まだ見ぬ明日の話が出来るなら…
2003年10月1日竜樹邸から戻ってきてから少し用事を片して眠りにつく。
ここ何週間か竜樹邸から戻って用事を片していると、どういう訳か寝つきが悪くて眠りにつくのが明け方頃になることが多かったのだけど、今回は用事が済んだらすぐに眠ってしまった。
朝が来ると身体が重いのは相変わらずだけど、気持ちの部分は割とすっきりしてる。
これが真の竜樹さん効果なら、大変嬉しいことだ。
今日から10月。
9月最初の日よりも外で起こってることに目立った変化はなく、目に見える変化といえばせいぜいがこの数日間止まっていた親会社絡みの業務がどっと動き出すということくらいか。
「あと3ヶ月もしたら正月やでぇ。また年齢とるなぁ」なんて話がちらりほらりと聞こえてくるのがちょっとした憂鬱と物思いを連れてくるけれど。
事務所にいるときにそれに感けていると、ろくなことがないのは言うまでもない話。
階段の踊場の小さな窓から見える青空を眺めながら、軽く気を吐いてどかっとやってくるだろう親会社絡みの仕事に挑む。
先輩のフロアに書類を取りに出向くと、無駄話を甘んじて受けても片付きそうな程度の書類しかなかった。
七転八倒させられることを覚悟して臨んだのに、ちょっと肩透かし。
一見仕事が少ないように見えるからと安心してるとすぐ痛い目に遭わされるのもまたこの会社のお約束だから、無駄話もほどほどに事務所に戻って仕事を片付け始める。
物理的仕事量はそれほど多くないけれど、事務所にかかってくる電話には頭が痛む。
瑣末なことといってもこちらが答えられること、もしくは答える必要のあることならば「それは仕事なんだから仕方ないか」と思うけれど、親会社の人々の多くは自社の中のことまでこちらに聞いてくる傾向が強く、思わず電話口で「はぁ!?」と聞き返したくなるようなことまでさも当然とばかりに聞いてくる。
投げられる質問に答えることについて突き詰めて考え出すとノイローゼになりそうな電話もあるので、電話の呼び出し音が鳴る度にうんざりした気分になる。
書類上の処理は少ないけれど、「自分とこの会社の担当部署に聞きなさいな」と思うよな電話ばかりに時間を取られ、既にぐったりしていた。
…まぁ、書類上の処理の立ち上がりがこの程度なら、楽な方だわね
些細ないいことでも拾っていかないと事務所飛び出したくなるような衝動に駆られるので、無理矢理自分にとって都合の良いことを穿り出してよしよしと自分を宥める。
本当はそうまでしなきゃならないこと自体に相当問題あるとは思ってるけれど…
昼休みになって、昼食を取りボスティをいれて後片付け。
暫く時間があったのでボスたちのお話にお付き合いしようかと思ったけれど、ちょうど話の内容が聞いてて気分が悪くなるような話だったので、携帯を持ってそっと事務所を脱出。
こそこそこそっと屋上へ向かう階段を上り、重い扉を開いて外に出て竜樹さんに電話してみる。
「はいはーい♪」
やたら明るいのでどうしたのか聞いてみると、こないだ私が竜樹さんの携帯にダウンロードした着メロがとても気に入ってるらしく、それを聞くだけで元気が出てくるような気になるんだとのこと。
ブラインドや書類棚ですっかり窓が塞がって外の天気が判り難い事務所でちゃんちゃんちゃんちゃん鳴り響く電話の呼び出し音を聞いてうんざりしてる私とは大違いだなと苦笑い。
けれど、自分の状態がどうあれ竜樹さんが楽しそうにしてるのは嬉しい。
ただ竜樹さんの声を聞いてたくて、世間話程度の話なのに携帯が折れるかと思うほどぎゅうぎゅう携帯に耳をくっつける。
「竜樹さんはダイエーのセールには行かはるんですか?」
「ダイエーのセールって何か買うものあるかぁ?」
…確かに(-_-;)
食料品だと日持ちがしないし、他に買いたいものは見当たらない。
でもお祭り騒ぎには気持ちだけ乗っかってみたい、そんな感じは私も竜樹さんも同じようで、あぁでもないこうでもないと話しは続く。
「…なぁ、そらちゃん。いっそこないだ見たパソコン買うかぁ?(*^-^*)」
竜樹さんが親しくしてる電気屋さんに性能のいい格安のノートパソコンが何台か入ってたので、景気付けにそれでも買いに行こうかということらしいけれど、一気に6桁の数字を動かせるほどに冷静さがなくなってる訳ではないし、どうせならふたりにとって役立つもののがいいなぁと思ってみたり…
「…や、パソコンもいいですけど、私、乾燥機付洗濯機の方がいいです」
「あ、洗濯機なぁ。
そらちゃんが洗ってくれた洗濯物はいいにおいがするから好きやねん(*^-^*)
乾燥機付洗濯機ならパソコンよりもっと役に立つもんなぁ…」
でも問題は今の竜樹邸に洗濯機の置き場がないということ。
正確には置き場は確保できるけれど、竜樹邸が非常に手狭になるということで、竜樹さんがあまりいい表情をしないというだけのこと。
私が時々竜樹さんの洗濯物を持ち帰って洗って持ってくる以外は専らコインランドリーのお世話になってる竜樹さん。
決して洗濯機が要らないという訳ではないので食指は動くようだけど、やっぱり手狭になるのはイヤみたい。
欲しいけど手狭になるのはイヤやなぁとちょっとお困り気味の竜樹さんに、何気なく言ってしまった。
「私が家を出て一緒に住む時にしましょか?洗濯機買うの。
竜樹さんが納得できるだけのスペースのあるとこ探して、ね?」
「そやなぁ。そらちゃんといるなら洗濯機はますます必需品やし、そうしよかぁ(*^-^*)」
まだ見ぬ明日の話を穏やかな空気の中で話せるなんて久しぶり。
身体の痛みと別れを告げられない状態、出口の見えない状態にどうしても先の話をするのは躊躇われて、「確約のない話はしたくない」という竜樹さんにはそれのがいいんだと思って敢えて口にしないできたけれど。
何気なく叶えたいなと思ってることをこそっと口にしてみて、それに明るい声で応えてくれること。
それだけで機嫌がよくないものをひっくり返そうという気力を育てられる気がする。
そんな穏やかな空気をずっと感じていたかった。
青い空の下で気分がすっかり晴れ渡るまで話していたかった。
けれど、踊場の方から事務所に戻ってくる人達の声がする。
事務所に戻る時間がきてしまった。
「それじゃ、行きますね」
「うん、昼からも力抜いて頑張って」
「はい(*^-^*)」
携帯を握り締めて重い扉の鍵を閉めて、事務所にこそっと戻る。
昼からもまた事務処理は少ないけれどうんざりするような電話が沢山かかってくること自体は変わりなかったけれど、気持ちが沈み込むことはなかった。
家に帰ると、玄関に小さな箱がひとつ。
よくよく見ると、壊れて修理に出したデジカメだった。
竜樹さんとふたりで買って、竜樹さんと一緒に何度も出かけたデジカメ。
それが突然壊れて、修理の見積もりを取ったら「もうちょっと足したら新しいの買えるよ?」って金額を提示され、「それなら買い換えた方がいいのかな」と諦めようとした時、竜樹さんが奔走してくれて安心して修理に出せるようにしてくれたこと。
竜樹さんとの想い出やいろんな出来事を知っていたカメラは、竜樹さんやいろんな人の尽力でまた今まで通りまた想い出を残してくれる。
カメラの入った箱を見つめ、いろんなことを思い返す。
いろんな想いの根っこの部分に竜樹さんがいてくれてるとはっきり感じられること。
それがますます私の気持ちを上向きにしてくれる。
不意に、今まで止めてた日記を本当に久しぶりに書いてみようかななんて思って、パソコンを開けてみた。
これまで竜樹さんへの想いや2人の出来事を書き綴ってきたゾンビちゃんの前で、今日の想いと向き合う。
きっかけは本当に些細なことで、別段取り立てて特別なものなんかじゃなくても。
いろいろと互いを縛り上げる要素に引き戻されることなく、気兼ねなく明日の話が出来ること。
そこに笑顔があること。
それは「まだやれる」って気持ちを呼び起こす。
まだ見ぬ明日の話を出来るなら。
それを本当に希いながら穏やかな気持ちと笑顔で育めるなら。
まだ大丈夫なんだって思う。
まだ大丈夫なんだって信じてる。
ここ何週間か竜樹邸から戻って用事を片していると、どういう訳か寝つきが悪くて眠りにつくのが明け方頃になることが多かったのだけど、今回は用事が済んだらすぐに眠ってしまった。
朝が来ると身体が重いのは相変わらずだけど、気持ちの部分は割とすっきりしてる。
これが真の竜樹さん効果なら、大変嬉しいことだ。
今日から10月。
9月最初の日よりも外で起こってることに目立った変化はなく、目に見える変化といえばせいぜいがこの数日間止まっていた親会社絡みの業務がどっと動き出すということくらいか。
「あと3ヶ月もしたら正月やでぇ。また年齢とるなぁ」なんて話がちらりほらりと聞こえてくるのがちょっとした憂鬱と物思いを連れてくるけれど。
事務所にいるときにそれに感けていると、ろくなことがないのは言うまでもない話。
階段の踊場の小さな窓から見える青空を眺めながら、軽く気を吐いてどかっとやってくるだろう親会社絡みの仕事に挑む。
先輩のフロアに書類を取りに出向くと、無駄話を甘んじて受けても片付きそうな程度の書類しかなかった。
七転八倒させられることを覚悟して臨んだのに、ちょっと肩透かし。
一見仕事が少ないように見えるからと安心してるとすぐ痛い目に遭わされるのもまたこの会社のお約束だから、無駄話もほどほどに事務所に戻って仕事を片付け始める。
物理的仕事量はそれほど多くないけれど、事務所にかかってくる電話には頭が痛む。
瑣末なことといってもこちらが答えられること、もしくは答える必要のあることならば「それは仕事なんだから仕方ないか」と思うけれど、親会社の人々の多くは自社の中のことまでこちらに聞いてくる傾向が強く、思わず電話口で「はぁ!?」と聞き返したくなるようなことまでさも当然とばかりに聞いてくる。
投げられる質問に答えることについて突き詰めて考え出すとノイローゼになりそうな電話もあるので、電話の呼び出し音が鳴る度にうんざりした気分になる。
書類上の処理は少ないけれど、「自分とこの会社の担当部署に聞きなさいな」と思うよな電話ばかりに時間を取られ、既にぐったりしていた。
…まぁ、書類上の処理の立ち上がりがこの程度なら、楽な方だわね
些細ないいことでも拾っていかないと事務所飛び出したくなるような衝動に駆られるので、無理矢理自分にとって都合の良いことを穿り出してよしよしと自分を宥める。
本当はそうまでしなきゃならないこと自体に相当問題あるとは思ってるけれど…
昼休みになって、昼食を取りボスティをいれて後片付け。
暫く時間があったのでボスたちのお話にお付き合いしようかと思ったけれど、ちょうど話の内容が聞いてて気分が悪くなるような話だったので、携帯を持ってそっと事務所を脱出。
こそこそこそっと屋上へ向かう階段を上り、重い扉を開いて外に出て竜樹さんに電話してみる。
「はいはーい♪」
やたら明るいのでどうしたのか聞いてみると、こないだ私が竜樹さんの携帯にダウンロードした着メロがとても気に入ってるらしく、それを聞くだけで元気が出てくるような気になるんだとのこと。
ブラインドや書類棚ですっかり窓が塞がって外の天気が判り難い事務所でちゃんちゃんちゃんちゃん鳴り響く電話の呼び出し音を聞いてうんざりしてる私とは大違いだなと苦笑い。
けれど、自分の状態がどうあれ竜樹さんが楽しそうにしてるのは嬉しい。
ただ竜樹さんの声を聞いてたくて、世間話程度の話なのに携帯が折れるかと思うほどぎゅうぎゅう携帯に耳をくっつける。
「竜樹さんはダイエーのセールには行かはるんですか?」
「ダイエーのセールって何か買うものあるかぁ?」
…確かに(-_-;)
食料品だと日持ちがしないし、他に買いたいものは見当たらない。
でもお祭り騒ぎには気持ちだけ乗っかってみたい、そんな感じは私も竜樹さんも同じようで、あぁでもないこうでもないと話しは続く。
「…なぁ、そらちゃん。いっそこないだ見たパソコン買うかぁ?(*^-^*)」
竜樹さんが親しくしてる電気屋さんに性能のいい格安のノートパソコンが何台か入ってたので、景気付けにそれでも買いに行こうかということらしいけれど、一気に6桁の数字を動かせるほどに冷静さがなくなってる訳ではないし、どうせならふたりにとって役立つもののがいいなぁと思ってみたり…
「…や、パソコンもいいですけど、私、乾燥機付洗濯機の方がいいです」
「あ、洗濯機なぁ。
そらちゃんが洗ってくれた洗濯物はいいにおいがするから好きやねん(*^-^*)
乾燥機付洗濯機ならパソコンよりもっと役に立つもんなぁ…」
でも問題は今の竜樹邸に洗濯機の置き場がないということ。
正確には置き場は確保できるけれど、竜樹邸が非常に手狭になるということで、竜樹さんがあまりいい表情をしないというだけのこと。
私が時々竜樹さんの洗濯物を持ち帰って洗って持ってくる以外は専らコインランドリーのお世話になってる竜樹さん。
決して洗濯機が要らないという訳ではないので食指は動くようだけど、やっぱり手狭になるのはイヤみたい。
欲しいけど手狭になるのはイヤやなぁとちょっとお困り気味の竜樹さんに、何気なく言ってしまった。
「私が家を出て一緒に住む時にしましょか?洗濯機買うの。
竜樹さんが納得できるだけのスペースのあるとこ探して、ね?」
「そやなぁ。そらちゃんといるなら洗濯機はますます必需品やし、そうしよかぁ(*^-^*)」
まだ見ぬ明日の話を穏やかな空気の中で話せるなんて久しぶり。
身体の痛みと別れを告げられない状態、出口の見えない状態にどうしても先の話をするのは躊躇われて、「確約のない話はしたくない」という竜樹さんにはそれのがいいんだと思って敢えて口にしないできたけれど。
何気なく叶えたいなと思ってることをこそっと口にしてみて、それに明るい声で応えてくれること。
それだけで機嫌がよくないものをひっくり返そうという気力を育てられる気がする。
そんな穏やかな空気をずっと感じていたかった。
青い空の下で気分がすっかり晴れ渡るまで話していたかった。
けれど、踊場の方から事務所に戻ってくる人達の声がする。
事務所に戻る時間がきてしまった。
「それじゃ、行きますね」
「うん、昼からも力抜いて頑張って」
「はい(*^-^*)」
携帯を握り締めて重い扉の鍵を閉めて、事務所にこそっと戻る。
昼からもまた事務処理は少ないけれどうんざりするような電話が沢山かかってくること自体は変わりなかったけれど、気持ちが沈み込むことはなかった。
家に帰ると、玄関に小さな箱がひとつ。
よくよく見ると、壊れて修理に出したデジカメだった。
竜樹さんとふたりで買って、竜樹さんと一緒に何度も出かけたデジカメ。
それが突然壊れて、修理の見積もりを取ったら「もうちょっと足したら新しいの買えるよ?」って金額を提示され、「それなら買い換えた方がいいのかな」と諦めようとした時、竜樹さんが奔走してくれて安心して修理に出せるようにしてくれたこと。
竜樹さんとの想い出やいろんな出来事を知っていたカメラは、竜樹さんやいろんな人の尽力でまた今まで通りまた想い出を残してくれる。
カメラの入った箱を見つめ、いろんなことを思い返す。
いろんな想いの根っこの部分に竜樹さんがいてくれてるとはっきり感じられること。
それがますます私の気持ちを上向きにしてくれる。
不意に、今まで止めてた日記を本当に久しぶりに書いてみようかななんて思って、パソコンを開けてみた。
これまで竜樹さんへの想いや2人の出来事を書き綴ってきたゾンビちゃんの前で、今日の想いと向き合う。
きっかけは本当に些細なことで、別段取り立てて特別なものなんかじゃなくても。
いろいろと互いを縛り上げる要素に引き戻されることなく、気兼ねなく明日の話が出来ること。
そこに笑顔があること。
それは「まだやれる」って気持ちを呼び起こす。
まだ見ぬ明日の話を出来るなら。
それを本当に希いながら穏やかな気持ちと笑顔で育めるなら。
まだ大丈夫なんだって思う。
まだ大丈夫なんだって信じてる。
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