自分が帰るべき場所

2002年12月16日
昨日あれだけ晴れていたのに、今朝の空は鈍色だった。
いつ雨が降り始めてもおかしくないような空模様にちょっとうんざりしながら。
竜樹さんが具合が悪くなるかもしれない危険性をおいてもなお神戸に連れて行ってくれたのだから、今週は頑張らなきゃならない。


…4連休明けの会社は人外魔境以外の何物でもないのだけど(-_-;)


ともするとずるずる休んでしまいたくなるような衝動に駆られそうになるけれど、ひとまず気力を起こして家を出る。

今日から3日間、同僚さんがいない。
あと数週間もすれば同僚さんがいない仕事場が当たり前になる。
後任の係長さまと一緒に組むこと自体にはまだまだ抵抗があるのだけれど…


事務所に入って書類だらけの机の上を見てため息ひとつ。
けれど、整理していくうちに同僚さんがそのいくつかに手をつけていてくれたことが判った。
そのおかげで思ったよりも早く仕事が片付きそうな感じ。
事務所にいない同僚さんに心の中で小さく頭を下げ、またきりきりと残務処理と今日の仕事を片付けていく。


残務処理の大方が片付いた状態で昼休みを向かえることが出来た。


ふと階段の踊場に出てみると、鈍色の空から雨が落ちてきていた。
おまけに妙に冷え込んできている。
昨日竜樹さんが著しく体調を崩したのは、昨日の夜の寒さの影響だけじゃなかったのかもしれない。

さらに悪いことに。
昨日神戸に行く前に竜樹さんに「持って出て」と頼まれていた風邪薬を竜樹さんと別れる時返し損ねて持って帰ってきてしまった。
大風邪から風邪気味程度まで回復していたのに、また大風邪に戻っていたら薬なしでは具合が悪い。


「ご飯食べれてますか?
食べれてないなら、薬届けて夕飯作りましょうか?
思ったより、仕事が軽くて済みそうなので。」


もこもことお昼ごはんを口にしながら、そう打ってそっと飛ばす。
尤も、返事がなくても風邪薬だけは返しに行くつもりではいてるけれど…


昼からもそれほど仕事は立て込まず、残務処理も今日の仕事もすべて時間内に片付けることが出来た。
係長さまの動向も意識して事務所を出るべきかなとは思ったけれど、今日は早く竜樹さんのところに行かねばならないという気持ちが先に立って、脱兎の如く事務所を後にした。
ロッカーに片付けてあった傘を掴んで、大慌てで自転車かっ飛ばして駅を目指す。


「仕事が早く終わったので、薬と食料届けに行きます」


ホームに上がって電車に乗るまでの間にそう打って飛ばすと、程なくお返事が届く。


「りょうかい!」


あとは最短時間で移動できるように乗り換えの度にホームを走り回り、ホームに滑り込んでくる電車に飛び乗る。

バスに乗る前にスーパーに寄り、食材を買い込みバスに乗る。
雨脚は依然として弱まってなかったので、傘を差しながらよたよたと重い荷物を提げて竜樹邸に行く。


竜樹邸に着くと、案の定しんどそうに横になってる竜樹さん。
話を聞くと夕方に少し食べたというので、持ってきた風邪薬を飲んでもらってまた寝てもらう。
その間、盛大に散らかってる台所の荒いものを片付け、料理を作る。


今日は鶏大根(by遊上炯さん)と牛スジ煮込み。
鶏モモ肉は一口大、大根は1.5〜2cmほどの厚さに切る。
鶏肉は表面の色が変わる程度に焼いてから、ダシを足してその上から大根を入れ、醤油、酒、みりんで味を調える。
(遊上さんのレシピとは少し作り方が違うかもしれないけれど…)

牛スジ煮込みは、一口大に切った牛スジをかぶる程度のお湯で茹でてアクを取り、一度お湯を捨てる。
鍋に茹でた牛スジを入れ、かぶる程度の水を入れて茹で、いちょう切りにした大根と小さな短冊切りにしたコンニャクを投入。
味噌で味付けして2時間ほど煮る。
(竜樹邸には八丁味噌しかなかったので、少なめの八丁味噌に少しみりんを足した)


「霄ぁ、仕事した後に来てるんやから、ゆっくりしぃ」


弱い声で竜樹さんは仰ったのだけど、ここに来てる以上できることはして帰りたいからと、鶏大根と牛スジ煮込みの目鼻が着くまでは鍋の番をして、あとは竜樹さんの傍でテレビを見ていた。
そのうち「寒い、寒い」と仰る竜樹さんに引っ張り込まれて、くっついて横になったのだけど…

暫くくっついていると内線が鳴ったので、出ると竜樹母さんからだった。
昨日もやってきて今日もまた来てたので驚いておられたけれど、丁度渡したいものが届いたとのことで、竜樹邸におみえになった。


「まぁ、霄ちゃん。仕事の後にこんなことしなくていいのに…」


あがってこられた竜樹母さんがぱっきり片付いた台所と鍋一杯の鶏大根と牛スジ煮込みを見てびっくりされていた。


「沢山作ってたら、料理作るのがしんどくても食べることはできると思うので…」


そう話すと、何故か竜樹母さんにお礼を言われたのできょとんとしてしまった。
暫く竜樹母さんとリビングで話しこんで、ご実家に戻られる時に包みを貰った。


「今日頼んでいたカステラが届いたから」


そう言って、長崎直送のカステラを1本丸まま貰ってしまった。
私が竜樹邸に行って竜樹母さんに会うと何かしら頂いてしまうので、こちらが申し訳ないくらい。
頂いたカステラにきゃっきゃと喜んでいるのを、柔らかな表情で見てた竜樹さん。
時計を見ると、帰らなきゃならない時間になっていた。

柔らかな表情を見せていてもどこかちょっと弱ってそうな感じがするので、そのまま彼と別れて帰るのが嫌だったのだけれど…


「あと4回会社に行ったらまた会えるやん?今日はもう帰り?
大変やったのに、来てくれてありがとうなぁ」


そう言って手を差し伸べてくれる竜樹さんをぎゅっと抱き締めて、竜樹邸をあとにする。


降り続く雨は地表からも大気からも熱を奪っていくような感じがする。
あまりの冷え込みに自宅に戻る気力が萎えそうだったけれど、帰らない訳にも行かないので雨の中今度は自宅を目指した。


電車の移動を繰り返し何とか最終バスに乗り込んで、自宅へ戻る。
竜樹母さんにお礼の電話を入れて、竜樹さんにはメールを飛ばす。
それからリビングに降りて遅い夕飯をとって、後片付けをするために台所に立ってふと思う。


もしも帰る場所がここではなくて竜樹さんのいる場所になったなら。
帰ってからまず最初にするのは夕飯作り。
それから後片付けをして、ちょっと休んでお風呂を沸かして翌日までにしないとならない作業をする。
竜樹邸に行って台所に立つと、決まってキッチンスタジアム状態で料理を展開するのだけど、果たしてそれで毎日続くかなぁと思ったり。
毎日続いたとしても自分の時間はうんとこ少なくなるんだろうなぁと思ったり。

ぱっと思いつくのは、何となく明るい気分になれそうにないことだったりするのが恨めしいけれど。

それでも、竜樹さんがすぐ傍にいてばたばたしてる自分の状態が決して落ち着かない状態ではないというのは、毎度竜樹邸に行って作業をしてて判ること。
竜樹さんが傍にいるという状態が何をするにしても安定した精神状態を齎してくれるなら、きっと忙しくても穏やかな表情で暮らしていけるんじゃないかって気がする。


…たまにやる時の精神状態ですべてがそうなると思うのは、楽観しすぎてるかもしれないけれど。


それでも、何かをする傍に竜樹さんがいて、何かをする目的の中に竜樹さんの存在があるのなら、きっとそれをこなしていくことが苦になることはないような気がする。


元気でも元気でなくても。
暖かく晴れた日であっても、冷たい雨が降る日であっても。
大切な人が傍にいることで心が暖かくなる場所があるのなら、そこは間違いなく自分が帰るべき場所なのだと思う。


その帰るべき場所に本当に帰ることのできる日が来ることを。
冷たい雨が降り注ぐ漆黒の空がいつか青く晴れ渡る朝を迎えるようなそんな日が来ることを。
ずっとずっと待っている。


その日を目指しながら、今日も明日もずっとずっと歩いてく。



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