朝目覚めて見上げた空は快晴だった。
昨日の朝のような重く立ち込める鈍色の雲はどこかへ行ってしまったらしい。
仕事でこてんぱんにされて帰ってきたというのに元気なのは、やっぱり竜樹さんに会えたから。
竜樹さんから貰った元気を引き連れて、家を出る。


事務所は今日も微妙な感じの立ち上がり。
ちょっとした判断違いで、うんと仕事の進みが悪くなりそうな空気がそこここに潜んでる気がする展開。
先輩からの足止めも課長の業務相談に上手にこかして脱出。
事務所に戻ってきりきりと仕事をこなす。
昨日ほど仕事の進みが悪くもなく、ほどほどな状態で昼休みを向かえる。


お弁当を食べながら、ボスのトークショーに相槌を打ち、時々がつーんと突っ込む。
二度目のお茶を煎れ、おやつのチョコエッグを開けてみると、プードルさんがばらばらと出てくる。
しょうもないことに喜びながら、竜樹さん宛にこちこちとメールを打つ。


「いい天気ですね。お疲れ出てませんか?
今日も微妙な感じの立ち上がりです。
でも昨日ほどこてぱきにはやられないで済むような気がします。
昨日はちゃんと寝たので、まだ比較的には元気です。

…チョコエッグを開けたらプードルちゃんが出てきました(*^_^*)
いいことあるかも(笑)」


明るい空にメールを飛ばし終えた頃、昼一番の書類を持った社員さんがやってくる。
また戦闘モード全開で仕事を進める。

極めて微妙な仕事の流れには違いがないけれど、昨日ほどにはこてんぱんにされずに済みそう。
それでも相変わらず次から次へと仕事が舞い込んでくるのは変わりなくて、ひとまず業務時間内に仕事を収めることだけを考えながら、一生懸命仕事をこなして事務所を後にした。


何が許で疲れるのかいつも判らないまま。
電車の中でゆらゆらとしながら、家までの移動の旅を始める。
「仕事終わりましたメール」を打ちながら、帰りの移動時間を過ごすのだけど、昨日きちんと睡眠をとったにもかかわらず、今日は「終わりましたメール」すら打てない状態。
ゆらゆらと電車の中で過ごし、乗り換えの駅で降りてはまたゆらゆら。
常にゆらゆらしてるような状態で、ようやく家までたどり着いた。


家に帰って自室に入ろうとすると、飼ってる猫のうちの1匹が部屋の前で転がっている。
見ると、ドアの壁紙を沢山むしっている(>_<)
きっと私が出かけてる間も「入れれ、入れれー」とやったのだろう。
しょうがなく抱っこして部屋の中に連れて入り、私のお布団の上にぽすんと置く。

猫は毛布に埋まってぐるぐると喉を鳴らしている。


この猫は今年の1月に生命と引き替えに失明した。
視力があったころの感覚を頼りにリビングから階段を上って私の部屋の前までやってくる。
勘だけで歩いてるので、何かと障害物が多い私の部屋は彼にとっては猫外魔境なんだろうけど、どういう訳か私の部屋がお気に入りらしい。
毛布の上でぐるぐると喉を鳴らし、ちょっと目を離すと竜樹さんから貰っためざしの袋を鼻で見つけてかじったりしている憎いヤツ。

あまり沢山やると吐くので、1日1匹と決めてめざしを食べさせる。
それだけで、猫はごきげん。
またぐるぐると喉を鳴らして、毛布の上を転がりまわっている。


もしも処置が遅かったら、失明どころではなく生命を落としていた。
猫にとっては失明自体が致命傷なんだろうけれど、この家の外に出ないうちは何とか暮らせているところを見ると、生きているということに不思議な力を感じ取れる気がする。

生命力の強さには目を見張る。
それは竜樹さんの闘病生活を振り返ってもそう感じていたけれど…


…ただ、困るのは。


この子が部屋にいてる間はパソコンを触れないということ。
お布団の傍にずっといないと落ち着かないらしく、結果的に猫と転寝をする形になってしまう。
金岡両親がプードルさんをかわいがる姿を「過保護モード入ってんちゃん?」って思ってみてるけれど、どうやら私も変わらないみたい(^-^;

うつらうつらしてるところに姉さまからメールが入り、暫くメールにてお話。
いい加減夕飯を食べないといけない時間になって、猫を抱っこしてまたリビングに降りる。

夕飯を食べて後片付けをして、リビングで話して自室に戻ると携帯にメールがひとつ。


「今日は親戚が見舞いに来た〜。お話ししたい(’’)?」


こんな内容の文に効果音の表現が満載のメールにまた笑顔が戻る。


「しんどくなかったらお話しましょか?(*^_^*)」


そう送った直後に部屋電が鳴る。
明るい調子の声に今日も癒される感じがする。
何気ない話をしていて、ふと思ったことを口にしてみた。


「竜樹さん、最近メールも電話も増えたよね?」


それまでは体調が悪くて物理的に不可能だったのだけど、元気だった頃よりもさらに増えてる気がしてたから。


「あぁ、今までは身体の具合が悪くてそれどころちゃうかったからさぁ」
「そんなもんなの?」
「身体の痛みがなくなったら、こんなもんやで(*^_^*)」


病気がなくなると、こんなに違うものなのか。
楽しい時間も暖かい時間も増えるものなのか。


…病気なんてなくなればいいのに


それがあったからこそ、思い知ったことがある。
それがあったからこそ、深まった想いがある。
それがあったからこそ、生命の強さを知ることができた。


…それでも、やっぱり。


病気なんてなくなればいいのに。


大好きな竜樹さんの明るい声を聞きながら、そんな風に思った。

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