最後のデート
2002年9月7日手術前最後の週末。
結局、竜樹さんは外泊ではなく外出を選ばれた。
竜樹邸に戻ることで、病院で掴んだ生活リズムを壊したくないというのがその理由なんだけど。
…竜樹邸に戻らないなら、あまり長い時間一緒にはいられないかな?
最後の週末だからこそ長く一緒にいたかったんだけど、竜樹さんが一番よい方向で動かれるのがベストなんだからと思うとこれでいいのかもしれない。
「13時に駅で待ち合わせな」
私の家と病院との中間点に当たる駅で待ち合わせ。
久しぶりの外での待ち合わせにドキドキしながら用意をするけれど、どういう訳か待ち合わせ時間から少し遅れそうな雲行き。
洗った髪も半乾きのまま家を飛び出し、坂道を駆け下りる。
息を切らしながらホームに滑り込んできた電車に飛び乗り、待ち合わせの駅に向かう。
待ち合わせてる駅に着く頃、携帯にメールがひとつ。
…待ち合わせ場所の変更だった。
電車に乗り換えて、竜樹さんが休んでおられるという駅に向かう。
9月に入ったというのに、夏色の空。
きっとこの暑さで竜樹さんはちょっと消耗したかなという気がした。
正直、私もちょっとだけ消耗感は否めないから。
ぼんやりと窓の外の夏色の空を眺めてるうちに電車は竜樹さんの待つ駅に着いた。
ホームに降り立ちきょろきょろと探していると、竜樹さんの方から見つけてもらえた。
「今日もあっついなぁ」
「お加減、大丈夫ですか?」
「ちょっと暑さが堪えたかもなぁ…」
そう言って、ほにゃと笑う竜樹さんと暫く待合室で涼んで、改札を出る。
取り敢えず自販機で飲み物を買い、これからの予定を決めようと話しながら歩き出す。
竜樹さんが耳元で、そっと囁く。
……………(/-\*)……………
昼日中から、お風呂付部屋に行くことになった。
部屋に入ると、竜樹さんが少ししょげておられる。
内装がお気に召さなかったらしい。
「今日は一緒にゆっくり過ごせたらいいじゃないですか?
場所がどうあれ、私は竜樹さんといられたら、それでいいんですよ」
ベッドに座り込んで少しお嘆き気味の竜樹さんをそっと抱きしめる。
もしかしたら、これが最後になるのかもしれない。
この時間が2人が向き合える最後の時間かもしれない。
なら、そこにいる互いを自分の内で確かめ合えたらそれでいい。
ただそれだけでいいんだ。
互いに火をつけるのはそんな想いだけで十分だったのかもしれない。
優しかったり激しかったり、苦しいくらいに熱を帯びていたり。
会話を重ねるようにいろんなものを重ね合わせる。
私がうつらうつらしてても、竜樹さんは竜樹さんで思うところがあったようで、時折意識を揺り起こすように、そっと抱きしめ熱を与える。
その表情がどこか切なそうなので、どきりとしたけれど。
寝たり起きたり、会話をするようにキスをしたり互いの熱を受け渡ししたり、ただぼそぼそと話して笑ったり。
竜樹邸にいる時ですら、そんな甘くて暖かな時間はなかったかもしれない。
それを最後にしたくなくて、どちらともなく語りかける。
「霄がおらんようになったら、いややぁ」
「どこにも行かないから、ちゃんと戻ってきてね」
見詰め合って笑い合って、抱きしめあって受け留めあって。
どれ位の時間が過ぎたか判らない。
そっと窓を閉ざしてるブラインドを上げて磨りガラス越しの空の色を眺めると、日が翳ってきたことが見て取れる。
「これから、どうします?」
病院で夕食を摂るならここでお別れになってしまう。
切り出したくはないけれどしんみりと別れたくはなくて、無理して笑ってみたり。
「…いや?外で食べようと思うねんけど」
……………(*^-^*)♪
無理やり笑顔は心からの笑顔に変わる。
何処で食べるのが妥当なのか考えているうちに、病院からも私の家からもそれほど遠くないところに美味しい中華料理のレストランがあることを思い出して、そこを提案。
竜樹さんはちょっと遠出がしたかったみたいだけど、食べた後に具合が悪くなっても病院がそれほど遠くなければ戻るのに苦労はしないから。
2人でお風呂付部屋を後にして、駅の方まで手を繋いで歩く。
こんな風に歩くのすら久しぶりのような気がして、自然とにこにこしながら電車に乗る。
移動を何度か繰り返し、中華レストランの最寄駅に着く。
週末の食事時なので待ちを覚悟していたけれど、生簀が見えるカウンターが空いていたので躊躇うことなくそこに座り、メニューを眺める。
どれもこれも美味しそうで、何を頼むか迷う二人。
ところが、ちょっとした問題が発生。
…単品メニューに炒飯がない"(ノ_・、)"
ご飯大好き竜樹さんには痛い事態が発生。
とにかくご飯粒が食べれないかとメニューを繰ってると、コースものになら炒飯がついてくる。
「…あの、コース取らないとご飯もの食べられないんですけど」
コースを取ると高くつくから避けたかったんだけど、竜樹さん一言。
「じゃあ、それにしよう♪(*^-^*)」
……………(゜o゜)
「一人分の食べる量が多いですよ?」
「食べ切れんかったら、霄に回すし」
最後になるかもしれないディナーは中華料理のコースになった。
前菜の盛り合わせ4品、カニ身入りフカヒレスープ、野菜と魚介の炒め物、カニ爪の揚げ物、海老のチリソース、豚バラ肉のトロトロ煮、まながつおの甘酢煮、たかなチャーハン、ゴマ団子、抹茶アイスの10品。
(デジカメを持ってきてなかったのが、悔やまれてならないけれど…)
どれもこれもが美味しくて、二人ともご機嫌。
「この席に座ってよかったわ。魚が見えるから」
竜樹さんはお魚好きだから、さらにご機嫌だった模様。
このレストランに来ようと言ってみてよかった。
「また来ようなぁ♪」
「うん、今度はお父さんやお母さんも一緒に来れたらいいね」
「そやなぁ(*^-^*)」
そんな風に話しながら、手を繋いで駅に向かう。
…今度こそ、お別れかな?
レストランが駅のすぐ傍だということが恨めしい。
いろいろ考えてると顔が下を向いてくるから困り者。
手術前最後のデートの終わりは近づいてきていることだけが間違いのない事実なんだけど、それに目を向けたくなくてただ手から伝わる竜樹さんの熱にだけ意識を向けていた。
(字数オーバーしそうなので、翌日に続きます。)
結局、竜樹さんは外泊ではなく外出を選ばれた。
竜樹邸に戻ることで、病院で掴んだ生活リズムを壊したくないというのがその理由なんだけど。
…竜樹邸に戻らないなら、あまり長い時間一緒にはいられないかな?
最後の週末だからこそ長く一緒にいたかったんだけど、竜樹さんが一番よい方向で動かれるのがベストなんだからと思うとこれでいいのかもしれない。
「13時に駅で待ち合わせな」
私の家と病院との中間点に当たる駅で待ち合わせ。
久しぶりの外での待ち合わせにドキドキしながら用意をするけれど、どういう訳か待ち合わせ時間から少し遅れそうな雲行き。
洗った髪も半乾きのまま家を飛び出し、坂道を駆け下りる。
息を切らしながらホームに滑り込んできた電車に飛び乗り、待ち合わせの駅に向かう。
待ち合わせてる駅に着く頃、携帯にメールがひとつ。
…待ち合わせ場所の変更だった。
電車に乗り換えて、竜樹さんが休んでおられるという駅に向かう。
9月に入ったというのに、夏色の空。
きっとこの暑さで竜樹さんはちょっと消耗したかなという気がした。
正直、私もちょっとだけ消耗感は否めないから。
ぼんやりと窓の外の夏色の空を眺めてるうちに電車は竜樹さんの待つ駅に着いた。
ホームに降り立ちきょろきょろと探していると、竜樹さんの方から見つけてもらえた。
「今日もあっついなぁ」
「お加減、大丈夫ですか?」
「ちょっと暑さが堪えたかもなぁ…」
そう言って、ほにゃと笑う竜樹さんと暫く待合室で涼んで、改札を出る。
取り敢えず自販機で飲み物を買い、これからの予定を決めようと話しながら歩き出す。
竜樹さんが耳元で、そっと囁く。
……………(/-\*)……………
昼日中から、お風呂付部屋に行くことになった。
部屋に入ると、竜樹さんが少ししょげておられる。
内装がお気に召さなかったらしい。
「今日は一緒にゆっくり過ごせたらいいじゃないですか?
場所がどうあれ、私は竜樹さんといられたら、それでいいんですよ」
ベッドに座り込んで少しお嘆き気味の竜樹さんをそっと抱きしめる。
もしかしたら、これが最後になるのかもしれない。
この時間が2人が向き合える最後の時間かもしれない。
なら、そこにいる互いを自分の内で確かめ合えたらそれでいい。
ただそれだけでいいんだ。
互いに火をつけるのはそんな想いだけで十分だったのかもしれない。
優しかったり激しかったり、苦しいくらいに熱を帯びていたり。
会話を重ねるようにいろんなものを重ね合わせる。
私がうつらうつらしてても、竜樹さんは竜樹さんで思うところがあったようで、時折意識を揺り起こすように、そっと抱きしめ熱を与える。
その表情がどこか切なそうなので、どきりとしたけれど。
寝たり起きたり、会話をするようにキスをしたり互いの熱を受け渡ししたり、ただぼそぼそと話して笑ったり。
竜樹邸にいる時ですら、そんな甘くて暖かな時間はなかったかもしれない。
それを最後にしたくなくて、どちらともなく語りかける。
「霄がおらんようになったら、いややぁ」
「どこにも行かないから、ちゃんと戻ってきてね」
見詰め合って笑い合って、抱きしめあって受け留めあって。
どれ位の時間が過ぎたか判らない。
そっと窓を閉ざしてるブラインドを上げて磨りガラス越しの空の色を眺めると、日が翳ってきたことが見て取れる。
「これから、どうします?」
病院で夕食を摂るならここでお別れになってしまう。
切り出したくはないけれどしんみりと別れたくはなくて、無理して笑ってみたり。
「…いや?外で食べようと思うねんけど」
……………(*^-^*)♪
無理やり笑顔は心からの笑顔に変わる。
何処で食べるのが妥当なのか考えているうちに、病院からも私の家からもそれほど遠くないところに美味しい中華料理のレストランがあることを思い出して、そこを提案。
竜樹さんはちょっと遠出がしたかったみたいだけど、食べた後に具合が悪くなっても病院がそれほど遠くなければ戻るのに苦労はしないから。
2人でお風呂付部屋を後にして、駅の方まで手を繋いで歩く。
こんな風に歩くのすら久しぶりのような気がして、自然とにこにこしながら電車に乗る。
移動を何度か繰り返し、中華レストランの最寄駅に着く。
週末の食事時なので待ちを覚悟していたけれど、生簀が見えるカウンターが空いていたので躊躇うことなくそこに座り、メニューを眺める。
どれもこれも美味しそうで、何を頼むか迷う二人。
ところが、ちょっとした問題が発生。
…単品メニューに炒飯がない"(ノ_・、)"
ご飯大好き竜樹さんには痛い事態が発生。
とにかくご飯粒が食べれないかとメニューを繰ってると、コースものになら炒飯がついてくる。
「…あの、コース取らないとご飯もの食べられないんですけど」
コースを取ると高くつくから避けたかったんだけど、竜樹さん一言。
「じゃあ、それにしよう♪(*^-^*)」
……………(゜o゜)
「一人分の食べる量が多いですよ?」
「食べ切れんかったら、霄に回すし」
最後になるかもしれないディナーは中華料理のコースになった。
前菜の盛り合わせ4品、カニ身入りフカヒレスープ、野菜と魚介の炒め物、カニ爪の揚げ物、海老のチリソース、豚バラ肉のトロトロ煮、まながつおの甘酢煮、たかなチャーハン、ゴマ団子、抹茶アイスの10品。
(デジカメを持ってきてなかったのが、悔やまれてならないけれど…)
どれもこれもが美味しくて、二人ともご機嫌。
「この席に座ってよかったわ。魚が見えるから」
竜樹さんはお魚好きだから、さらにご機嫌だった模様。
このレストランに来ようと言ってみてよかった。
「また来ようなぁ♪」
「うん、今度はお父さんやお母さんも一緒に来れたらいいね」
「そやなぁ(*^-^*)」
そんな風に話しながら、手を繋いで駅に向かう。
…今度こそ、お別れかな?
レストランが駅のすぐ傍だということが恨めしい。
いろいろ考えてると顔が下を向いてくるから困り者。
手術前最後のデートの終わりは近づいてきていることだけが間違いのない事実なんだけど、それに目を向けたくなくてただ手から伝わる竜樹さんの熱にだけ意識を向けていた。
(字数オーバーしそうなので、翌日に続きます。)
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