気持ちを和らげる何かに触れながら
2003年5月1日外は抜けるような青空が広がっている。
このところ鈍色の空をうんざりしたような面持ちで眺めたり、じけじけした空気や不安定な気圧に身体のあちこちが不調続きでげんなりしていたのだけど、すっきりとした青空が広がっているならまだ機嫌はいい。
快晴で風が強いとヒノキの花粉がまいまいして、それが目やら鼻やらめろめろにしていくけれど、あと2日仕事をすれば連休後半戦。
昨日おこづかいを頂いたのだから頑張ろうと、ひとつ気を吐き家を出る。
案の定、ヒノキの花粉でめろめろ状態。
それとは関係ないのだろうけれど、今までよろよろと頑張りつづけてた携帯がメールを受信するもそれをセンターから引き取って来れない、メールを打っても飛ばせない状態に陥る。
さりげなく会社に着いてからもメールを飛ばそうと試みるけれど、いつまで経っても打った文字は携帯から離れてはいかない。
…とうとう携帯くんはご臨終ですか(-_-;)
携帯の不調にショックと苛立ちは隠せないけれど、それに引きずられると仕事まで絶不調極めるので、鞄の奥底に携帯をぎゅーと押し込んで、仕事を始める。
身体から休みボケが少し抜けてきたからなのか、物理的に仕事がないからなのかはよく判らないけれど、作業の進みは割といい。
長く続いた鬱っ気もここにきて少しばかり形を潜めてきてるようで、何をするにも蹴躓くような感覚からは解放されつつある。
この会社の人々は誰もが常にマイペース。
それは私もマイペースで仕事を片せばいいんだということの裏返しでもあるとは知りながら、どうもこの人達の間の悪さは性に合わない。
それでも「えへへ、今頃出てきちゃったよ。こんなんが(*^-^)ゞ」って感じで仕事を持ってぷらりとやってくる社員さんを一蹴することもできず「あー、そうですかぁ。調べますね、へへ(もっと早く気づけよとは思うけれど)」と片付ける私もまた随分ヤキが回ったなぁと鼻から息が抜けそうになりはしても、そこから鬱々に転落していかないのは予想してなかったお小遣い効果なのか、それとも鬱々ループの軌道から上手に逸れていけたからなのか。
「ちゃぁんちゃちゃぁんちゃちゃっちゃちゃー、ちゃっちゃっちゃちゃちゃっちゃちゃー♪」
大音量で「教えて」の着メロが事務所に鳴り響く。
そうかと思ったら威風堂々のクラブミックスもどきな着メロに変わり、また「教えて」に戻る。
電話で結構シリアスな話をしてる時に、いきなり「めぇぇぇぇぇっ」とヤギの鳴き声。
「やっぱり、これはあかんかなぁ?」
「やめましょうよー、笑いものになりますよ(-_-)」
昨日機種変かけた電話の着メロを設定するためにボスが音を鳴らしつづける。
おかげで電話口でいきなり笑い出さないように堪えるのが大変。
…ほんっと、よくよく緊迫感ないよなぁ
先月末あたりから事務所のあちらこちらで厄介な案件が勃発してたから、これくらいのガス抜きは必要なんだろう。
どこ吹く風でヤギをめーめー鳴かしてるボスに思わず笑みが零れる。
1年通じての勝負ってやつは、緊迫感Onlyでは持たないのかも知れない。
長期戦を常にテンション高いまま乗り切ることは難しい。
それは今まで歩いてきた道程考えたら十分に理解してたつもりだけど、行き詰まり感を引きずったままでは道を拓くに無理があるんだよなと、めーめーヤギを鳴かしてるボスの姿から改めてそんなことを感じ取りながら、仕事を片していく。
昼休みになっても、ボスの携帯からは大音量でいろんな着メロが流れる。
「教えて」とクラブミックス調威風堂々で迷うボス。
「途中でヤギが鳴くのってかわいくていいですね」と私が素で発した言葉をボスは拾い上げてしまった。
あいたたたな表情してる部代を尻目ににこにこ顔のボス。
数時間後には部代に説き伏せられて別の曲にしておられたけれど、暫くするとヤギがめー。
そんな姿に少しばかり元気を貰う。
私の携帯も昼休みにはどうにか稼動するようになったから、ほっと一安心。
珍しく機嫌よく事務所を後にする。
今週末は海衣がお江戸から戻ってくる関係でいつ竜樹邸に行けるのかちと読めないので、一度竜樹邸に出向いておこうかなと思った。
竜樹邸から帰宅後、一度も連絡が取れないのも気になる。
元気で遊びまわってて連絡するのを忘れてるだけならいいのだけれど、往々にして連絡取れないほどに調子が悪くてということが多いから。
「これからお伺いします」というメールを飛ばし、途中で食材を買い込んで電車を乗り継ぎ竜樹邸を目指す。
竜樹邸の最寄の停留所を降りた時、声をかけられる。
「誰やろ?」と思って顔をあげると、竜樹父さんの笑顔が見える。
「一緒のバスに乗っててんなぁ」
「あ、そうだったんですね。気づきませんでした」
竜樹邸までご一緒することになる。
仕事のことや今度の休みのことなど、いろいろと話しながらおうちを目指す。
「仕事の帰りなんてしんどいやろうに、いつもありがとうなぁ」
「いえ、家に帰ってしてることと殆ど同じようなことを竜樹さんとこでしてるので、あまりしんどくはないんですよ」
「それでも余計な移動をせんなんのはしんどいで」
「そんなことないですよ。竜樹さんとこに寄って帰るといい気分転換になりますから」
ありがたがってもらえるほどのことは本当に何もしてないから、改めてそのことに触れられるとくすぐったい感じはするけれど、さりげなくすることを認めてもらえるのは嬉しい。
その後仕事の話に及んだけれど、このご時世でいい話が聞けるところなんて本当に稀だってことを再認識するだけ。
「しんどくても、今は踏ん張って続けやぁ」と励まされて、別れた。
「こんにちはー」
竜樹邸にあがると、竜樹さんはくたっと横になっておられた。
部屋がやたら暖かいので話を聞いてみると、寒気がするとのこと。
どうやらこないだからの不安定な天候で風邪を召されたのかも知れない。
荷物を置いてそのまま台所に立ち、流しにある洗い物を片付けて簡単なごはんを作り始める。
あっさりしたものでないと身体が受け付けないとのことなので、簡単な肉豆腐と竜樹さんのリクエストで釜揚げうどんを作って食卓に置く。
「霄はごはん食べへんの?」
「冷蔵庫の中にあるものをみて考えてからにします」
竜樹さんが食べておられる間、向かいに座ってその様子を眺める。
一生懸命食べておられるのは相変わらずだけど、食べてる様子からも具合が悪いことが見て取れる。
あまりじっと見つづけても食べられないだろうと思って、冷蔵庫の中のもので日持ちしなさそうなものを選って適当に味付けして調理する。
名前のつけようのないような料理でも竜樹さんに出すものはそれなりのものにするけれど、自分が食べる時は本当に適当に作ってしまう。
竜樹さんを見つめては適当名もなきごはんを食べ、横になってる竜樹さんと少し話をした後、また後片付けを始める。
後片付けを終えて時計を見ると、帰らないといけない時間まではまだ間がある。
徐に油で汚れてるレンジをキレイに磨き始める。
キレイ好きの竜樹さんがレンジにまで手がまわらないところを見ると、相当具合が悪いんだなぁというのがよく判る。
きちっとしてないといーーーってなる竜樹さんがいーーーってなる気持ちすら起きないほどに具合が悪いのだと思うと、胸が痛くなる。
きこきこレンジを磨き、油汚れの面影すら見当たらないところまで徹底的に磨いて、リビングに戻る。
眠りが浅い竜樹さんが珍しくくすーっと眠っておられた。
竜樹さんの隣にちょこんと座り、その寝顔をそっと眺める。
「…そらちゃあん、テレビ見ぃやぁ……」
一瞬起きてるのかと思うような反応に驚きながらも、またくすーっと眠りに還って行く様子を見て痛みと愛しさが同時に心の中を掠めた気がする。
いろんな兼ね合いを考えると、あまり悠長に構えてる訳にはいかない。
さりとて、急激に物事を動かせる状況でもない。
いつまでじっとやり過ごせば大風は凪ぐのか、風の凪ぐタイミングが見えない。
それをやるせなく思ってるのは私だけでなく竜樹さんも同じなのだろうと思うけれど…
劇的な変化を齎すことのできない私を大切に想ってくれる竜樹さん。
竜樹さんの傍で何かの役に立てたらという気持ちしか取り得のない私をかわいがってくれる竜樹さんのご両親。
そして、安心させるに足りるだけの要素を提示できないまま、自分の意志だけを押し通す形を堪えながら黙認してる私の家族。
あとどれだけ頑張れるのかは自分でも判らないけれど。
いつか身体の不調に苛まれることなく、何かしらの不安を両手にいっぱい抱えすぎることなく、竜樹さんがただ安心ひとつを手に入れてぐっすり眠れるように。
不調に苛まれた結果、意識をなくすような眠りではなく、純然と休むために眠れるような、そんな場所を手に入れるまでは、投げることなく出来ることをしていくだけ。
いつか安心感で満たされた寝顔を見つめられるように。
大切に想う人の心に晴れた空を取り戻せるように。
時折気持ちを和らげる何かに触れながら、ただ投げずに出来ることをしていくだけ。
このところ鈍色の空をうんざりしたような面持ちで眺めたり、じけじけした空気や不安定な気圧に身体のあちこちが不調続きでげんなりしていたのだけど、すっきりとした青空が広がっているならまだ機嫌はいい。
快晴で風が強いとヒノキの花粉がまいまいして、それが目やら鼻やらめろめろにしていくけれど、あと2日仕事をすれば連休後半戦。
昨日おこづかいを頂いたのだから頑張ろうと、ひとつ気を吐き家を出る。
案の定、ヒノキの花粉でめろめろ状態。
それとは関係ないのだろうけれど、今までよろよろと頑張りつづけてた携帯がメールを受信するもそれをセンターから引き取って来れない、メールを打っても飛ばせない状態に陥る。
さりげなく会社に着いてからもメールを飛ばそうと試みるけれど、いつまで経っても打った文字は携帯から離れてはいかない。
…とうとう携帯くんはご臨終ですか(-_-;)
携帯の不調にショックと苛立ちは隠せないけれど、それに引きずられると仕事まで絶不調極めるので、鞄の奥底に携帯をぎゅーと押し込んで、仕事を始める。
身体から休みボケが少し抜けてきたからなのか、物理的に仕事がないからなのかはよく判らないけれど、作業の進みは割といい。
長く続いた鬱っ気もここにきて少しばかり形を潜めてきてるようで、何をするにも蹴躓くような感覚からは解放されつつある。
この会社の人々は誰もが常にマイペース。
それは私もマイペースで仕事を片せばいいんだということの裏返しでもあるとは知りながら、どうもこの人達の間の悪さは性に合わない。
それでも「えへへ、今頃出てきちゃったよ。こんなんが(*^-^)ゞ」って感じで仕事を持ってぷらりとやってくる社員さんを一蹴することもできず「あー、そうですかぁ。調べますね、へへ(もっと早く気づけよとは思うけれど)」と片付ける私もまた随分ヤキが回ったなぁと鼻から息が抜けそうになりはしても、そこから鬱々に転落していかないのは予想してなかったお小遣い効果なのか、それとも鬱々ループの軌道から上手に逸れていけたからなのか。
「ちゃぁんちゃちゃぁんちゃちゃっちゃちゃー、ちゃっちゃっちゃちゃちゃっちゃちゃー♪」
大音量で「教えて」の着メロが事務所に鳴り響く。
そうかと思ったら威風堂々のクラブミックスもどきな着メロに変わり、また「教えて」に戻る。
電話で結構シリアスな話をしてる時に、いきなり「めぇぇぇぇぇっ」とヤギの鳴き声。
「やっぱり、これはあかんかなぁ?」
「やめましょうよー、笑いものになりますよ(-_-)」
昨日機種変かけた電話の着メロを設定するためにボスが音を鳴らしつづける。
おかげで電話口でいきなり笑い出さないように堪えるのが大変。
…ほんっと、よくよく緊迫感ないよなぁ
先月末あたりから事務所のあちらこちらで厄介な案件が勃発してたから、これくらいのガス抜きは必要なんだろう。
どこ吹く風でヤギをめーめー鳴かしてるボスに思わず笑みが零れる。
1年通じての勝負ってやつは、緊迫感Onlyでは持たないのかも知れない。
長期戦を常にテンション高いまま乗り切ることは難しい。
それは今まで歩いてきた道程考えたら十分に理解してたつもりだけど、行き詰まり感を引きずったままでは道を拓くに無理があるんだよなと、めーめーヤギを鳴かしてるボスの姿から改めてそんなことを感じ取りながら、仕事を片していく。
昼休みになっても、ボスの携帯からは大音量でいろんな着メロが流れる。
「教えて」とクラブミックス調威風堂々で迷うボス。
「途中でヤギが鳴くのってかわいくていいですね」と私が素で発した言葉をボスは拾い上げてしまった。
あいたたたな表情してる部代を尻目ににこにこ顔のボス。
数時間後には部代に説き伏せられて別の曲にしておられたけれど、暫くするとヤギがめー。
そんな姿に少しばかり元気を貰う。
私の携帯も昼休みにはどうにか稼動するようになったから、ほっと一安心。
珍しく機嫌よく事務所を後にする。
今週末は海衣がお江戸から戻ってくる関係でいつ竜樹邸に行けるのかちと読めないので、一度竜樹邸に出向いておこうかなと思った。
竜樹邸から帰宅後、一度も連絡が取れないのも気になる。
元気で遊びまわってて連絡するのを忘れてるだけならいいのだけれど、往々にして連絡取れないほどに調子が悪くてということが多いから。
「これからお伺いします」というメールを飛ばし、途中で食材を買い込んで電車を乗り継ぎ竜樹邸を目指す。
竜樹邸の最寄の停留所を降りた時、声をかけられる。
「誰やろ?」と思って顔をあげると、竜樹父さんの笑顔が見える。
「一緒のバスに乗っててんなぁ」
「あ、そうだったんですね。気づきませんでした」
竜樹邸までご一緒することになる。
仕事のことや今度の休みのことなど、いろいろと話しながらおうちを目指す。
「仕事の帰りなんてしんどいやろうに、いつもありがとうなぁ」
「いえ、家に帰ってしてることと殆ど同じようなことを竜樹さんとこでしてるので、あまりしんどくはないんですよ」
「それでも余計な移動をせんなんのはしんどいで」
「そんなことないですよ。竜樹さんとこに寄って帰るといい気分転換になりますから」
ありがたがってもらえるほどのことは本当に何もしてないから、改めてそのことに触れられるとくすぐったい感じはするけれど、さりげなくすることを認めてもらえるのは嬉しい。
その後仕事の話に及んだけれど、このご時世でいい話が聞けるところなんて本当に稀だってことを再認識するだけ。
「しんどくても、今は踏ん張って続けやぁ」と励まされて、別れた。
「こんにちはー」
竜樹邸にあがると、竜樹さんはくたっと横になっておられた。
部屋がやたら暖かいので話を聞いてみると、寒気がするとのこと。
どうやらこないだからの不安定な天候で風邪を召されたのかも知れない。
荷物を置いてそのまま台所に立ち、流しにある洗い物を片付けて簡単なごはんを作り始める。
あっさりしたものでないと身体が受け付けないとのことなので、簡単な肉豆腐と竜樹さんのリクエストで釜揚げうどんを作って食卓に置く。
「霄はごはん食べへんの?」
「冷蔵庫の中にあるものをみて考えてからにします」
竜樹さんが食べておられる間、向かいに座ってその様子を眺める。
一生懸命食べておられるのは相変わらずだけど、食べてる様子からも具合が悪いことが見て取れる。
あまりじっと見つづけても食べられないだろうと思って、冷蔵庫の中のもので日持ちしなさそうなものを選って適当に味付けして調理する。
名前のつけようのないような料理でも竜樹さんに出すものはそれなりのものにするけれど、自分が食べる時は本当に適当に作ってしまう。
竜樹さんを見つめては適当名もなきごはんを食べ、横になってる竜樹さんと少し話をした後、また後片付けを始める。
後片付けを終えて時計を見ると、帰らないといけない時間まではまだ間がある。
徐に油で汚れてるレンジをキレイに磨き始める。
キレイ好きの竜樹さんがレンジにまで手がまわらないところを見ると、相当具合が悪いんだなぁというのがよく判る。
きちっとしてないといーーーってなる竜樹さんがいーーーってなる気持ちすら起きないほどに具合が悪いのだと思うと、胸が痛くなる。
きこきこレンジを磨き、油汚れの面影すら見当たらないところまで徹底的に磨いて、リビングに戻る。
眠りが浅い竜樹さんが珍しくくすーっと眠っておられた。
竜樹さんの隣にちょこんと座り、その寝顔をそっと眺める。
「…そらちゃあん、テレビ見ぃやぁ……」
一瞬起きてるのかと思うような反応に驚きながらも、またくすーっと眠りに還って行く様子を見て痛みと愛しさが同時に心の中を掠めた気がする。
いろんな兼ね合いを考えると、あまり悠長に構えてる訳にはいかない。
さりとて、急激に物事を動かせる状況でもない。
いつまでじっとやり過ごせば大風は凪ぐのか、風の凪ぐタイミングが見えない。
それをやるせなく思ってるのは私だけでなく竜樹さんも同じなのだろうと思うけれど…
劇的な変化を齎すことのできない私を大切に想ってくれる竜樹さん。
竜樹さんの傍で何かの役に立てたらという気持ちしか取り得のない私をかわいがってくれる竜樹さんのご両親。
そして、安心させるに足りるだけの要素を提示できないまま、自分の意志だけを押し通す形を堪えながら黙認してる私の家族。
あとどれだけ頑張れるのかは自分でも判らないけれど。
いつか身体の不調に苛まれることなく、何かしらの不安を両手にいっぱい抱えすぎることなく、竜樹さんがただ安心ひとつを手に入れてぐっすり眠れるように。
不調に苛まれた結果、意識をなくすような眠りではなく、純然と休むために眠れるような、そんな場所を手に入れるまでは、投げることなく出来ることをしていくだけ。
いつか安心感で満たされた寝顔を見つめられるように。
大切に想う人の心に晴れた空を取り戻せるように。
時折気持ちを和らげる何かに触れながら、ただ投げずに出来ることをしていくだけ。
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