昨晩竜樹邸から戻ってきて金岡母に説教を食らい、そのあとどういう訳か続いて金岡邸に戻ってきた海衣と3人で全然関係のない話に興じたあと、倒れるように眠ってしまった。

…もしかしたら、もう連休中は竜樹さんに逢うことはないんだろうなぁ

窓の外の激しい雨音と憂鬱さに覆い被されるようにして、ただ意識が落ちるに任せた。


目が覚めたら、理由もなく体がだるかった。
外は鈍色の空模様。
これではきっと、竜樹さんの具合も悪いだろう。
そう思うと何となく何もする気が起こらなくて、部屋の中で転げまわって時間をつぶしかけてしまう。
そんなところに階下から金岡母の声が響く。

「霄〜、電気屋へ行くんじゃなかったの〜」

逝去したへっぽこVAIOくんを電気屋に連れて行かんとあかんという話をしてたら、電気屋まで運んでくれると言ってくれてたことを思い出して、慌ててへっぽこVAIO(お荷物VAIOくんに改名しようか…)を袋に詰め込み、用意をして部屋を飛び出す。

どうやら金岡母もちょっとした用事があって家を出るみたいだったので、便乗させてもらうことにする。


金岡母は買った服のお直しのために百貨店に向かう模様。
お直しの手続きをしてる間に、私は吊るされてる服を眺めている。

…久しぶりに、服買いたいなぁ

明るい色の服を見てるとなんだか無性に欲しくなってくるけれど、手取りの減ってる今それを実行できるだけの余裕も勇気もない上に、買ったところで着ていく場所もない。
それでも傍目から見たら欲しそうに見えたのか。

「へぇ、あんたでも服欲しいと思うこと、あるんやね?」
「ありますよぉ、失礼なヽ(`⌒´)ノ 」

金岡母に思わぬところからつっこみ入れられながら百貨店を後にして、へっぽこVAIOくんを電気屋に届けに向かう。

車に乗り込む前に、空からぽつん。

「…雨ちゃう?」
「私、洗濯物干してきたっていうのに〜/( ̄ロ ̄)\ !」

さっきまで機嫌の良かったはずの金岡母が慌て始めたので、自宅に電話して金岡父にとりあえず洗濯物を部屋に入れてもらうように頼んだ。

…これでますます竜樹さんの具合は悪くなるんだろうなぁ

竜樹さんに纏わると、雨はただ煩わしいだけでなく憎むべきものになる。

そんな自分といつかは別れられるのだろうか?
そんな状況に2人して引導を渡せるのだろうか?

金岡母に話し掛けられるまで、ただ流れる景色を見つめていた。


金岡母の話に合わせるような形で言葉を捻り出してるうちに、電気屋に到着。
簡単な症状を伝えて、お店の人に預ける。
へっぽこくんのお帰りは3週間後とのこと。

「めんどくせぇ。新しいの買ったのがマシちゃん!?ヽ(`⌒´)ノ 」と理不尽なまでに不機嫌な私に、
「前にお父さんのVAIO送り出したとき帰ってくるの早かったじゃない?大丈夫よ♪」とさらりと答える金岡母。

…その間、私はストレスまみれかよ?

誰が悪いわけでもないから感情の行き場がないけれど。
金岡母のあっさりとした口調に引きずられるまま、家に戻った。


1st VAIOくんは父が起きている間は使えない。
彼は暇さえあると1stくんに積んでる碁のソフトで遊んでおいでだから。
何となく何もする気が起こらなくて、自室に戻ってそのまま転寝してしまった。


どれくらい寝ていたのかは判らないけれど。
部屋の電話が鳴る音で目が覚めた。

「…にゃぁい(ρ_―)oO」

電話番号も確認せずに、よくそんな間抜けな声で出たものだと後から思えば呆れてしまうけれど。
受話器から聞こえてきた声は、懐かしい声だった。

「…あ、霄?」

イタリア国籍の旦那さんと一昨年結婚した親友からだった。

「あ、たかぁ?どしたぁん?」

気の許せる相手だからまだ寝ぼけモードのままで話していたけれど、彼女の一言で一気に目が覚めた。


「あのね、私。今月中に急遽イタリアに渡ることになったんだ。
生活が落ち着いて仕事とか軌道に乗るまでは、多分日本には戻って来れないから」


…そう言えば、先月ギリシャから葉書がきていた。
旦那さんの勤めてる会社が急転直下のトラブルに遭ってなくなってしまったと。
だから、今後どうなるかわからないんだと。
確かに、いずれは本国に帰るつもりだと旦那さん自身からも聞いていたから、「いつか」はやってくることだとは思っていたけれど。


…だけど、今月中って。

竜樹さんファミリーとの小旅行と9年ぶりのライブのために再来週は連休を申請してる。
その後は仕事の入り具合から考えても、お江戸に行くための休みなんて取れるはずもない。


こないだ物事の始まりと終わりについて考えて思いを廻らせたばかりのところに、またやってくるんだ。


こんなもんなんだ。

終わりなんてのは、劇的なまでにあっけなくやってくるんだ。


何ではした金に捕らわれてお江戸に行く費用を作ろうとしなかったのか。
何で竜樹さんや他のことにかまけて、ちゃんと時間を作ろうとしなかったのか?
ただ無駄に過ごした1日だって沢山あっただろうに。
自分でやりくりしさえしたら、飛行機代くらい作ることは造作もなかっただろうに。


だけど、これは仕方のないこと。
新天地に行ったほうが、彼女はちゃんと確保できるのかもしれない。
今度こそ本当に手に入れられるのかもしれない。

安心して生きていける場所を…

終わりが来ることに必要以上にがっかりしないように、日本を離れる彼女にとっていい点だけを必死になって探しながら、受け答えを続ける。


「…あのね、霄。
私は向こうの言葉がそれほど話せるわけでないから、彼の家族も気にしてくれててね。
お友達が来てくれたら滞在してもらえるだけの部屋は用意できるからって言ってくれてるの。
だから、休みが取りやすい今の会社に籍を置いてるうちにこっちに来てね」


彼女は話題の区切りが来るたびに、「こちらに来てね」という言葉を挟む。


確かに終わりは終わりかもしれないけれど。
言葉は言葉だけで終わるかもしれないけれど。
でも、繋ぎたいと希う気持ちに終わりが来たわけじゃない。
どこにいようが互いが違う景色を眺めようが。

繋がっていようという気持ちに終わりが来たわけではない。
なら、まだ大丈夫。
きっとまだ終わりじゃないんだ。


「うん。必ず行くから」

静かに一度だけ、そう答えた。

彼女には竜樹さんとのことでも心配をかけてるから、それ以上の心配や気がかりを日本に持たせないようにしたいなと思いながら、気をつけながら話してたことが、どれくらい功を奏したか判らないけれど。


時間がおしてさえいなければずっと話しつづけてたいような空気のまま、会話は終わった。


「今度は向こうで逢おうね」という言葉を遺して。


終わりや区切りに寂しさを覚えないほど、まだ強くはなれてないけど。

部屋に残った最後の言葉を叶えようとする気持ちだけは持ちつづけていよう。


いつかまた逢えることをそっと願いながら…

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