受けて立つから…

2002年7月10日
昨晩、ゴージャスなお姉さまから電話を貰った。
昨日1日盛り上がったカーン様の伝聞の話題はとうに終わっていて、今度はドイツのユニの話で盛り上がる。
ユニフォームのレプリカにはオーセンティック(選手が試合で実際に着てるものと同仕様のもの)やらスポンサーとのダブルネームのものやらいろいろとあって、お姉さまがくれる情報がちょこっと錯綜してたので、整理がてらまたワールドサッカー話で盛り上がる。

ただ、話し出したらサッカーの話だけで留まらなくのが常で。
4月に観に行った「天保十二年のシェイクスピア」のDVDの話やら、果ては会社の愚痴まで。
このところよくお姉さまとはお話するなぁと感心しながら、夜の会話を続けていた。
長い会話が終わって横になる頃、激しい雨の音が聞こえてくる。


…竜樹さん、ちゃんと眠れてるだろうか?


雨が降る前後はすこぶる調子の悪い竜樹さんのことを思うと気が気ではない。
傍にいても何一つ出来ないのに、ここにいて思ってるだけで何が出来るわけでないこと判ってはいるけれど。
ただ長い夜の間、ずっと身体の不調に苦しんでるだろう竜樹さんを思うと、ただ胸が痛んでならなかった。


出勤する時間には雨は小降りになっていた。
予定では、今日の昼頃台風が上陸するらしい。
あまり大きな台風で河川が増水したら、電車が足止め食らって帰るに帰れなくなる。
それに雨ばかり続くと、竜樹さんが辛い思いをする時間もまた長くなる。
雨で電車が足止め程度なら何とでもなるけれど、竜樹さんの身体が痛むことの方がずっと気がかりだ。

途中、友達からの朝メールにうっかり「鬼」を出してしまう。
しんどくて目一杯の癖にまだ無理をしようとする友達に、ついごくごく親しい人に放つ言葉と同じ種類の言葉を返してしまった。


「無理なんてせんでええ」


10年選手クラスの友達にでも、そう滅多に吐かない荒けない言葉遣いに反省しながら。
もう必要以上に友達が無理するのを見たくはなかった。

…逢うたこともないのに、何をやってんだか

自分がどんな想いから「鬼」を発したかを相手に慮って貰おうなんて図々しいわなぁと自嘲気味に思いながら社屋に入った。


今日は人外魔境にお客さんが来ることになっている。
一部の社員さん向の講習会の千秋楽のゲストということで。
だから通常よりも少々業務は短い時間に押し込み気味。
なのに、一番手のかかる仕事に限ってそこにいない人の物件だったりするので、どう対応していいか判らず、右往左往してる状態。


しかも、この社員さん。出張に出た先で新幹線が止まってしまい、こちらに戻ってこれないんだとか。


縦しんば講習会の時間までにこちらに戻ってこれても、溜まった業務が机を押し潰しそうな勢いで積まれているし、新幹線に缶詰にされたままでもまたしんどいし。


…気の毒だよなぁ(-_-;)


この社員さんがいないおかげでみんなばたばたしてるにもかかわらず、何だかそんな風に思えた。


ようやっと午前中の業務が終わりお昼ご飯にありつくけれど、何となくものを食べる気がしないくらい疲れてしまってる。
がくーーーっと机に臥せってると、遠いところからテレビニュースの声がする。
頭を上げてきょろきょろしてると、社長が携帯用のテレビを見てる。

「なぁんだ、台風さん。肩透かしやったなぁ」

テレビで報じられてるのは、岐阜の方面の被害の話ばかり。
「台風の関西上陸は今日の昼過ぎ」なんて報道、何処へいったのやら。
テレビを見飽きた社長が窓を開けると、どういう訳か青空が広がってる。

「ちぇーーーっ、つまんねぇのー(-"-;)」

などと、子供のような発言を繰り返す社長。
二度目のお茶を煎れ直し、ようやっと昼食を食べ始める。


食べて一息つくと、また後半戦。
静岡で足止めを食らってる社員さんの仕事で右往左往がエンドレス。
その合間に通常業務を片付け、さぁ帰ろうという段になって、お客様登場。

…なんでもお客様、新幹線で6時間半かけてこちらにお見えになったそうだ。

慌てて講習会の準備を手伝い、暫くの間無人の事務所で電話取りをしてから退社。


台風の通り過ぎた、青空の見える空の下、よろよろと家路を急いだ。
寄り道する気力も起こらず、誰にもメールを飛ばす気力も起こらず。
家に帰ってからご飯を食べて、ひと心地ついて思う。


子供の頃だと、台風が来て警報なんぞが出たりすると、そのまま授業は休講で家に帰ってのんびりできた。
そうして、家の中から荒れ狂う外の景色をどこかわくわくしながら眺めていた。


その嵐のために、誰かが足止めを食らって動けなくなる人がいることも、家が水浸しになって困る人がいることも。
気圧や天気の加減に左右される人にとって、こんな天気が身体に堪えるだろうことも。

あの当時は、何も知らなかったんだ。
ごくごく自分の身の回りの世界にだけ意識を置いて、その範疇でいろんなことを考えることを許されたこと、少し懐かしく思ったりする。


今でも嵐吹く風景をどきどきしながら見つめる自分は確かにいるんだけど、そのどきどきに素直にのれない。

それは年齢のせいだってことは言うまでもないんだろうけど、出逢ってしまったから…


天候が崩れることに依って、その日の体調が左右される人に。


その人が雨が降る前からどんな風に体調が悪くなって、雨がやむまでどんな風でいるのかをつぶさに知ってしまってるから。


もう昔のように、嵐が来るわくわくにのることは出来ない。
昔のように、雨降り空をどこか詩的な気分で眺めることは出来ない。


随分、遠いところへきてしまったんだなぁと思う。
竜樹さんに出逢わなければ、雨で服やら靴やらが濡れて気持ちが悪いとかいう瑣末なこと以外で雨を嫌うことなどなかった。
窓の外の雨の風景も、雨の降る前の匂いも、今はいいものとして受け止めることはできないけれど…


台風が齎した強い風が湿気の塊のような雨雲を吹き飛ばしていって、青空ひとつを残していくように、いつかは大切な人の辛さを吹き飛ばすような強い風に出会えるのだろうか?


…その時は頼むから、今回の台風みたいに肩透かし食らわしたりなんてしないでね?


竜樹さんと笑顔でいられる場所に辿り着くために、いいことも辛いことも相応に受けて立つから。
その威力がどれほど強くても、逃げずにきっちり受けて立つから。


いつか来るかもしれない強い風と向き合って、笑顔ひとつ残したいなぁと肩透かしの台風のことを振り返りながらそう思った。

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