シンプルな答
2002年6月12日昨晩何もせずに横になったせいか、朝早く目が覚めた。
本当なら帰宅後にしようと思っていたことを少しだけ片付けて、家を出る。
外は相変わらず蒸し暑い。
駅まで坂道を駆け下りながら、ずっと昨日のことを考えていた。
…竜樹さんが助けを求める声を退けたこと。
相棒が聞いたら、「何で霄ちゃんが自分の時間を好きに使えないのよーーヽ(`⌒´)ノ」と怒り出す光景が頭を掠めるけれど。
今後はもう少し自己都合を減らさないとダメなんだろうかとか、それがキツいなら降りた方がいいのだろうかと答が出るはずもないようなことをぐるぐると考えつづける。
今の私に、自分の時間が大切なことも少しばかり休む時間が必要だということもよくよく判ってはいるけれど。
気がかりを残してしまうような形になれば、いくら自己都合を押し通したとしても既にそれは自分だけの時間じゃないし心休まる時間にもならない。
電話だとどの程度の緊急性かを把握できずに、行ってみて頭に「?」マークを飛ばしまくって帰ってくることもあるけれど、それはそれで「元気ならいいか」という安心にすり替わるだけマシというもので。
…私が知らないところで、竜樹さんが辛い思いをしてるなら嫌だなぁ。
結論はそこへ行き着く。
今後、自分の欲求で動く以外の事情で自己都合を通すことは減ることはないだろうし、秋口にかけて竜樹さんの関わりのない場所での用事が増えることも既に決まっている。
…どしたもんかなぁ?
「一緒に暮らしてるわけでないのに、そんな思考回路に行き着くこと自体が一番問題なんだってばヽ(`⌒´)ノ
しっかりしてよね、お願いだから」
昨日何度も何度も繰り返し、相棒に言われた言葉が心を少しばかり刺し続けたまま、人外魔境に入っていく。
ここにいると心がささくれ立つような感じがして、憂鬱さから抜け出せる出口は見当たらないけれど。
それでも一時に比べたら、仕事の立てこみ具合といらいらさせられるような出来事がバッティングすることも少ないから、今はこれでいいんだろう。
午前中にある程度の仕事の目鼻をつけ、昼休みに入る。
今日もW杯ネタ。
昨日はドイツ・カメルーン戦があったから、またカーン様ネタでおちょくられる。
「ホンマにカーンって、めっちゃいかついなぁ。
目と目の上の骨との間がないから、雨が降っても目に入らへんから、昨日の試合は楽やったやろうなぁ」とはボス。
「ドイツのキーパー、正面から映ったのみたら、すんげぇ怖い顔してんだぜー。
あれじゃあ、ボールの方が逃げて行くよなぁ」とは社長。
「そうでっしゃろ?カーンに向かってシュート打つ奴って勇気ありますよなぁ?」とボス。
…で、最後にこう締めくくる。
「この子、ベッカム追いかけんと、カーンみたいな怖いおっさん追っかけてるんでっせー」
…ヽ(`⌒´)ノ
カーン様に逢いに札幌まで行ったと知られてから、ドイツ戦の話になると必ずカーン様ネタで遊ばれる金岡。
「『チラベルトが好き』って言った方がよかったですか?」
「いやー、チラベルトなんて力士マンかレスラーみたいやないか?口ばっかり達者やし。
それやったらカーンの方がええやろ?金ちゃんらしいし」
…「どういう理由やねん?」と思ったけれど、にこやかに話していられるならそれでもええか。
半分諦めモードのまま会話を続ける。
お茶入れや会話の合間を縫って、竜樹さんにメールを飛ばす。
「今日は大丈夫ですか?今日から暫くは予定はないので、いつでもお声かけてください」
暫くすると、お返事が返ってきた。
「了解、あとでね」
今日はなるべく早く竜樹邸に行けるようにと黙々と仕事を片す。
それほど立て込まず、またしても日記の下書きも片付けて定時に会社を飛び出した。
昨日家に帰り着くと日付が変わっていたから、正直言って身体はしんどい。
昨日見損ねたドイツ・カメルーン戦の録画も今日こそは観たいと思う。
けれど、「大丈夫かな?本当に大丈夫かな?」と思いながらW杯を観ても気がかりは残ったまま。
そんな気持ちのまま、週末まで過ごしたくはなかった。
…言うても、あと2日で週末やのにね?
瑣末なことで心が揺れる自分を笑いながら、けれどそれくらい竜樹さんの状態が気になるんだからと、そのまま電車で移動を繰り返す。
竜樹邸で夕飯を作る時間が見繕えるかどうか自信がなかったので、お土産を買って竜樹邸に向かった。
「…ありがとうなぁ、しんどいのに」
竜樹さんはだいぶお疲れの模様。
どうやら竜樹さんの親戚にご不幸があって、ご両親が昨日からずっと出てらっしゃるそうで、体調の優れない竜樹さんは一人でじっとしていらっしゃったそう。
洗い物が溜まっているキッチンに立って黙々と洗い物をしていると、
「それはおいといてええから、こっちおいで」と竜樹さん。
「洗い物や雑用片さなかったら、私が来た意味ないじゃないですか?」って答えて黙々と続けていると。
「一緒にご飯を食べたり、傍にいて何気ないことを話したりすることで十分役に立つねんから。
だから、洗い物やめてこっちおいで」と返ってきた。
…(//_//)ゞ
最後のカードを提示されてから、ずっと物理的な役目を果たすことにばかり意識を割いていた。
実際問題、竜樹さんが必要としてるのは物理的な役割を補うことだと彼自身も認めていたことなのに…
不思議な面持ちのまま竜樹さんの隣に座ると、竜樹さんは冷蔵庫からテリヤキチキンを取り出してレンジにかける。
「お腹すいたやろ?これ食べたらいいから」
買ってきたお土産と一緒に2人で簡単な食事もどきを始める。
今日もW杯を見ながらお話。
テレビでやってる試合以外の話にまで話題は転がり、楽しい時間が育まれる。
少し間が空いて、寄り添って。
互いが互いに触れ合う時間が重なっていく。
「肌合いとか温みが癒すものがあるねんで」
随分前にそんなことを話していたけれど。
今の竜樹さんが欲しいのはそれなのかと、伝わる熱から感じ取れる。
本当は精神的に相当参ってるってことも知っている。
やり場のない思いが行き場を無くして、切っ先が私に向かうしかなくなることも。
嵐が過ぎて、それが彼の心を締め上げることも。
…応えられる精一杯の自分はちゃんと彼に渡せてるんだろうか?
熱と波の間を彷徨いながら、そんなことを考えた。
自由な心が心の目を開き、それは大切な人の心の目を開くと今でも信じてる。
けれど、本当に必要なことが何なのかを常に見据えた結果、差し出せるものがその自由な心を縛り上げるものだとしても。
私が私として立っていられてるうちは、竜樹さんの住んでいられる場所を心の中に確保しておきたいと思う。
対峙する想いのせめぎあいは暫く続きそうだけれど、大切な何かを守りたいと願う心がシンプルな答を連れてくるのかもしれない。
本当なら帰宅後にしようと思っていたことを少しだけ片付けて、家を出る。
外は相変わらず蒸し暑い。
駅まで坂道を駆け下りながら、ずっと昨日のことを考えていた。
…竜樹さんが助けを求める声を退けたこと。
相棒が聞いたら、「何で霄ちゃんが自分の時間を好きに使えないのよーーヽ(`⌒´)ノ」と怒り出す光景が頭を掠めるけれど。
今後はもう少し自己都合を減らさないとダメなんだろうかとか、それがキツいなら降りた方がいいのだろうかと答が出るはずもないようなことをぐるぐると考えつづける。
今の私に、自分の時間が大切なことも少しばかり休む時間が必要だということもよくよく判ってはいるけれど。
気がかりを残してしまうような形になれば、いくら自己都合を押し通したとしても既にそれは自分だけの時間じゃないし心休まる時間にもならない。
電話だとどの程度の緊急性かを把握できずに、行ってみて頭に「?」マークを飛ばしまくって帰ってくることもあるけれど、それはそれで「元気ならいいか」という安心にすり替わるだけマシというもので。
…私が知らないところで、竜樹さんが辛い思いをしてるなら嫌だなぁ。
結論はそこへ行き着く。
今後、自分の欲求で動く以外の事情で自己都合を通すことは減ることはないだろうし、秋口にかけて竜樹さんの関わりのない場所での用事が増えることも既に決まっている。
…どしたもんかなぁ?
「一緒に暮らしてるわけでないのに、そんな思考回路に行き着くこと自体が一番問題なんだってばヽ(`⌒´)ノ
しっかりしてよね、お願いだから」
昨日何度も何度も繰り返し、相棒に言われた言葉が心を少しばかり刺し続けたまま、人外魔境に入っていく。
ここにいると心がささくれ立つような感じがして、憂鬱さから抜け出せる出口は見当たらないけれど。
それでも一時に比べたら、仕事の立てこみ具合といらいらさせられるような出来事がバッティングすることも少ないから、今はこれでいいんだろう。
午前中にある程度の仕事の目鼻をつけ、昼休みに入る。
今日もW杯ネタ。
昨日はドイツ・カメルーン戦があったから、またカーン様ネタでおちょくられる。
「ホンマにカーンって、めっちゃいかついなぁ。
目と目の上の骨との間がないから、雨が降っても目に入らへんから、昨日の試合は楽やったやろうなぁ」とはボス。
「ドイツのキーパー、正面から映ったのみたら、すんげぇ怖い顔してんだぜー。
あれじゃあ、ボールの方が逃げて行くよなぁ」とは社長。
「そうでっしゃろ?カーンに向かってシュート打つ奴って勇気ありますよなぁ?」とボス。
…で、最後にこう締めくくる。
「この子、ベッカム追いかけんと、カーンみたいな怖いおっさん追っかけてるんでっせー」
…ヽ(`⌒´)ノ
カーン様に逢いに札幌まで行ったと知られてから、ドイツ戦の話になると必ずカーン様ネタで遊ばれる金岡。
「『チラベルトが好き』って言った方がよかったですか?」
「いやー、チラベルトなんて力士マンかレスラーみたいやないか?口ばっかり達者やし。
それやったらカーンの方がええやろ?金ちゃんらしいし」
…「どういう理由やねん?」と思ったけれど、にこやかに話していられるならそれでもええか。
半分諦めモードのまま会話を続ける。
お茶入れや会話の合間を縫って、竜樹さんにメールを飛ばす。
「今日は大丈夫ですか?今日から暫くは予定はないので、いつでもお声かけてください」
暫くすると、お返事が返ってきた。
「了解、あとでね」
今日はなるべく早く竜樹邸に行けるようにと黙々と仕事を片す。
それほど立て込まず、またしても日記の下書きも片付けて定時に会社を飛び出した。
昨日家に帰り着くと日付が変わっていたから、正直言って身体はしんどい。
昨日見損ねたドイツ・カメルーン戦の録画も今日こそは観たいと思う。
けれど、「大丈夫かな?本当に大丈夫かな?」と思いながらW杯を観ても気がかりは残ったまま。
そんな気持ちのまま、週末まで過ごしたくはなかった。
…言うても、あと2日で週末やのにね?
瑣末なことで心が揺れる自分を笑いながら、けれどそれくらい竜樹さんの状態が気になるんだからと、そのまま電車で移動を繰り返す。
竜樹邸で夕飯を作る時間が見繕えるかどうか自信がなかったので、お土産を買って竜樹邸に向かった。
「…ありがとうなぁ、しんどいのに」
竜樹さんはだいぶお疲れの模様。
どうやら竜樹さんの親戚にご不幸があって、ご両親が昨日からずっと出てらっしゃるそうで、体調の優れない竜樹さんは一人でじっとしていらっしゃったそう。
洗い物が溜まっているキッチンに立って黙々と洗い物をしていると、
「それはおいといてええから、こっちおいで」と竜樹さん。
「洗い物や雑用片さなかったら、私が来た意味ないじゃないですか?」って答えて黙々と続けていると。
「一緒にご飯を食べたり、傍にいて何気ないことを話したりすることで十分役に立つねんから。
だから、洗い物やめてこっちおいで」と返ってきた。
…(//_//)ゞ
最後のカードを提示されてから、ずっと物理的な役目を果たすことにばかり意識を割いていた。
実際問題、竜樹さんが必要としてるのは物理的な役割を補うことだと彼自身も認めていたことなのに…
不思議な面持ちのまま竜樹さんの隣に座ると、竜樹さんは冷蔵庫からテリヤキチキンを取り出してレンジにかける。
「お腹すいたやろ?これ食べたらいいから」
買ってきたお土産と一緒に2人で簡単な食事もどきを始める。
今日もW杯を見ながらお話。
テレビでやってる試合以外の話にまで話題は転がり、楽しい時間が育まれる。
少し間が空いて、寄り添って。
互いが互いに触れ合う時間が重なっていく。
「肌合いとか温みが癒すものがあるねんで」
随分前にそんなことを話していたけれど。
今の竜樹さんが欲しいのはそれなのかと、伝わる熱から感じ取れる。
本当は精神的に相当参ってるってことも知っている。
やり場のない思いが行き場を無くして、切っ先が私に向かうしかなくなることも。
嵐が過ぎて、それが彼の心を締め上げることも。
…応えられる精一杯の自分はちゃんと彼に渡せてるんだろうか?
熱と波の間を彷徨いながら、そんなことを考えた。
自由な心が心の目を開き、それは大切な人の心の目を開くと今でも信じてる。
けれど、本当に必要なことが何なのかを常に見据えた結果、差し出せるものがその自由な心を縛り上げるものだとしても。
私が私として立っていられてるうちは、竜樹さんの住んでいられる場所を心の中に確保しておきたいと思う。
対峙する想いのせめぎあいは暫く続きそうだけれど、大切な何かを守りたいと願う心がシンプルな答を連れてくるのかもしれない。
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