思考の迷路
2002年9月24日竜樹さんに貰ったものを眺めながらいろんなことを考えていたけれど、病院で生まれた小さな不安は完全に拭うことは出来なかった。
夕方話した友達から気遣いのメールが届いたので、折り返し連絡して暫く話し込む。
竜樹さんに伝えないまま思い煩っても仕方がないので、事情を説明することを心に決めて眠りについた。
最近、朝晩とても涼しくて、うっかりすると風邪をひきそうな感じ。
相変わらず、不調を抱えたまま家を出る。
電車の中から定例の朝メールの他に、竜樹さんにお願いメールをこさえて飛ばす。
…竜樹さんに判りやすい説明だったかどうかは判らないけれど、あとは竜樹さんに対応を預けよう。
話してしまえば不安が拭えるかと言えば、そんなこともなくて。
そんな不安を抱くこと自体をどうかと思う自分もいて、自分の中で感情の整理がついてない段階で話してえみたってすっきりなんてしやしないんだということは判っていたけれど。
誰かの力になりたいと、それが竜樹さんが気にかける人のことならなおのことそう思うけれど、それと同時に自分が築いてきたものを守りたいと、それが竜樹さんに関わることならなおのことだという想いもあるのは事実で。
二手の気持ちに引きずられるようにして、仕事を始める。
会社で起こる出来事のすべてがガラス一枚通したような感じ。
いつもなら過敏なくらいにいろんなことが気に障ったり、飛び込んでくることの対処に追われたりするというのに。
皮肉なもので、どうでも良くないことを抱えてると、本当にどうでもいい連中のことなどどうでもよくなるのかもしれない。
少なくとも、今の私においては。
さりとて、いつもよりも手を煩わされてないかと言えばそうでもなくて。
やっとこ開放されたかと思ってた先輩の足止めは復活してるし、チェックをお願いしていたことがザルで、方々に謝り倒すことも多かったような気はする。
事象に対する諦めではなく、どうでもいいわという感情だけを残して、社屋を後にする。
…竜樹さんはどんな答を返してこられるのかな?
そればかりが気になりながら、電車を乗り継ぎ移動する。
こんなことは珍しい。
竜樹さんと話してて、その場どう受け答えすればいいか迷うことは未だにあるけれど、竜樹さんの答がどんなものかについて不安を抱きながら待つなんてことは随分久しぶりのような気がする。
家に帰ってひと段楽した頃、携帯が鳴る。
「…霄に頼まれたことを実行しようと思ってんねんけど、どやったらええんかなぁ?」
少ししんどそうな、心持ち怒っているような感じにも受け取れる質の声。
言葉を選び選びあれこれと説明するけれど、今ひとつ噛みあわなくて私にも竜樹さんにも焦燥感が見え隠れする。
思ってることの背景をどこまで説明したらいいのか、判らない。
すべて説明したってよかったのかもしれない。
ちゃんと話を詰めれば、竜樹さんは私の言い分を軽んじるような人ではない。
場に応じて最善の対策を取ろうと努力する人だもの。
それは信じてるんだ。
けれど、伝えるべき情報を今は選り分ける必要があるという思いの方が強かった。
…術後すぐの竜樹さんの体調自体が不安定だから
「余計なことで竜樹さんの心煩わせたくない」という想いが余計に事態を混乱させると知りながら。
それでも、私が少しずつ築いたものが互いの足元を掬うかもしれないという危惧以上に、竜樹さんに新たな心配の素を生みたくなかったのは事実。
上手に伝えられないもどかしさから、口にしてはならないだろう言葉を零した。
「…もういいです。そのまま置いといてください」
その判断がどんな結末を齎すかに不安がないわけではないし、そんな風に片付けるくらいなら最初から言わなければよかったとも思ったけれど。
いずれにしてもこれ以上この話を引っ張っても建設的な結論は導けない。
それ以前に、建設的な結論を導き出すために必要な的確な表現も何も浮かんでは来なかっただけなのだけど…
「…大丈夫やから。
霄が心配してるようなことはせぇへんから、もう少しだけ力貸してやってくれへんか?」
電話の向こうの竜樹さんはどう思ったのかは判らない。
静かに怒りを孕んでるようにも受け取れるけれど、少なくとも体調が悪かった時に出る強めの、ともすると強引に会話に幕を引くような感じの強い言葉ではなかった。
でも何だか疲れてしまった。
きっと竜樹さんはもっと疲れたんだと思うと、一人で不安を拭えなかったことが悔やまれてならなくて。
ただただ謝り続ける私を、ただ静かに受け止める竜樹さん。
そのまま二言三言言葉を交わして、電話を切った。
少し考えたら、私の不安は杞憂に過ぎないだろうことは判りそうなものだったけれど。
それでも、素直に「大丈夫」だと確信が持てるほどに信じられたわけじゃない。
竜樹さんの想いや言葉、竜樹さん自身を信じることは出来ても、竜樹さんのエリアにあるものという理由だけでは手放しで信じて安心できないことは確かにあるんだ。
人は自分が願うほどいいものではないのかも知れないという嫌な思考。
信じて大丈夫だと思うに足りる要素は自分で拾いあげられなければ信じるための柱にはなり得ない。
ここんとこ竜樹さんとの関係の外側で、信じたいと願えどそれを覆されるようなことが少しばかり続いたから、どうしてもその要素が拾えない状態でまで良心的な解釈が利かない。
ここひと月ばかりの間に、人の持ついいところも嫌なところもみんな剥き出しになった心に飛び込んできた。
嬉しいと思う感情のすぐ傍で、刃のような冷たいものが刺さったことも確かにあったから、手放しで何事もいいようには取れる状態ではなかった。
それでも、疑うべきでないことは確かにあるんだ。
その判断がつかないほどに、今の自分はいろんな意味でガタきてるんだと気づいた。
思考の迷路は心の闇の中に横たわる。
疲れたままの状態で歩き続けても仕方がないと知りながら、飛び込んでくる事態には待ったはかけられずに奥へ奥へと迷い込む。
気持ちの整理のつもりで纏めたものはさらに思考を迷い込ませる。
足掻くのを諦めて何もする気になれず、そのまま眠った。
夕方話した友達から気遣いのメールが届いたので、折り返し連絡して暫く話し込む。
竜樹さんに伝えないまま思い煩っても仕方がないので、事情を説明することを心に決めて眠りについた。
最近、朝晩とても涼しくて、うっかりすると風邪をひきそうな感じ。
相変わらず、不調を抱えたまま家を出る。
電車の中から定例の朝メールの他に、竜樹さんにお願いメールをこさえて飛ばす。
…竜樹さんに判りやすい説明だったかどうかは判らないけれど、あとは竜樹さんに対応を預けよう。
話してしまえば不安が拭えるかと言えば、そんなこともなくて。
そんな不安を抱くこと自体をどうかと思う自分もいて、自分の中で感情の整理がついてない段階で話してえみたってすっきりなんてしやしないんだということは判っていたけれど。
誰かの力になりたいと、それが竜樹さんが気にかける人のことならなおのことそう思うけれど、それと同時に自分が築いてきたものを守りたいと、それが竜樹さんに関わることならなおのことだという想いもあるのは事実で。
二手の気持ちに引きずられるようにして、仕事を始める。
会社で起こる出来事のすべてがガラス一枚通したような感じ。
いつもなら過敏なくらいにいろんなことが気に障ったり、飛び込んでくることの対処に追われたりするというのに。
皮肉なもので、どうでも良くないことを抱えてると、本当にどうでもいい連中のことなどどうでもよくなるのかもしれない。
少なくとも、今の私においては。
さりとて、いつもよりも手を煩わされてないかと言えばそうでもなくて。
やっとこ開放されたかと思ってた先輩の足止めは復活してるし、チェックをお願いしていたことがザルで、方々に謝り倒すことも多かったような気はする。
事象に対する諦めではなく、どうでもいいわという感情だけを残して、社屋を後にする。
…竜樹さんはどんな答を返してこられるのかな?
そればかりが気になりながら、電車を乗り継ぎ移動する。
こんなことは珍しい。
竜樹さんと話してて、その場どう受け答えすればいいか迷うことは未だにあるけれど、竜樹さんの答がどんなものかについて不安を抱きながら待つなんてことは随分久しぶりのような気がする。
家に帰ってひと段楽した頃、携帯が鳴る。
「…霄に頼まれたことを実行しようと思ってんねんけど、どやったらええんかなぁ?」
少ししんどそうな、心持ち怒っているような感じにも受け取れる質の声。
言葉を選び選びあれこれと説明するけれど、今ひとつ噛みあわなくて私にも竜樹さんにも焦燥感が見え隠れする。
思ってることの背景をどこまで説明したらいいのか、判らない。
すべて説明したってよかったのかもしれない。
ちゃんと話を詰めれば、竜樹さんは私の言い分を軽んじるような人ではない。
場に応じて最善の対策を取ろうと努力する人だもの。
それは信じてるんだ。
けれど、伝えるべき情報を今は選り分ける必要があるという思いの方が強かった。
…術後すぐの竜樹さんの体調自体が不安定だから
「余計なことで竜樹さんの心煩わせたくない」という想いが余計に事態を混乱させると知りながら。
それでも、私が少しずつ築いたものが互いの足元を掬うかもしれないという危惧以上に、竜樹さんに新たな心配の素を生みたくなかったのは事実。
上手に伝えられないもどかしさから、口にしてはならないだろう言葉を零した。
「…もういいです。そのまま置いといてください」
その判断がどんな結末を齎すかに不安がないわけではないし、そんな風に片付けるくらいなら最初から言わなければよかったとも思ったけれど。
いずれにしてもこれ以上この話を引っ張っても建設的な結論は導けない。
それ以前に、建設的な結論を導き出すために必要な的確な表現も何も浮かんでは来なかっただけなのだけど…
「…大丈夫やから。
霄が心配してるようなことはせぇへんから、もう少しだけ力貸してやってくれへんか?」
電話の向こうの竜樹さんはどう思ったのかは判らない。
静かに怒りを孕んでるようにも受け取れるけれど、少なくとも体調が悪かった時に出る強めの、ともすると強引に会話に幕を引くような感じの強い言葉ではなかった。
でも何だか疲れてしまった。
きっと竜樹さんはもっと疲れたんだと思うと、一人で不安を拭えなかったことが悔やまれてならなくて。
ただただ謝り続ける私を、ただ静かに受け止める竜樹さん。
そのまま二言三言言葉を交わして、電話を切った。
少し考えたら、私の不安は杞憂に過ぎないだろうことは判りそうなものだったけれど。
それでも、素直に「大丈夫」だと確信が持てるほどに信じられたわけじゃない。
竜樹さんの想いや言葉、竜樹さん自身を信じることは出来ても、竜樹さんのエリアにあるものという理由だけでは手放しで信じて安心できないことは確かにあるんだ。
人は自分が願うほどいいものではないのかも知れないという嫌な思考。
信じて大丈夫だと思うに足りる要素は自分で拾いあげられなければ信じるための柱にはなり得ない。
ここんとこ竜樹さんとの関係の外側で、信じたいと願えどそれを覆されるようなことが少しばかり続いたから、どうしてもその要素が拾えない状態でまで良心的な解釈が利かない。
ここひと月ばかりの間に、人の持ついいところも嫌なところもみんな剥き出しになった心に飛び込んできた。
嬉しいと思う感情のすぐ傍で、刃のような冷たいものが刺さったことも確かにあったから、手放しで何事もいいようには取れる状態ではなかった。
それでも、疑うべきでないことは確かにあるんだ。
その判断がつかないほどに、今の自分はいろんな意味でガタきてるんだと気づいた。
思考の迷路は心の闇の中に横たわる。
疲れたままの状態で歩き続けても仕方がないと知りながら、飛び込んでくる事態には待ったはかけられずに奥へ奥へと迷い込む。
気持ちの整理のつもりで纏めたものはさらに思考を迷い込ませる。
足掻くのを諦めて何もする気になれず、そのまま眠った。
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