昨夜、竜樹さんに電話した。
竜樹さんの体調が気になったのが一番だったけれど、連絡をすることでそれほど落ち込んではないって思ってもらえたらありがたいなとも思ったから。

なのに。


「…明日は暖かくなりそうやし、明日やったらルミナリエ見に行けると思うねんけど」


そう切り出されてびっくりした。


「…や、もういいんですよ。日帰りやと大変やし、無理なんてしなくてもいいもの」
「霄の頑張りに応えたいって思うからさぁ(*^_^*)」


竜樹さんは忘れてなんていなかった。
私がどうして毎年あの行事を楽しみにしていたのかを…
それだけで十分だった。


ある程度事前に段取りを決めておきたい竜樹さんと一緒に、どんな方法で神戸まで行くかをあぁだこうだと言いながら相談する。
ふと私が思いつきで言った方法が竜樹さんには名案に思えたらしく、その場で即決。
そこから時間を逆算して竜樹邸に入る時間を決める。

竜樹さんが私の願いを忘れていなかったことを喜びながら、明日が暖かくなることを祈った。
竜樹さんの身体がしんどくならないまま、無事にこの行事を終えることが出来るようにと祈りながら眠った。


目覚めると、いつもよりも部屋の温度は高い気がする。
ぼんやりと起き上がって外に出てみると、外も暖かかった。


…この天気なら大丈夫かもしれない


張り切って用意をしてうちを出た。
これだけ暖かいと坂道を転がり落ちるように駆け下りると汗が出る。
いつもなら汗をかいても電車に乗ると自然と引くのだけど、今日はハンドタオルで拭わない限りは汗が引かなさそうなくらいの陽気。
あとは竜樹さんが元気でいてくれてることを願いながら、移動を繰り返した。
車の中で食べれるようにとおにぎりを買うため、途中下車。
そこから何駅分か歩いて竜樹邸に向かった。


「今日はあったかいなぁ」


竜樹邸に迎え入れてくれた竜樹さんはいつもよりも表情が柔らかい。
途中で買い忘れてしまったものがあったので、荷物だけを置いて自転車に乗って近くのスーパーまで走る。
そこで竜樹さんが必要としてる食材を買ってまた自転車をかっ飛ばす。
竜樹邸に戻ると、私のお昼ごはんができていた。


竜樹さんが焼いてくれたお好み焼きを食べ、ちょっと休んだ後用意をして出かける。


師走の日曜日の道路はやや混み気味。
あまり運転が長時間にならないことを祈るけれど、そう簡単にはいかないのかもしれないと随分気を揉んだけれど、渋滞は高速に乗るまでで済んでくれたので助かった。
ただ、いつもとルートが微妙に違うので、降りる場所で注意しなければならなかったけれど…

それほど大きな渋滞に引っかかることなく車を置いておこうと決めた場所に着いた。


車を駐車場に止めて駅に向かって歩き出す。
ルミナリエの点灯の時間まで2時間以上あったので、ひとまず神戸に出てお茶デモしながら歩く鋭気を養おうとホームに滑り込んできた電車に乗り込む。
電車の中は早くもルミナリエを見るために出向いてきてるのだろう人達でいっぱいだった。
目的地に電車が到着して、ところてん状態で電車の外に押し出される。


2人で立つ、久しぶりの神戸。
旅行が中止になって、正直もう竜樹さんと神戸に来ることはないだろうなぁって思ってたけれど。
竜樹さんが好きな街に2人でまた来れたことが嬉しい。
ひとまず運転疲れを癒すため、喫茶店に飛び込んだ。

手術後迎える最初の冬は体の具合が不安定になるのはお約束。
会場までのルート図を見ながら、黙々とコーヒーとケーキを食べてる私たちはいちゃいちゃべたべたしてる周りのカップルから見たら随分冷めた人達のように見えたろうけれど、ただ「霄をルミナリエに連れて行こう」と思ってくれたその気持ちがあっただけで十分。
周りのあまあまな空気をよそに、冷え込むであろう神戸の街を歩くための気力を蓄える。


ゆっくり会場に向かうべく、店を出る。
途中宝くじ売り場に寄って竜樹さんの分の宝くじを購入。


「3等くらい当たるといいね」
「ホンマやなぁ」


そこでやっと少し柔らかな笑顔が出た。
そこからまた会場に向かう人に押されながら、ルミナリエの入り口に向かう。
会場前に着いたのは、点灯の1時間ほど前。

6年目にして初めて点灯前にフロントーネの見える場所に立った。


そこから1時間も姿勢を変えることなく点灯を待つ形をとることが竜樹さんの身体にいいわけはないのだけれど、日帰りでやってきてる以上他に方法がない。
本当に強行しても大丈夫なのかとこの場に来てもまだそんなことを考える。
竜樹さんの表情は俄かに硬くなってきてる気がするけれど、声をかけると「大丈夫やから」と返って来る。
周りの人が携帯のカメラでまだ灯りのついていないフロントーネを撮っているのを見て、「撮ろ?」と言って私のデジカメを片手にあぁでもないこうでもないと言いながら、骨組みだけのフロントーネを撮っておられる。
時折子供を肩車する親父さんやばかでっかいおっさんがちょろちょろ動くのに、いらいらいらっときたけれど…

竜樹さんが何とか無事でいてくれることだけを祈りながら、点灯の時間を待つ。


18時前になって、歌が聞こえてくる。
フロントーネの辺りで点灯前のセレモニーをやってるのだろう。
コーラスが終わった後、夕闇の中フロントーネとガレリアに灯りが灯る。
6年目にして初めて点灯の瞬間にお目にかかった。
点灯した途端歓声が上がったのだけど、そこから少しも動く様子がない。
歓声は「何で進めへんねん」って声に変わる。
竜樹さんの様子を伺いながら、フロントーネに辿り着くまでの間にある建物のデコレーションをフレームに収めたりしながらのたのたと歩く。


今年のテーマは光のぬくもり。
歓喜の広場(La Piazza della Gioia)と名づけられたフロントーネは去年と比べるとそれほど大きなものでなくて、私も竜樹さんもフロントーネがちょっと大きくなったくらいのものとしてしか認識できずにいたけれど、ちゃんと傍まで行くとガレリアとは違うのだと認識は出来た。


「こういう風に撮ったら、きれいに撮れるで」


写真の撮り方にうるさい竜樹さんの本領発揮。
竜樹さんの指示に従って写真を撮っては前へ進んでいく。

ガレリア(光の回廊と呼ばれる通路)は「宇宙のリズム」(Uniberso)と名づけられ、一番奥のガレリアには大きな星型の電飾が下がっている。
ちょっと背中が痛んできた竜樹さんにお薬を飲んでもらおうと、途中のコンビニで飲み物を調達。
ちょっと光の中を歩くことを楽しむことよりも、早くここを抜け出して帰ることを考えた方がよさそうな感じになってくる。


のたのたとガレリアを後にして、東遊園地にあるスパッリエーラ(光の壁掛)へ。
「生命の円」(Il Cerchio della vita)と名づけられたそれは、フラッシュなしでも写真が取れそうなくらい明るい。
実際円形のガレリアの中に入ると、そこだけ暖かい感じがする。
けれどあまりのんびりもしていられない。
早く帰ろうとたったと写真を撮って、買い物をして帰ろうといそいそしていると、「ベンチで休んでるから、ゆっくり見ておいで」と竜樹さん。

遠慮がちに「帰りましょう?」というと、「いいから」と言う竜樹さんの言葉に甘えて、CDとルミナリエくじだけ買って戻ってくる。


1000円分だけ買った宝くじのうち、600円が払い戻されたのに少しだけ気をよくしたけれど、それ以上に辛そうな竜樹さんを見てると胸が痛んでくる。
駅に向かってそのまま歩いていたけれど、途中でどうにもしようのないような状態になってしまって、タクシーを呼んで車を止めてる駐車場付近まで送り届けてもらった。


車に乗ってからも、時々休んでは運転し、休んでは運転しを繰り返して。
休む度に辛そうにしてる竜樹さんを見てて、運転免許を持っていないことを心底後悔した。


私のつまらない執着のために竜樹さんにここまでしんどい思いをさせてよかったんだろうか?


何となく、神戸小旅行は今年で最後になるかもなぁなんて根拠レスな予感はあったけれど、私が運転免許を取得しない限り今年で最後にした方がいいのかもしれない。
宿泊先をおさえた状態なら続けられるとしても、その当日になって体調不良が著しい状態になるならそれもできない。
それはこないだのことでよく判ったから。


私の小さな願いを守り通そうとしてくれた竜樹さんの気持ちを純粋に嬉しいと思いながらも、その所為で竜樹さんに辛い思いをさせてしまうなら意味のないことだとも思うから。


今年の光は竜樹さんの心にぬくもりは届けてくれただろうか?
今年の光が竜樹さんの辛さを何時の日か和らげてくれる素になればいいのにと願いながら、竜樹さんを支えながら歩くこと、竜樹さんに支えられながら歩くこと。
それを守り続けたいと願う気持ちに小さな力を維持しつづけたい。


どこまでそれが通せるか判らないけれど、私の小さな願いのために今年の光に出会わせてくれるために頑張ってくれた竜樹さんにできる精一杯のことだって思うから…


今年の光から貰ったぬくもりを精一杯の願いを叶えるための灯火にしていきたいって思う。


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