どうも長期休暇に入ると、昼夜逆転の生活が定着しすぎてよろしくない。
朝方までぐずぐずぐずと起き続け、部屋がひんやりしすぎて慌てて布団に包まり朝を迎える。

昨日、夕方に電話したっきり竜樹さんに電話し損ねていたので、目が覚めてから慌てて電話しようとしたけれど、身体を起こすと頭に鈍い痛みを覚えてまた横になる。


…あんまりぐずぐずしてられないんだけどなぁ(-"-;)


明日の午前中に海衣一家がお江戸に戻る。
今日は海衣の家族も含めてみんなで食事をする最後の夜。
前回海衣たちが戻ってきた時、殆ど家を留守にしていて派手にブーイングを食らったので、今日の夕食の席にくらい座ってないと具合が悪いだろう。

痛む頭を抱えて暫く横になり、ちょっとマシになったところで身体を起こして薬を飲んで出かける用意を始める。


リビングに下りると、くたってる海衣の旦那さんとぼんにゃりしてる海衣。
金岡両親とはしゃいでる姪御にその横で割を食ってるプードルさん。
どことなくその風景の中に自分の居場所があるような気がしなくて、そそくさと用意してると金岡母が私が出かけることをキャッチした模様。


「…彼氏とデート?( -_-)」
「デートっていうよりも、ご挨拶に行ってくるって感じかな。
夕飯の時間には間に合うように帰ってくるよ」
「…あら、そうなの?19時には始めるからね」


淡々とした会話が終わり、そっと家を出る。


外はよく晴れているけれど、頬に当たる風は冷たい。
時折青空から白いものがちらりちらりしてるなぁと思っていたら、それは雪だった。


…竜樹さん、きっと調子悪いだろうなぁ


竜樹さんの身体はただでさえ冬の寒さが弱いというのに、竜樹さんにとってこの冬は手術後初めて迎える冬。
傍にいれば本質的な部分において何らかの解決法を導き出せる訳ではないし、どうにもできない自分の無力さと病気というものに対する憎悪にも似た嫌悪感だけが増長するだけに過ぎないけれど。
それでも、竜樹さんの傍にいれば彼が必要とする何かをひとかけらでも提示できるかもしれない。
そうできたら、少しは自分がいるということにも何らかの意味があると思えるのだろう。
私自身にのみ限定するなら、私の知らないところで竜樹さんが苦しい思いをしてなければそれでいい。
知らないところで苦しんでたんだと知ることは、傍にいて何も出来ないことによって生まれてくる無力感以上に胸締め上げるものだから…


そんな風に思いながら、竜樹邸を目指して雪の中を歩きつづけた。


電車やバスを乗り継いで竜樹さんの家の近所まで辿り着いた頃には、雪は小雨に変わっていた。


「…寒いのに、ようこそやなぁ」


竜樹さんの表情には身体の不調が見え隠れしてるけれど、その笑顔はほの暖かな感じがする。


「私の家の近辺は雪が降ってましたよ」
「そうかぁ、どうりで冷え込むと思ったわぁ」


2人で2階に上がって、竜樹さんは横になる。
テレビの音を小さくしてぱちぱちとチャンネルを変えてると、竜樹さんがなんとなしに触れてくる。
どこか不安が見え隠れする感じの竜樹さんに安心を渡したくて、そのまま触れるに任せている。
ぱちぱちと変えてるうちに、中村吉右衛門の姿を見つける。
リモコンを触る手が止まったことで竜樹さんも何か気になったらしい。


「…チャンネル変えるのやめたかと思ったら、吉右衛門かぁ」
「うん、10時間時代劇に出てはるみたいやね(*^-^*)」


今年のテレビ東京の10時間時代劇は中村吉右衛門の忠臣蔵。

「どうして年始に忠臣蔵なのさ!?」と私も竜樹さんも首を傾げていたけれど、播磨屋フリークの私は演目はどうあれ、吉右衛門が出てればそれだけでハッピー。
すっかり画面に釘付け状態。

竜樹さんが触ろうが何しようが、わんこ座りのままテレビの画面を見つめてる。

それがちょっと面白くなかったのか竜樹さん。
私の手からリモコン取り上げ、ぺちとチャンネルを変えてしまった。


「何をするんですか?」
「…そらちゃん、テレビに吉右衛門出とったら、そればっかり見てんねんもん(-"-;)」


何年か前にも同じようなことがあった。
なんだかじゃれっこラブラブモードな雰囲気になってる時にテレビに映ってたのは「鬼平犯科帳」。
それを竜樹さんそっちのけで見てて、拗ねられてしまったことがある。


「ごめんなさい、家でビデオの予約し損ねてきたから…」
「そしたら、録画しとこか?」


竜樹さんはもそっと起き上がり、テープを入れて録画を始める。
そうしてまたじゃれあうようにして、お布団の中で2人でくっついて眠る。
眠ったり触れ合ったり笑ったりを繰り返してるうちに辺りは暗くなってくる。

竜樹さんの頭越しに見える時計は17時をまわってる。
いつもならここから竜樹邸の夕飯を作り始め、19時頃から2人で静かに夕飯を食べるのだけれど、今日はその時間には金岡家に戻ってないといけない。


「…竜樹さん、もう少ししたら帰りますね」
「あぁ、そうやったな、海衣さん達とご飯食べるんやったな。
調子がよかったら、俺、送っていくねんけどなぁ…」


けれど、お布団の外に足を少し出してみると、部屋の中の空気は異常に冷えてきてる。
ただでさえ具合悪そうな竜樹さんに瑣末な理由で無理に運転させたくない。


「今から出たら、バスと電車乗り継いで約束の時間には家にたどりつけてますから大丈夫ですよ」
「…そやなぁ…(-"-;)」


それでも、身体を離そうとはしない竜樹さん。
そうしてる間に少しずつ時間は経っていく。
どうしたものかと考えていると、竜樹さんは電話の子機を取ってご実家の方に内線を入れられる。


…帰省しておられてる竜樹弟さんに、私の家に近い駅まで送るようにお願いしてる。


「竜樹さん、いいですって。ちゃんと自分で帰れますから」
「あいつやったら大丈夫やって。今回の正月は暇みたいやから」
「暇だからとかそういう問題じゃないですよ。せっかくのお休みやのに…」


そんな風に話していると、玄関で呼び鈴が鳴る。
出てみると、竜樹弟さんと竜樹父さんがいらっしゃった。


「兄ちゃん、どこまで送ってったらええの?」
「○○まで送ったって。多分、そこが一番早いと思うから」
「○○ってどやって行くんだっけ」
「あぁ、俺が乗ってくから心配せんでええ」


結局、竜樹弟さん運転、竜樹父さんのナビで出発。
竜樹弟さんも竜樹父さんもせっかくのお休みなのに、私のために動いてくださることにただただ感謝。
竜樹弟さんとお会いするのは随分久しぶりだったので、駅に着くまでやたら会話が弾んで楽しい時間を過ごせた。

思ってたよりも早く駅に着き、竜樹弟さんと竜樹父さんと別れてやってきた電車に飛び乗る。


夕飯の時間に何とか間に合った。

家に帰り着いて、すぐに竜樹さんのご実家にお礼の電話をかけ、竜樹さんにはメールで報告。
そうして、金岡家のメンバーの待つリビングへ。


一緒にいてる時間はそんなに取れなかった上に、竜樹さんのご家族にまでご迷惑をかける形になってしまったことは十二分に反省するべきことなんだと思うけれど、金岡両親や海衣一家と共に摂る食事を心底楽しめたのは、短い時間でも竜樹さんに会えたから。


…短い時間でも、やっぱり会えてよかった。



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