竜樹さんが入院してから2回目の朝が来た。

どんな様子でいるのか、どんなところにいるのか、全く判らないままの状態は必要以上の不安を連れて来る。


前回入院した病院のように同じ部屋に沢山の人がいて賑やか過ぎて気が休まらないというようなことがなければいいのだけど…

簡単に連絡が取れる場所でないことくらいよく判っているので、闇雲に心配してみても仕方はないとは思いながら、それでも気がかりは広がっていく。


ただ、病院にいれば急に具合が悪くなっても、すぐに病院の人が対応してくれる。

その点については竜樹邸に一人でいてるよりも不安はない。


いずれにしても、根本的な問題が解決しなければ、不安が消えるなんてことはないのだけれど…


外は、やたら涼しい。
先週までの暑さが嘘みたいな感じ。


…これくらい涼しいと、竜樹さんもきっと大丈夫だろう。


例年、この時期と寒さが厳しくなる頃にがくんと体調を崩される。
それと仲良く付き合いながら生きていくのは難しいから、もう一度手術を受けるのだけど…


本当は手術なんてさせたくはなかったと思いながら、それでもしなければ今より良くなることはないのだと思いながら。

心は何時までも綱引きを続けている。


どうやら風邪を引いたのか、ずっと喉が痛い。
今週末には多分竜樹さんに会いに行くだろうから、それまでには治しておかなきゃならない。
やることは多いのに、どこか不調だらけで蹴躓いてる感じが抜けない。
気持ちはどこにもありはしないのに、普通にお客さんともボスとも話をして笑い、仕事を進めている私。


…気持ち以外の部分は、気持ち悪いくらい普通の生活をしている。


それがどこか不誠実な気がしてまたへこむけれど、それはそれで仕方ないのかもしれない。


…気にかかることがあるからといって、仕事を放棄する訳にもいかないんだから。


そう言い聞かせて、いつものように仕事を進め、いつものように笑いつづけた。


がっくり疲れて、会社を出る。
眠りこけそうになるのを何とか食い止めながら移動を繰り返し、家に辿り着く。
夕飯を食べるまでぼにょんと休んでいるけれど、うっかりすると眠ってしまいそう。

それすら不謹慎なのかもしれないけれど…


夕飯を食べて後片付けをして、自室に戻る。
ゾンビっちを開け、姉さまに頼まれている作業を始めて暫くすると、姉さまからメールが入り、そこからはメール合戦と平行して作業を続ける。
少々てこずりながらも作業のひとつが終わり、また次の作業の準備に入る。


そうしてるうちに、携帯が鳴った。


姉さまからだった。
左手に携帯、右手でマウスを動かし、キーを叩く状態で作業は続行。
今度の作業は先ほどのそれと比べたら、異常にてこずる。
そのてこずり方が稀に見ぬものだったからなのか、それともただ単に互いに疲れてるからかよく判らないまま、ただただ笑いまくる。
結局、姉さまの指示が的確だったのと私の気力が切れずにいてくれたおかげで、ようやっと作業は終わる。

それから暫く電話で話して、ようやっと賑やかな会話は終了。


風邪気味で痛かった喉は、もっともっと痛くなっていた。
ついでに笑いすぎで、腹筋まで痛かった。
お風呂に入って汗を落として部屋に戻って灯りをひとつ落とす。


…こんな状態でも笑えるんだ。


さっきまで笑いながら姉さまとお話してたことを振り返って、少し心が冷えた。
竜樹さんがしんどい思いをしてるだろう時に、私はやってくる出来事それぞれにそれまで通りの反応を返してる。
確かにそうしてられてるうちは、周りにいる人を騙し続けてはいられる。


「あぁ、竜樹が大変でも、取り敢えず金岡は大丈夫だろう」


そう思っててもらえる方が気楽でいい。
特に、長いこと付き合ってる友達には前回の時も「堪えてます」という表情は見せなかったから。
前回同様、おおっぴらに心配されずにいてるというのは、ひとつ荷が下りたような感じがしていいのだけど…


…感情はどうあれ、普通に生活は出来るもんだね。


今更なことを思って、また自ら奈落に落ちていく。


日常や生活はどこまでも感情を置き去りにして進んでいく。
それまでと何ら変わりもなく、嫌なことも楽しいことも感じ取って反応してる自分自身が、何だか嫌でならない。
竜樹さんが入院して自らの病気と格闘するに当たって、私が普段どおりの生活を送ってる方が負担が少ないのだということもわかってるし、笑ったり怒ったりすることが悪いことではないのだと思う部分もあるんだけど。


感情の奥底にあるものはそれまでの生活とは異なるものだというのに、普通に今までどおり暮らしてる自分が随分不誠実で無神経なんじゃないだろうかという気すらした。


…これ以上、考えまわしても健康的な判断はできない。


身体を休めれば矛盾も事態もすべて解決されようはずがないとは知りながら。
それでも意味もなく身体を起こし、自虐的な方向に自分自身を持っていくような真似を繰り返していられるほどの猶予は残されてないのだから。


心を置き去りにして進んでいく日常。
その日常の先に竜樹さんの再手術が待ち構えてる。


…矛盾もそれに纏わる痛みも抱えながら歩くしかないんだね?


誰にというわけでなくそう問いかけるような気持ちで、そっと休んだ。

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