一夜明けて、今日は青空が広がっている。


今日は竜樹さんに差し入れを届けに行く。


普通の病室に戻って、リハビリを開始してるだろう竜樹さんに笑顔とめざしを届けたい。
いろいろ思うところはあるけれど、今日は機嫌よく過ごせたらいい。
出来たら仕事が立て込まなければいい。

そんな風に思いながら家を出た。


今日はボスも社長も出張に出ていないので、同僚さんに対するプレスはないだろう。
そうすれば、彼女も私も機嫌よくは過ごせる。
飛び込んでくる仕事の内容にも依るけれど、理不尽なものでなければ少々立て込んでも我慢しよう。


…その後には、竜樹さんが待っているんだから。


そう思えば、何とか気力は振り絞れるもので。
午前中からハイペースに仕事を片付けていく。
切れ間なくやるべき仕事をどんどこ片付けていると、午前中に殆どの仕事が終わってしまった。

午前中が終わって、どっと疲れが出たけれど、6時間ほど後には竜樹さんに会えるんだと思えば、それだけで元気が戻る気がする。
ご飯をぼそぼそと食べて、後片付けをして、少しだけお昼寝。

少し元気を取り戻し、昼からイレギュラーの物件が増えすぎないことをただただ祈りながら仕事を始めたけれど、厄介なことは殆ど起こることなく、定時に事務所を出られた。

そこへメールがひとつ。


「部屋が変わったので、注意!」


それを見て、「どこの部屋に変わったのよ/( ̄□ ̄)\!」と突っ込みたくなったけれど、メールを打ち返すのももどかしくて、自転車をかっ飛ばし、駅へ向かう。

めざしを抱えてホームに滑り込んできた電車に飛び乗る。
乗り換えの駅に着いてダッシュ、滑り込んでくる電車に飛び乗る。

それを繰り返した後、途中下車。


「こっちに来る時は、ちゃんと晩御飯食べて来るねんで」


竜樹さんの言いつけを守るべく、ファーストフードの店に飛び込み、簡単なご飯を食べる。


本当はもっとちゃんとしたものを食べた方がいいんだろうけど、あまりゆっくりしてもいられない。
ご飯をきっちり食べるために、面会時間が終わってしまったら意味がないから。
熱いスープを流し込み、だかだかとパンを食べ、また電車に乗って移動。


…何とか面会時間終了1時間半前には病院に入れた。


竜樹さんの病室がどこへ変わったかを聞こうとエレベーターを降りてナースセンターに向かったけれど、ナースセンターには誰もいない。
仕方なく、ドアの横の名前のプレートを眺めながら、フロアを一通り歩く。
最後の最後でやっと竜樹さんの病室が見つかった。


「…よう、来てくれたなぁ。部屋番、誰が教えてくれたん?」
「…誰も教えてくれませんよ。自分で歩いて探しました」
「…え?誰も教えてくれへんかったん?」
「うん、ナースセンターには誰もいなかったから」


………………………(゜д゜)………


竜樹さんが部屋番を敢えて私に知らせなかったのには、彼なりの理由があったらしい。
けれど、その目的は果たすことが出来ないまま、私が足で見つけてしまった。


2日ぶりに会う竜樹さんはちょっとしんどそう。
話を聞いてみると、前日あまり眠れなかったらしく、少ししんどいとのこと。
それでも、身体を起こせずにじっとしてるしかなかった以前と比べるとはるかにいい感じ。
身体を起こしてご飯を食べれるし、食べ終わった食器も自分で運べる。
届けためざしも喜んでくれる(笑)

ただそれだけが嬉しい。


ふと、竜樹さんは隣の患者さんにお願いして、冷蔵庫から何かを取り出してもらってた。

「これ、食べぇや♪」

ケーキ屋さんのゼリーをひとつ貰った。

「どうしはったんですか?」
「今日、学校時代の友達が彼女と一緒に来てくれてん(*^-^*)」

友達がどんな人なのか、その彼女がどんな人なのか、いろいろと話してくれる。
よほど楽しい時間だったんだろう。
竜樹さんはとても嬉しそうに話を続ける。
ゼリーを食べながら、こくこく聞いてる私。


「…あ、そうやそうや。
『元気になったら、みんなで会いましょう』って言ってたで(*^-^*)」


嬉しそうに言う竜樹さんに、『うん、会おうね』と笑顔で答えることは出来なかった。
その理由はきっと取るに足らないことだとは思う。
竜樹さんに言ったら「何を言うてんねん」って笑われるような本当につまらない理由。
けれど、能動的に「元気になったら、是非是非お会いしましょうねとお伝えください」とは言う気になれなかった。


竜樹さんも敢えてその件には触れない。
正直、少しばかりほっとした。


テレビのニュースを見ながら、取り止めもなく話をしてると面会時間終了15分前を告げる館内放送が流れる。


「まだ明日も明後日もあるから、今日はもう帰り?」


そう言われて、病室を後にした。
エレベーターに乗り、薄暗い鰻の寝床のような通路を歩き、病院の外に出る。
駅までの道をとっとこ歩き、いつものように電車に乗る。


…なんで、ちゃんと返事せぇへんかったんやろ?


竜樹さんがたとえ友達のお連れ様とは言え、誉めすぎるくらいに誉めることはない。
だからと言って、普段から人をそう悪く言うわけでもないけれど。

竜樹さんの話を聞いていると、学校のお友達の話をいろいろ聞く中で彼女の悪い話はまったくと言っていいほど出てこない。

常日頃、何かにつけては竜樹さんのお叱りを受ける私には、そこまで誉める人の前に引きずり出されるのは、何となく気分が乗るものではない。
出来るなら、そのお友達まとめて能動的には会いたくないなぁと思ってしまう自分がいる。


…そんなん言うてたら、何処にも出て行けなくなるけどね(-_-;)


あぁでもないこうでもないと、窓に映る夜景を見ながらぼんにゃり考える。


…竜樹さんはどう答えることを望んでたんだろう?


別にどう答えようとどうでもいいような気もするけれど。
自分のエリアの人と話す時はがっちがちに構えては話して欲しくないと随分昔聞いたような記憶もある。

そうしたら、自ずとどんな風に言えば竜樹さんが喜んでくれるかくらい、判りそうなもの。


電車を乗り換えて、鞄の中から携帯を取り出した。


「言いそびれた!
竜樹さんが元気になったら、お友達とその彼女さんに会いましょう。
取り急ぎ、ご連絡まで(笑)」


多分、竜樹さんがこの話を出した時、即座にそう返事をするべきだったんだとは思う。
その約束を履行するかどうかは竜樹さんが決めることであって、海のものとも山のものとも知れないうちからがたがた言っても仕方のないこと。
こんな風に言ってしまうことで、会う方向に動き出してしまったらその時考えよう。


そんな風に思って、電車から気持ちを固めるような言葉を夜空に飛ばした。


電車・バスと乗り継いで家に帰った頃、携帯にメールがひとつ。

「無事、帰宅か?
友達と彼女に会ってもらいましょう(*^-^*)」


嬉しそうな顔文字を見て、その判断は違ってなかったんだと思う。

「さっき帰りついたの。
いつもと比べるとあまり眠くありません。
何だか不思議です(笑)
竜樹さんに元気を貰ったからかも知れません。でも、無理せずゆっくり休みます。

今日はよく眠れるといいね♪(*^_^*)」


そう打って、夜空に飛ばした。


臆する自分をひっくり返せるほどには、自分はまだ何も持ちえてない気はするけれど。
ただ竜樹さんの笑顔の傍に自分がいたいと願って動けるなら。
きっといつかはどこかすっきりしない自分を飛び出すことができるだろう。


竜樹さんの笑顔の傍にいるために頑張れたらって思ってる。

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