メッセ大会の後、暫しの休息の後、また朝がやってくる。
窓越しの空は鈍色、しかも湿気を多く孕んでいる空気。
玄関先で一瞬傘を持っていくかどうか迷ったけれど、何となく持たずにそのまま坂道を駆け下りる。


それが最初のけちのつき始め。


電車に乗ると、みんな傘を持っているのに私は傘を持っていない。
会社の最寄駅の方に向かうにつれて、雨脚が強くなってくる。

…傘くらい持ってくればよかったなぁ

そうは思うけれど。
風が強い雨の日は傘をさしながら自転車を転がすのは危険が伴う。
時々、けったいな転がし方をする自転車とぶつかりそうになったり、車と接触したり思想になる。
丁度よく、お弁当鞄にタオルが入っている。
5分ほど我慢して自転車を転がして濡れたとしても、拭くものはある。
「あぁ、小吉なヤツだわ。私って」と一人感心して電車を降りたはいいけれど。


…改札を出ると、とてもじゃないけれど傘がないまま飛び出せそうにない程の強い雨脚に驚いてしまう。


仕方なくコンビニでビニール傘を買い、自転車を転がす。
ビニール傘だと、普通の傘に比べたら視界がクリア。
「あぁ、これも小吉よね?」と思いながら、最後の産業道路に辿り着いた途端。

…強風で傘は壊れてしまった。

結局、1分ほどは強い雨に曝される形になる。
タイムカードを押し、力技で傘の折れた傘を直し、事務所に上がる。


ここでもまた、小吉と不運は交互にやってくる。


仕事があまり立て込まず、あまりけったいなトラブルにも遭わずに済んだおかげで日記の下書きは一日分出来上がった。
このまま定時を迎えたら、何の問題もなくよい週末に滑り込めるはずだったのに…


終業30分前に部代から提案(陳情?)を受ける。
どうやら、私が絡んでる部署とのやり取りのフローを大幅に変えたいという話をその部署の人たちが持ち込んできてるけれど、どんな風にしたらいいかという話だったんだけど。

話を聞いてるうちに、頭にくるを通り越して感情がなくなっていく感じがする。


…自分の仕事に責任感もない人が、こちらのメインの仕事の根幹の部分にそこまで障るとこまで持っていって、ホントにちゃんと機能させれんのん?


今まで5年間この人たちとお付き合いさせて頂いたけれど。
プライドと得手勝手なのだけが超一流で、責任感なんてものは年々殺ぎ落とされてる。
正直言って、親会社とやり取りする中でかなり重要性の高いジョブを含んでるものを、ちょっとした都合で渡してしまう気にはなれない。
責任感もなく、確認作業もなく、たぁらりたぁらり処理されてしまって、最後の尻拭いだけをさせられるのなんて目に見えてる。
ましてや、今度は自分が確認出来ない範疇になってしまうなら。
何が正しいのかなんてことを私自身が確かめることすら不可能になる。


いくらはした金しか貰ってないってたって、自分がいてる部署の仕事の重要な部分をおいそれと放棄して、片付ける方法すら与えられないまま、後始末だけさせられるのか?


…冗談やあらへんわ


部代には申し訳ないなと思ったけれど、奴らが言ってきたことの全てを「はい、そうですか」なんて承服して渡せよう筈がない。

自分たちの要求のみをゴリ押しするために、自分達で出向きもせずに面倒なことだけ部代に押し付けるなんて、ええ根性してるやないか?

今まで押し黙って、一人で処理してきたこと。
その部分を言われるままに移管してしまえば、間違いなくこちらの部署の作業が機能しなくなること。
今までボスにすら話さなかったこと、すべて話してしまった。


あまりに気持ちが不安定で、どうやって押さえ込めばいいのかすら判らない。
吐き出した言葉は戻ってこない。

一人で行き場のない思いを抱えていることを知ってか知らずか。
部代は結論を先に延ばした。
それは双方がちゃんと話し合いの席を持てるところまで冷静に自分の立場と相手の立場を鑑みながら話が出来るところまでの体制を作るだけの時間をくれるということなのだろうか?

「時間をかけてつめていこう」と言う言葉を残して部代は戻っていかれた。

結局、残り30分でしなければならなかった作業は進まず、サービス残業一歩手前まで作業をして、社屋を後にする。


何となくすっきりしない気持ちを抱えて、家になど帰りたくなかった。
気がつくと帰る方向と反対方向の電車に乗っていた。


終点で降り、大型電気店にふらりと寄り道して、ゾンビっちにつけるUSBハブとルーターを買った。
帰る道すがら理由もなく泣きそうになるのを抑えつづけてたのは、心の中にある竜樹さんの笑顔だった。
会社にいるときも、部代とやりあったあとやるせなくなった時も、やっぱり思い返したのは竜樹さんの笑顔だった。


…結局、この人でないとアカンねんなぁ(〃^〃ゞ


やるせなさの元にいるのも他でもない竜樹さんなんだけれど、それを差し引いてもやっぱり私は竜樹さんでないとダメらしい。
判りきったことを再確認しながら、自宅へ戻った。


夕飯を食べて自室でひと息ついてると、携帯にメールが飛び込む。
海衣からだった。

「ご相談」と称してきたメールの中身は、たかがイタリアへ行くのなら、自分の友達もイタリアにいるから、一緒にイタリアへ行きましょうというお誘いだった。

そこからは殆どメールでチャット状態。
姪御を連れて行くというので、ロングフライトに慣れるまではイタリアではなく、近間にしたのがいいだろうということで決着。
楽しく熾烈なメールチャットを終えてから、竜樹さんに電話を入れた。


電話越しの竜樹さんの声はとても元気がなくて、相当参っておられるご様子。
一生懸命、竜樹さんの話を聞いていたけれど、何気ない言葉でがくんとくる。


「誰も俺には何もしてくれない」


…いや、判ってるよ。
所詮、私は完全な当事者ではないんだから、彼の役になど立ててようはずはないんだってことくらいはさ。

それでも、何か出来たらって想いからすることの全ては、やっぱり役には立ってないんだなぁと痛感していい気分でなどあるはずもなく。
ひとまず明日会うことも明日決めようということで、電話は終了。

やり場のないやるせなさだけが、部屋に残った。


そこにまたメールが飛び込む。
今度は外国籍の彼と同居してる友達からだった。
どうやら、一緒にいてても心身ともに疲れることが多いらしい。
友達までやるせなさを抱えていてるのだと思うと、たまらなくなった。

…どうやって声をかけたらええねやろ?

所詮、竜樹さんのことですら役に立てない私になど何もできよう筈などないんだろうけど。


「いいことと嫌なことを足し引きして、最終的に残る想いが本質に近いものなんかもしれへん。
今はそんな気がします。

何かあったら、いつでもどうぞ。
しんどくても、大事に思う人のことを放り出せるほど、まだ落ちちゃいないからさ」


本当に心に浮かんだシンプルな言葉だけ、夜空に放った。
程なく返ってきた彼女の言葉から、ひとまず今日は落ち着いて眠れそうだということだけが判って、ひどく安心したけれど。


愛しさと背中合わせにあるのは、やるせなさやもどかしさ。
物事に絶対的にいいものばかりでも悪いものばかりでもないように、いろんなことを殺ぎ落としていって最後に残るものが、自分にとって本当に大切なものなんだと思うから。


想いに纏わるいろんな出来事から心の目を背けないように。
想いという名の箱に残る最後のひとかけらのものを救い出すように、明日も歩こう。

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