Black Jackには逢えなかったけれど…(前編)
2002年9月13日…運命の朝はやってきた。
今日は竜樹さんの再手術の日。
昨晩降っていた雨はあがり、窓一面にペールブルーの空が広がる。
ぼんにゃりと用意をしながら、大切な人たちに届ける言葉を考える。
けれど、どれだけ考えてもたった一言しか出てこない。
「ありがとう」
そんな想いを拙い言葉に乗せて置手紙に代えた。
家を出ようとすると、いきなり金岡母からダメ出しを食らう。
病院に行くことを考えて選んだ服が彼女のお気に召さなかったらしい。
「時間ないんだから、しょうもないことでダメ出しせんといてよ!」
「もっとちゃんとして行ってよ!恥ずかしいじゃないの!」
竜樹さんの手術に立会いに行くのに、豪勢なカッコでもしろってかと思いながら、自室に帰り着替えてまたダメ食らって…(-_-;)
いい年齢してんだから、緊急事態の時まで麗々しく母親の言うことなんて聞いてんじゃありませんよと、自分自身に毒づきながら家を出て坂道を駆け下りる。
…電車は行ったところだった・゜・(ノД`;)・゜・
へたり込みそうになりながら鞄の中の携帯を取り出すとメールがひとつ。
大好きなお友達からだった。
手術の当日まで私と竜樹さんのことを心に留めていてくれたことが嬉しくて、お返事を飛ばす。
ほどなくホームに滑り込んできた電車に飛び乗り、昨日お参りにまで行ってくれたという友達にもお礼のメールを飛ばす。
乗り換えの駅に着いて離れたホームまでダッシュ。
そこからまた電車に乗ってさらに乗り換え。
次の乗り換えはもっと距離が離れているので、猛ダッシュかけたけれど電車は行ったところ・゜・(ノД`;)・゜・
…今度は15分も電車が来ない(-_-;)
駅を通過する電車を見るたびに、いらいらは募る。
「もう二度と母親の言うことになんて耳貸すもんか!」とか「手術室に入る前に竜樹さんに会えなくて、それっきり二度と逢えなくなったら…」とか第三者的にはかなり理不尽なことをいらいらと思いながら長い長い15分を過ごす。
多分、病院に着く頃には麻酔を打ってもらって私が来たことすら判らない状態だろう。
「こんな時にまで遅れるのかよ」と怒られるならまだしも、私が来たことすら判らなかったら?
長い15分をホームで過ごし、やっとこやってきた電車に飛び乗る。
電車に乗っても走り出したくなるような気持ちを抑えながら、じっとしてる。
病院の最寄駅に着き、脱兎の如く飛び出して病院まで走る。
…結局、20分以上遅れてしまった。
竜樹さんの病室に入ると、竜樹さんのご両親が来ておられて、竜樹さんは手術の準備のために体温を測り、皮下注射を打ってもらう準備に入っていた。
私が来るとは思ってなかった竜樹母さんはびっくり、9時に来ることになっていたはずの私が遅れてきたことに苦笑いの竜樹さん。
「………ホンマ、最後の最後までお前らしいわ」
「……ごめんなさい、足止め食らったんですよ。出かけしなに」
「………なんや、ややこしいことでもあったんか?」
「ううん、大したことじゃないんですよ。ホントに…」
そうして話してると、皮下注射を打つ準備をしてる看護婦さんが竜樹さんに尋ねる。
「ご家族の方ですか?」
「…いえ、違うんですよ?」
「違うんですか?」
「……俗に言う、彼女です」
病院関係者の方に私の続柄を話すとは思わなかった。
今度は私がびっくり目だ。
「皮下注射打ってもらったら、もう殆ど意識なくなるから。
言いたいことがあったら今いいやぁ?」
…この時、私どんな表情してたんだろう?
竜樹さんの顔をまっすぐ見るのが怖いけど、でも目を逸らしたくなくて。
ただじっと竜樹さんの顔を見ていた気がする。
その度に「どした?」って聞かれるのがちょっと辛くて、口を開くと泣いてしまいそうで、ぶつっと口を閉じたまま首を横に振るのが精一杯。
途中で看護婦さんが執刀医の先生の到着が遅れることを伝える。
時折、竜樹さんのご両親が出入りするけれど、殆どずっと2人でいたような気がする。
10時過ぎ。
何人かの看護婦さんが迎えにきた。
病室の外から幼稚園の年少さんくらいの子供さんがこちらを見ている。
「……よぉ、来てくれたんかぁ」
「おにーちゃん、がんばりや」
どうやら病院でこんな小さなお友達が出来てたらしい。
ベッドごと竜樹さんが部屋の外に出ると、何処からともなく人が集まってくる。
「竜樹はん、頑張りやぁ」
「彼女まで来てくれてんねんし、ちゃんと帰っておいでやぁ」
病院でお友達が出来てるあたりがいかにも竜樹さんらしいなぁと思いながら運ばれてく。
エレベータに乗せられる前、少しだけ握手するような形になった。
そして、ドアが閉まる。
本当は手術室の前にいたかったのだけど、この病院の手術室には付き添いの人が待ってるスペースがないらしい。
この後どこで手術が行われるのかも、私は知らない。
取り敢えず、一旦病院の外に出ることになった。
病院の近くの喫茶店でブランチを摂ることになる。
正直、何かを口にしたい心境じゃないけれど、へこんでますな表情を見せるわけにも行かず。
竜樹さんのご両親と共にモーニングを頼んだ。
やってきたたまごサンドのボリュームにも驚いたけれど、それを美味しいなぁと思って食べてる自分にも驚いた。
竜樹さんがしんどい時に自分がちゃんとご飯を食べたりそれなりに楽しい時間を過ごしてたりしたときに感じたことと同じことを思った。
けれど一人でへこみそうになると、竜樹さんのご両親が話し掛けてこられる。
それは店を出て、竜樹さんのいたフロアの待合に移動してからも同じ。
誰ともなく口を開き、それに話をあわせてはまた黙り…
誰にとっても、一人でいない方がよかったのかもしれない。
そのうち竜樹父さんがどこかに行って戻ってこられて教えてくれた。
「竜樹は向かいの棟の同じ階で手術受けとるみたいやで」
待合から手術室は見えなかったけれど。
暫く竜樹さんのご両親から離れてじっと向かいの棟を見つめていた。
…絶対に戻ってきてね
彼がBrack Jackと呼ぶ、ちらっとしかお目にかかったことのない執刀医の先生が竜樹さんを救い出してくれるますようにと、祈るような気持ちで暫く竜樹さんが今いるだろう病棟を眺めていた。
(字数オーバーしそうなので、翌日に続きます)
今日は竜樹さんの再手術の日。
昨晩降っていた雨はあがり、窓一面にペールブルーの空が広がる。
ぼんにゃりと用意をしながら、大切な人たちに届ける言葉を考える。
けれど、どれだけ考えてもたった一言しか出てこない。
「ありがとう」
そんな想いを拙い言葉に乗せて置手紙に代えた。
家を出ようとすると、いきなり金岡母からダメ出しを食らう。
病院に行くことを考えて選んだ服が彼女のお気に召さなかったらしい。
「時間ないんだから、しょうもないことでダメ出しせんといてよ!」
「もっとちゃんとして行ってよ!恥ずかしいじゃないの!」
竜樹さんの手術に立会いに行くのに、豪勢なカッコでもしろってかと思いながら、自室に帰り着替えてまたダメ食らって…(-_-;)
いい年齢してんだから、緊急事態の時まで麗々しく母親の言うことなんて聞いてんじゃありませんよと、自分自身に毒づきながら家を出て坂道を駆け下りる。
…電車は行ったところだった・゜・(ノД`;)・゜・
へたり込みそうになりながら鞄の中の携帯を取り出すとメールがひとつ。
大好きなお友達からだった。
手術の当日まで私と竜樹さんのことを心に留めていてくれたことが嬉しくて、お返事を飛ばす。
ほどなくホームに滑り込んできた電車に飛び乗り、昨日お参りにまで行ってくれたという友達にもお礼のメールを飛ばす。
乗り換えの駅に着いて離れたホームまでダッシュ。
そこからまた電車に乗ってさらに乗り換え。
次の乗り換えはもっと距離が離れているので、猛ダッシュかけたけれど電車は行ったところ・゜・(ノД`;)・゜・
…今度は15分も電車が来ない(-_-;)
駅を通過する電車を見るたびに、いらいらは募る。
「もう二度と母親の言うことになんて耳貸すもんか!」とか「手術室に入る前に竜樹さんに会えなくて、それっきり二度と逢えなくなったら…」とか第三者的にはかなり理不尽なことをいらいらと思いながら長い長い15分を過ごす。
多分、病院に着く頃には麻酔を打ってもらって私が来たことすら判らない状態だろう。
「こんな時にまで遅れるのかよ」と怒られるならまだしも、私が来たことすら判らなかったら?
長い15分をホームで過ごし、やっとこやってきた電車に飛び乗る。
電車に乗っても走り出したくなるような気持ちを抑えながら、じっとしてる。
病院の最寄駅に着き、脱兎の如く飛び出して病院まで走る。
…結局、20分以上遅れてしまった。
竜樹さんの病室に入ると、竜樹さんのご両親が来ておられて、竜樹さんは手術の準備のために体温を測り、皮下注射を打ってもらう準備に入っていた。
私が来るとは思ってなかった竜樹母さんはびっくり、9時に来ることになっていたはずの私が遅れてきたことに苦笑いの竜樹さん。
「………ホンマ、最後の最後までお前らしいわ」
「……ごめんなさい、足止め食らったんですよ。出かけしなに」
「………なんや、ややこしいことでもあったんか?」
「ううん、大したことじゃないんですよ。ホントに…」
そうして話してると、皮下注射を打つ準備をしてる看護婦さんが竜樹さんに尋ねる。
「ご家族の方ですか?」
「…いえ、違うんですよ?」
「違うんですか?」
「……俗に言う、彼女です」
病院関係者の方に私の続柄を話すとは思わなかった。
今度は私がびっくり目だ。
「皮下注射打ってもらったら、もう殆ど意識なくなるから。
言いたいことがあったら今いいやぁ?」
…この時、私どんな表情してたんだろう?
竜樹さんの顔をまっすぐ見るのが怖いけど、でも目を逸らしたくなくて。
ただじっと竜樹さんの顔を見ていた気がする。
その度に「どした?」って聞かれるのがちょっと辛くて、口を開くと泣いてしまいそうで、ぶつっと口を閉じたまま首を横に振るのが精一杯。
途中で看護婦さんが執刀医の先生の到着が遅れることを伝える。
時折、竜樹さんのご両親が出入りするけれど、殆どずっと2人でいたような気がする。
10時過ぎ。
何人かの看護婦さんが迎えにきた。
病室の外から幼稚園の年少さんくらいの子供さんがこちらを見ている。
「……よぉ、来てくれたんかぁ」
「おにーちゃん、がんばりや」
どうやら病院でこんな小さなお友達が出来てたらしい。
ベッドごと竜樹さんが部屋の外に出ると、何処からともなく人が集まってくる。
「竜樹はん、頑張りやぁ」
「彼女まで来てくれてんねんし、ちゃんと帰っておいでやぁ」
病院でお友達が出来てるあたりがいかにも竜樹さんらしいなぁと思いながら運ばれてく。
エレベータに乗せられる前、少しだけ握手するような形になった。
そして、ドアが閉まる。
本当は手術室の前にいたかったのだけど、この病院の手術室には付き添いの人が待ってるスペースがないらしい。
この後どこで手術が行われるのかも、私は知らない。
取り敢えず、一旦病院の外に出ることになった。
病院の近くの喫茶店でブランチを摂ることになる。
正直、何かを口にしたい心境じゃないけれど、へこんでますな表情を見せるわけにも行かず。
竜樹さんのご両親と共にモーニングを頼んだ。
やってきたたまごサンドのボリュームにも驚いたけれど、それを美味しいなぁと思って食べてる自分にも驚いた。
竜樹さんがしんどい時に自分がちゃんとご飯を食べたりそれなりに楽しい時間を過ごしてたりしたときに感じたことと同じことを思った。
けれど一人でへこみそうになると、竜樹さんのご両親が話し掛けてこられる。
それは店を出て、竜樹さんのいたフロアの待合に移動してからも同じ。
誰ともなく口を開き、それに話をあわせてはまた黙り…
誰にとっても、一人でいない方がよかったのかもしれない。
そのうち竜樹父さんがどこかに行って戻ってこられて教えてくれた。
「竜樹は向かいの棟の同じ階で手術受けとるみたいやで」
待合から手術室は見えなかったけれど。
暫く竜樹さんのご両親から離れてじっと向かいの棟を見つめていた。
…絶対に戻ってきてね
彼がBrack Jackと呼ぶ、ちらっとしかお目にかかったことのない執刀医の先生が竜樹さんを救い出してくれるますようにと、祈るような気持ちで暫く竜樹さんが今いるだろう病棟を眺めていた。
(字数オーバーしそうなので、翌日に続きます)
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