台所からカセットコンロとたこ焼きセットなるものを取ってきて、その中に入ってるちっさな鉄板をコンロの上に置く。
油慣らしをしないといけないらしく、鉄板を熱しては油を捨て、冷ましてを何度か繰り返す。
そして、たこ焼きの生地の堅さを2人で調節しながら、焼き始める。


…しかし、これが難しいんだ(-_-;)


鉄板がちっさいので、ひっくり返す時ヘンな力がかかると、がこんと音を立てて斜めに鉄板が落っこちる。
おまけに火の当たりにムラができるので、真ん中一列しか上手に焼けない。

慣れないので、なかなか上手にひっくり返せない私。
どういう訳か、竜樹さんの方が上手にひっくり返している。


「確かにこの鉄板でひっくり返すん難しいけど、霄がひっくり返すと大きさが2分の1になるなぁ( ̄ー+ ̄)」


……………ヽ(Д´ )ノヽ( `Д)ノ


散々馬鹿にされながら焼きつづける。
そのやり取りは確かに楽しげなんだけれど、労力の割におなかは一杯にならない。
一通り用意した生地もなくなり、「ご飯が食べたいなぁ」と竜樹さん。


冷蔵庫の中にある牛肉とピーマン、パプリカ、玉ねぎを切って炒め、オイスターソースとナンプラーで簡単に味付けしたものを作る。

ふと備蓄のご飯が切れてることに気がつき、自転車を飛ばしコンビニまでパックご飯を買いに行く。
ついでに次の日の朝ご飯とお茶のペットを仕入れて、また自転車を飛ばす。


…やっぱり、炊飯器は買った方がいいよなぁ(-_-;)


大概夜遅いのに、未だに蒸し暑さの抜けない空気の中をひとり自転車をかっ飛ばして竜樹邸に戻る。

それから、遅すぎる夕飯を取る。

「霄ぁ、たこ焼きの前にこれ食べたかったわ。すごい美味しいやん?これ(*^-^*)」


たこ焼きをメインにせず、あくまで遊びの一環として扱うべきだったかなと反省しきり。
それから後片付けをして、ざっと汗を流して、寝る準備をする。


竜樹さんがお風呂に入ってる間、何気なくテレビをつけると、エリザベス女王戴冠50周年記念のライブの映像が飛び込んでくる。
女王のクイーンとイギリスのロックバンドクイーンとを引っ掛けて、いろんなミュージシャンが出てくるのを見てきゃっきゃ言ってると、竜樹さんが戻ってくる。

少し涼んでパジャマに着替えて、壁にもたれかかるように座る竜樹さんの方に近寄っていって、最近定例の膝枕をしてもらう。

「ホンマに霄にはまいったわ。
体調が悪い時にたこ焼き焼く羽目になるとは思わへんかったで」

「…やめといたのが、よかったですか?(-_-;)」

「いや、霄の焼く2分の1たこ焼きも見れたし、面白かった。
もう少し元気な時にやればもっと楽しかったやろうけどなぁ」


何か楽しみごとをと思ってしたことだったけれど、具合の悪い竜樹さんには悪いことをしたのかもしれない。

まだ背中が痛むと言うので、湿布を貼るお手伝いをすると、「お礼に」と言って、背中をマッサージしてくれた。
そうして横になってくっついて、少し具合がマシになったのか、またじゃれあって。
そうして何時の間にか、眠っていた。


次に目が覚めると、少し遅めの朝だった。
珍しく竜樹さんの方が遅くまで寝ているので、意識がはっきりするまでぼーっとして、ご飯を作り始める。

昨日買ったパンと、目玉焼き。そして簡単なサラダ。

出来上がった頃に竜樹さんを起こすけれど、なかなか起きられず。
竜樹さんが起きるのを待っていると、竜樹お母さんが来られ、差し入れにとサンドイッチとおにぎり、お惣菜数種類を頂く。


暫くして竜樹さんが起きたので、一緒にご飯を食べた。

食事の後、いつもよりもうんと具合が悪くなったらしく、薬を飲んでまた暫くお休み伊になる。
明日から入院だというのに、何の準備も出来てないのは不安なので、病院から貰った持ち物リストを眺めて所在の判るものから取ってきては紙袋に入れていく。

着るもの等、本人でないと判らない物の方が準備を怠ると大変なことになるとは判っていても、たたき起こすのは何だかかわいそうな気がして。
一人で簡単な準備を済ませた。


「……霄ぁ、どうしてるん?」
「簡単な用意をしてたんですよ」

起きられてなお、まだ具合が悪そう。
お風呂に入ると少しマシになるという経験則に基づいて、掃除してお風呂を沸かす。

今日はもう夕飯を作らなくてもいいということなので、お言葉に甘えて竜樹お母さんが差し入れしてくださったものの残りを口にしながら、片づけをする。


お風呂が沸いたので竜樹さんを起こし、お風呂に入れる。
その間、お魚に餌をあげたり、片付けの続きをしていた。

竜樹さんがお風呂から上がってこられる頃には、私が帰る準備をすればいいだけになった。
いつものように涼んで着替えた後、壁にもたれて座る竜樹さんの傍にぺたんと座る。

「お風呂入っても何だか今日は調子よぉなれへんわ」

苦笑い気味の表情の竜樹さん。
どう答えたらいいか判らずに考えていると、いつものように頬をなでたり髪をなでたりする。


そして、ぽつりと溢す。


「俺、またあの手術受けんなんの、嫌やぁ。
下手したら、今度は身体のどっかが動かなくなるかも知れへんねんで。
もしかしたら、生きてられへんかも知れへんねんで」


…本当はやっぱり怖いんだ。


「どう転んだって、今以上に悪くはならない」というのは、私に対して安心を与えるためのものでもあっただろうけど、それ以上に自分自身の不安を払拭したかったんだ。


怖くないはずないじゃないか。
あの手術の規模と術後の痛みがどれほどのものだったか、執刀を受けたものでなくても少し考えればわかったこと。
いくらあの先生の腕がいいったって「絶対」なんて存在しないこと。


手術が全ての絶望の元を断つ訳じゃない。


それは私以上に竜樹さんのが良く知ってる。


…何やってたんだろう?


自分のお気楽さ加減に泣けてきた。
けれど、そんな涙をここで落とすわけにもいかず、下を向いて竜樹さんに触れられるままじっとしていた。

「…俺、ちょっと横になるなぁ。汗を流してから帰るんやったら、お湯の温度はちょうどええと思うし、使い?」


竜樹さんに勧められるままお風呂場に行く。

湯船に入って一人になって、声を殺して泣いた。


どんなことしたって、逃れることなんてできやしないんだ。
生命に差し掛かる影からは。
そして大切な人の生命に差し掛かる影が齎す不安や恐怖を傍は掃うことすら出来ず、ただ見てるしか出来ないんだ。


…結局、傍は何の役にも立たないんだよ。


楽しかったかもしれなかった時間ですら、生命にさしかかる影には勝てない。


…どんなことをしたって、掃えはしないんだ。


そんな無力感に苛まれながら、目の赤みが引くのを待ちつづけた。

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