海衣一家と摂った正月最後の夕食は、ステーキ+α。
いつもよりも何品か多いのは、すべてめったやたら食べる海衣旦那に対する配慮なのか。
ダイニングテーブルに人数分乗らなくて、何故か私と海衣が応接セットの机にご飯を並べて食べている。

後片付けをして、暫く取り留めのない会話。
そして、明日の出発のために姪御ちゃんと海衣旦那は早々にお休み。
私も自室でしようと思ってたことを片付けに戻り、やがて金岡両親もそれぞれの部屋に帰る。


ふとコーヒーが飲みたくなって階下に降りた時、海衣が一人リビングで考え事をしてるのを知ってはいたけれど、敢えて声はかけなかった。
一人自室に篭りながら、日記を纏めたりプラモデルの部品を接着剤で止めたりバリ取りをしたりして、私もまたぼんやりと考え事をしていた。


明け方になって慌てて眠り、海衣一家を見送るために起き上がる。
妙に部屋が冷えてるのに驚きながら、雨戸を開けて驚いた。


…鈍色の空から雪が舞い降りていた。


昨日のそれとは違って、格段に降りがきつい。
道路を見るとまだ積もっていなかったので、どうにか海衣たちは帰るための交通手段のある場所にはたどり着けるだろう。
ほっとしながらリビングに下りると、金岡両親含めて帰り支度でばたばた。
何か手伝えることはないかと思ったけれど、人口密度の高いリビングにこれ以上要領を得ない人間が参入しても邪魔なだけなのは毎度のことなので、寒い廊下にぽつんと立ってその光景を眺めていた。

あんまり寒いので自室に戻って、ごとごとしてるうちにいつの間にか海衣たちは帰ってしまってた。


リビングで唖然としてる私に、「あんた何やってたのよ?」とは金岡母。
相変わらずどんくさいわねぇと言わんがばかりの様子にまたもかっくり。


…まぁ、私が見送ろうが見送るまいが大勢に影響はないんだろうけどさ(-_-;)


そうは思うけれど、つくづく私って間が悪いなぁとべこり。
ぺたりとパソコンのある机の前に座り、なにをするわけでもなくぼけっとしてる。
リビングにあるものの位置が微妙に変わってるのが、姪御ちゃん達がこの家にいたことの証しのよう。
それを元通りにするのを一瞬躊躇うけれど、そのままにしておくと散らかり放題にしてるような気がして、簡単に片付ける。

昨日までの賑やかさがまるで夢か何かだったかのような静かさ。
金岡家一番のアイドルの座を終われてたプードルさんは疲れきったようにぐったり眠ってるし、金岡父もぼんやりとテレビを見てる。
誰もがどこか所在なげにしてるのが、よけいに寂寥感を増長させそうな感じがして、そっと自室に戻る。


自室で今日こそしようと思っていた作業に取り掛かろうとして、ふと気づく。
先ほどまで音もなく窓の外をちらついてた雪は、何時の間にか激しい雨に変わっていた。


…あらま、これじゃ、サフ吹きなんて無理だわね。


いつもなら、予定が流れたなら流れたなりに別の何かを探して取り掛かるのだけど、どうにも何かをしようという気になれない。
手近なところに転がっていた本を拾い上げて読み始めるけど、なんとなく頭の中にすんなりと入ってこなくて、また放り出す。


賑やかだった家が静まり返ることなんて、別に今に始まったことじゃない。
それは海衣がこの家を出た時から何度となく繰り返されてきたことで、別にさして珍しいことでもない。
いなくなって寂しすぎると感じるほどに私たちは取り立てて仲がいい姉妹でもない。

それでも、何故かそこここに落ちてる寂寥感ともなんともつかないようなかけらに蹴躓くような感じに捕らわれる自分がいる。


今は妙に静かな金岡家だけど、また暫くしたらそれが金岡両親と私、猫たちとプードルさんだけの生活が別に違和感のないものとしてまた動き出す。
それの方がまるで当たり前のようなものとして感じてすっかり慣れきった頃に、また海衣たちが戻ってくる。

私自身がここであとどれくらいこんな風景を眺めているか判らない。

竜樹さんと暮らすようになれば、この風景こそが当たり前のものではなくなるのだろうから。

そう思ったら、今感じる形の定まらない寂寥感のようなものを見据えてみるのも悪くはないかもしれない。


目に映るもの、心に映るもの、そのすべてから何かを得て、やがてそれが歩く中で何らかの役に立つのなら。
役に立たなくても、自分の身として残せるなら。
今は心に小さな痛みを走らせるものであったとしても、それを受け止めることそのものは悪いものでもないのかもしれない。


ちょっと「らしくない」ことを考えた、激しい雨降る午後。

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