心を繋ぐもの

2002年12月12日
神戸小旅行に向かった二人。
ところが現地に入った途端、雨がざざ降りでルミナリエ自体が中止。
竜樹さんは体調を崩されるし、ホテルから一歩も外に出られない状態。


…嘘っ!これってマジ?/( ̄□ ̄)\ !


がばっと起き上がったら、そこは自室。


…あぁ、夢やったんかぁ。


雨戸を開けると、朝日が昇り始めたキレイな空。
あまりにキレイな空で思わず見とれてしまったけれど、あまりに嫌な夢を見たせいか、「もしかして…」という不安は拭えぬまま。
昨日準備したもののチェックをしながら、出かける用意を進める。


外は晴れているけれど、少々冷え込んでいる。
昨晩竜樹さんと連絡が取れなかったので、どんな段取りで進めるのかは判らないけれど、竜樹さんと会う前に片付けないとならないことがある。
ひとまず片付けなきゃならないことのために、出かけるには早い気もしたけれど家を出た。


一昨日ちょっとした判断ミスで抱えた不安を解消するため、その解決法の具体的な相談のために関係各署に資料一式持って出向く。
最初に相談した時は随分つっけんどんな応対だったけれど、出向いてみるとかなり親切にいろいろと教えてくれた。


無事解決の後、電車で移動しながら竜樹さんにメールを送ったのだけど、一向に連絡がない。
結局、竜樹さんからの連絡もないまま竜樹邸に着いてしまった。


竜樹邸の鍵を開け、「こんにちはー」と声をかけても、返事がない。
2階に上がってみてびっくり。
竜樹さんは辛そうにして横になっておられた。


「…霄ぁ、ごめんなぁ。なんか調子悪いねん。
昨日の晩からずっと寒気がしてしゃあないねん」


身体に触れると、少し熱っぽい気がする。
あまり「寒い寒い」と仰るので、コートを脱いでそのままお布団に入る。
そうするとぎゅーっと抱きしめてくる竜樹さん。
暫く抱き枕兼湯たんぽ代わりになってじっとしてる。

暫くすると、「薬を飲む」と仰るので、階下に降りて簡単なご飯を作り二人で食べる。
竜樹さんは薬を飲み、暫く状態が落ち着くまでお話したりじゃれじゃれしたりする。
けれど、そんな柔らかな時間もそれほど長くは続かず、あまり調子はよくならない。


「…霄ぁ、今、何時?」
「もう15時まわりましたよ」
「そろそろ出ぇへんと、交通規制かかってまうなぁ」


宿泊先まで車で入れないとなると、余計に厄介だ。
せめてあと1,2時間のうちに状態がマシにならなければ、旅行そのものを中止にすることを考えなければならない。

ひとまず宿泊先に事情を説明した上で、チェックインの時間に間に合わない旨を説明する。
宿泊先の人は具合の悪くなった竜樹さんのことを心配し、何時でもいいですよとまで言ってくれた。
点灯式に間に合わなくてもいいから、早く竜樹さんの状態がよくなって神戸に入れたらいいなってずっと願い続けていた。


リビングに簡易ベッドを出して二人でくっついて横になっていたけれど、どうも竜樹さんがこのベッドと相性が悪いらしくてまた2階に移動。
また暫く抱っこ枕兼湯たんぽ代わり状態でくっついて横になっていた。

いつの間にか、少しばかり眠ってしまってた。
竜樹さんの指が身体に触れる感覚で目を覚ます。
ぼんやりとした頭で携帯を見てびっくり。


18時まであとそれほど時間がなかった。


「…今、何時なん?」
「…もうすぐ18時です」


神戸市内の一部では交通規制も通行止めもかかってる。
交通規制のかかってる状態で今から出かけていって間に合うはずもない。
元気な状態なら、何時間かかったって神戸に辿り着くことを最重要課題として2人とも動けるけれど、車を運転できるたった一人の人が今すこぶる体調を損ねて苦しんでおられる。


とてもじゃないけれど、この状態で強行することは無理だ。


「…中止にするしかないですね」


竜樹さんに背中を向けた状態で、ぽつりとそう呟いた。
背中から抱きしめる竜樹さんの腕に力が入るけれど、それにどう答えることもできなくて。
ただ涙が落ちるのを堪えるので精一杯だった。
どんな風に竜樹さんが抱きしめても、ただただ脱力感しか残ってなくて。
堪えてるはずの涙は竜樹さんから見えないところで流れ落ちてしまっていた。


「…泣いてるんか?」


弱い声で確認する竜樹さんに、少し強めで「泣いてませんよ」とだけ答える。
さすがに竜樹さんの方に向き直って答えられるほどに居直れてはいなかったけれど。
泣いてるのを誤魔化したくて、携帯を片手に友達にメールを飛ばす。
それは現状報告であったり指示書であったり。
友達のいくつかのフォローに感謝しながらも、やっぱり脱力感だけは拭えなかった。


そうしてるうちにもどんどん時間は過ぎていく。
そろそろ夕飯の支度をしなければならない。
「中止になるかもしれない」とは思っていたけれど、中止になることを前提に動いていた訳じゃないので、食材の買出しもおぼつかなくて。
さりとて自転車に乗って閉店間際のスーパーまで走る気力もないから、冷蔵庫の中のものだけで料理をすることにした。


「…これから、夕飯作りますね」


暖を取るような形で抱き締めつづけていた竜樹さんの腕が眠りに入ると緩んできたから。
そう一言声をかけて、布団から抜け出す。


冷蔵庫を整理しながら作ったのは、豚汁もどきと蓮根餅、ニンジン、ピーマン、玉ねぎと豚肉のスープ煮。
落胆してる割には、いや落胆しててそれに纏わることを一切考えたくなかったからなのか、食材が乏しい割にはそれなりにご飯を作れてたのには我ながら驚いたけれど。
料理してる時に竜樹さんが起き出してこなくてよかったなぁって思った。

さすがに泣きながら料理してるのは見られたくはなかったから。


当日になってキャンセルかけたらキャンセル費は宿泊費全額取られることも相当痛かったけれど。

そんなことよりも何より。

毎年の神戸小旅行は滅多に我儘を言わないようにしてる私にとっては年に一度のご褒美のようなもの。
いろいろあっても、「12月にはいいことあるから」と自分に言い聞かせて頑張ってきたのに、それすら叶わないのかということ。


勿論、体調を崩した竜樹さんが悪い訳じゃない。
誰が悪い訳でも何が悪い訳でもない。
ただ行き先を失った感情が何をやっても自分には得られるものなどないのだという落胆に変わる。
その様を見つづけるのが、辛かった。


きっと冷静になれば些細なことなんだろう。
きっと冷静になれれば、「大したことないさ」って思えるようなことなんだろうけれど。
正直、楽しみの仕方が違ったために、一気に谷底に落ちた気分。
鍋の中で料理がくたくた煮えるのを見ながら、整理などつくはずのない気持ちの整理に躍起になっていた。


そうしてるうちに竜樹さんが降りてこられて、遅い夕食を取る。
会話は殆どない。
元々食事中はあまり会話の多い2人ではないけれど、会話を切り出す人間が塞いでいるのだから否が応でも静かになる。


ただ、竜樹さんが気を遣ってかけたつもりの言葉に、感情が逆巻いた。


「…あのね、竜樹さん」


私がしょげているのは、キャンセル費を取られることじゃない。
誰かを責めるべきことじゃないことは百も承知だし、責めるつもりもないんだけれど。
年に一度のご褒美のつもりで、その日を目指して1年間頑張ってきたのに、結局我慢しても頑張っても何も得られないのだと思い知ったことをがっかりしてるんだよ、と。

今は自分の中にある欠乏感を埋め合わせるものが何かすらわからない。


そう溢してしまった。


食事が終わって私は台所で片付けを、竜樹さんはリビングのベッドで横になってる。
リビングに戻ってくると、おいでおいでする。
そのままおいでおいでされて抱き締められて気がついたこと。


…竜樹さんもまた、中止にせざるを得なかったことを辛いと思っていたこと。


それを慮ることが出来なくなるほどに、私の想いが弱くなってしまってること。
それは旅行が潰えてしまったことよりももっと私を落胆させた。
互いが互いの想いを握り締めながら、そのまま暫く2人でくっついていた。
それで互いの心に重くのしかかったものがなくなる訳でないと知りながら。
ただ互いが互いに伝える熱で相手の心に刺さった何かを溶かしたいというだけの気持ちで。


徐に時計を見る。
宿泊先に正式なキャンセルの連絡を入れられる限界の時間。
竜樹さんからそっと離れて宿泊先に連絡をすると、電話に出た係の人はキャンセル費はいりませんよと言ってくれた。
ありがたいのかありがたくないのかよく判らないけれど。


こうして、神戸小旅行は本当に中止になった。


神戸小旅行に出るということそのものよりも大切なものは確かにあるはずなのに。
それでも、落胆の色を払拭させられない自分がそこにいる。
竜樹さんとだから行きたかった旅行なのに、それが履行されなかったことで竜樹さんに嫌な思いをさせた。


心を繋ぐものは、きっとその旅だけではなかった筈なのに。
それでも、その日の私はそんな風にはまだ思えなかった。

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