精神的な部分でも体調的な部分でもいつもと変わりのない朝。
いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ行動パターン。
身体を取り巻く空気がいつもよりもうんと暖かいと気がついたのは、最寄の駅に着いてから。


…このまま夜まで冷え込まなかったとしたら、重いコートは卒業だなぁ


気温と似つかわしくない重いコートを着たまま、出勤ルートを辿る。


今日はミニ花粉症の症状は幾分マシなのはありがたいけれど、立ち上がりから矢継ぎ早に仕事が飛んでくる。
切れ間なくダラダラと飛んでくる仕事にうんざりしながらも、「今日1日乗り切ったら3連休なんだから…」と言い聞かせながら、仕事を片していく。

お昼前になってようやく本来の仕事に着手出来る状態になったので、先輩のいるフロアに書類を取りに向かう。
相変わらず先輩の話は長くて困るけど、もう少しで昼休みだからと諦め半分に聞いていると、取引先から電話が入る。


「イラクの空爆、始まってんてー♪(゜∀゜)」


嬉しそうに言う先輩を見て「一体どういう神経してんねん!?」と心底呆れながら、適当に話を切って事務所に戻る。
事務所に戻ると、社長が小さなテレビをつけて、あちらこちらのニュースを見ていた。

人の中にある正義は人の数だけ存在し、自らの正義とやらを何が何でもそれを押し通そうとするなら、こういった事態は避けては通れないのだろう。
心の中でこんな事態を決して望みはしないけど、ストレートにこんな事態を望んでいないのだということだけを押し通すことが出来ないのもまた事実なのだろうと。
思いを馳せてもどうしようもないことを思いながら、ぼそぼそとご飯を食べ、いつものようにお茶を入れ、社長や部代と話をしながら、ニュースを聞いている。


「また一部の人は『手島さん手島さん』と賑やかになるんでしょうね」
「誰や?手島さんって?」
「NHKのワシントン支局長ですよ。何でもアメリカの同時多発テロの時によくニュースに出てきてて、『癒し系・テッシー』とかいって応援サイトまで出来てたそうですよ」
「日本人ってつくづく平和やなぁ」
「…ですね(-_-;)」


そんな話が終わる頃、昼からの仕事が始まる。
昼からも矢継ぎ早に仕事が飛んでくる状態は変わらず。
世界のどこかで大変なことが起こっていても、私は私に降りかかることで精一杯。
それは誰にでもいえたことなのかもしれないけれど、本当にそれでいいのかと思うとヘンな感じがしてならない。
そうして容赦なく飛んでくる仕事に振り回されながら、何時の間にか定時を越していた。
げんなりしながら仕事を片していると、鞄がことこと揺れる。
そっと見てみると、竜樹さんからメールがひとつ。

ちょっといじけた内容がいつもの竜樹さんらしくなくて、妙にかわいかったりする。
まだ仕事が終わってないから、こそっと慰めるようなお返事を打ったら…


「ゲヘヘ(’v’)/ (^^)/。」


…くっそう、図ったなぁヽ(`⌒´)ノ


それでも、結果的にこれから竜樹さんと会えることになったのは嬉しい。
とっとこ残ってる仕事を始末して、事務所を飛び出す。


事務所の外はいつもと変わりない、ラベンダー色の空。
遠い場所では、忌まわしき閃光が飛び交ってるかもしれないというのに…
大好きな人と会うために、何の障害もなく走っていけること。
そして大好きな人と過ごせる時間があること。
それは当たり前のものではなく、きっと特別なもの。
それは遠い場所で起こった戦争があるから知ったことではなく、竜樹さんの生命に暗い影が差してた頃から判っていたことではあるけれど…


「よぉ、お疲れ〜♪」


いつもよりも元気な竜樹さんの笑顔を見て、いつも以上にほっとする。
竜樹さんの車に乗って、竜樹さんが欲しがってるものを探しに出かける。

私の会社の近辺経由でその店に行ったことはないので、どうにもルートが定まらない。
あろうことか、竜樹さんはナビを積んでくるのを忘れたらしく、地図を頼りに運転。
何度か道を間違えて、随分遠回りをして。
運転してる竜樹さんは半ばぐれかけておられるけれど、身体に痛みが走らないなら長く一緒にいられることは嬉しい。


「…運転するのが辛かったら、明日にしましょうか?」
「いーや、行く(-"-#)」


身体の痛みが軽いのか、それとも単に意地になっておられるのか、目的地までひた走る。
予定よりもだいぶ時間はかかったけれど、閉店時間には間に合った。
お目当ての商品を見つけて、竜樹さんは嬉しそう。
ショーケースを開けて貰って商品を見てるけれど、今ひとつ竜樹さんのお気に召さないらしい。
ひとまず購入するかどうか保留の状態で、店内を見て歩く。


「…そらちゃん、俺、これにするわ(o^−^o)」


竜樹さんが惚れたのは、薄型のデジカメだった。
それはずっとまえから竜樹さんが欲しがっていたものだったけど、なかなか金額が下がらなくてずっと購入を手控えてたもの。
竜樹さんの見積もってた予算内でもお釣が来る金額だったので、最初に見ていた商品の購入を取りやめ、デジカメ購入に決定。
最初に見ていたものも竜樹さんがずっと探していたものではあったけれど、こちらの方がよかったらしく上機嫌。
私はその姿が見れればそれで満足だった。


その商品を購入決定してさらに探し物をする竜樹さん。
私は竜樹さんとは別のルートを歩いて、ふと立ち止まる。
マイナスイオン発生器付空気清浄機が格安である。
よく見ると、2003年製。
どうしてそんなものが破格値であるのか、さっぱり判らないけれど…
プラモデルを作るようになってから、ペーパーがけした時に発生するプラスチックの細かい粉が部屋中まいまいしてる状態。
花粉症だけじゃなくて、プラスチックの粉でも鼻を悪くしてるんじゃないかという気がしてたから、手ごろな値段なら空気清浄機を購入しようかなとは思ってた。


「そら、欲しいもんあったん?」
「や、空気清浄機が異常に安いから、買おうかどうか迷ってて…」
「これくらいの金額やったら、そらが出せなかったら俺が出すし買っとき。
今日は車も出してるし、もって帰れるやん?」

竜樹さんに出してもらう気は毛頭なかったけれど、確かに車がなければ持っては帰れないものだから、購入決定。
ちっさなデジカメとでっかい空気清浄機を買って、店を出る。


お買い得商品を提げて、竜樹さんも私も上機嫌。
2人で一緒にいられる時間があるだけでも幸せなのに、お買い得品を持って更に幸せ。


「これだけ小さいデジカメなら、一緒に出かける時持って出ても荷物にならへんやん。
これやったら、持って出かけても写真撮って帰ってこれるやん?」
「これ持ってどこへ行きますか?」
「そやなぁ、もうちょっと気候が落ち着いたら、TDSでも行くか?」
「わぁ、そしたら、貯金しないとダメですね」
「頑張ろなぁ♪(*^-^*)」


車中はそう遠くない未来の会話で盛り上がり、包む空気はまんまるくて暖かい。
この世のどこかで戦争が起こっていても、こんな会話をしていられる自分たちがいる。
もしかしたらそんな時間を共有していること自体が不謹慎なのかもしれないけれど…


「今日もありがとうございました。また、明日」
「おぉ、また明日なぁ♪(*^-^*)」


当たり前ではないはずの明日の約束を交わして別れる。
家に帰ると、金岡母が外出してるせいか金岡父もプードルさんもめっきりしょげかえってたので、今度は金岡父とプードルさんを元気付けるためにひと頑張り。
やっとこ金岡父にもプードルさんにも元気が戻った頃に、金岡母帰宅。
またいつものように、賑やかな金岡家に戻る。


息を殺して不安を抱えながら、大切な誰かと散り散りになる場所がある。
そこからうんと離れたところに、暖かくまぁるい空気に触れていられる場所がある。


核の傘の下にいるものが、それを願うこと自体がおこがましいかもしれないけれど。
誰もが怯えることなく暮らすなんてことが叶わなかったとしても、どうか少しでも早く、少しでも多くの人が怯えながら暮らすことのない生活を取り戻せますように。

そして、自分も自分の大切な人もずっと暖かくまぁるい空気の中で暮らしていけますようにと、何にとはなく願った。

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