暖かい時間に触れて

2003年4月11日
いつもよりも長く感じた1週間がようやく終わる。
胃痛に始まり胃痛に終わる1週間。
気分もどこか沈みがちで、竜樹さんが届けてくれる暖かな気持ちに引っ張られるようにしてどうにかこうにか乗り越えてきた気がする。
水曜日にお医者さんで貰ってきた薬を飲んで、家を出る。

「大丈夫かな?」と思って出てきたのだけど、空は鈍色。
傘を持って出てくればよかったかなと思ったけれど、今日は事務所ががら空きになる可能性があるから帰宅時までは社屋の外に出ることはない。
帰宅する頃にはやむだろうと嵩を括って、そのまま傘を取りに戻らずに移動する。


会社に着いて暫くすると、空から大粒の雨が降り始めた。


今日は昼から課員さんの大多数の人が外出する。
個々が決めたスケジュールに則っている外出というよりは、殆ど強制連行に近いだろうか。
私はその強制連行組には入っていないから、1日事務所で係長さまと数少ない留守番組課員さんと留守番。


「事務所にいない人限って、内からも外からも火急の用件が舞い込む。
しかもそれをちゃんと解決できる人に限って、連絡が取れない」


これがこの会社のお約束。
いっそ強制連行組がいてる午前中に火急の用件が済みますようにと願いながら、洗濯当番に午前中のフローにと奔走する。
予想以上に事務所が立て込んできてるので、洗濯もスムーズに進まない。
さりとて書類関係の処理は必要だからと、仕方なくなく先輩のいるフロアに行くと、機関銃の如く話し掛けてくる先輩。

「今日は昼から事務所が殆ど無人になるので、午前中は前倒しで忙しいんですよ」って前置きしてても、話は留まることを知らず。
この人は自分が暇ならみんな暇だと思い込んでいらっしゃるらしく、いつまでもいつまでも一方的に話しつづけてる。
失礼だとは思いながら、殆ど気のないはいはい返事をして時々時計を見上げるも、いつまで経っても終わりそうにない。
強引に話を切りにかかって3度目か4度目かでやっと解放。

一気に疲れが出る。


親しげに話し掛けられることが嫌だというわけではないけれど、周りの空気や相手の都合も考えず自分の思うことだけ捲くし立てる人は正直好きにはなれない。
私もちょっとした言葉遊びはする方だと思うけれど、先輩の言葉遊びのセンスはどうにも受け入れがたいものがある。
話をして多少でも楽しいと思うから連日話し掛けてこられるのだろうとは思っても、それをありがたいと思って受け入れることが出来ないのは、私がクソ意地悪いからだろうか。

鬱々と考えても仕方のないことを考えながら事務所に戻り、足止め食らってる間に溜まってしまった書類を片付け始める。


お医者さんから出されてる薬の効果がないのか、どんどん胃痛とちょっとした吐き気が復活してくる。
胃が上がってくるような感覚に耐え切れなくなって、竜樹さんから貰った強力なる胃薬を飲む。
暫くするとようやっと胃痛から解放されたので、またきりきりと仕事を片付けつづける。


ただ、胃の痛みは取れたけれど、鬱々は残ったまま。
外は依然として雨が降り続いている。
昼休みがやってきても、鬱々した気持ちのまま昼からの仕事の下準備をしていた

ふと窓の外の雨が気になって、メールをひとつ飛ばす。


「雨です(T^T)
降りそうな気はしてたのに、傘を忘れてきちゃいました
竜樹さんのお加減はいかがですか?」


それに対するお返事はなかったから、多分調子が悪いんだろう。
時計を見上げて慌てて食事を摂り、後片付け。
昼からは極端に暇になるか、極端に厄介な問題を抱えるかのどちらか。
いない人の物件で厄介なことが起こりませんようにと祈るように昼からの仕事に入る。


ささやかなる願いを他所に、ここにいない人の問題ばかりが次々と沸き起こる。
こちらよりも電話かけてきてる人の方がよっぽどその課員の近くにいるというのに…(-_-;)
「あなたが探しておられる課員はそちらにおりますから、そちらで本人に確認してください」とは言える筈もなく。
それでも明らかに出かけてる本人に聞いた方が早い内容のものは可能な限りそちらにいる課員に尋ねてくださいとお願いして、また別のトラブルの火消しにかかる。

胃が痛いのは言うまでもないけれど、今度は頭まで痛くなってきた。
多分天気と気圧の関係で頭が痛むのだろうとは思いながら、電話の着信音なんて聞くのも嫌なくらい痛みが続く。

胃痛と頭痛を宥め宥め、これ以上ひどい鬱々に捕まらないように気をつけながら、よろよろと仕事をこなした。


ふと気を吐いた時、鞄が揺れていることに気づいた。
こっそり覗くと、竜樹さんからのメールだった。


「雨(T^T)だったら迎えに行きましょう(’v’)/
最寄の駅で待ってます。
定時には終われそうですか?(’’)?」


私の何気ない一言が不調かもしれない竜樹さんを無理矢理動かせてしまってるのならひどく申し訳ない気がするけれど、疲れた神経にはかなりの栄養剤にはなったらしい。
音を立てないようにこっそりと最寄駅に着きそうな時間を打ち、そっと空へ放つ。
後は週明けにげんなりしそうな芽を摘む作業に徹し、予定よりも少し遅く事務所を後にした。


小雨降る中自転車をかっ飛ばして、竜樹さんが待つ場所に向かう。


「ごめんなさい、雨が降っててしんどかったんじゃないですか?」
「いや、俺は大したことないねんけど…
……なんか霄、めっちゃ疲れた顔してるで?」
「………そうでしょうね(-_-;)」


自分でも硬い表情が固着してるんじゃないかって気はしてたから、傍から見たらとんでもなく疲れて見えたんだろう。
会社の鬱々は会社を出たら忘れるように努力はしてるものの、今日の事務所は野戦病院状態だったから、ものの見事にげんなりした顔をしてたんだろう。
それでも時折ぽつぽつと交わす会話で、徐々にいろんな固さが落ちていって、柔らかい部分を取り戻しつつあるような気がする。


竜樹邸に着く頃には、硬かった表情も幾分柔らかくなったみたいで、ほにゃっとした笑顔にほにゃっと笑顔が返せるようにはなっていた。


竜樹邸に入り、ニュースを見ながら竜樹さんと言葉を交わす。
暫くすると台所に立つ竜樹さん。


「そらちゃん、おなか空いたやろ?
ここにダシがあるから、ここにうどん入れたらすぐに食べられるで(*^-^*)」

竜樹さんが別の作業をしてる間、その隣で私はうどんを茹でる。
うどんが茹であがり器に2人分分けて注ごうとしたら、「俺はもう少し後で食べるから、先に食べ」とひとこと。
茹であがったうどんを持ってリビングに移動して、竜樹さんの方をむいて食べ始める。


「ダシはちょうどええか?」
「はい、丁度いいです(*^-^*)」


竜樹さんの腕に感心しながら、黙々とうどんを食べる。
食べ終わって片付けをした後、竜樹さんの横で転がっていると、じゃれっこモードにシフトしていく。
そのままくっついてじゃれっこしてる。

暫くじゃれあってると、今度は竜樹さんがおなかを空かせた模様。
台所に立って非常に簡単なごはんを作って、今度は2人で食事。
胃の調子が悪いくせに、「そらちゃんも食べ?」と言われるとつい食べてしまうのは悪い癖。
胃が重いなぁと思いつつ、竜樹さんと向かい合って食べる食事の時間が愛しくてならない。


食べ終わると、そっと強力なる胃薬と水をくれる。
それを飲み込んで、またくっついて話す。


「だいぶ元気が戻ってきたけど、多分1週間分の疲れが蓄積してるだろうから、明日はゆっくりめにおいで。
無理矢理早く起きてこなくてええから」
「ゆっくり休んで、明日は元気な表情でお伺いできるようにしときますね」
「そうしてくれなぁ。そらちゃんが元気でいてくれたら、俺も元気でいられるから」


そう言って、帰る用意を始める。


家を出てさえいれば、竜樹さんに帰る時間を急かせることもなければ、私も竜樹さんの傍を離れなくても済むのだけれど、短い時間でも会えること、竜樹さんに触れられることが日々を生き抜く力になるには違いないから。


鬱々に捕まりそうになったら、今度は自力で竜樹さんの許へ行こう。
そして、いつか竜樹さんが鬱々に捕まりそうになった時、それをなるべく軽く出来る自分になりたいって思う。


暖かな時間に触れて改めてそんなことを考えたりした。



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