背中を追わせて…

2002年7月8日
寝汗がひどくて目が覚めた。
シャワーを浴び、重い身体と意識をゆっくり起こしていく。
窓の外はどことなくすっきりしない空模様。
相変わらず週明けはおぞましいの一言に尽きるけれど、ひとまず家を出た。


空気は湿気を帯びて、歩いていると汗が止まらない。
シャワーを浴びて出てきたのに、これでは浴びてきた意味がない。
せめて湿気がなければ、もう少し気分よくいられるのに…
湿気というのは私にとっても竜樹さんにとっても、ご機嫌斜めな要素のひとつだ。


…せめて、竜樹さんの背中があまり痛まないていてくれますように


祈るような想いを抱えながら社屋に入る。


会社は相変わらず、暇なのか忙しいのかよく判らない。
取り敢えず降ってくる仕事をきりきりと片付けていく。
午前中のフローのための書類を階下に取りに降りなければならないのだけど、時間に気をつけないと、先輩の長話に捕まってしまう。
彼は自分の仕事が暇だと、お構いなしに30分以上拘束しつづけるので、仕事にならない。
微妙にタイミングを計りながら、そろりそろりと降りていく。


書類を貰って帰ろうとすると、先輩から大きな袋を貰った。
見てみると、大きな本が1冊。
ゲームの原画やグラフィックを纏めた本だった。

「もうゲームはやれへんって言ってたけど、絵は見るやろうと思って」

随分前に絵を描いてた話はしていたので、ときどきリクエストを貰って描いたものを渡したり、先輩が描いたものを貰ったりしている。
絵の話をするのは結構好きなので、それが嫌なわけではないけれど。
社屋にいてること自体に閉塞感を覚えているのに、余計に胸を締め上げるような話題は今の私には少しばかり痛かったりする。


やりたいことを横へ置いておくのと引き換えに、ここにいてるようなものだから。
なるべくここではそのことは考えたくないから…


それに貰ってしまうと「お返しせんなん」って意識があるから、何とかお返しになるようなものを見繕ってくるけれど。
それがまた、別のアイテムになって戻ってくる。
贈り物のいたちごっこがしんどくなってきてる部分もある。

先輩に言わせると、「何か持ってきたら、それが会話のネタになるやろー」ということらしいけれど。
それが元で、一部の人たちの間でヘンな噂を垂れ流されてることも知っている。
先輩と付き合うつもりはないし、先輩自身は私が竜樹さんと付き合ってることはご存知だから、外野がどうこう言ってること自体はどうでもいいんだけれど。

…まぁ、触られずに済むなら、それに越したことはない。

業務外のことで面倒な話に片足突っ込むのはごめんだから。


絵の話が出来て嬉しい反面、心に小さな刺が引っかかったみたいな状態で事務所に戻る。


午前中に予定通りのフローを片付け、昼からはまた忙しいのか暇なのかよく判らない状態で仕事を進め、定時に会社を出る。


今日は金岡父の誕生日。
海衣としてた贈り物の話は結局決着がつかず、何を贈ればいいのかもさっぱり判らない状態。
途中下車をしながらプレゼント探しをするけれどぴんと来るものがなくて、仕方なくケーキを買って帰ろうと思った。

「お父さん、アイスの方がいいと思うよ」

金岡母が先にケーキを買ってしまってるかも知れないから確認の電話を入れると、そう帰ってきたので最寄の駅にあるアイスクリームショップで大きめのアイスを12個買って家に戻る。


金岡父は入院してから、割と早く家に帰ってくるようになった。
私が大きなアイスの包みを提げて帰ったすぐ後に、金岡父が戻ってきて。
暫くプードルさんと遊んでから夕飯を食べて、アイスを食べる。

昔はあまり甘いものを好まなかった金岡父が喜んでアイスを食べている。
やれ昔に比べたら少し縮んでおしまいになったなぁとか、少々頑固さに磨きがかかってきたなぁとか、金岡父を見てるといろいろ思うことはあるけれど。


母や私たちに舞台裏を見せることなく、いろんなことを片付けてきたことを、いつもすべてが終わってから聞かされた。
困難は自力で片付け、笑顔と安心だけを連れてきてくれてた。

…時々ものすごい雷が落ちてくることもあったけれど

そうして、何だかんだ言いながら金岡父には随分好きに泳がしてもらったよなぁと思う。
やりたいことを見つけたときも別にそれを止めるわけでもなく、時々助言はあるものの好きなようにさせてくれてた。
竜樹さんとのことも、「お母さんが反対するものを俺が認めるわけにはいかない」と宣言はなさったけれど、直接竜樹さんに嫌なことを言ったわけでも、無理やり別れさせようともしなかった。


後ろでそっと見ていては、時々声は掛けてくれる。


…それが娘を信用することによるものなのか、それとも見捨てた末のことなのかはわからないけれど。


それをありがたいなぁと思いながら、「もう大丈夫なんだよ」と言いたい自分もいる。
竜樹さんとのことは、竜樹さんの健康上の問題もあるから私一人でどうにか出来るものでもないのかもしれないけれど。


「お前ならやれるやろ、行って来い」


そう言うに足りるだけのものを、きちんと身に付けたいなぁと思う。
それを身に付けて初めて、お荷物の娘はきちんと自分を確立できるのかなぁという気もするから。

軽口叩いたこともあったけれど、なりたい自分のかけらを常にその背中から拾い上げてた。
今はまだ、その背中には追いつくに及ばないけれど。


不機嫌な日常もすっきりしない状態もなるべく自力でひとつひとつ片付けて、最後には辿り着きたいと思う。


…もう少しだけ、その背中を追わせてね。


金岡父の笑顔があるうちに、手を離しても大丈夫に慣れるだけの力をつけよう。


それはきっと、竜樹さんを隣で支える力にもなるのだから…

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索