Serment de verite

2002年8月21日
朝起きたら、昨日よりも更に喉が痛かった。
しかも、昨日からずっと身体の中で暴れ回るお客と格闘。
精神的も上向きにならないのに、身体の調子まで悪いといい加減うんざりしてくる。


けれど、昨日竜樹さんが無事でいてることがわかったからよしとしようか。
昨日の日記には書きそびれてしまったけれど、竜樹さんからようやく連絡をもらえた。
入院した日はずっと体調が悪くて寝ていたらしく、昨日も調子は悪かったらしいけれど、何とか電話するだけの余力は残していたよう。


…今日は帰ったら、電話機の設定を直さないといけないなぁ


ガードの固い私の部屋電話では、番号非通知の電話は勿論、公衆電話の電話すら着信拒否する有様。
病院には公衆電話しかないもんだから、このままの設定のまま部屋電話を放りっぱなしにしておくと携帯にかけざるを得ない竜樹さんの財布に痛いから、ちゃんとしとく必要がある。

何より、ぼんぼん度数がなくなってくのを見ながら、落ち着いて話すなんて難しいもの。


そんなことをぼんにゃり考えてるうちに家を出ないといけない時間になり、慌てて用意をして家を飛び出す。


秋物を着ないと風邪を引きそうなくらい、外は涼しい。
こないだまでやたら蒸し暑くて、その空気に触れるだけで体力消耗しそうな感じすらあったというのに、8月も終わりに差し掛かるとこうまで違うものなのか?

気をつけないと、風邪をさらに悪化させそうな感じ。
ひとまず、会社で冷えすぎると感じたら上着を着ようと思いながら、定例のメールを飛ばし、会社に向かう。


「おはようございます」


事務所に上がる前に制服に着替えるために、更衣室のあるフロアに行くのだけれど。
昨日からずっと、このフロアにいるパートさんの視線が不可解。
一度左手を見て、ふいと泳ぐ。


…あぁ、なるほどね。


どうやら、これが原因らしい。


左手にしてる、指輪。


3年前、二人でペアリングを買った。
それをつけたからといって何が変わるわけでもなく、手術の際にそれをはめたまま手術室に入れるわけでないと知りながら。
互いの自宅から遠くに離れた病院で長期間の入院を経て、やがて来るべき手術に向けてお守り代わりに出来たらと思って買ったのだ。


ただ、生来「お揃いのものなんてこっぱずかしくて持たれへんわ」という性質の竜樹さんだから、そんなものはアイデアを出した途端却下されるだろうと思った。


けれどそんな話を持ちかけた時、珍しく「ほな、買いにいこか?」とあっさり動き出してくれたこと。
竜樹さんのプラチナ好きを考慮すると、マリッジリングのラインしか選択の余地がなくて、「結婚するわけじゃないのに、ヤだろうな」とペアリング購入を取り下げようとした時、「互いが大事に出来るものにしよう」と敢えてマリッジラインのものを選んでくれたこと。

身体の具合だって決して良くなかったのに、「二人ともが納得いくものをみつけようや」と歩き回って探してくれたこと。
サイズ直しに出して再び二人で取り入った時、ちょっとしたアクシデントがあって少々笑ってしまったこと。

部屋で、私が竜樹さんの、竜樹さんが私の左手の薬指にはめあいっこして、その指にキスをしたこと。

「二人で頑張ろうね」って想いを交わしたこと。

それから二人が一緒に歩いてきたこと。
二人の歩く道は決して手術後も穏かではなかったこと。
嫌なこともそれなりにあったけれど、最後には想いだけが残ったこと。
そのすべてをこの指輪は知っている。


竜樹さんは少し太ってしまわれたのか(失礼)、もう左手にしかその指輪は入らなくて、「結婚したんですか?」と聞かれまくるのに対応するのが煩わしくてしてくれなくはなったものの、ずっと持ち歩いてくれてる。

私も左手にしてることの事情を関係もない人に説明するのが煩わしくて、ずっと右手にしてたものの書き物をする時に邪魔になるからと外してしまう。


今回は前回以上に気力を繋がないといけない。
希望だけで気力を引っ張っては来れないだけの事情があるから。


だから、竜樹さんが左手にしか入らないというのなら、左手にしてさえいれば作業の邪魔になるからと外さないで済むというのなら。


そう思って、竜樹さんが入院した昨日からずっと左手にしてる。


「金岡さんの結婚の話」はパートさんの間では噂のネタになっていて。
入社前から付き合ってる彼(竜樹さん)と結婚する訳でもないし、この際会社で結婚せずにいてる男性社員とくっつけたら話のネタにつきることはないしと、やたら会社の人との交際を勧めてくる。

「大きなお世話じゃヽ(`⌒´)ノ」と思いながら、「いやぁ、私、今の彼との付き合い方に不満なんてないんですよねぇ」とか、「結婚することがそれほど重要やとも思わないんですけどねぇ」とか適当なことを言って流していた。


竜樹さんと結婚したくないわけじゃないし、寧ろその逆かもしれないけれど。
そんなことを昼休みに語る面白いネタ欲しさに寄ってくる人にいちいち説明する必要もない。


…ご心配なく。竜樹と結婚する頃には、あなたたちとは関わりのないところに移動してますから。


泳ぐ視線をすり抜けて、事務所にあがって仕事を始める。


さすがにおじさん連はそういうところには少々無頓着なのか、あまり視線も泳がない。
ちょっとみて「あれ?」という顔をした人はいたけれど、別にそれで対応が変わるわけでなかったので気は楽だった。

ただ、ボスだけが「金ちゃんにはどんな男がええねやろなぁ」と連呼しておられたけれど(^-^;


…いやぁ、ボス詣しないで済むうちには消えうせるよう、努力しますから。


意味不明なことを思いながら、何食わぬ顔をして仕事を進める。

時折視線が泳ぐ人たち以外のことでは終始機嫌よく仕事を進めることは出来た。
あとは自宅に帰って、部屋電話の設定を直すだけ。


大急ぎで自宅に戻って、部屋電話のガード機能をすべて外し、夕飯をとる。
後片付けをして戻ってくると、携帯にメールがひとつ。


「ガード解除、できたかぁ?また、急に痛なりだした(>_<)」


即座にメールを返す。

「一応、すべてのガード機能をはずしてみました。
涼しいから少しマシかなと思ってたけど(-_-;)
ゆっくり筋トレしてこうね?」


すぐに返事が届く。

「明日にでも、試してみるわ!」


明日もお話できるんだと思うと、それがただ嬉しい。
ほっとして、身体に溜まってただろう鬱屈をそっと息に乗せて吐き出してみる。


思うところはいろいろあるのは事実。
それがなかなか前向き思考に切り替わらないことに問題があるのも事実。
不安があるのも事実。


けれど、二人の心に確かにあるもの。
それが二人が歩く上で大きな力になっているのも事実。


「Serment de verite」


3年前に交わしたあの日から、いろいろあってもその気持ちが壊れることはなかった。
その気持ちが壊れかかっても、必ずその想いは蘇った。


二人が交わした誓いは真実。
その想いを守りたくて、今を生きてる。

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