歩を進めるよ
2003年9月29日日中不規則な睡眠を取ったせいなのかなかなか寝付けず、結局朝まで一睡もすることが出来なかった。
身体はそれほどしんどくはなかったけれど、注意力散漫で持って出なければならなかったものを幾つも忘れてきてしまった。
週明け必ず感じる出勤に対する嫌悪感が増してくると身体そのものが出社拒否に向けて総力をあげるような症状が出てくるけれど、今日は会社に荷物が届くからと社会人にあるまじき理由付けをして無理矢理移動を繰り返す。
今週は親会社絡みの業務の一部が止まるので、しなければならない物理的な仕事量は減っているはずなのに、ちまちまちまとしなければならないことが多くていつまで経ってもすっきりしない。
きっとそれは極度の寝不足と週明けの登社拒否モードが発動してるからに他ならないとは思うけれど、仕事の進みの悪さが思考の低空飛行を加速させていく。
…一体、いつまでこんなバカみたいなことを繰り返さなあかんねやろ?
仕事に対する意欲は年々低下してて、万が一突然会社に出られなくなるようなことがあった時に最低限滞りなく業務がまわるようにしとかなきゃという意識だけで仕事をしてる状態は、あまりに非建設的だよなと自分でも思う。
「いろんなことに縛られてなければ、とうの昔にこんなところ出てってやれたのに」と、恨みがましいことを考えてしまうのが堪らなくイヤ。
低空飛行の意識が仕事のミスを引き起こすことが往々にしてあるので、あまりにがくんときそうになると踊場に避難して意識を建て直し、また仕事に戻るを繰り返す。
どうにか仕事に支障を来たすことなくよろよろと仕事をしてたけれど、私を含めて数人の社員のちょっとした連携の悪さが仕事に支障をきたしたことが判る。
尤も私が気づいて対処できることといったら、「いつもと数値が違うから、もしかしたら現行の仕様ではダメなんじゃないですか?」ということだけで、差異が判ったところで具体的にどう対処したらいいかなんてことまでは私自身対処法を知らされてはいない。
最初にその物件を対処してたボスがきちんと後任の課員にそれを伝えてなかったのも課員自身に「どこかおかしい?」っていう勘を呼び起こすに足りなかった原因ではあったし、この件について具体的に「誰が悪い」ということなんてなかったんだろうけど。
今担当してる課員は「金岡が気づかなかった所為でこうなった」と謂わんがばかりの口調で後手の対処に奔走してる。
…そこまで言いますか?
元々この人は何かにつけてずっと喧のある態度でやってこられてたから今に始まった話じゃないわと思うけれど、今日は「あー、この人こーいう人だわ」で片付ける気も起こらず、重要案件について何ひとつ引継ぎしてなかったボスに一言言う気も起こらず、自分の業務が終わったらとっとと事務所を後にした。
帰り際、先輩に「ねぇやん、目の下真っ青やでぇ(゜o゜)」と指摘されてた通りだと、随分青い顔をしてるのが電車のドアに映る自分自身の姿から判る。
移動を繰り返し、途中下車して用事を済ませ、もう一度また電車に乗ろうかと思ったけれど、またドア側に立った時窓に映る自分の疲れた姿を見たくなかったのと、少し身体を動かしてみたくなって最寄駅より何駅か手前から自宅まで歩いて帰ることにした。
吹く風が随分涼しく、いくら歩いても汗ばむ感じもなく気持ちよく歩ける。
何気なく空を見上げては「あー、火星ってパパラチアサファイアみたいな色しとうなぁ」とか「今日の月はえらく大きく見えるなぁ」とか思いながら歩を進める。
何時の間にか、たかと会う時いつも歩いてた道までやってきてた。
いろいろ起こることを都度伝えてくれるたかと整理できるまで話さない私。
この道を歩きながらひとしきりたかの話を聞き、いざ自分のことに話を振られると口を閉ざす私にたかはよく怒ってた。
「そらは何も言わなければ誰も心配しないと思ってるんだろうけど、何も言わずにげそっと痩せてる姿を見たら、何があったのか、何を考えてるのか伝えてくれた方がはるかに安心するんだよ?」
そう言ってくれたたかは今は海の向こう。
がくんとやってくる低空飛行の思考回路は手紙に認めてもたかの手元に届く頃には大したことではなくなってるはずだし、たかの手元に届く頃まで解消されてないことは結局誰に話しても解決する訳のないことだと自分自身が判ってるから伝えようとは思わない。
…だからこそ、たったといろんなものを片したいんだよ、自分の手で。
「いつまでもこんなヤツでごめんよぉ、たかぁ(-人-)」と残像のたかにちょっと詫びながら、たかと歩く道を通り過ぎ大きな月とパパラチア色の火星をお供にてくてく歩き続ける。
いろんなものが今すぐに片付かないことも、本当に欲しいものはまだ多分手に入らないだろうことも重々承知してる。
何重にも鎖がかけられてるような感じが否めないまま時間だけが過ぎていくような感覚を覚えることに苛立ちを覚え、多分そんな状態に竜樹さんもまた苛立ちを覚え。
その繰り返しに耐えかねて、重い腰を上げてまず絡まった鎖のうちの1本に手をつけた。
「来年家を出るよ」と父にだけでなく母にも伝えたこと。
本当なら「竜樹さんと一緒に暮らしたいから家を出るよ」と伝えたかったけれど、現時点ではその冠をつけることが出来ない事情が多すぎる。
冠をつけても大丈夫な状態というものに拘りつづけていたら、いつまでも鎖の大元に手をつけることは出来ないから、敢えて冠を外して歩を進める。
勢いよく鎖を引きちぎるには力が足りなくて、さりとて雁字搦めでいることに甘んじる気にもなれなくて、どちらを選んでも楽しいことや満たされることよりも負担やある種の負い目が増えることも理解して。
それでも歩を進めることを選び取る。
…もしも、この先。
歩を進めることを選んだことで自分の生命だけに足らず大切な誰かのことを抱えることにまで負担だと感じるようになるならば、その時はいざよく進路を変えよう。
誰かを抱えることを負担だと感じてしまうほどに愛情や思いやりがなくなるなら、そんな道を歩み続けることが正しいことだとは思えないから。
それは別に今思った訳じゃなく、竜樹さんが病に倒れてからずっと思ってたことではったのだけど、どうしても会社で不機嫌なことばかり続くとつい自分ばかりしんどい思いをしてるような感覚に陥りがちで、このところその傾向が顕著だったと自分でも感じていたから、辛いと感じることについて自分以外の何かのせいにしないために敢えて当たり前なことを思い起こす。
立ち止まることなく歩いてるうちに徐々に思考はフラットな私に返りつつあるのが判ったのは、ちょっと嬉しかった。
他人には「たまには立ち止まってまわりの景色を見てみよう」なんていう私は、ただ家に向かって歩くという行為の中ですら立ち止まることを知らない。
結構な坂道を延々振り返ることなく歩きつづける。
止まれば二度と歩けなくなるんじゃないかと思ってるんじゃなかろうかと自らが感じるほどに…
別に立ち止まれば二度と歩けなくなるなんて訳はない。
周りの景色を見てからの方がはるかに歩きやすくなることだってあることも知ってる。
それでも、今は立ち止まる気にはならない。
流れる景色を眺めながら向かいたい場所にただ意識をおいて歩くのは、辿り着いた場所から振り返る景色がそれまで見つめた景色以上に美しいと感じることを知ってるから。
すべてを振り返るのは、手にしたい場所に辿り着いてからでいい。
たらたらした思考回路は家に辿り着く頃にはいくらかの前向きを取り戻していた。
洗面所で顔を洗って鏡に映った私の顔からは不思議と青さが消えていた。
そして夕飯も美味しいと感じながら食べることが出来て、思わず呟いてしまった。
「…あぁ、私、まだ大丈夫だわ」
金岡母は「どしたの?」という表情をしてたけど、「うん、まだ大丈夫だわ」とだけ呟いてまた平然とごはんを食べつづけた。
「寝も足りないし…」と自室でうつらうつらしてたら部屋電が鳴る。
「そらちゃん、どうしてるかと思って♪(*^-^*)」
その言葉の後に続いた台詞はちょっとばか聞き捨てならないなと思いながらも、心配の裏返しなのかもなと感じる部分もあって突っ込むのを見合わせた。
長電話が苦手な竜樹さんが長電話してくれるのも、今私がいてる場所にはいろんなものがありすぎてい気が詰まりそうだということを暗に知ってくれてるからなんだということも判るから、うにゃうにゃいいながら竜樹さんの声を聞きつづけた。
…一緒に歩くために、私も歩を進めるよ。
その先にあるものが鈍色の景色であっても。
竜樹さんがそこにいれば、きっと透き通る青のような素敵な何かに出会えると思うから。
身体はそれほどしんどくはなかったけれど、注意力散漫で持って出なければならなかったものを幾つも忘れてきてしまった。
週明け必ず感じる出勤に対する嫌悪感が増してくると身体そのものが出社拒否に向けて総力をあげるような症状が出てくるけれど、今日は会社に荷物が届くからと社会人にあるまじき理由付けをして無理矢理移動を繰り返す。
今週は親会社絡みの業務の一部が止まるので、しなければならない物理的な仕事量は減っているはずなのに、ちまちまちまとしなければならないことが多くていつまで経ってもすっきりしない。
きっとそれは極度の寝不足と週明けの登社拒否モードが発動してるからに他ならないとは思うけれど、仕事の進みの悪さが思考の低空飛行を加速させていく。
…一体、いつまでこんなバカみたいなことを繰り返さなあかんねやろ?
仕事に対する意欲は年々低下してて、万が一突然会社に出られなくなるようなことがあった時に最低限滞りなく業務がまわるようにしとかなきゃという意識だけで仕事をしてる状態は、あまりに非建設的だよなと自分でも思う。
「いろんなことに縛られてなければ、とうの昔にこんなところ出てってやれたのに」と、恨みがましいことを考えてしまうのが堪らなくイヤ。
低空飛行の意識が仕事のミスを引き起こすことが往々にしてあるので、あまりにがくんときそうになると踊場に避難して意識を建て直し、また仕事に戻るを繰り返す。
どうにか仕事に支障を来たすことなくよろよろと仕事をしてたけれど、私を含めて数人の社員のちょっとした連携の悪さが仕事に支障をきたしたことが判る。
尤も私が気づいて対処できることといったら、「いつもと数値が違うから、もしかしたら現行の仕様ではダメなんじゃないですか?」ということだけで、差異が判ったところで具体的にどう対処したらいいかなんてことまでは私自身対処法を知らされてはいない。
最初にその物件を対処してたボスがきちんと後任の課員にそれを伝えてなかったのも課員自身に「どこかおかしい?」っていう勘を呼び起こすに足りなかった原因ではあったし、この件について具体的に「誰が悪い」ということなんてなかったんだろうけど。
今担当してる課員は「金岡が気づかなかった所為でこうなった」と謂わんがばかりの口調で後手の対処に奔走してる。
…そこまで言いますか?
元々この人は何かにつけてずっと喧のある態度でやってこられてたから今に始まった話じゃないわと思うけれど、今日は「あー、この人こーいう人だわ」で片付ける気も起こらず、重要案件について何ひとつ引継ぎしてなかったボスに一言言う気も起こらず、自分の業務が終わったらとっとと事務所を後にした。
帰り際、先輩に「ねぇやん、目の下真っ青やでぇ(゜o゜)」と指摘されてた通りだと、随分青い顔をしてるのが電車のドアに映る自分自身の姿から判る。
移動を繰り返し、途中下車して用事を済ませ、もう一度また電車に乗ろうかと思ったけれど、またドア側に立った時窓に映る自分の疲れた姿を見たくなかったのと、少し身体を動かしてみたくなって最寄駅より何駅か手前から自宅まで歩いて帰ることにした。
吹く風が随分涼しく、いくら歩いても汗ばむ感じもなく気持ちよく歩ける。
何気なく空を見上げては「あー、火星ってパパラチアサファイアみたいな色しとうなぁ」とか「今日の月はえらく大きく見えるなぁ」とか思いながら歩を進める。
何時の間にか、たかと会う時いつも歩いてた道までやってきてた。
いろいろ起こることを都度伝えてくれるたかと整理できるまで話さない私。
この道を歩きながらひとしきりたかの話を聞き、いざ自分のことに話を振られると口を閉ざす私にたかはよく怒ってた。
「そらは何も言わなければ誰も心配しないと思ってるんだろうけど、何も言わずにげそっと痩せてる姿を見たら、何があったのか、何を考えてるのか伝えてくれた方がはるかに安心するんだよ?」
そう言ってくれたたかは今は海の向こう。
がくんとやってくる低空飛行の思考回路は手紙に認めてもたかの手元に届く頃には大したことではなくなってるはずだし、たかの手元に届く頃まで解消されてないことは結局誰に話しても解決する訳のないことだと自分自身が判ってるから伝えようとは思わない。
…だからこそ、たったといろんなものを片したいんだよ、自分の手で。
「いつまでもこんなヤツでごめんよぉ、たかぁ(-人-)」と残像のたかにちょっと詫びながら、たかと歩く道を通り過ぎ大きな月とパパラチア色の火星をお供にてくてく歩き続ける。
いろんなものが今すぐに片付かないことも、本当に欲しいものはまだ多分手に入らないだろうことも重々承知してる。
何重にも鎖がかけられてるような感じが否めないまま時間だけが過ぎていくような感覚を覚えることに苛立ちを覚え、多分そんな状態に竜樹さんもまた苛立ちを覚え。
その繰り返しに耐えかねて、重い腰を上げてまず絡まった鎖のうちの1本に手をつけた。
「来年家を出るよ」と父にだけでなく母にも伝えたこと。
本当なら「竜樹さんと一緒に暮らしたいから家を出るよ」と伝えたかったけれど、現時点ではその冠をつけることが出来ない事情が多すぎる。
冠をつけても大丈夫な状態というものに拘りつづけていたら、いつまでも鎖の大元に手をつけることは出来ないから、敢えて冠を外して歩を進める。
勢いよく鎖を引きちぎるには力が足りなくて、さりとて雁字搦めでいることに甘んじる気にもなれなくて、どちらを選んでも楽しいことや満たされることよりも負担やある種の負い目が増えることも理解して。
それでも歩を進めることを選び取る。
…もしも、この先。
歩を進めることを選んだことで自分の生命だけに足らず大切な誰かのことを抱えることにまで負担だと感じるようになるならば、その時はいざよく進路を変えよう。
誰かを抱えることを負担だと感じてしまうほどに愛情や思いやりがなくなるなら、そんな道を歩み続けることが正しいことだとは思えないから。
それは別に今思った訳じゃなく、竜樹さんが病に倒れてからずっと思ってたことではったのだけど、どうしても会社で不機嫌なことばかり続くとつい自分ばかりしんどい思いをしてるような感覚に陥りがちで、このところその傾向が顕著だったと自分でも感じていたから、辛いと感じることについて自分以外の何かのせいにしないために敢えて当たり前なことを思い起こす。
立ち止まることなく歩いてるうちに徐々に思考はフラットな私に返りつつあるのが判ったのは、ちょっと嬉しかった。
他人には「たまには立ち止まってまわりの景色を見てみよう」なんていう私は、ただ家に向かって歩くという行為の中ですら立ち止まることを知らない。
結構な坂道を延々振り返ることなく歩きつづける。
止まれば二度と歩けなくなるんじゃないかと思ってるんじゃなかろうかと自らが感じるほどに…
別に立ち止まれば二度と歩けなくなるなんて訳はない。
周りの景色を見てからの方がはるかに歩きやすくなることだってあることも知ってる。
それでも、今は立ち止まる気にはならない。
流れる景色を眺めながら向かいたい場所にただ意識をおいて歩くのは、辿り着いた場所から振り返る景色がそれまで見つめた景色以上に美しいと感じることを知ってるから。
すべてを振り返るのは、手にしたい場所に辿り着いてからでいい。
たらたらした思考回路は家に辿り着く頃にはいくらかの前向きを取り戻していた。
洗面所で顔を洗って鏡に映った私の顔からは不思議と青さが消えていた。
そして夕飯も美味しいと感じながら食べることが出来て、思わず呟いてしまった。
「…あぁ、私、まだ大丈夫だわ」
金岡母は「どしたの?」という表情をしてたけど、「うん、まだ大丈夫だわ」とだけ呟いてまた平然とごはんを食べつづけた。
「寝も足りないし…」と自室でうつらうつらしてたら部屋電が鳴る。
「そらちゃん、どうしてるかと思って♪(*^-^*)」
その言葉の後に続いた台詞はちょっとばか聞き捨てならないなと思いながらも、心配の裏返しなのかもなと感じる部分もあって突っ込むのを見合わせた。
長電話が苦手な竜樹さんが長電話してくれるのも、今私がいてる場所にはいろんなものがありすぎてい気が詰まりそうだということを暗に知ってくれてるからなんだということも判るから、うにゃうにゃいいながら竜樹さんの声を聞きつづけた。
…一緒に歩くために、私も歩を進めるよ。
その先にあるものが鈍色の景色であっても。
竜樹さんがそこにいれば、きっと透き通る青のような素敵な何かに出会えると思うから。
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