週明けはいつもかなり憂鬱。
窓の外はよく晴れていて絶好の桜日和だというのに、会社に行かなきゃならない。
しかも、鼻やら喉やらあちこち調子がおかしい。

朝一番に金岡家の電話が鳴り、金岡母はばたばたしはじめる。
どうやら、友達と花見に行くことが決まったらしい。


…いいなぁ、花見。


昨日は花見に行くのに一番いい時間をプードルさんと留守番する羽目になり、今日は天気がいいのに会社に行かなきゃならない。
それは会社勤めしてれば仕方ないこととはいえ、根拠レスなる理不尽さを覚えたりする。


…桜は来年、竜樹さんと2人で見ればいいんだもんね"(ノ_・、)"


朝から少々いじけモードで家を出る。

会社に着くと、机の上は突発の仕事の山。
優先順位をつけたくても、どれもこれも急ぎでしなきゃならない。
週明けにげんなりしたくないからと、週末躍起になって仕事を片しても殆ど意味がない状態。
思わず回れ右して帰りたくなったけれど、来てしまったからには仕方がないから黙々とこなす。
黙々とこなしてもどんどん降ってくる仕事に嫌気を通り越して、鬱っ気が頭を擡げてくる。

しかも書類を取りに行けば、先輩はやたら暇らしく、話を切っても切っても繋いでくる。
「事務所が立て込んでますから」と言ってもまったく意味がない。


…ホンマにもう、大概にせぇやヽ(`⌒´)ノ


一撃かましそうになるのを寸止めしながら帰るタイミングを見計らってると、別の課の課長が来たのでそれに乗じて事務所に戻る。

私が席を外してる間にも、突発仕事は山積状態。
親会社からの緊急の書類チェックまで入って、鬱っ気は最高潮。
それでもそれを抑えるものを持ち合わせてない状態では、じっと仕事を片して自分の中の鬱屈がおとなしくなるのを待つしかない。
ボスが部代と話してる些細なことでもかちかちきながら、黙々と仕事を片す。


突発の仕事すべてと通常業務の一部を除いては午前中に終わらせることが出来たけれど、気を抜いた途端、鼻の不調に加えて胃と背中が痛くなってきた。
昼食を食べることそのものが煩わしく感じられるほどあちらこちら痛むので、痛みがひくまでじっとしてる。

ようやっと少し落ち着いたので、近況報告がてらメールをひとつ。


「こんにちは、よく晴れていますね。
こんなところでじっとしてないで、お花見にでも行きたいです。
竜樹さんが元気だと信じて、あと数時間持ち堪えさせます」


鬱っ気がひどいことは黙っておいた。
それは言わずと知れたことでもあるけれど、言葉にするとその重さだけが飛んでいきそうな気がしたから。
やっつけ仕事のようにごはんを食べ、ボスティーを煎れ、後片付けしてまた仕事。
多分、鬱っ気がひどいまま1日が終わるんだろうなぁって思ってた。


一通り済ませなければならないフローを片付け、ほっとしてると鞄が揺れる。
こっそり覗いてみると、メールがひとつ。


「炊き込みごはん、できたぞぉ。
そらちゃんがくれた分。
うまくできたかはまだ判りません。
エビチリ炒めもあっという間に作りました。
食べにくる?」


…行かない訳、ないじゃないですか?(*^-^*)


残るはゴミ回収のみ。
明日するつもりだった親会社に提出するための資料をまとめたものを校正かけて、各課員のゴミ箱のゴミを回収し事務所を後にする。

大急ぎで着替えて社屋を飛び出し、自転車かっ飛ばして駅へ向かう。


「何とか1日乗り切れたので、ご褒美貰いに行きます♪
…私の分、残しておいてね」


すぐに手の中で携帯が震える。


「残してあるよ。
うまくいけば、夜桜も見れるかも
車からだけどね」


…いいかもしんない♪o(^-^o)o(^-^)o(o^-^)o


夜桜を2人で眺められるのも嬉しいけれど、車の運転をしても大丈夫なくらい元気だということ。
竜樹さんが元気なら、それほど嬉しいことはないんだ。

電車が乗換駅に着き、ホームからホームへと駆け抜ける。
そうして滑り込んできた電車に飛び乗り、また移動。
移動の度に走りつづけて、最短の時間で竜樹邸に到着。


「…あれ?早かってんなぁ」
「移動の時間はすべてダッシュで短縮したから(o^−^o)」


ほにゃっとした笑顔に会社での鬱っ気なんて吹き飛んでしまう。
暫くテレビを見ながら話していたけれど、不意に竜樹さんが立ち上がる。


「ちょっとお母さんの具合が悪いから、作ったものを届けてくるわ」


具合の悪い竜樹母さんにエビチリはないだろうと思って何か作ろうかと思ったけれど、竜樹母さん用のあっさりしたものを用意してた模様。
大目の炊き込み御飯と竜樹父さんにとエビチリを添えて、実家へ持っていかれた。

日頃多忙を極めている竜樹母さんは時折がくんとブレーキがかかる。
そのスパンが短くなってきてて、今後どうしたらいいのだろうかと考えてしまう。
ただ基本的には竜樹さんのご実家のことはご実家に任せ、ご実家の方針を逸脱しない程度にしか手伝えるはずはないのだけれど。
3月末から抱えつづけてる問題にも付随することだから、思考はよりぐるぐると頭の中を駆け巡る。


「ただいまー♪」
「あ、お帰りなさい♪(o^−^o)」


にぱっと笑顔を向けて、そのまままた2人で話し始める。


「なんかねぇ、明日は春の嵐が来るらしいですよ」
「え?明日、雨なん?」
「午前中から風雨が強まるとかいう話ですよ?」
「そしたら今日で桜も終わりかぁ…」


そんな話をしながら、食事の用意をして夕食を食べ始める。
竜樹母さんから差し入れのお返しにと頂いたいかなごの佃煮に春を感じ、竜樹さんが作った炊き込みごはんとエビチリに食事の幸せを感じる。
やっつけ仕事のように食べる食事のことを思うと雲泥の差だ。
最近は自宅ですら、食事を摂るのが煩わしいと感じることがあるのに…


…こんな時間が頻繁に重ねられるようになったら、自宅に帰るのすら煩わしくなるんだろうなぁ


それは別に今に始まったことじゃないけれど…

食事を終え、後片付けをしてリビングに戻る。
何とはなしにくっついていられる時間もとても暖かくて幸せな感じがする。
それが昂じて互いを包む熱はあがってきて、やがてそれは安心して眠るに足りるものに変わる。


「…そらぁ、もうそろそろ起きやぁ」


竜樹さんの柔らかな声に起こされて、帰り支度を始める。
外に出ると、いつものように寒くて震え上がるような空気ではなく、ひどく心地のいい温度。
それは竜樹さんの身体にやさしく働く温度。
暑くなりすぎず寒くなりすぎず、こんな天候がずっと続けばいいのに…


いつも竜樹さんに送ってもらう時は帰る時間が押し迫っていて車を飛ばす羽目になるのだけれど、今日はゆったりとしたスピードで車は走り続ける。
早く金岡家に辿り着くために通る近道は殺風景な通りで、下手をすると私の家の近くまで桜なんて見ることは叶わない。

けれど、今日はゆっくりしたスピードで桜のある通りを選んで走ってくれる。
今年は2人で見ることは叶わないだろう桜を竜樹さんは見せてくれる。


「夜桜は車から見るに限るやろ?身体は冷えへんし」
「でも車を運転してたら、竜樹さんは桜見られへんでしょ?」
「時々信号で止まった時に桜を見れたら十分や」


そうしてゆるやかなる夜桜ドライブもやがて終わりを迎える。


「今日は美味しいものをご馳走になった上に、桜まで見せてもらってありがとうございました。
明日からその貯金で頑張ります」
「…や、頑張りすぎたら壊れるから、何か楽しいと思うことが出来るだけの余力は残しときやぁ」


暖かな空間に別れを告げるのは辛いけれど、竜樹さんが元気でいてくれるならきっとまたこんな時間を築くことは出来るから。


平日に突然舞い込むちいさなご褒美を楽しみにしながら、また明日からも頑張ろう。



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