いつか、晴れやかな朝を…
2002年4月15日昨日は1日動き回って大概しんどかったはずなのに、なかなか寝付けずにいた。
時折、プードルさんがえづいてるような様子を隣の部屋で感じながら、ひとりリビングで朝一番に父の会社に送信するための連絡用書類を纏めていた。
それでもまだ寝付かれず、さりとて何もする気になれず、横になっても眠ることも出来ず。
眠ったのか眠れてないのかよく判らない状態のまま、朝を迎えた。
金岡父がいないというだけで、金岡邸は大きく、どこか落ち着かない空間になる。
父がいてるから特別に何かがあるという訳でもなかったはずなのに…
どうやら、金岡母にとってもプードルさんにとってもそれは同じだったと見える。
金岡母にもプードルさんにも寝不足の跡が見える。
…ちきしょう。
あんなん、大した病気なんかじゃない。
こんなことで不安がってたら、鼻で笑うヤツはごまんといるだろう。
それでも、あの弱り方を見て不安にならない訳がない。
もう一度、私がその背中を追いかけていける状態で戻ってこれるんだろうか?
部屋差し込む光の明るさに反発するように、不安は増幅していく。
昨日竜樹さんに逢って、たっくさん暖かいものを貰ったのに…
自分の不甲斐なさに腹立たしさを覚えるけれど、竜樹さんに包まれたはずの私は不安を飛び越えられずにいるばかり。
窓の外に見える青空とまぶしいばかりの光。
月曜日が来るのがうんざりなのは毎度のことだけど、今の私にはただおぞましいだけのもの。
朝がやってきたという事実は煩わしいだけのもの。
…こんな状態で会社なんて行きたくない
私がどんな想いを抱えようとも、金岡家がどんな状況下にあろうとも。
朝は容赦なくやってきて、義務の世界に引きずり込むんだ。
新しい朝は始まりの時間。
すべてはここから始まるんだ。
そんなある種の希望に満ちた晴れやかな部分を持ちながら、密やかに義務で縛り上げる日常の始まりを告げもする。
…この朝を何時まで疎ましいと思い続けるんだろう?
辛気臭いだけの気持ちも状況も蹴散らしたくて仕方がないけれど。
嘆いても喚いても、時間だけは誰にも平等に与えられ、誰の許にも朝は容赦なく訪れる。
蹲りつづけるのか、義務の中に身を置いて事態の解決の糸口を見つけ出すのか。
それを決めるのすら、自分でしかないんだ。
辛気臭い気持ちを振り払うように、散文をひとつ上げて家を出た。
思いっきり遅刻路線であったにもかかわらず、坂道を駆け下りる元気もない。
会社に「遅れます」と連絡ひとついれて、いつもよりも数本遅い電車に乗り込む。
ごくごく親しい友達に状況説明のメールを飛ばしまくって、社屋に入った。
事務所に上がると煩わしいものの洪水。
目の前にある仕事が煩わしい。
お客の得手勝手な要求が煩わしい。
電話の音が煩わしい。
人の声すら煩わしい。
感じるもののすべてが煩わしいと感じる状態では、どこか散漫になるもので。
いつもなら到底やるはずのないことをぽこんとやってしまう。
「週明けですもんね?私が代わりに転送しとくから、気にせずいきましょ?」
親会社の支店に送るはずのFAXをうっかり本社のいつもお世話になってる部署に送ってしまったのことを、いつも私のことを気に掛けてくれてる親会社の社員さんがそう言ってフォローしてくれた。
…私の事情なんて、関係ないんだ。
ここにいる8時間半は、ここにいてするべき事をしよう。
なるべく仕事以外のことに意識を向けないようにしながら、よろよろと仕事に戻った。
昼休みも時折、事務所の小さな窓に映る外の色を眺める。
外は春めいた色をぼんやり漂わせている。
こんなに晴れやかな空なのに。
こんなに光が眩しいのに。
生命が息づく季節なのに、生命に纏わる同時多発の出来事が心に重くのしかかる。
義務に身をおかなければ、自分のやるせなさも無力さも即座に解消できるわけではない。
それどころか、余計に無力さもやるせなさも襲い掛かるのかもしれない。
…だけど、こんなところで義務に縛り上げられてる間に父や竜樹さんにできることはないのか?
どうすればいい?
どうすればいい?
自問自答を繰り返す。
時計は容赦なく、午後からの義務に連れ戻そうとする。
仕方なく、また戦闘モード全開で仕事を始める。
噛み付くように鳴り響く電話を何本取った時だか忘れたけれど。
ふと顔をあげてみて、びっくり。
ボスが天井から垂れ下がっているコードに、30?くらいの棒に真鯉・緋鯉・吹流しと音楽の鳴るセンサーがついたこいのぼりセットをクリップを使って止めていらっしゃる。
お客さんからの問い合わせに答えてる場面でのボスの行動に、思わず吹き出しそうになった。
しかも、電話を切る頃にはこいのぼりの口のほうに立って、一生懸命うちわで扇いでおられた。
「……ボ〜ス〜、それは面白すぎますよ〜ヾ(>▽<)ゞ」
「せっかく貰ってんや、風流に楽しみたいやないか(o^−^o)」
…そのこいのぼりセットは、去年初孫が生まれたボスに社長がプレゼントしたものだった。
そこから、不思議なくらい気持ちが沈むことなく仕事を進めることが出来た。
ボスと小さなこいのぼりセットが私の心に穏やかな風を齎した。
そんなささやかな風に心をふわりと持ち上げられたような感じのまま家路についたところに、友達からのメールが飛び込む。
その言葉がまた気持ちをふわりと持ち上げる。
様々な形で持ち上げられた気持ちを抱えて家に辿り着くと…
「お父さん、投与されてる薬が悪かったみたい。
肺炎の症状はよくなったけど、肝臓が悪くなったみたいなの。
で、薬を変えたらあんなボケたみたいな反応はなくなったのよo(^-^o)o(^-^)o(o^-^)o」
…力が抜けた。
でもそれはとても嬉しいものだったんだ。
今の私には、朝は疎ましいものの始まりを告げるものでしかないかも知れない。
でも、嬉しいことを連れてくる一日の根っこにあるのは他でもない朝なんだ。
どんな朝も分け隔てなくすべての人に訪れて、人にいいものも嫌なものも齎すのかもしれない。
それでも、一日の終わりが暖かだったり晴れやかだったりする終わりを迎えられるのなら。
そんな出来事を連れてくる朝にも、きっと感謝しないといけないんだろう。
父の快方を連れて来た一日の始まりがあったように。
いつかは、竜樹さんの具合がよくなる朝は訪れるのだろうか?
二人で朝を喜べる日は来るんだろうか?
いつか来る朝を待つのではなく、迎えにいけるだけの力を蓄えて。
いつか朝が来ることを嬉しく思える日が来ることを願いながら、今を歩こう。
竜樹さんと、大切な人たちみんなと一緒に歩こう。
そうしていつか、晴れやかな朝を迎えに行こう。
時折、プードルさんがえづいてるような様子を隣の部屋で感じながら、ひとりリビングで朝一番に父の会社に送信するための連絡用書類を纏めていた。
それでもまだ寝付かれず、さりとて何もする気になれず、横になっても眠ることも出来ず。
眠ったのか眠れてないのかよく判らない状態のまま、朝を迎えた。
金岡父がいないというだけで、金岡邸は大きく、どこか落ち着かない空間になる。
父がいてるから特別に何かがあるという訳でもなかったはずなのに…
どうやら、金岡母にとってもプードルさんにとってもそれは同じだったと見える。
金岡母にもプードルさんにも寝不足の跡が見える。
…ちきしょう。
あんなん、大した病気なんかじゃない。
こんなことで不安がってたら、鼻で笑うヤツはごまんといるだろう。
それでも、あの弱り方を見て不安にならない訳がない。
もう一度、私がその背中を追いかけていける状態で戻ってこれるんだろうか?
部屋差し込む光の明るさに反発するように、不安は増幅していく。
昨日竜樹さんに逢って、たっくさん暖かいものを貰ったのに…
自分の不甲斐なさに腹立たしさを覚えるけれど、竜樹さんに包まれたはずの私は不安を飛び越えられずにいるばかり。
窓の外に見える青空とまぶしいばかりの光。
月曜日が来るのがうんざりなのは毎度のことだけど、今の私にはただおぞましいだけのもの。
朝がやってきたという事実は煩わしいだけのもの。
…こんな状態で会社なんて行きたくない
私がどんな想いを抱えようとも、金岡家がどんな状況下にあろうとも。
朝は容赦なくやってきて、義務の世界に引きずり込むんだ。
新しい朝は始まりの時間。
すべてはここから始まるんだ。
そんなある種の希望に満ちた晴れやかな部分を持ちながら、密やかに義務で縛り上げる日常の始まりを告げもする。
…この朝を何時まで疎ましいと思い続けるんだろう?
辛気臭いだけの気持ちも状況も蹴散らしたくて仕方がないけれど。
嘆いても喚いても、時間だけは誰にも平等に与えられ、誰の許にも朝は容赦なく訪れる。
蹲りつづけるのか、義務の中に身を置いて事態の解決の糸口を見つけ出すのか。
それを決めるのすら、自分でしかないんだ。
辛気臭い気持ちを振り払うように、散文をひとつ上げて家を出た。
思いっきり遅刻路線であったにもかかわらず、坂道を駆け下りる元気もない。
会社に「遅れます」と連絡ひとついれて、いつもよりも数本遅い電車に乗り込む。
ごくごく親しい友達に状況説明のメールを飛ばしまくって、社屋に入った。
事務所に上がると煩わしいものの洪水。
目の前にある仕事が煩わしい。
お客の得手勝手な要求が煩わしい。
電話の音が煩わしい。
人の声すら煩わしい。
感じるもののすべてが煩わしいと感じる状態では、どこか散漫になるもので。
いつもなら到底やるはずのないことをぽこんとやってしまう。
「週明けですもんね?私が代わりに転送しとくから、気にせずいきましょ?」
親会社の支店に送るはずのFAXをうっかり本社のいつもお世話になってる部署に送ってしまったのことを、いつも私のことを気に掛けてくれてる親会社の社員さんがそう言ってフォローしてくれた。
…私の事情なんて、関係ないんだ。
ここにいる8時間半は、ここにいてするべき事をしよう。
なるべく仕事以外のことに意識を向けないようにしながら、よろよろと仕事に戻った。
昼休みも時折、事務所の小さな窓に映る外の色を眺める。
外は春めいた色をぼんやり漂わせている。
こんなに晴れやかな空なのに。
こんなに光が眩しいのに。
生命が息づく季節なのに、生命に纏わる同時多発の出来事が心に重くのしかかる。
義務に身をおかなければ、自分のやるせなさも無力さも即座に解消できるわけではない。
それどころか、余計に無力さもやるせなさも襲い掛かるのかもしれない。
…だけど、こんなところで義務に縛り上げられてる間に父や竜樹さんにできることはないのか?
どうすればいい?
どうすればいい?
自問自答を繰り返す。
時計は容赦なく、午後からの義務に連れ戻そうとする。
仕方なく、また戦闘モード全開で仕事を始める。
噛み付くように鳴り響く電話を何本取った時だか忘れたけれど。
ふと顔をあげてみて、びっくり。
ボスが天井から垂れ下がっているコードに、30?くらいの棒に真鯉・緋鯉・吹流しと音楽の鳴るセンサーがついたこいのぼりセットをクリップを使って止めていらっしゃる。
お客さんからの問い合わせに答えてる場面でのボスの行動に、思わず吹き出しそうになった。
しかも、電話を切る頃にはこいのぼりの口のほうに立って、一生懸命うちわで扇いでおられた。
「……ボ〜ス〜、それは面白すぎますよ〜ヾ(>▽<)ゞ」
「せっかく貰ってんや、風流に楽しみたいやないか(o^−^o)」
…そのこいのぼりセットは、去年初孫が生まれたボスに社長がプレゼントしたものだった。
そこから、不思議なくらい気持ちが沈むことなく仕事を進めることが出来た。
ボスと小さなこいのぼりセットが私の心に穏やかな風を齎した。
そんなささやかな風に心をふわりと持ち上げられたような感じのまま家路についたところに、友達からのメールが飛び込む。
その言葉がまた気持ちをふわりと持ち上げる。
様々な形で持ち上げられた気持ちを抱えて家に辿り着くと…
「お父さん、投与されてる薬が悪かったみたい。
肺炎の症状はよくなったけど、肝臓が悪くなったみたいなの。
で、薬を変えたらあんなボケたみたいな反応はなくなったのよo(^-^o)o(^-^)o(o^-^)o」
…力が抜けた。
でもそれはとても嬉しいものだったんだ。
今の私には、朝は疎ましいものの始まりを告げるものでしかないかも知れない。
でも、嬉しいことを連れてくる一日の根っこにあるのは他でもない朝なんだ。
どんな朝も分け隔てなくすべての人に訪れて、人にいいものも嫌なものも齎すのかもしれない。
それでも、一日の終わりが暖かだったり晴れやかだったりする終わりを迎えられるのなら。
そんな出来事を連れてくる朝にも、きっと感謝しないといけないんだろう。
父の快方を連れて来た一日の始まりがあったように。
いつかは、竜樹さんの具合がよくなる朝は訪れるのだろうか?
二人で朝を喜べる日は来るんだろうか?
いつか来る朝を待つのではなく、迎えにいけるだけの力を蓄えて。
いつか朝が来ることを嬉しく思える日が来ることを願いながら、今を歩こう。
竜樹さんと、大切な人たちみんなと一緒に歩こう。
そうしていつか、晴れやかな朝を迎えに行こう。
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