最初のキス/逢いたかった
2002年9月8日駅の改札はすぐ目の前。
ここから私と竜樹さんは反対向いて帰ることになる。
…離れたくないなぁ
そう思うけど、金岡家に連れて帰る訳にも私が病院に行くわけにもいかない。
「霄ぁ、腹ごなしにカラオケにでも行こかぁ」
突然竜樹さんは改札とは違う方向にどんどん歩き始めた。
「帰る時間はいいんですか?」
「うん、大丈夫やから(*^-^*)」
そう言って、手を繋いだままよく行くカラオケボックスまでのたのた歩く。
そこで1時間だけ歌うことにした。
久しぶりに竜樹さんの歌を聞く。
本当に久しぶりのせいか、少し歌いにくそうにしてるけれど。
相変わらず竜樹さんの歌声が大好きで、にこにこしながら聞いている。
「カラオケに来るって判ってたら、MD持ってきたのに〜」
「こんな調子に乗れへん時のん、とらんでええって」
「だって、竜樹さんの歌、好きやもの」
「もっと元気になって、上手く歌えるようになったら何ぼでもとらしたるから」
竜樹さんの歌う福山雅治の歌は本人がお歌いになってるもの以上に好き。
「MESSAGE」に「桜坂」、「HEAVEN」「SQUALL」…
本当にMD持って来たらよかったと、よじれるほど後悔。
二人とも歌いなれた歌から初挑戦ものまで1時間目一杯歌って終了。
今度こそ本当に帰るために駅まで手を繋いで歩く。
改札を通り、何となく離れがたくて竜樹さんが帰る方のホームにそのまま居残る。
向かい側のホームに滑り込んでくる電車を見て、「あれに乗らなくて大丈夫なん?」と竜樹さん。
「いや、途中まで送りますよ。ちゃんと帰れるか心配やし」
そう言ってそのまま竜樹さんと同じ電車に乗り込む。
乗り換える前にペットボトルに入ったスポーツドリンクを買って竜樹さんに渡し、また一緒に乗り換える。
「楽しかったねぇ(o^−^o)」
「ホンマに楽しかったわぁ。ありがとうなぁ(*^-^*)」
電車に乗ってからもずっと並んで座っていろいろと話をしてるけれど、今度こそ本当に別れないとならなくなってしまった。
手を繋いだまま、改札に向かって階段を降りていく。
改札へ向かうエスカレーターの陰で暫く立ちつくしてしまった。
「…じゃあ、手術までの間に何かあったらいつでも呼んでね」
「そうする。けど、無理はせんときや?
本当に霄の手が必要になるのは、術後の方やと思うから…」
ひとしきり別れの挨拶をして、少し沈黙が流れて。
「そのまま行ってしまうのかな?」と思ってると、竜樹さんはそっとキスをひとつくれた。
激しくも雄弁でもない、ただ優しいキス。
「…そしたら、行ってくるなぁ」
そう言って手をあげて改札の向こうへ行ってしまった。
7年間一緒にいて、誰が見てるか判らない外でキスをしたことなどなかった。
それは竜樹さんの性格的なものだから、不満に思ったことも疑問に思ったこともなかったけれど。
そのキスに込められたものが、ぼんやりとだけど自分の心の中で花を開いてく感じがする。
…竜樹さんが勇気奮った最初のキスが最後のキスになりませんように
そう思いながら、階段を駆け上がり電車に飛び込んだ。
車窓を流れる夜景を見つめながら、竜樹さんと一緒にいた時間を振り返る。
「本当にこれが来週手術せんなん人のすることなんだろうか?」と思うくらいにいろんなことをした。
楽しいことも暖かいことも愛しいこともみんな分け合って、本当に満たされた気がしたんだ。
…私が満たされたように、竜樹さんも満たされててくれてたらいいけど
まだ唇にわずかに残る竜樹さんの熱を愛しく思いながら、これが最後でないことを祈りながら。
油断すると落ちそうになる涙を一生懸命堪えながら家に帰った。
家にたどり着いて自室に戻り、携帯を見ると姉さまからメールが何通も届いていたので慌ててお返事。
竜樹さんとのデートの余韻を抱きしめて眠ったのは14通ものメールのやり取りが済んでからだった。
翌日は昨日はしゃぎすぎた反動なのかなかなか起きることが出来ず、気がつくと昼近かった。
昼ごはんを食べにリビングに降り、後片付けをして部屋に戻ると部屋電に着信がある。
…竜樹さんからだった(T^T)
何か用があったに違いないので、折り返しメールを飛ばす。
「電話ありがとう。ご飯食べてて出れなかったのm(__)m
どしたの?」
それに対するお返事はなかった。
連絡を待ってるうちに少し転寝して、次に起きたら激しい頭痛。
携帯にも部屋電にも着信はなく、メールも届いていなかった。
意地でも出て行って竜樹さんに直接聞きたいとも思ったけれど、頭痛がなかなか治まらない。
鎮痛剤を飲むと薬疹が出たり、果ては胃の中のものを吐き尽くすまで吐いてしまうから、うかつに鎮痛剤に手が出せない。
仕方なく横になりながら、頭痛が引くのを待つ。
やっとこ頭痛が引いたのは、夕方の6時を回っていた。
この時間から出て行っても、竜樹さんのお手伝いは殆ど出来ない。
…火急の用事なら、どんなことがあっても呼んでくれるはず
…メールを打つのも辛いほど、具合が悪いのかもしれない
いろいろ考えてると、また頭痛がぶり返す。
…何で、いつもこうなんだろうね?
昨日あれだけ楽しい時間を作ってもらったのに、肝心な時には役に立てなくて。
私が出て行けば何が変わるとも思わないけれど、そこにいれば役に立つことだってある。
…私自身も竜樹さんの傍で何か出来る方が精神的にも安定するのに…
肝心なところで足を引っ張り続ける自分の身体とそれを振り払えない自分の弱さにいらだたしさを覚えてならないけれど、術後に備えての休暇だと自分に言い聞かせようか?
それでも本当は逢いたかった。
この先少しでも長く竜樹さんといられるように、この先不調を来さぬよう注意しよう。
「逢いたかったのに…」と嘆かずに済むように、頑丈な自分を育てよう。
ここから私と竜樹さんは反対向いて帰ることになる。
…離れたくないなぁ
そう思うけど、金岡家に連れて帰る訳にも私が病院に行くわけにもいかない。
「霄ぁ、腹ごなしにカラオケにでも行こかぁ」
突然竜樹さんは改札とは違う方向にどんどん歩き始めた。
「帰る時間はいいんですか?」
「うん、大丈夫やから(*^-^*)」
そう言って、手を繋いだままよく行くカラオケボックスまでのたのた歩く。
そこで1時間だけ歌うことにした。
久しぶりに竜樹さんの歌を聞く。
本当に久しぶりのせいか、少し歌いにくそうにしてるけれど。
相変わらず竜樹さんの歌声が大好きで、にこにこしながら聞いている。
「カラオケに来るって判ってたら、MD持ってきたのに〜」
「こんな調子に乗れへん時のん、とらんでええって」
「だって、竜樹さんの歌、好きやもの」
「もっと元気になって、上手く歌えるようになったら何ぼでもとらしたるから」
竜樹さんの歌う福山雅治の歌は本人がお歌いになってるもの以上に好き。
「MESSAGE」に「桜坂」、「HEAVEN」「SQUALL」…
本当にMD持って来たらよかったと、よじれるほど後悔。
二人とも歌いなれた歌から初挑戦ものまで1時間目一杯歌って終了。
今度こそ本当に帰るために駅まで手を繋いで歩く。
改札を通り、何となく離れがたくて竜樹さんが帰る方のホームにそのまま居残る。
向かい側のホームに滑り込んでくる電車を見て、「あれに乗らなくて大丈夫なん?」と竜樹さん。
「いや、途中まで送りますよ。ちゃんと帰れるか心配やし」
そう言ってそのまま竜樹さんと同じ電車に乗り込む。
乗り換える前にペットボトルに入ったスポーツドリンクを買って竜樹さんに渡し、また一緒に乗り換える。
「楽しかったねぇ(o^−^o)」
「ホンマに楽しかったわぁ。ありがとうなぁ(*^-^*)」
電車に乗ってからもずっと並んで座っていろいろと話をしてるけれど、今度こそ本当に別れないとならなくなってしまった。
手を繋いだまま、改札に向かって階段を降りていく。
改札へ向かうエスカレーターの陰で暫く立ちつくしてしまった。
「…じゃあ、手術までの間に何かあったらいつでも呼んでね」
「そうする。けど、無理はせんときや?
本当に霄の手が必要になるのは、術後の方やと思うから…」
ひとしきり別れの挨拶をして、少し沈黙が流れて。
「そのまま行ってしまうのかな?」と思ってると、竜樹さんはそっとキスをひとつくれた。
激しくも雄弁でもない、ただ優しいキス。
「…そしたら、行ってくるなぁ」
そう言って手をあげて改札の向こうへ行ってしまった。
7年間一緒にいて、誰が見てるか判らない外でキスをしたことなどなかった。
それは竜樹さんの性格的なものだから、不満に思ったことも疑問に思ったこともなかったけれど。
そのキスに込められたものが、ぼんやりとだけど自分の心の中で花を開いてく感じがする。
…竜樹さんが勇気奮った最初のキスが最後のキスになりませんように
そう思いながら、階段を駆け上がり電車に飛び込んだ。
車窓を流れる夜景を見つめながら、竜樹さんと一緒にいた時間を振り返る。
「本当にこれが来週手術せんなん人のすることなんだろうか?」と思うくらいにいろんなことをした。
楽しいことも暖かいことも愛しいこともみんな分け合って、本当に満たされた気がしたんだ。
…私が満たされたように、竜樹さんも満たされててくれてたらいいけど
まだ唇にわずかに残る竜樹さんの熱を愛しく思いながら、これが最後でないことを祈りながら。
油断すると落ちそうになる涙を一生懸命堪えながら家に帰った。
家にたどり着いて自室に戻り、携帯を見ると姉さまからメールが何通も届いていたので慌ててお返事。
竜樹さんとのデートの余韻を抱きしめて眠ったのは14通ものメールのやり取りが済んでからだった。
翌日は昨日はしゃぎすぎた反動なのかなかなか起きることが出来ず、気がつくと昼近かった。
昼ごはんを食べにリビングに降り、後片付けをして部屋に戻ると部屋電に着信がある。
…竜樹さんからだった(T^T)
何か用があったに違いないので、折り返しメールを飛ばす。
「電話ありがとう。ご飯食べてて出れなかったのm(__)m
どしたの?」
それに対するお返事はなかった。
連絡を待ってるうちに少し転寝して、次に起きたら激しい頭痛。
携帯にも部屋電にも着信はなく、メールも届いていなかった。
意地でも出て行って竜樹さんに直接聞きたいとも思ったけれど、頭痛がなかなか治まらない。
鎮痛剤を飲むと薬疹が出たり、果ては胃の中のものを吐き尽くすまで吐いてしまうから、うかつに鎮痛剤に手が出せない。
仕方なく横になりながら、頭痛が引くのを待つ。
やっとこ頭痛が引いたのは、夕方の6時を回っていた。
この時間から出て行っても、竜樹さんのお手伝いは殆ど出来ない。
…火急の用事なら、どんなことがあっても呼んでくれるはず
…メールを打つのも辛いほど、具合が悪いのかもしれない
いろいろ考えてると、また頭痛がぶり返す。
…何で、いつもこうなんだろうね?
昨日あれだけ楽しい時間を作ってもらったのに、肝心な時には役に立てなくて。
私が出て行けば何が変わるとも思わないけれど、そこにいれば役に立つことだってある。
…私自身も竜樹さんの傍で何か出来る方が精神的にも安定するのに…
肝心なところで足を引っ張り続ける自分の身体とそれを振り払えない自分の弱さにいらだたしさを覚えてならないけれど、術後に備えての休暇だと自分に言い聞かせようか?
それでも本当は逢いたかった。
この先少しでも長く竜樹さんといられるように、この先不調を来さぬよう注意しよう。
「逢いたかったのに…」と嘆かずに済むように、頑丈な自分を育てよう。
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