熱の雫

2002年5月14日
今日は浜田麻里の9年ぶりのライブのために、またしても会社を休む。
ここでもまた金岡家内部での連絡の不行き届きで、出勤時間にたたき起こされる。
いつもなら寝なおすのに、何となく寝なおす気になれず、そのまま起き上がる。

空は昨日と同じようなペールブルー。
ただ、ちょっと湿度が高い気がする。
起きたはいいけれど、特にすることもなくぼそぼそと旅行前日の日記を書き始める。
友達に飛ばしたメールを見返しながら、あったことを反芻しながら。
楽しい出来事を思い返すたびに、心が温まるような思いがする反面、「あぁ、本当に終わってしまったんだ」と寂しいような感じもする。
いろんな思いがないまぜになるような感覚を覚えながら、ようやっと1日分だけ形にすることができた。


…あ、そう言えば。


イタリアへ発つたかに渡したくて手に入れたものを梱包していないことに気が付いて、
慌てて梱包の準備を始める。
どんな想いでそれを手に入れたのか、旅立つたかにどんな言葉を渡せばいいのか、心の中に埋もれた言葉を救い出すように掘り起こしながら便箋に言葉を形作り、プレゼントに添えて厳重に梱包した。

そして、出かける用意をすべく、シャワーを浴びて着替える。


ライブが梅田であること、何より9年ぶりのライブなのだからとあれこれ服を選んでるうちに時間がおしてくる。
elleunoのパンツと半袖のニット、薄紫色のジャケットを着て、いつも履くよりもはるかに高いヒールを履いて、梱包したプレゼントの箱を抱えて出かける。

歩きなれてない靴で坂道を転がり降りるのは、なんとも不自由なんだけれど。
ライブハウスでのフロアがフラットである以上、前の方にでかい人に立たれてしまったらせっかくのライブの楽しみも半減してしまうからと、選んだ結果の靴。
我慢我慢と言い聞かせて坂道を下り、電車に乗る。


梅田に着いた頃には、会場10分前だった。
中央局でたかへの贈り物を送り出し、スノークリスタルビルを目指すけれど。
目指すビルは見えてはいるけれど、歩けど歩けどなかなかつかず。
纏わりつくような湿気を振り払うようにして、ぱたぱたと駆ける。

…会場に着いたら、長蛇の列が出来ていた。

整理番号が比較的早い方だったので、いろんな人に道を譲ってもらいながら会場に入っていく。
真っ先にパンフレットとドリンクを引き換え、会場に入ると既に一番前には人だかりができていた。
そこへまたちょろちょろと入り込んでいき、何とか前から4,5列目のセンターよりの場所を確保する。

始まる前から、熱気が雫になって降り注ぐような感じ。
むせ返りそうになりながら、開演までの長い時を待つ。


どれくらい待っただろう?
徐々にスピーカーからBGMに混じって、ギターのチューニング音やドラムやキーボードの試し弾きのような音がする。
ホールと違って、音がお腹にどすんと響く感じ。

…あぁ、本当に来たんだなぁ。

夕飯は食べてないし、慣れてない靴で足も痛いけれど、ただ逢いたかった人にもうすぐ逢えるのだという気持ちだけでずっと立っていた。
時折、係の人が最前列で何かしでかそうと打ち合わせしてる一塊のファンに注意をしてるのを数回見かけながら、やがて辺りの証明は暗くなり、BGMも消える。


サンプリングとギターの大きな音が響き渡る。
周りの空気が一転する。

…でも、肝心の彼女の姿は見えない。


「手垢のついた言い訳などいらない」


「Emergency」の歌い始めが聞こえた時、舞台に引かれてた大きな幕がばんっと落ちる。


待ってた人が現れる。
周りの空気がさらに湧き上がる。
自然と腹の底から声が出る、その歌詞を叫びつづける。
とうに忘れてしまった熱い部分が一気に引きずり出される。


…次は、どの曲でくるんだろう?

そう思う間もなく、思いもつかない選曲で周りをさらに沸かせる。


…あ、あの後にこの曲持ってくるか?

麻里さんのライブはもう何度も見てるけど、こんなに出てくる曲出てくる曲に意外性を感じて臨むのは初めてなんじゃないだろうかってくらい。
MCまで頭は真っ白。


初めてのMCで、「あなたの9年間を振り返ってみてください」と問い掛ける麻里さん。


彼女の9年間も本当にいろんなことがあったということ。
それは間接的にではあるけれど、洩れ聞こえる話で知ってはいたけれど。
その9年がどれほど劇的なものであったのかは、彼女の動きを見てると良くわかる。
それをつぶさに捉えようとしながらも、ふと自分の9年間もまた振り返ってみたりして。


最後に彼女のライブを見た年には、まだ私は竜樹さんとは出会っていなかった。
ただ、自分が目指していたものにしか関心がなくて、誰のこともどうでもよいような感じでいた。
自分のことのように大切に想う誰かに出会うなんてことはないような気にすらなっていたのに。


やがて、竜樹さんに出逢い、2人が歩いた道が決して平坦なものでなどなくて。
いつも、右か左かどちらか一方しか取れないような、迷う余地すらないような状態で。
心は迷う余地でいいから欲しいと希いながら、ただ走りつづけてきたこと。
その想いが行き着く場面場面にいつも彼女の歌があったこと。
そんなことを、彼女の話を聞きながら思い返していた。


「全力で走ってきたものの速度を歩く速度にまで落としたとき、見えた景色があります。
だから、これはこれでよかったんだと思っています。」

そんな言葉を彼女の口から聞くたびに、私の心から生まれる言葉がいかに彼女からの影響を強く受けてたのかを痛感する。
ずっとずっといろんな場面で聞きつづけた言葉は、そんな風に自分の中で芽を出し、これからも自分なりの実を結んでいくのだろう。

その大元の言葉を放つ彼女を10mもないような場所で感じていられることが、とても嬉しかった。


そんな風に思ってるうちにまた意外な取り合わせの歌が何曲か続き、またMCのあとバラードが続く。
しっとりと聞かせてくれたなぁと思ったら、いきなりまた違う世界に連れて行く。
そしてそれにまた回りが熱を放ちながら応えていく。
私もまた、腹の底から声を出して歌いつづける。

彼女のシャウトに圧倒されながら、彼女の歌声に揺れながら。
館内にかかってたはずの冷房がいつのまにか肌に感じられなくなり、熱は雫に形を変えていく。

そうして「Blue Revolution」以降のアルバムの中からの15曲を歌い終え、舞台袖に彼女が消える。


激しいアンコールの拍手と声に出てきた麻里さんは少し泣いていてびっくりしたけれど。
アンコールトップに持ってきた曲にもっとびっくりした。


「My heart is still with you〜」


周りも沸いたけれど、私が一番沸いたかもしれない。


…どんな形であっても私の心はあなたの傍にいつづける。


それが私が竜樹さんと一緒にいるにあたって、いつも思ってきたこと。
そんな想いを綴る自分の元にありつづけるものがこの曲に集約されていることを知っているから。
そんなことが彼女には何の関係もないと判っていても、それはとても嬉しかった。
そうして、彼女はもう1曲歌い、再度アンコールで2曲歌っておしまいになった。


9年ぶりの宴の後には熱の雫の跡だけが残った。


3時間近く立ち続けた足はひどく痛くて、どうやって歩けたのか不思議なくらいだったけれど。
箱の割に大音量だったせいでずっと耳鳴りがやまなかったけれど。


熱の雫がいろんなものを洗い流していったような感覚だけが心に残った。

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