新しい朝を迎えたら
2002年9月12日手術まであと1日。
昨晩、寝入った頃にメールの着信音が鳴った。
…竜樹さんからだ
はっきりしない意識のままで携帯を触って、メールを読む。
明日の手術の時間と予定、それに伴う指示が続いた後、少々不安定な内容の文章が続く。
けれどその不安定な部分が途中で切れていて今ひとつ理解に苦しむので、ボケた頭のまま続きがどんな話なのかを問い合わせるメールを打って、送信。
そのまま続きが来るのを待てずに、また意識は落ちていく。
朝起きて届いたメールを見ると、やっぱり気持ちが落ち着かないんだろうなぁという内容でどうしたらいいものか考えてしまった。
手術の前日に会いに行っても竜樹さんだって困るだろうし、他にもしないといけないことは竜樹さんから指示されている。
やるせない気持ちを抱えたまま、家を出る。
あぁでもない、こうでもないと落ち着かないまま文字を打っては飛ばす作業を繰り返してるところに、メールが飛び込む。
「親には連絡済!(*^-^*)」
昨夜のメールが心に引っかかったままだけれど、取り敢えずするべきことはひとつ終わってしまった。
あとは竜樹さんの不安を手術前までにどうやって取り除くかを考えるだけ。
小さな命題を抱えて、社屋に入った。
今日はボスも含め、事務所には同僚さんと私以外に誰もいない。
こんな日は決まっていない人めがけて電話がかかってきて、右往左往させられる羽目になる。
おまけに明日は締日なので、明日しないとならないことはすべて今日前倒しで済ませておかねばならない。
俄かに戦闘モードに切り替えて仕事がやってくる前にあるものは全て片付ける。
とにかく最小限度のストレスで済むようにと願いながら、だったか片付ける。
…どういう訳か、仕事はきれいに片付いた。
いつもなら訳の判らない電話に右往左往、その余波で本来するべき仕事が片付かないという悪循環に陥るはずが、今日はものの見事にそれがない。
ありがたいなぁと誰にともなく、感謝。
済んでしまった日のことをいろんなものから掘り起こして纏めながら、ずっと竜樹さんのことを考えていた。
今までいろんなことがあって、泣いたり笑ったりいろいろあって。
「あ、こんなこと言われたのが嬉しかったなぁ」とか「こんな言いかたされて泣いてもたなぁ」とかいろいろ思い返して、ふと気づく。
…なんだかんだ言っても、私は竜樹さんに大事にされてきたんだなぁ
自分が切羽詰った状態でも、意識の中の少しのスペースでも私のために割いてくれる。
窓ガラス蹴破って飛び降りたろかと思うような嫌なことも言われたことは確かにあったけれど、結局いつも心のどこかに私のことを置いていてくれている。
自分の生き死にがかかってなお、それは変わることがなくて。
…そんな竜樹さんに私からは何ができただろう?
私ができたことと言えば、自分のしんどさから逃れるために竜樹さんの手を振りほどかなかったことくらい。
それはただ執着心が強いだけの話かもしれないけれど。
今、私から竜樹さんにできること。
これから、私から竜樹さんにできること。
その答を探し続けてるうちに定時になり、事務所を後にした。
「明日竜樹くんに会ったら、よろしく言っといてね」
同僚さんが帰り際、そう声を掛けてくれた。
彼女は前の手術の時もそうやって何気なく竜樹さんと私のことを気にしていてくれた。
本当にありがたいなぁって思う。
今回の件で、竜樹さんが無事に戻ってこられるようにと気持ちを割いてくれた人がいる。
心に留めていてくれるだけでもありがたいのに、祈ってくれたり、お参りしてくれたり。
そんな報告を聞くと、それだけで嬉しくなる。
けれど、自分自身の不安は取れていない。
それを振り払いたいなぁと思ってると、竜樹さんの声を思い出して途中下車。
ショッピングモールに飛び込み、食べ物系の催物会場の誘惑を振り切り(笑)、紅茶のお店に行く。
そこで香りのよいブレンドティーを見つけたので、入れ物と一緒に購入した。
昔から、大勝負の前に紅茶を飲んでいる。
それをすれば絶対に勝てるとは思わないけれど、気分的に落ち着く気がするから。
そうすると、不思議と事態が悪くならなかった。
そんな話を以前竜樹さんにしてから、彼自身もちょっとした勝負事に出るときは「紅茶たてといてなぁ」と言ってくるようになった。
竜樹さんのことであっても、そうした時は悪いことは殆ど起こらなかった。
竜樹さんにお願いされたわけじゃないけれど、「紅茶いれたよ」と話したら、少しだけ安心してもらえるかもしれない。
かつての記憶に拠り所を求めるあたりがどうかしてる気はする。
けれど、それがちょっとした不安を払うならそれで十分。
機嫌よくまた電車に飛び乗り、家路を急いだ。
自宅に戻り夕飯を食べて後片付けをして、自室に戻ったら電話が鳴った。
…竜樹さんから、最後の連絡。
「昨日のメールの感じが変やったから、心配してたんですよ」
「今はもう大丈夫や。あとは先生にすべて託すだけや」
竜樹さんの声はしんどそうではあったけれど、どこか静かでとても落ち着いていた。
「紅茶、いれておきますからね」
「いいもの、見えそうか?」
「大丈夫だと思いますよ。『これ』って葉っぱに出逢ったから…」
「そっかぁ(*^-^*)」
そんなやり取りの後、明日のことを少し打ち合わせして、電話を切る。
リビングに降りて、買ってきた紅茶の袋を開く。
ジャスミンティをブレンドしたお茶のいい香りがする。
カップとポットを暖め、お茶を入れる。
竜樹さんから貰ったマグカップに注いだ紅茶を飲んだら、いつものように気分が落ち着いた。
…きっと、大丈夫。
夜が明け、太陽が手術の日の朝を連れてくる。
不安を木っ端微塵に出来たかどうかは判らないけれど、ただ元気な笑顔を取り戻すために竜樹さんの傍にいよう。
新しい朝を迎えたら、笑顔を取り戻しに行こう。
昨晩、寝入った頃にメールの着信音が鳴った。
…竜樹さんからだ
はっきりしない意識のままで携帯を触って、メールを読む。
明日の手術の時間と予定、それに伴う指示が続いた後、少々不安定な内容の文章が続く。
けれどその不安定な部分が途中で切れていて今ひとつ理解に苦しむので、ボケた頭のまま続きがどんな話なのかを問い合わせるメールを打って、送信。
そのまま続きが来るのを待てずに、また意識は落ちていく。
朝起きて届いたメールを見ると、やっぱり気持ちが落ち着かないんだろうなぁという内容でどうしたらいいものか考えてしまった。
手術の前日に会いに行っても竜樹さんだって困るだろうし、他にもしないといけないことは竜樹さんから指示されている。
やるせない気持ちを抱えたまま、家を出る。
あぁでもない、こうでもないと落ち着かないまま文字を打っては飛ばす作業を繰り返してるところに、メールが飛び込む。
「親には連絡済!(*^-^*)」
昨夜のメールが心に引っかかったままだけれど、取り敢えずするべきことはひとつ終わってしまった。
あとは竜樹さんの不安を手術前までにどうやって取り除くかを考えるだけ。
小さな命題を抱えて、社屋に入った。
今日はボスも含め、事務所には同僚さんと私以外に誰もいない。
こんな日は決まっていない人めがけて電話がかかってきて、右往左往させられる羽目になる。
おまけに明日は締日なので、明日しないとならないことはすべて今日前倒しで済ませておかねばならない。
俄かに戦闘モードに切り替えて仕事がやってくる前にあるものは全て片付ける。
とにかく最小限度のストレスで済むようにと願いながら、だったか片付ける。
…どういう訳か、仕事はきれいに片付いた。
いつもなら訳の判らない電話に右往左往、その余波で本来するべき仕事が片付かないという悪循環に陥るはずが、今日はものの見事にそれがない。
ありがたいなぁと誰にともなく、感謝。
済んでしまった日のことをいろんなものから掘り起こして纏めながら、ずっと竜樹さんのことを考えていた。
今までいろんなことがあって、泣いたり笑ったりいろいろあって。
「あ、こんなこと言われたのが嬉しかったなぁ」とか「こんな言いかたされて泣いてもたなぁ」とかいろいろ思い返して、ふと気づく。
…なんだかんだ言っても、私は竜樹さんに大事にされてきたんだなぁ
自分が切羽詰った状態でも、意識の中の少しのスペースでも私のために割いてくれる。
窓ガラス蹴破って飛び降りたろかと思うような嫌なことも言われたことは確かにあったけれど、結局いつも心のどこかに私のことを置いていてくれている。
自分の生き死にがかかってなお、それは変わることがなくて。
…そんな竜樹さんに私からは何ができただろう?
私ができたことと言えば、自分のしんどさから逃れるために竜樹さんの手を振りほどかなかったことくらい。
それはただ執着心が強いだけの話かもしれないけれど。
今、私から竜樹さんにできること。
これから、私から竜樹さんにできること。
その答を探し続けてるうちに定時になり、事務所を後にした。
「明日竜樹くんに会ったら、よろしく言っといてね」
同僚さんが帰り際、そう声を掛けてくれた。
彼女は前の手術の時もそうやって何気なく竜樹さんと私のことを気にしていてくれた。
本当にありがたいなぁって思う。
今回の件で、竜樹さんが無事に戻ってこられるようにと気持ちを割いてくれた人がいる。
心に留めていてくれるだけでもありがたいのに、祈ってくれたり、お参りしてくれたり。
そんな報告を聞くと、それだけで嬉しくなる。
けれど、自分自身の不安は取れていない。
それを振り払いたいなぁと思ってると、竜樹さんの声を思い出して途中下車。
ショッピングモールに飛び込み、食べ物系の催物会場の誘惑を振り切り(笑)、紅茶のお店に行く。
そこで香りのよいブレンドティーを見つけたので、入れ物と一緒に購入した。
昔から、大勝負の前に紅茶を飲んでいる。
それをすれば絶対に勝てるとは思わないけれど、気分的に落ち着く気がするから。
そうすると、不思議と事態が悪くならなかった。
そんな話を以前竜樹さんにしてから、彼自身もちょっとした勝負事に出るときは「紅茶たてといてなぁ」と言ってくるようになった。
竜樹さんのことであっても、そうした時は悪いことは殆ど起こらなかった。
竜樹さんにお願いされたわけじゃないけれど、「紅茶いれたよ」と話したら、少しだけ安心してもらえるかもしれない。
かつての記憶に拠り所を求めるあたりがどうかしてる気はする。
けれど、それがちょっとした不安を払うならそれで十分。
機嫌よくまた電車に飛び乗り、家路を急いだ。
自宅に戻り夕飯を食べて後片付けをして、自室に戻ったら電話が鳴った。
…竜樹さんから、最後の連絡。
「昨日のメールの感じが変やったから、心配してたんですよ」
「今はもう大丈夫や。あとは先生にすべて託すだけや」
竜樹さんの声はしんどそうではあったけれど、どこか静かでとても落ち着いていた。
「紅茶、いれておきますからね」
「いいもの、見えそうか?」
「大丈夫だと思いますよ。『これ』って葉っぱに出逢ったから…」
「そっかぁ(*^-^*)」
そんなやり取りの後、明日のことを少し打ち合わせして、電話を切る。
リビングに降りて、買ってきた紅茶の袋を開く。
ジャスミンティをブレンドしたお茶のいい香りがする。
カップとポットを暖め、お茶を入れる。
竜樹さんから貰ったマグカップに注いだ紅茶を飲んだら、いつものように気分が落ち着いた。
…きっと、大丈夫。
夜が明け、太陽が手術の日の朝を連れてくる。
不安を木っ端微塵に出来たかどうかは判らないけれど、ただ元気な笑顔を取り戻すために竜樹さんの傍にいよう。
新しい朝を迎えたら、笑顔を取り戻しに行こう。
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