをそっとこめて、竜樹邸を出るまで思う存分竜樹さんを甘やかした。
バスの時間が迫ってきたので帰る用意をしてる間もずっと竜樹さんが甘えてきてて、それをそっと解いて帰るのは相当勇気がいった。
「…また来るから、ね?」
「うん。気をつけて帰りやぁ」
玄関どころか門のところまで出て見送ってくれる竜樹さんの方を何度も何度も振り返りながら竜樹邸を後にした。
家に帰ると、プードルさんはひんやりしたフローリングの上にぐったりとして横になっていて、その傍で金岡母が座り込んでいる。
その姿を見ると帰ってきたのは間違いなく正しいのだとは思いながらも、竜樹さんをひとりにして帰ってきたことが気になって、本当にこれでよかったのかな?と考えてしまう。
この家を出るまでは間違いなくこうせざるを得ないのだということは承知してるけれど、それでも自分が帰る場所はずっと竜樹さんの許でありたいと思ってる。
…身体はどこにあっても、私はずっと竜樹さんの傍におるねんからね
そう思うことがどれほどの実を成すのかと問われたら、その想いそのものが何をか成すとは思わないけれど。
いつかそう遠くないうちにきっと、ずっと竜樹さんの傍にいれるようにしよう。
そのために出来ることを、現状で何が出来るのかを考えながら探りながら、残りの時間を過ごそう。
竜樹さんとふたりでいられることこそが、私の日常となるように…
ひとりになることを考えて怯えなくてもいいくらい、暖かな時間を育めるように…
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