神鳴が繋ぎしもの
2002年5月26日(25日の続きです)
…こないだから、掃除が出来てないと気にしてはったよなぁ。
竜樹さんがしんどくなるとおろそかになるという掃除をしようと決意。
幸い、頭にきたり考えが百々巡りな時は物を磨いてると気が紛れる性質なので、
まずはお風呂掃除に取り掛かる。
お風呂場中磨き倒し、お風呂の水を張りながら、トイレ掃除、レンジ磨きと続く。
無心にがしがしと磨いてる間に竜樹さんが周りをちょろちょろ。
「…霄、コーヒー飲むか?」
後ろから声をかけてくる竜樹さんに、「一段楽するまではいいです」とだけ答え、またがしがしと磨く。
一通りレンジが磨きあがり、すっきりしたところで時計を見ると、18時ちょっと過ぎ。
夕飯作りをしないといけない。
竜樹さんがポットに残してくれてたコーヒーを少しだけ飲んでまた始める。
今日の夕飯は、鶏ささみの南蛮漬け。
玉ねぎのスライスを水に晒し、水気を切った後、醤油と砂糖で味を調えた酢を入れた大きな器に放り込む。
ささみは一口大に切り、塩コショウし、片栗粉をつけて油で揚げて油を切り、酢の入った器にぼちゃんと放り込んで完成。
「そろそろ、お腹がすいたから、ご飯食べたいねんけど…」
傍が聞いたら、「まぁどこまで勝手な男」だと新聞紙やらスリッパやら飛んできそうな台詞を吐く竜樹さんの前に、南蛮漬けとご飯と冷蔵庫の中に入っていた豆腐とかぼちゃの煮物を出して並べて、食べ始める。
「あっさりしてて美味いわ(*^-^*)」
このところ、あっさりめのものしか受け付けなくなってるという竜樹さんにはちょうど良かったらしく、沢山食べてもらえた。
後片付けをして、ふと見ると竜樹邸を出る時間が近づいている。
それでも甘えたがる竜樹さんに「勝手もんやなぁ」と感じるよりも「もしかしたら、これが最後になるかもしれないなぁ」と思う。
受け渡しに疲れを覚えたけれど、バスに間に合わないのでとっとと出ようとすると、竜樹さんに小さな包みを渡された。
九谷焼のぐい呑みに金のわらじが入っている。
「お父さんの退院祝いにええかと思って買ってみてん。渡してくれるかなぁ」
「霄の両親が俺から引き離しやすくなるように、わざと距離をおいている」と言ってた癖にへんな人やなぁと思いながら、それを受け取る。
そそくさと竜樹邸をあとにしようとすると、しんどがってた竜樹さんが珍しく門の外まで送ってくれた。
…最後になるなら、あっさりしてくれてええのに
妙に冷静に思いながら、振り返ることなくバス停に向かった。
…彼にとって本当に優しいのは、一緒にいることではなく、離れてあげることじゃないか?
彼の思う通りに動けない不満は、意思疎通を図りながら改善していくだけの余地はある。
だけど、自責の念が起こることだけは改善するも何もない。
自責の念の根っこにいるのが、他ならぬ私自身であるならば。
…彼の傍にいつづけることだけが、必ずしも彼の幸せに直結する訳じゃないんだ。
自分がこれからどうするのか、自分はどうしたいのか。
そして、どうすれば犠牲は小さくて済むのか?
そんなことをぼんやりと考えながら、移動を繰り返す。
駅で電車を待っていると、メールがひとつ。
「終バス、乗れそうか?」
…わざわざ気にせんでもええのに。
そう思いながら「だいじょぶ、待ち時間はあるけれど、乗れるよ」とだけ返した。
家に帰り着いてからも、到着した旨をメールで知らせると、珍しくお返事が返ってくる。
私が帰ってから「寒気がする」と書いてたくせに、返事が来る。
暫くそんなやり取りを繰り返して、一日を終えた。
翌日、目が覚めたらお昼だった。
ぼけっとしてると、ゴージャスなお姉さまから電話がひとつ。
「チケット取りに行ってくるね〜♪」
一気に目が覚めた。
そう言えば、昨日、「W杯でドイツ戦観たいって言ってたよね」って聞かれてたっけ。
まさか取れるとは思ってないから、「取れるもんなら行ってみたい」って言ってたら、「取れたよー」とかいうメール着てたような…
取りに行って貰うことをお願いしたはいいけれど、会場は札幌。
なるべく安くでいかないと、非常に都合が悪い。
いくら「霄の時間は霄のために使っていい」と言われたってったって。
大金動かすには勇気がいる。
ましてや、竜樹さんと別れると決めたわけじゃない。
合意したわけでもない。
あたふたとしながら、でも決まったことは仕方がないと、これからどうするか、また頭を抱える。
竜樹さんのことで意識を割かずに済むならそれもいいかと思いながら…
対応が明確に決まらないまま夜を迎えてしまった。
…そう言えば、昨日竜樹さんから託されてた金岡父への退院祝いを渡してなかったっけ。
慌ててリビングに降りて、金岡父に竜樹さんから言付かったものを渡すと、とても喜んでくれた。
「ようこんなん手に入れはったなぁ」
どうやらぐい呑みの絵柄もおまけのわらじも気に入ったらしい。
そんな様子を早く伝えたくて、その様子を詳しく打ったメールを飛ばす。
その頃、外は雷鳴が轟いていた。
「一応、パソコンのコンセント、抜いとけよ?」
金岡父にそう言われていたのに、何となく人事のようにぼーっとしてると、ふいに辺りが真っ暗になった。
…げ、また食らったか?
窓の外を見ると、向かいの家も両隣の家も、電気がついている。
またしても、うちにだけ落ちた模様。
…ええ加減にせぇよぉ
苦々しく思いながら、下へ降りると、ブレーカーをどう操作しても復旧しない模様。
自室に戻って手探りで携帯を探し、金岡妹に電話。
「前は海衣の指示で復旧できたと」、母が言っていたから
けれど、今度は海衣の言う通りにしてもダメ。
…気がつくと、竜樹さんのところに電話してた。
「どうしたんや?」
ちょっと明るめの彼に、「雷が落ちて、ブレーカーを触ってるんだけど、直らへんねん」
と慌て口調で言ってしまった。
「いいか?電話代かかってもええから、絶対切るなよ?
ちゃんと復旧するまで、絶対切るなよ?」
竜樹さんの声色が変わる。
外は大雨で電波の入り具合が悪い。
切れるたびに、かけなおしてくれる竜樹さん。
幸い、竜樹父さんが電気技師さんだったので、竜樹さんはお父さんに聞きながら指示してくれて無事復旧完了。
まず竜樹父さんにお礼の電話を入れた後、竜樹さんに電話する。
彼はいろいろと心配してくれていた模様。
退院祝いを喜んでいたことを話すと、とても嬉しそうだった。
停電する前に、金岡母もそれを見ていて、「これはいいね」って言ってたことも話すと、もっと嬉しそうだった。
いろいろあったけれど、ひとまず楽しい雰囲気のまま、会話を終える。
けれど、考えないといけないことだけが残った。
W杯のことではなくて、今後のこと。
…まぁったく、何をやってんだろうねぇ?私たちは。
「離れてやることが優しさだ」なんて言いながら、困ったら竜樹さんに電話してる私。
「俺があまり近づかないことが、霄のご両親には都合がいいはず」と言いながら、退院祝いなんて贈ってる竜樹さん。
…2人ともやることがめちゃくちゃやん。
金岡家の家財がまた何か壊れたので、決して喜べた話じゃないけれど。
神鳴が齎したものは、そんなに悪いものではなかったのかな?
それがなければ、2人は距離を置きやすかったのにね?
そのまま心が少しばかり痛むだけで済んだかもしれないのにね?
…でも、繋がりを残したいと願う心にはよかったのかもしれないね。
轟く神鳴にそんなことを思った。
…こないだから、掃除が出来てないと気にしてはったよなぁ。
竜樹さんがしんどくなるとおろそかになるという掃除をしようと決意。
幸い、頭にきたり考えが百々巡りな時は物を磨いてると気が紛れる性質なので、
まずはお風呂掃除に取り掛かる。
お風呂場中磨き倒し、お風呂の水を張りながら、トイレ掃除、レンジ磨きと続く。
無心にがしがしと磨いてる間に竜樹さんが周りをちょろちょろ。
「…霄、コーヒー飲むか?」
後ろから声をかけてくる竜樹さんに、「一段楽するまではいいです」とだけ答え、またがしがしと磨く。
一通りレンジが磨きあがり、すっきりしたところで時計を見ると、18時ちょっと過ぎ。
夕飯作りをしないといけない。
竜樹さんがポットに残してくれてたコーヒーを少しだけ飲んでまた始める。
今日の夕飯は、鶏ささみの南蛮漬け。
玉ねぎのスライスを水に晒し、水気を切った後、醤油と砂糖で味を調えた酢を入れた大きな器に放り込む。
ささみは一口大に切り、塩コショウし、片栗粉をつけて油で揚げて油を切り、酢の入った器にぼちゃんと放り込んで完成。
「そろそろ、お腹がすいたから、ご飯食べたいねんけど…」
傍が聞いたら、「まぁどこまで勝手な男」だと新聞紙やらスリッパやら飛んできそうな台詞を吐く竜樹さんの前に、南蛮漬けとご飯と冷蔵庫の中に入っていた豆腐とかぼちゃの煮物を出して並べて、食べ始める。
「あっさりしてて美味いわ(*^-^*)」
このところ、あっさりめのものしか受け付けなくなってるという竜樹さんにはちょうど良かったらしく、沢山食べてもらえた。
後片付けをして、ふと見ると竜樹邸を出る時間が近づいている。
それでも甘えたがる竜樹さんに「勝手もんやなぁ」と感じるよりも「もしかしたら、これが最後になるかもしれないなぁ」と思う。
受け渡しに疲れを覚えたけれど、バスに間に合わないのでとっとと出ようとすると、竜樹さんに小さな包みを渡された。
九谷焼のぐい呑みに金のわらじが入っている。
「お父さんの退院祝いにええかと思って買ってみてん。渡してくれるかなぁ」
「霄の両親が俺から引き離しやすくなるように、わざと距離をおいている」と言ってた癖にへんな人やなぁと思いながら、それを受け取る。
そそくさと竜樹邸をあとにしようとすると、しんどがってた竜樹さんが珍しく門の外まで送ってくれた。
…最後になるなら、あっさりしてくれてええのに
妙に冷静に思いながら、振り返ることなくバス停に向かった。
…彼にとって本当に優しいのは、一緒にいることではなく、離れてあげることじゃないか?
彼の思う通りに動けない不満は、意思疎通を図りながら改善していくだけの余地はある。
だけど、自責の念が起こることだけは改善するも何もない。
自責の念の根っこにいるのが、他ならぬ私自身であるならば。
…彼の傍にいつづけることだけが、必ずしも彼の幸せに直結する訳じゃないんだ。
自分がこれからどうするのか、自分はどうしたいのか。
そして、どうすれば犠牲は小さくて済むのか?
そんなことをぼんやりと考えながら、移動を繰り返す。
駅で電車を待っていると、メールがひとつ。
「終バス、乗れそうか?」
…わざわざ気にせんでもええのに。
そう思いながら「だいじょぶ、待ち時間はあるけれど、乗れるよ」とだけ返した。
家に帰り着いてからも、到着した旨をメールで知らせると、珍しくお返事が返ってくる。
私が帰ってから「寒気がする」と書いてたくせに、返事が来る。
暫くそんなやり取りを繰り返して、一日を終えた。
翌日、目が覚めたらお昼だった。
ぼけっとしてると、ゴージャスなお姉さまから電話がひとつ。
「チケット取りに行ってくるね〜♪」
一気に目が覚めた。
そう言えば、昨日、「W杯でドイツ戦観たいって言ってたよね」って聞かれてたっけ。
まさか取れるとは思ってないから、「取れるもんなら行ってみたい」って言ってたら、「取れたよー」とかいうメール着てたような…
取りに行って貰うことをお願いしたはいいけれど、会場は札幌。
なるべく安くでいかないと、非常に都合が悪い。
いくら「霄の時間は霄のために使っていい」と言われたってったって。
大金動かすには勇気がいる。
ましてや、竜樹さんと別れると決めたわけじゃない。
合意したわけでもない。
あたふたとしながら、でも決まったことは仕方がないと、これからどうするか、また頭を抱える。
竜樹さんのことで意識を割かずに済むならそれもいいかと思いながら…
対応が明確に決まらないまま夜を迎えてしまった。
…そう言えば、昨日竜樹さんから託されてた金岡父への退院祝いを渡してなかったっけ。
慌ててリビングに降りて、金岡父に竜樹さんから言付かったものを渡すと、とても喜んでくれた。
「ようこんなん手に入れはったなぁ」
どうやらぐい呑みの絵柄もおまけのわらじも気に入ったらしい。
そんな様子を早く伝えたくて、その様子を詳しく打ったメールを飛ばす。
その頃、外は雷鳴が轟いていた。
「一応、パソコンのコンセント、抜いとけよ?」
金岡父にそう言われていたのに、何となく人事のようにぼーっとしてると、ふいに辺りが真っ暗になった。
…げ、また食らったか?
窓の外を見ると、向かいの家も両隣の家も、電気がついている。
またしても、うちにだけ落ちた模様。
…ええ加減にせぇよぉ
苦々しく思いながら、下へ降りると、ブレーカーをどう操作しても復旧しない模様。
自室に戻って手探りで携帯を探し、金岡妹に電話。
「前は海衣の指示で復旧できたと」、母が言っていたから
けれど、今度は海衣の言う通りにしてもダメ。
…気がつくと、竜樹さんのところに電話してた。
「どうしたんや?」
ちょっと明るめの彼に、「雷が落ちて、ブレーカーを触ってるんだけど、直らへんねん」
と慌て口調で言ってしまった。
「いいか?電話代かかってもええから、絶対切るなよ?
ちゃんと復旧するまで、絶対切るなよ?」
竜樹さんの声色が変わる。
外は大雨で電波の入り具合が悪い。
切れるたびに、かけなおしてくれる竜樹さん。
幸い、竜樹父さんが電気技師さんだったので、竜樹さんはお父さんに聞きながら指示してくれて無事復旧完了。
まず竜樹父さんにお礼の電話を入れた後、竜樹さんに電話する。
彼はいろいろと心配してくれていた模様。
退院祝いを喜んでいたことを話すと、とても嬉しそうだった。
停電する前に、金岡母もそれを見ていて、「これはいいね」って言ってたことも話すと、もっと嬉しそうだった。
いろいろあったけれど、ひとまず楽しい雰囲気のまま、会話を終える。
けれど、考えないといけないことだけが残った。
W杯のことではなくて、今後のこと。
…まぁったく、何をやってんだろうねぇ?私たちは。
「離れてやることが優しさだ」なんて言いながら、困ったら竜樹さんに電話してる私。
「俺があまり近づかないことが、霄のご両親には都合がいいはず」と言いながら、退院祝いなんて贈ってる竜樹さん。
…2人ともやることがめちゃくちゃやん。
金岡家の家財がまた何か壊れたので、決して喜べた話じゃないけれど。
神鳴が齎したものは、そんなに悪いものではなかったのかな?
それがなければ、2人は距離を置きやすかったのにね?
そのまま心が少しばかり痛むだけで済んだかもしれないのにね?
…でも、繋がりを残したいと願う心にはよかったのかもしれないね。
轟く神鳴にそんなことを思った。
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