ただやるせなくて…
2002年8月25日今度は持ち物確認をして(笑)、竜樹邸を後にする。
車に乗って、近くのラーメン屋さんへ行く。
2人とも相変わらず、いつもと同じ物を食べている。
外食するのが珍しいからとあまり突飛なことをしないのが、竜樹さんらしくていいかとも思う。
ふと顔を上げると、竜樹さんがごそごそ何か探している。
「どしたんですか?」
「いや、持ってきたはずの煙草がないねん(・・ )( ・・)〜?」
鞄やらシャツのポケットやら探すけれども見当たらず。
しかも、出る前に持ち物確認までしておきながら、ピルケースまで忘れてきた(>_<)
煙草はともかく、食事の後患部が痛むのを抑えるためのアイテムがない。
仕方なく、殆ど空のどんぶり鉢やお皿を前にしながら、じっと竜樹さんが動き出せるまで他愛もないことをぽつりぽつりと話しつづける。
暫くはふんふんと聞いてる竜樹さんがようやっと受け答えできるところまで回復されたので、店を出て竜樹邸に戻った。
竜樹邸に着いてから、暫く休んで帰り支度を始める。
その時、竜樹さんがぽつりと言った。
「…飼ってる魚、手放そうと思うねん。
本当は食事に出る前にそれを手伝ってもらおうかと思っててん」
入院が早まったこと、そして術後の経過が判らないことで、彼が考えていたよりも入院の期間が長くなるかもしれない。
竜樹邸を長く留守にすることで問題になるのは、お魚のこと。
ご両親は彼のおばあちゃんのお世話もしないとならないので、お魚の世話にまで手が回らないらしい。
「私、会社帰りに寄ってもいいし、家族に事情を話して暫くうちで預かってもいいですよ?」
「それやと霄がしんどいやろ?無理やって」
「小さな入れ物あったら持って帰ります。水替えだってやったことあるし、できますよ」
「でも水はどうすんねん?水道水をカルキ抜きしても、そうそうもたないで?」
「水も持って帰ります。足りなきゃ、取りにきます」
暫く押し問答し、持ち帰って預かるための入れ物を探したけれど見つからず。
けれど、ひとまずは返事を保留にしてくれた。
…家に帰ったら、お魚を育てるスペースを空けなきゃ
そう思いながら、竜樹邸を後にする。
車の中での竜樹さんからはあまり堅い感じを受けなかった。
体調がそう悪くない時のような雰囲気に安心して別れた。
家の中に入り自室に戻ってから、俄かに片付けを始める。
お魚を預かるスペースを作るために一生懸命片付け、ある程度の目途がついたので横になり意識が落ちるのに任せた。
次に起きたら、頭が痛くて仕方がなかった。
昨日取り立ててしんどいことをした訳でもないのに何でかなと思いながら、暫く横になってうめいていた。
頭痛が少しやんで、竜樹さんに電話をしたけれど出てくれなかった。
鍵を貰ったのだから、別に自分で小さな容器を持ってお魚を引き取りに行けばいいのだけど、本人がいるのに連絡もなくお邪魔するのもどうかと思うので、暫く家で待機。
そして電話をしては待つを繰り返した。
竜樹さんが捕まることなく夕方になり、仕方なく姉さまに頼まれていた作業を始める。
時折姉さまから貰うメールに返事をしながら作業をし、竜樹さんに電話するけれど相変わらず出られない。
…昨日の疲れが出たのかな?
夕飯を食べに降りて、後片付けをして、また作業の続きをしてる間もずっと竜樹さんの体調のことが気になっていた。
作業が一段楽し、姉さまから届いた「今度の食事会にこのレストランはどう?」という提案メールに喜びながらも、竜樹さんとお魚のことが頭を離れなかった。
日付が変わる少し前になって、ようやく竜樹さんから電話が入った。
相変わらず日中はしんどくて横になっていたという話を聞き、自分の予想が違わなかったことにちょっと胸を痛めながら話を聞いていると…
…竜樹さん、私がいない間にお魚を手放してしまわれていた。
「私、引き取りに行くって言ったじゃないですか。
だから何度も電話してたのに…」
「それでも霄に迷惑かかるのが嫌やったから…」
「ちゃんと預かれるようにスペースかって空けてたし、その用意はしてたのに…」
「…そっか、準備してくれててんなぁ」
いくら自分が思ってることを言葉に置き換えたって、何の意味もない。
どんな言葉にしたって、それを受けて心を痛めるのは竜樹さんなんだから。
竜樹さんを責めるために言葉を紡いでいるんじゃない。
自分がしたことの事実を伝えたところで、竜樹さんの心が痛むだけ。
…諦めたくて手放したわけじゃないことくらい、傍で見てたら判るもの
私が預かることを信じてなかった訳ではなかったみたいだし、今となってはもうどうすることもできない。
…結局、私は「病気の袋を持つことは、いろんなものを諦めること」という彼の中にあるある種の不文律を打ち破ることすら出来なかったんだ。
きっと、それが事実なんだろう。
自分の力が足りなかったことだけが、事実なんだろう。
電話を置いて、机の上の空いたスペースに目をやる。
自分の無力さの象徴のようなそのスペースを見て、涙が止まらなかった。
飼ってる魚が卵を産んだこと、その卵が孵ってお魚の赤ちゃんがちょろちょろし始めたこと。
それを喜び、お魚が長く生きられるようにと配慮してきた竜樹さんの姿を知ってるから。
それがただ単に手に負えなくなったからじゃなかったことは確かなのだと改めて思う。
いろんなものを諦め、手放してきた彼に諦めないこと手放さなくても済むことが確かにあるんだと、一緒にいることで手に入れて欲しいと思ってた。
そのためにできることを惜しむつもりはなかった。
7年間ずっとそんな風に思いながら歩いてきたけれど…
…でも、そうしたところで何も出来なかったから、この結果なんじゃないか
ただやるせなさしか自分の中から生まれてこない。
思考はますます迷路に迷い込む。
何もする気にはなれない。
さりとて、休む気にすらなれない。
考えても何も生まれない。
だけど、何をすればいいのか見えてこない。
ただただやるせなさに押し潰されそうになりながら、これからどうするべきなのかをずっと考えつづけた。
車に乗って、近くのラーメン屋さんへ行く。
2人とも相変わらず、いつもと同じ物を食べている。
外食するのが珍しいからとあまり突飛なことをしないのが、竜樹さんらしくていいかとも思う。
ふと顔を上げると、竜樹さんがごそごそ何か探している。
「どしたんですか?」
「いや、持ってきたはずの煙草がないねん(・・ )( ・・)〜?」
鞄やらシャツのポケットやら探すけれども見当たらず。
しかも、出る前に持ち物確認までしておきながら、ピルケースまで忘れてきた(>_<)
煙草はともかく、食事の後患部が痛むのを抑えるためのアイテムがない。
仕方なく、殆ど空のどんぶり鉢やお皿を前にしながら、じっと竜樹さんが動き出せるまで他愛もないことをぽつりぽつりと話しつづける。
暫くはふんふんと聞いてる竜樹さんがようやっと受け答えできるところまで回復されたので、店を出て竜樹邸に戻った。
竜樹邸に着いてから、暫く休んで帰り支度を始める。
その時、竜樹さんがぽつりと言った。
「…飼ってる魚、手放そうと思うねん。
本当は食事に出る前にそれを手伝ってもらおうかと思っててん」
入院が早まったこと、そして術後の経過が判らないことで、彼が考えていたよりも入院の期間が長くなるかもしれない。
竜樹邸を長く留守にすることで問題になるのは、お魚のこと。
ご両親は彼のおばあちゃんのお世話もしないとならないので、お魚の世話にまで手が回らないらしい。
「私、会社帰りに寄ってもいいし、家族に事情を話して暫くうちで預かってもいいですよ?」
「それやと霄がしんどいやろ?無理やって」
「小さな入れ物あったら持って帰ります。水替えだってやったことあるし、できますよ」
「でも水はどうすんねん?水道水をカルキ抜きしても、そうそうもたないで?」
「水も持って帰ります。足りなきゃ、取りにきます」
暫く押し問答し、持ち帰って預かるための入れ物を探したけれど見つからず。
けれど、ひとまずは返事を保留にしてくれた。
…家に帰ったら、お魚を育てるスペースを空けなきゃ
そう思いながら、竜樹邸を後にする。
車の中での竜樹さんからはあまり堅い感じを受けなかった。
体調がそう悪くない時のような雰囲気に安心して別れた。
家の中に入り自室に戻ってから、俄かに片付けを始める。
お魚を預かるスペースを作るために一生懸命片付け、ある程度の目途がついたので横になり意識が落ちるのに任せた。
次に起きたら、頭が痛くて仕方がなかった。
昨日取り立ててしんどいことをした訳でもないのに何でかなと思いながら、暫く横になってうめいていた。
頭痛が少しやんで、竜樹さんに電話をしたけれど出てくれなかった。
鍵を貰ったのだから、別に自分で小さな容器を持ってお魚を引き取りに行けばいいのだけど、本人がいるのに連絡もなくお邪魔するのもどうかと思うので、暫く家で待機。
そして電話をしては待つを繰り返した。
竜樹さんが捕まることなく夕方になり、仕方なく姉さまに頼まれていた作業を始める。
時折姉さまから貰うメールに返事をしながら作業をし、竜樹さんに電話するけれど相変わらず出られない。
…昨日の疲れが出たのかな?
夕飯を食べに降りて、後片付けをして、また作業の続きをしてる間もずっと竜樹さんの体調のことが気になっていた。
作業が一段楽し、姉さまから届いた「今度の食事会にこのレストランはどう?」という提案メールに喜びながらも、竜樹さんとお魚のことが頭を離れなかった。
日付が変わる少し前になって、ようやく竜樹さんから電話が入った。
相変わらず日中はしんどくて横になっていたという話を聞き、自分の予想が違わなかったことにちょっと胸を痛めながら話を聞いていると…
…竜樹さん、私がいない間にお魚を手放してしまわれていた。
「私、引き取りに行くって言ったじゃないですか。
だから何度も電話してたのに…」
「それでも霄に迷惑かかるのが嫌やったから…」
「ちゃんと預かれるようにスペースかって空けてたし、その用意はしてたのに…」
「…そっか、準備してくれててんなぁ」
いくら自分が思ってることを言葉に置き換えたって、何の意味もない。
どんな言葉にしたって、それを受けて心を痛めるのは竜樹さんなんだから。
竜樹さんを責めるために言葉を紡いでいるんじゃない。
自分がしたことの事実を伝えたところで、竜樹さんの心が痛むだけ。
…諦めたくて手放したわけじゃないことくらい、傍で見てたら判るもの
私が預かることを信じてなかった訳ではなかったみたいだし、今となってはもうどうすることもできない。
…結局、私は「病気の袋を持つことは、いろんなものを諦めること」という彼の中にあるある種の不文律を打ち破ることすら出来なかったんだ。
きっと、それが事実なんだろう。
自分の力が足りなかったことだけが、事実なんだろう。
電話を置いて、机の上の空いたスペースに目をやる。
自分の無力さの象徴のようなそのスペースを見て、涙が止まらなかった。
飼ってる魚が卵を産んだこと、その卵が孵ってお魚の赤ちゃんがちょろちょろし始めたこと。
それを喜び、お魚が長く生きられるようにと配慮してきた竜樹さんの姿を知ってるから。
それがただ単に手に負えなくなったからじゃなかったことは確かなのだと改めて思う。
いろんなものを諦め、手放してきた彼に諦めないこと手放さなくても済むことが確かにあるんだと、一緒にいることで手に入れて欲しいと思ってた。
そのためにできることを惜しむつもりはなかった。
7年間ずっとそんな風に思いながら歩いてきたけれど…
…でも、そうしたところで何も出来なかったから、この結果なんじゃないか
ただやるせなさしか自分の中から生まれてこない。
思考はますます迷路に迷い込む。
何もする気にはなれない。
さりとて、休む気にすらなれない。
考えても何も生まれない。
だけど、何をすればいいのか見えてこない。
ただただやるせなさに押し潰されそうになりながら、これからどうするべきなのかをずっと考えつづけた。
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