始まりの日

2002年10月1日
今日は竜樹さんが退院する日。
なのに、朝からざざ降り。


…竜樹さん、大丈夫かなぁ?


雨が降ると竜樹さんの具合が悪くなるという思考の流れは相変わらずで。
それが術後も引き継がれているものなのかどうかすら判らないのに、思考は従来通りに流れていく。
また一から気温や天候によって竜樹さんの体調がどう変化するのか、自分の意識の中に叩き込んでかなきゃならないなぁと思いながら、ぼんやりと出かける。


ぼんやりしすぎたからか、レインジャケットを家に置き忘れてしまった。


会社のある方角に向かえば向かうほど、雨脚は強くなる。
ずぶぬれで会社に入らなきゃならないのも憂鬱だけど、昨日の夕方から身体のあちこちに出てるぶつぶつは未だに消えずに残っている。
昨日も一昨日も薬は飲んでいないから、ストレス性の蕁麻疹なんだろうと思う。

今までこんなに長時間ぶつぶつが引かなかったことはなかったのに…


竜樹さん以外のことにおいては、もう限界なのかもしれない。


寝てるとかゆみは感じないので休みたいなぁと思ったけれど、あらゆる部署を巻き込んだ親会社の棚卸し明けに休むのは自殺行為に近いから、なくなく出勤。

いつも持ち歩いている、竜樹さんのちいさな笑顔に元気を貰って仕事を始める。


いろいろ複雑なことが絡まりあう場に身を置いてることは間違いないけれど、自分の中にある結論はシンプルなまでに鮮明。
その鮮明さを加速させたのは竜樹さんの元気。
竜樹さんと一緒にいられるうちは頑張ろうと思えるから不思議だ。


そんな決意と裏腹に、何だか体調が上向きにならない。


…風邪を引いたのか、鼻がずるずる(>へ<)


会社に置き薬はないし、自分自身が薬を持ち歩いていないから、具合はどんどん悪くなる。


「…何か、この辺で鼻をずるずる言わせてるでぇ、かなちゃんが。
今年はかなちゃんから風邪が始まるのかぁ?」


ボスの茶化しは洒落になってない。

電話をとってもずるずる、パソコンのキーボードを叩いててもずるずる。
書類かいててもずるずる、お茶飲んでてもずるずる。

鼻のかみすぎで鼻は真っ赤になるし、頭はボーっとするし、ひどい有り様。


…こんな日にやらかした失敗は、後日とんでもないトラブルを巻き起こすんだ(-_-;)


その後始末の大変さは身をもって知ってるから、極力注意しながら書類を片していく。
幸いややこしい仕事はなく、通常フロー通りの流れで済みそう。
ぐったりよれよれの状態で会社を出た。


朝は何時やむんだろうと思うほどの雨だったのに、外に出るとすっかりあがって夕闇の空が広がっている。

信号待ちの時間に携帯を取り出し、メールをひとつ。


「退院祝いは何がいですか?リクエスト募集中!」


短い言葉を夜空に飛ばし、自転車をかっ飛ばす。
最寄駅に着くちょっと前にお返事がひとつ。


…………………(/-\*)……


これからすぐに行きたいのはやまやまだけど、身体の調子は今ひとつ。
お伺いを立ててみた。


「しんどくなかったら、今日。しんどかったら、明日。いいもん、あんねんけどなぁー」


…………………o(;-_-;)o


「いいもん、あんねんけどなー」は殆ど「できたら今日おいで」ってことなんだろう。
「おいで」と言われて「やめます」なんて言える訳もない。

風邪薬で抑えれば何とかなりそうだったので、自宅にに連絡をいれ、風邪薬を買ってホームに上がり電車が車での間に風邪薬を飲み、竜樹邸に向かう。


車窓を流れる景色を見つめながら、時間の流れの速さに驚く。
ついこないだまではこれくらいの時間だとまだ明るかったし、肌に当たる風はどこか熱を帯びていた。
やれ竜樹さんの再入院、再手術と大騒ぎしてたと思っていたら、もう退院。


…それはあくまで区切りであって、終わりではないのだけど


いつやってくるか判らず、半ば絶望的な気持ちで眺めていた竜樹さんの体調が思って退場によくなってること。
今はそれがただただありがたいなぁと思う。
それが今まで隠してた問題を掘り起こすことになっても、竜樹さんの元気が私の元気の素だから、それを糧にやれることをやろう。
そんな風に思いながら、竜樹邸に向かった。


「お疲れ、よぉ来てくれたなぁ♪(*^-^*)」


そう声をかける竜樹さんは元気そう。
幸い電車待ちの時間に飲んだ風邪薬が効いてきてるのか、あまりしんどくはない。
暫くテレビを見ながら話し、竜樹さんは台所から小さな箱を持ってきた。

「夕方真人とピザを取って食べた時に頼んだら美味しかったから、また頼んでおいてん♪」

箱を開けると2種類のチキンが出てきた。

「いただきます♪(*^人^*)」


ピザ屋さんのサイドメニューで美味しいと思うものはそうそうないのだけれど、このチキンは美味しかった。
一生懸命食べてる横から手が伸びてくる。


…竜樹さん、夕方食べただけでは食べたりなかったらしい(^-^;


2人で一生懸命チキンを食べ、コーヒー飲んで一息つく。


「そぉや、これを霄にあげよう(*^-^*)」


そう言って、小さな紙袋を貰う。


…開けてみると、アクセサリーポーチのような、小さな鞄が入っていた。


「こんなんもうて、いいんですか?本当なら私が退院祝いせんなんのに…」
「霄はよう頑張ってくれたから、ええねん♪
長いこと、ありがとうなぁ(*^-^*)」


そう言ってほにゃと笑う竜樹さん。
その笑顔に触れるのはもっと先だと思っていたから、ただそれだけが嬉しかった。
どちらからともなく抱き締めあって、ゆっくりと熱と想いを分け合って…

「ずっと傍におりや…」
「…うん」

何度となく交わした想いはより深くなる。


すべてが終わったわけじゃない。
まだ山は幾つも目の前に聳えている。
長い旅はまだまだ続いていくのだろう。


…それでも。


ただ自分の目の前にいてくれてること。
元気な笑顔と暖かな想いを向けてくれること。
それがただ嬉しかった。


元気な竜樹さんに触れたせいなのか、昨日の夕方から消えることなく身体に残りつづけていたぶつぶつはきれいに消えていた。


竜樹さんが元気で戻ってきた日。
その元気に触れられさえすれば、いろんなことはあっても私も元気でいられるのだと、改めて判った日。
互いの想いが深いことを確認した日。


…今日は幾度目かの始まりの日。



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