想いの果てのその向こう
2002年12月13日キャンセルの電話を入れた後、竜樹さんの体調不良の峠は過ぎたようだった。
「ひどく寒気がする」と仰っては抱き枕兼湯たんぽ代わりに私を抱っこされていたけれど、その抱っこが普通の(?)抱っこに移行しつつあった。
そんな竜樹さんの様子にほっとするうちに、どうしようもない落胆もまた峠を越したようだった。
お風呂を沸かしに降りて、竜樹さんに先に入ってもらってる間ぼんやりとテレビを見てる。
「霄ぁ、いいお湯やったで。入っておいで(*^_^*)」
いつもは私が入ってる間にしんどくなったら、容赦なく先に2階に上がって横になってしまうのだけど。
今日は何度もお風呂場まで様子を見に来てくれる。
そんな様子に徐々に心のつっかえは取れていく。
…結局、竜樹さんは私がお風呂からあがってひと段落つくまで、ずっとリビングにいた。
2人で2階にあがって、またくっついて横になる。
珍しくくっつきたがりな竜樹さんの熱に絆されて何時の間にか眠っていた。
…随分長く眠った気がする。
「あぁ、起きたかぁ」
隣の部屋から水の入ったコップを持ってこちらへやってくる竜樹さん。
水を貰って暫くするとまたぎゅー。
暫くじゃれあって、階下に降りるとご飯の用意をしてた途中だったみたい。
「あとは目玉焼きとパンを焼いたら終わりやねん♪(o^−^o)」
明るい日差しが差し込む台所で、2人で朝ごはんを作る。
竜樹さんが餅焼き器でテーブルロールを焼きながらフライパンで目玉焼きを焼いておられる。
私はツナ缶の残りに玉ねぎのみじん切りとマヨネーズを合わせてパンの付けあわせを作る。
いつもは竜樹さんが朝ごはんを作ってから起こしてくれるのだけど、今日はどういう訳か私が起きるまで待っていてくれたらしい。
2人で作ったごはんはシンプルだけど、とても美味しかった。
時計を見ると、まだ昼まで時間が沢山ある。
これまた珍しい話。
後片付けを終えて2階に戻って雨戸を開けて、暫くストレッチを何パターンかしてまたごろり。
朝早く起きて出かけるならまだしも、ちょろんと運動してまたごろりじゃどっしょうもないだろうと思いながらも、竜樹さんに背中から抱っこされるような形でまたくっついて横になる。
…結局、二度寝してしまった(-_-;)
次に目が覚めたら昼を少し過ぎていた。
ぼんやりしてると、竜樹さんが首のあたりをさすってくれる。
「どしたんですか…?」
「寝言で『首が痛ぁい』って言ってたんやで、霄。
覚えてへんの?」
「…や、そんなこと言ってたんですか?」
「霄が寝言言うなんて珍しいから、よっぽど痛かったんやろうなぁって思って…」
身体を起こしてびっくり、本当に首が痛い。
首を抑えて「てて…」とやってると、竜樹さんが身体を起こして湿布を貼ってくれる。
そうしてまた抱っこされて眠る。
次に目が覚めた時には小一時間経っていた。
竜樹さんのお薬の時間が迫っているので、そっとお布団を抜け出して台所でごそごそ。
鶏がらスープで冷ご飯を煮て、ホタテ缶を汁ごと投入して薄口醤油で少し味を調えた中華粥を作って竜樹さんが起きるのを待つ。
竜樹さんが起きてから仲良く中華粥を食べて、薬を飲んで横になってもらう。
その間私は台所で後片付けをし、竜樹さんが寝てる間友達にメールを飛ばした。
「…霄ぁ、どこにおるん?」
いつもしんどい時は一人になりたがる竜樹さんが珍しく私を探すので、2階に戻ってまたくっついて横になる。
BGM代わりにつけてるテレビで神戸からの映像が出た時、また心にちくんと痛みが走る。
竜樹さんに対する思いやりよりも突出しがちなある種の感情があることを思い知ると、また気持ちが沈んでいくような感じがしてならないけれど。
それでも間違いなく竜樹さんとくっついていられることが嬉しいと思う自分はここにいる。
その両方の気持ちがあるからこそ心が痛んでならないんだけれど、ただ竜樹さんといられることを嬉しいと感じる自分をもっと強くしておきたかった。
多分、それが行き場のない感情が連れ去ってしまった思いやりを取り戻す鍵になるような気がしてたから、竜樹さんの腕が私の身体を抱きしめてるうちは、何もせずただじっとしていた。
そうして時折熱を帯びたり、眠ったりを繰り返しながらずっとずっと2人でいた。
ふと目を開けると、部屋の中に夕闇が迫ってる。
明日は土曜だけど、今日はもう金岡家に戻らなければならない。
竜樹さんとくっついてると、本当に離れがたくてならないけれど、今日の晩には戻ると家の者には伝えてあるから。
竜樹邸に持ってきた荷物はなるべく開かないようにしてたから、片付けに手間取ることはない。
だからぎりぎりまで、竜樹さんとくっついていられるけれど…
…竜樹さんの晩ごはんを作らなきゃ
そう思ってそっとお布団を抜け出そうとすると、「今日の夕飯は宅配のん取ったらええよ」と竜樹さん。
結局、宅配のチキンセットとちっさなピザを注文。
竜樹さんが好きな時に食べられるようにと、注文したものが届くまでの間にオムライスを作った。
暫くして注文したものが届き、「先に食べてて…」という竜樹さんから少し離れたところでチキンとピザをかじっていた。
それでも姿が完全に見えなくなると心配されるので、姿が見える程度の距離のところでごはんを食べていたのだけれど(^^ゞ
本当に今回の件で、竜樹さんにはいらない気遣いばかりさせてしまったかもしれない。
ご飯を食べ終わり、本当に帰り支度を始めなきゃならない時間になる。
どことなくまだ体調が不安定な竜樹さんを置いて帰るのはしのびないけれど、
「帰らなあかんやろ?」
竜樹さんに背中を押される形になる。
「…この2日間、おってくれて助かった。ありがとうなぁ」
「いいえ、こちらこそありがとうねぇ(*^-^*)」
「会期はまだ残ってるから、俺の体調さえ折り合いついたら泊まりなしでも行こうな」
「無理はしないでいいですよ?気持ちだけで…」
取り留めなく話を続けているけれど。
手配したタクシーが来てしまったために、本当にお別れ。
ぎゅーと抱きしめて、竜樹邸を後にする。
タクシーは金岡史上最安値で金岡家に私を送り届けてくれた。
そんな些細なことでも竜樹さんが一日の終わりに笑ってくれたらいいなと思ってメールにして飛ばした。
「おつかれさま。いろいろありがとう。疲れがでないよう、休養をとってください」
シンプルで優しいメールに、この2日間の自分のことを思うと頭が上がらない思いで一杯になる。
何をおいても竜樹さんの事情を優先したいといつも思っているけれど。
不意に予定が潰えた時、行き場のない心が思い遣りを吹き飛ばした。
病気という、ある種最悪にして最強の聖域の前では、勝ち目はない。
そんなことは最初から判ってたことなのにね。
もしかしたら、これが私自身の想いの限界だったのかもしれない。
…それでも、
竜樹さんに抱きしめられると嬉しくて、竜樹さんを抱きしめていたくて。
取り立てて何かをするわけでもなくくっついていられた時間を愛しく思う自分はまだ死んではいないから。
神戸の旅は潰えたけれど。
想いの果てが見えてから、どう歩いていくのか。
竜樹さんと一緒に歩くために必要なものをもう一度装備しなおそう。
二人でいた時間に見えたものは、想いの果てのその向こうにある、新たな始まりの場所。
そこからまた、歩き出す。
2人でまた歩き出す。
「ひどく寒気がする」と仰っては抱き枕兼湯たんぽ代わりに私を抱っこされていたけれど、その抱っこが普通の(?)抱っこに移行しつつあった。
そんな竜樹さんの様子にほっとするうちに、どうしようもない落胆もまた峠を越したようだった。
お風呂を沸かしに降りて、竜樹さんに先に入ってもらってる間ぼんやりとテレビを見てる。
「霄ぁ、いいお湯やったで。入っておいで(*^_^*)」
いつもは私が入ってる間にしんどくなったら、容赦なく先に2階に上がって横になってしまうのだけど。
今日は何度もお風呂場まで様子を見に来てくれる。
そんな様子に徐々に心のつっかえは取れていく。
…結局、竜樹さんは私がお風呂からあがってひと段落つくまで、ずっとリビングにいた。
2人で2階にあがって、またくっついて横になる。
珍しくくっつきたがりな竜樹さんの熱に絆されて何時の間にか眠っていた。
…随分長く眠った気がする。
「あぁ、起きたかぁ」
隣の部屋から水の入ったコップを持ってこちらへやってくる竜樹さん。
水を貰って暫くするとまたぎゅー。
暫くじゃれあって、階下に降りるとご飯の用意をしてた途中だったみたい。
「あとは目玉焼きとパンを焼いたら終わりやねん♪(o^−^o)」
明るい日差しが差し込む台所で、2人で朝ごはんを作る。
竜樹さんが餅焼き器でテーブルロールを焼きながらフライパンで目玉焼きを焼いておられる。
私はツナ缶の残りに玉ねぎのみじん切りとマヨネーズを合わせてパンの付けあわせを作る。
いつもは竜樹さんが朝ごはんを作ってから起こしてくれるのだけど、今日はどういう訳か私が起きるまで待っていてくれたらしい。
2人で作ったごはんはシンプルだけど、とても美味しかった。
時計を見ると、まだ昼まで時間が沢山ある。
これまた珍しい話。
後片付けを終えて2階に戻って雨戸を開けて、暫くストレッチを何パターンかしてまたごろり。
朝早く起きて出かけるならまだしも、ちょろんと運動してまたごろりじゃどっしょうもないだろうと思いながらも、竜樹さんに背中から抱っこされるような形でまたくっついて横になる。
…結局、二度寝してしまった(-_-;)
次に目が覚めたら昼を少し過ぎていた。
ぼんやりしてると、竜樹さんが首のあたりをさすってくれる。
「どしたんですか…?」
「寝言で『首が痛ぁい』って言ってたんやで、霄。
覚えてへんの?」
「…や、そんなこと言ってたんですか?」
「霄が寝言言うなんて珍しいから、よっぽど痛かったんやろうなぁって思って…」
身体を起こしてびっくり、本当に首が痛い。
首を抑えて「てて…」とやってると、竜樹さんが身体を起こして湿布を貼ってくれる。
そうしてまた抱っこされて眠る。
次に目が覚めた時には小一時間経っていた。
竜樹さんのお薬の時間が迫っているので、そっとお布団を抜け出して台所でごそごそ。
鶏がらスープで冷ご飯を煮て、ホタテ缶を汁ごと投入して薄口醤油で少し味を調えた中華粥を作って竜樹さんが起きるのを待つ。
竜樹さんが起きてから仲良く中華粥を食べて、薬を飲んで横になってもらう。
その間私は台所で後片付けをし、竜樹さんが寝てる間友達にメールを飛ばした。
「…霄ぁ、どこにおるん?」
いつもしんどい時は一人になりたがる竜樹さんが珍しく私を探すので、2階に戻ってまたくっついて横になる。
BGM代わりにつけてるテレビで神戸からの映像が出た時、また心にちくんと痛みが走る。
竜樹さんに対する思いやりよりも突出しがちなある種の感情があることを思い知ると、また気持ちが沈んでいくような感じがしてならないけれど。
それでも間違いなく竜樹さんとくっついていられることが嬉しいと思う自分はここにいる。
その両方の気持ちがあるからこそ心が痛んでならないんだけれど、ただ竜樹さんといられることを嬉しいと感じる自分をもっと強くしておきたかった。
多分、それが行き場のない感情が連れ去ってしまった思いやりを取り戻す鍵になるような気がしてたから、竜樹さんの腕が私の身体を抱きしめてるうちは、何もせずただじっとしていた。
そうして時折熱を帯びたり、眠ったりを繰り返しながらずっとずっと2人でいた。
ふと目を開けると、部屋の中に夕闇が迫ってる。
明日は土曜だけど、今日はもう金岡家に戻らなければならない。
竜樹さんとくっついてると、本当に離れがたくてならないけれど、今日の晩には戻ると家の者には伝えてあるから。
竜樹邸に持ってきた荷物はなるべく開かないようにしてたから、片付けに手間取ることはない。
だからぎりぎりまで、竜樹さんとくっついていられるけれど…
…竜樹さんの晩ごはんを作らなきゃ
そう思ってそっとお布団を抜け出そうとすると、「今日の夕飯は宅配のん取ったらええよ」と竜樹さん。
結局、宅配のチキンセットとちっさなピザを注文。
竜樹さんが好きな時に食べられるようにと、注文したものが届くまでの間にオムライスを作った。
暫くして注文したものが届き、「先に食べてて…」という竜樹さんから少し離れたところでチキンとピザをかじっていた。
それでも姿が完全に見えなくなると心配されるので、姿が見える程度の距離のところでごはんを食べていたのだけれど(^^ゞ
本当に今回の件で、竜樹さんにはいらない気遣いばかりさせてしまったかもしれない。
ご飯を食べ終わり、本当に帰り支度を始めなきゃならない時間になる。
どことなくまだ体調が不安定な竜樹さんを置いて帰るのはしのびないけれど、
「帰らなあかんやろ?」
竜樹さんに背中を押される形になる。
「…この2日間、おってくれて助かった。ありがとうなぁ」
「いいえ、こちらこそありがとうねぇ(*^-^*)」
「会期はまだ残ってるから、俺の体調さえ折り合いついたら泊まりなしでも行こうな」
「無理はしないでいいですよ?気持ちだけで…」
取り留めなく話を続けているけれど。
手配したタクシーが来てしまったために、本当にお別れ。
ぎゅーと抱きしめて、竜樹邸を後にする。
タクシーは金岡史上最安値で金岡家に私を送り届けてくれた。
そんな些細なことでも竜樹さんが一日の終わりに笑ってくれたらいいなと思ってメールにして飛ばした。
「おつかれさま。いろいろありがとう。疲れがでないよう、休養をとってください」
シンプルで優しいメールに、この2日間の自分のことを思うと頭が上がらない思いで一杯になる。
何をおいても竜樹さんの事情を優先したいといつも思っているけれど。
不意に予定が潰えた時、行き場のない心が思い遣りを吹き飛ばした。
病気という、ある種最悪にして最強の聖域の前では、勝ち目はない。
そんなことは最初から判ってたことなのにね。
もしかしたら、これが私自身の想いの限界だったのかもしれない。
…それでも、
竜樹さんに抱きしめられると嬉しくて、竜樹さんを抱きしめていたくて。
取り立てて何かをするわけでもなくくっついていられた時間を愛しく思う自分はまだ死んではいないから。
神戸の旅は潰えたけれど。
想いの果てが見えてから、どう歩いていくのか。
竜樹さんと一緒に歩くために必要なものをもう一度装備しなおそう。
二人でいた時間に見えたものは、想いの果てのその向こうにある、新たな始まりの場所。
そこからまた、歩き出す。
2人でまた歩き出す。
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