嬉しさも悲しみも抱えながら…
2003年4月5日「今週末、天気がよかったら花見にでも行こうかぁ」
先週末竜樹邸に泊まった時からずっとそんな話をしていた。
竜樹さんは法事に行ったり出かけたりした先で何度か桜を見たと話していたけれど。
滅多に雑誌を買わない竜樹さんが、今年の桜情報の載った雑誌を買っていたこと。
「桜デートなんて誰とするんですか?」と冗談めいて聞いたら、「そんなん、霄しかおれへんよ」と答えてくれたこと。
そのことを思い返すと、やっぱりふたりで今年の桜を眺めたいって思った。
けれど、漆黒の闇夜に降り注ぐのは激しい雨。
気を紛らわすつもりで作りかけのキットに手をつけるけれど、少しも気が紛れない。
そうしてふらりとネット散歩して、悲しみに触れた。
まっすぐなまでの悲しみのシンパシーは広がって、心の深層部を鷲掴みにする。
心の中にある想いのかけらを拾い集めて言葉に置き換えたいと思っても、鷲掴みにされた心から生まれるものはどれひとつとして届けるには足りる気がしない。
ただ悲しみは広がり、それを増長するように漆黒の闇と雨音に心が揺れる。
眠らないまま竜樹さんの許に行って彼に元気など分けられようはずもない。
無理矢理横になって、暫くやるせない思いを抱えていた。
そうして、桜散らす雨と思い煩いに包まれるようにして、何時の間にか意識を落とした。
寝た時間が明け方だったにもかかわらず、目が覚めたのは出勤時と変わらない時間。
身体が重いのは相変わらずだけど、頭痛がないのはよしとしようか。
昨夜ほどの激しさはないけれど、外は鈍色の雨が降りしきる。
「これで花見はなくなったか」
それでも、竜樹さんといられればそれでよかった。
「そらちゃんに会いたい」という竜樹さんに早く会いに行きたかった。
出かける用意をしてると家族に捕まるのはこの家のお約束ではあるけれど、非常に最低限度の用事を片して家を出る。
外の雨は降りが緩やかになり、何時の間にかスプレーのような雨に変わっていた。
傘を差すほどのことはないけれど、傘を差さずに歩けば何時の間にか濡れている。
そんな中、いつもよりは比較的ゆっくりしたペースで道端に植わっている桜を眺める。
昨日あれほど雨は強く降ったのに、それほど桜は散っていない。
強い雨にも散りもせず咲きつづける桜に、生命の強さを感じる。
それは幾分、悲しみに鷲掴みにされてる私の心に勇気をくれる。
根拠レスだけど、生きていれば大丈夫だと。
電車に乗って、ようやく陽の光を見た。
ふと言葉が心の底から湧きあがったので、そっと飛ばす。
それを復唱することで私自身にも言い聞かせるような、ありふれた表現だけど想いだけは強い短い言葉。
すぐに返事が返ってきたので何となく話しかけたくなったけれど、電車の移動は続く。
幸い、竜樹邸に向かうバスが渋滞でなかなか来なかったので、電話してみる。
直に触れる心からはやっぱり悲しみが伝わるけれど。
それでもまだ大丈夫だと、そう思ってもらえたらって思ってバスが来るまでじっと話を聞いていた。
そうしてるうちにバスが来てしまい、一旦話を切ることになった。
竜樹邸に着いてからまた話したらいいって思って、バスが竜樹邸の最寄駅に着くのをじっと待っていた。
バス停に着き、駆け足で竜樹邸に向かうと…
「そらちゃん、おなか空いたやろ?カニ玉は失敗したけれど、回鍋肉は美味くできてん♪(o^−^o)」
…雨降りだった割に花が咲いたような明るい笑顔を向けられると、つい食卓についてしまう。
「食事を摂ったら、も一度電話するからね」と電話を入れようとしたら、メールがひとつ。
その言葉に申し訳なさを覚えながら、竜樹さんの作ってくれたごはんを食べ始める。
竜樹さんの料理は美味しい。
味付けのお手伝いをするものがあったり自炊経験があったりするのもあるのだろうけど、冬場キッチンに立つことができないくらいに調子が悪かったことを思うと、飛躍的に元気になってるのが見て取れる。
「美味しいか?霄?」
「すんごいすんごい、おいしいです(≧▽≦)」
それは竜樹さんが元気になった証しのひとつでもあるのだから。
それがただ嬉しかった。
食事を終えて後片付けをして、陽の光が差し込む2階の部屋に行く。
陽の光を眺めながらくっついていたり、話していたりするのは楽しい。
ただ、ちょっと熱を帯びてきた頃、くしゃみと鼻水が止まらなかったのには非常に困ったけれど…
「…情緒なくて、ごめんなさーい(>へ<)」
「ここのエアコンは空気清浄機能がついてへんから、花粉が入ってきてるんかなぁ」
雰囲気ぶち壊しな鼻水とくしゃみに気遣いを見せてくれる竜樹さん。
あまり鼻の不調がひどくなってきたので、階下におりる。
暫くテレビを見たり話したりしてるうちに、「ごはん作ろう」と竜樹さん。
今日の夕飯は簡単酢豚。
2人で手分けして野菜を切る作業にかかる。
1人で料理をすることになれているから、広くないキッチンで2人でがさがさやってるといささか窮屈な気もしないではないけれど。
作業は早く終わるし、2人で何かをするということが嬉しい。
材料を切り終えたら、既に揚がってる豚肉を投入して炒め始める。
その横で竜樹さんはタレで漬け込んである牛肉と沢山のキャベツを一緒に炒めてる。
あっという間に、簡素だけどちょっとした夕食が出来た。
「いただきます♪(*^-^*)」
2人で一緒に作ったものを一緒に食べる。
それはとても幸せなことなんだよなぁと思うと、自然と顔が緩んでくる。
作ったものを殆ど食べ終え、後は片付けだけという頃、携帯にメールが飛び込む。
…一気に、幸せ気分は悲しみに変わる。
「霄、どうしたんや?なんか涙目やで?」
「…や、昨日あんまり眠れてないから、目だけ疲れてるんでしょうヾ(^^ )」
「それやったら、後片付けいいから休んどき?」
それでも放りっぱなしにする気になれず、最後まで片付けてから横になる。
携帯からメールを飛ばしながらぼんにゃりぐんにゃりしていると、何時の間にか竜樹さんはビデオデッキをいじってバカとのを見ていた。
妙にウケてる竜樹さんを見てると、またほっとする。
「そっちやと見難いやろ?おいで」
竜樹さんの隣にころん。
背中だっこしてくれる竜樹さんの熱に安心して少しばかり眠る。
意識がぼんやり覚めてくると、竜樹さんがじゃれモードに入ってた。
その熱に随分癒される感じがして、ずっとずっと竜樹さんの隣にいたいと思う。
嬉しさも悲しみも抱えながら日々を重ねて、最後の最後には嬉しい気持ちがほんの少しでも勝ったなら。
私にとっては、幸せなんだろうなって思う。
その幸せに辿り着くその隣にいて欲しいのは、やっぱり竜樹さん。
竜樹さんじゃないといややって、今更ながらに思った。
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