小さなやさしさ

2003年3月21日
昨晩家のことが一段楽して、久しぶりにネットに上がってみると友達に会えた。
本当に久しぶりになったものだから、まぁよく話す話す。
互いの心に映るいろんなことを話したり聞いたりしてるうちに、窓の外の空が白んでくる。
ひとまず今回はこの辺でということでお別れして、暫しの眠りにつく。

それほど長く眠ることができず、ゆっくりと起き上がる。
窓の外には抜けるような青空が広がっている。
この世の何処にも暗い影などないんじゃないかと錯覚するような空の色に機嫌をよくして階下に降りる。


テーブルの上の新聞とつけっぱなしのテレビを見て、遠い場所に暗い影を落としている出来事が夢ではなかったのだと思い知り、また気持ちが沈んでいくような感じがするけれど、
身体が疲れを訴えて横になりたいと思う前に竜樹さんの許へ向かいたいと思った。

自室に戻って用意を始めていると、電話が鳴る。


「今日はええ天気やから、そっちまで迎えに行くわ(*^-^*)」


竜樹さんの明るい声にまた元気を貰い、張り切って用意を始める。
用意を終えて部屋を出て、ふと思い立つ。


…車で来てくれはるなら、これを持って行こう。


それはコンパクト化されていない昔の人生ゲームの箱くらいの大きさの組み立てキット。
それは執着のない竜樹さんが珍しく執着してた車を12分の1の大きさにした模型で、この世に存在するなら作ってみるのもいいかなぁと思って探していたもの。
たまたま先月、ひょんなことから格安で手に入れたのだけど、届いてみてびっくり。
とにかくやたら箱が大きくて、人の手を借りない状態で竜樹邸に持ち込むのは難しい代物だった。
結果、金岡母から「邪魔よー、これー(ーー;)」と眉を顰められながら、金岡家の廊下に袋をかけられて鎮座する羽目になってた。

家にある一番大きな紙袋に入れてもキットの箱の頭が飛び出すので、半ば抱えるようにして階下に下ろし、竜樹さんからの連絡を待つ。
すると…


「そらちゃーん、渋滞がひどすぎて、そっちに着くのまだまだかかりそうやねん(>_<)
悪いけど、途中まで出てきてくれる?」


竜樹さんがいつも金岡家まで来る道は同じだから、同じところをずっと歩いていけば遅かれ早かれ竜樹さんに会えるからと思って、バカでっかいキットと共に家を出る。
キットはバカでっかいけれど重量は思ったほどないので、時々持つ手を変えながら竜樹さんが上がってくるだろう道を下っていく。

外は春用のジャケットを着てても暑いくらいの陽気。
どんどん坂道を降りてくうちに、駅に着いてしまった。

そこから竜樹さんに連絡すると、駅までも程遠い場所にいてるらしい。
相談の結果、渋滞を避けるために別の駅の方面に向かうので、そちらまで来るようにとのこと。

途中竜樹さんがお気に入りの鰯の生姜煮やら春めいた食材を購入して、バカでっかいキットともに電車に乗る。


指定の駅に着くと、元気な竜樹さんの笑顔が待っていた。


「渋滞がひどすぎて、運転してるだけで疲れてしもたわぁ」


ここ数日暖かい日が続いて、竜樹さんの体調自体はよくなってきてるとはいえ、まだまだ長時間の運転はまだまだ身体には堪えるみたい。
少しだけ休んで、迂回に継ぐ迂回を繰り返して竜樹邸の近くまで戻ってきた。


「…そらちゃん、運転もきつくなってきたしおなかもすいてきたから、ご飯食べよう」


そうしてイタリアンレストランに飛び込み、遅い昼食を食べ始める。
いつもなら、パスタとピザ、ステーキとフォッカチオ1枚頼めばもう「ごちそうさま」な竜樹さんは、どういう訳か追加注文してもこもこ食べておられる。


「…なんか、いつもよりも沢山食べてはりません?」
「こないだ病院で貰った薬飲みはじめたら、やたら食欲出てきてなぁ…」


病院で処方された薬の副作用というだけなら素直には喜べないけれど、これが体調がよくなってきた兆しでもあるのなら、とても嬉しいこと。
会話も弾み、私たちにしては珍しくレストランで長居してしまった。

レストランを出て、さらに少しばかり遠出をするつもりだった竜樹さん。
依然として道は渋滞、おなかが一杯になって少しだけお疲れが出たようなので、一旦竜樹邸に帰還することに。


竜樹邸に入り、コーヒーを作った後、2階に上がる。
組み立てキットを広げてみるには広い場所の方がいいし、何より太陽の光が差し込むうちは太陽の光の中で過ごしたいとのこと。
大きな紙袋を抱えるように持って、2階に上がる。


「…わぁ、これ、ごっつい精巧なモデルやなぁ(*^-^*)」


昔乗っていた車だけあって、あれこれと細かいところまで詳しい竜樹さん。
その車には私も乗ったことがあるので、思い出話やらその車に対する思い入れの話やらで随分盛り上がる。
キットを片付けまた暫く話し込み、ちょっと休みたいということで2人して横になる。


互いの中にある何かを受け渡す時に生じる熱とはまた違う、極めて優しい温度の中で取り留めなく柔らかな会話が続く。
そのうちどちらともなく眠ってしまって、気がつくと空が赤くなりかけている。
外が暗くなるまで片付けをしたり、階下に必要なものを運んだりして過ごす。


「霄、晩ごはん何食べる?」


お昼思い切り食べた上に竜樹邸に戻ってから殆ど動いてないので、あまりおなかはすいていない。
ひとまず腹ごなしに1階の部屋の簡単に片付けてる間に、竜樹さんがご飯を買いに出ることになった。


「悪いんやけど、お米炊いておいてくれるかなぁ?
そらのお母さんから頂いた山菜御飯の素を試してみたいから、作ってくれる?」
「判りました♪」


何かの折につけ、竜樹さんのお母さんから私にといろいろ頂いて帰ることがあり、それを独り占めするのもどうかと思って、金岡家でそっと出すようにしてる。

いつも竜樹さんから頂いてばかりで悪いからと、お米に混ぜて炊けばいいだけの炊き込みごはんの素を持たされた。
添加物の入ってない、ちょっとよい感じの山菜御飯と筍ご飯の具。

竜樹さんに渡すように託ってすぐに試してみたかったのだけど、竜樹さんの体調が悪かったのもあって、暫く炊飯器を使うことそのものがなかったからそのまま調理できずにいたけれど、これでやっと竜樹さんの食卓に反映させられる。

そう喜んでお米を磨いで山菜御飯の具の詰まった袋を開けてご飯の上に置き、水を入れて炊飯器にセットする。
片付けも炊飯の準備をするのも終わってひと息つくと、どういう訳か足元がふらつく。
竜樹さんが戻ってくるまで横になっていた。


「…あれ、霄。調子悪いん?」
「や、なんだか身体がだるくって、ちょっと横になってました」
「少し休んどき」


そうは言っても、先に食べていてくれる訳でなく、リビングをちょろちょろしながら待っておられるようなので、申し訳なくて起き上がる。
暫くすると山菜御飯が炊き上がったので、テーブルを片付けて夕飯のセッティング。


「霄があまり食欲ないって言ってたから、サラダを買ってみてん」


差し出されたサラダをもこもこと食べてると、小さなお皿に自分の食べてるおかずを少しずつ取ってくれる。
そんな小さなやさしさを一杯受けながら、ご飯を食べてるうちに言葉を交わす気力も出てくる。
普段は食べ始めると食べることに集中する竜樹さんも、言葉を返してくれる。


竜樹さんの何気ない仕草ですら、私の中の体調不良を少しずつどこかに押しやってくれる気がする。


竜樹さんのくれる小さなやさしさが竜樹邸に溢れてる。
そんなやさしさに触れていられた1日。


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