新年度に入って最初の週末。
一日有給を取ったせいか、やけに短い1週間だった気がする。
今週は一度も竜樹さんに連絡が取れなくて随分気がかりだったけれど、今日はちゃんと逢えるんだ。
互いに多少の疲れはあっても、少しでも暖かなものを分けあえるだろう。
そう思って、いつもよりも少し早めに起きる。

けれど、どういう訳か疲れが取りきれてなくて、また眠り返してしまう。
気が付くと、出かけようと思ってた時間になってしまった。


慌てて竜樹さんに電話したら、やっとこ捕まった。
声は予想してるよりかは幾分マシだったけれど、今週の彼の体調は私が予想してた通りだった。
明日は、再びゴージャスなお姉さまとデートなので、早く出かけて早く帰るつもりだった。竜樹さんの調子が悪ければなおのこと、あまり長時間竜樹邸に居座ってるわけにもいかないと思うから、今日するべきことは一応昨日の晩には考えていたけれど。


「今週は休みにしよう」


竜樹さんからそう言い渡された。


彼の話をよくよく聞いてみると、調子が悪くなったのは先週の日曜日から。
先週の土曜日は元気だったから、どうやら私と逢った日を境にして体調が格段に悪くなったということになる。
案の定、体調が悪かった時は竜樹邸にあるもので食事を済ませ、殆ど横になりっぱなしでしないといけないことも出来ていない。
竜樹さんのご両親も別件で忙しくしてて、竜樹さんのことまで範疇に入れるとオーバーフロー寸前の状態。

「それやったらご飯を作るなり、買出ししたものを届けにだけ行きましょうか?」

何の意図もなく、自然に口から零れ落ちた言葉だけど。
それに対して返ってきた言葉に、一瞬耳を疑った。

「もしかしたら、霄が風邪を持ち込んだんちゃん?
ただでさえ抵抗力が落ちてるのに、風邪の菌を持ち込まれたら困ることくらい知ってたやろ?」


竜樹さんが闘病生活を始めてから抵抗力が落ちてきてたことは最初から判ってたし、その状態で風邪を引いたら普通の人とは違う苦しみ方することも判ってる。
だから、なるべく風邪はひかないように気はつけてたつもりだし、ひいたら薬を飲んで早く治す努力はしてきたつもりだった。

けれど、気をつけてたって引く時は引くし、本人が気づかなくても風邪の症状を持ち合わせてるときだってある。
風邪を貰うときはかなりきついものを貰いやすいという環境要因もある。
会社にいる人たちが外へ出て行くと、結構劣悪なる環境下での現場作業も入る。
数日現場を渡り歩いて戻ってくる頃には、けったいな風邪を引いていたなんてことはザラ。

…それじゃあ、何か?

けったいな風邪をもってそうな人が仕事を頼みにきたら、「寄るな、向こう行け〜」とでも言って蹴っ飛ばしてでも追っ払えばいいのか?
それとも、無菌室で実験の手伝いをするような会社に転職すりゃいいのか?


体調が悪くなった時に私のことにまで気が回らないことも、体調の悪いときに出てくる言葉が100の本音でないことも重々承知してるとは言え、決してやられて気分のいいものじゃない。

…何でも悪いことが起こったら、私のせいなんか?

ムカつく通り越して、悲しくなってきた。
そんな想いを他所に、竜樹さんはぽつりぽつりと話を続けている。

「この体調不良が風邪によるものなんか、何なのか医者に行ってもはっきりせぇへんねん。
だから原因がはっきりするまでは、取り敢えず今週は休憩しよう」


「判りました。そしたら、原因がはっきりするまでは逢わないでおきましょう。
今週でも来週でも再来週でも、元気になるまでは連絡しなくても結構ですから」


私から連絡しなかったら、余程のことがなければ竜樹さんから連絡してくることなんてないと知りながら。
しょうもない意地を張れば、「次」逢える機会を遠ざけるだけと知りながら。

それでも、なんだかやりきれなくて。
ただ、喉元のあたりで石のように固まってしまう言葉を吐き出す気になれなくて、そのまま「お大事に」と言って電話を切った。


子機を部屋の隅に投げつけて、そのまま布団に倒れこんだ。


…終わりのない自由時間が始まるねんなぁ。


そんな風に思うと、少しばかり涙が出そうになったけれど。


…少々ガタきてるのかもしれない。


ただ逢いたいと。逢えば元気が出るのだと。
逢って何かの役に立ちたいと、出来ることだけでも何かしたいのだと。
ただそう言えば、自由行動の期間は否応なく縮まるだろうものを、もう縮めるために喉元で固まりつづける言葉を噛み砕く気にすらならない。

…何かを繋ごうという気力の起こし方が判らなくなってしまってる。


週末に竜樹邸に行かなくて済むなら、他にも出掛けることも出来ればしないといけないことも出来るだけの時間が取れる。
それは歴然とした事実なのだから、その側面だけを受け止めて淡々と歩きつづければいいのに…
それでも、山積みの作業は少しも片付くこともなく、ただ無意味に時間だけが過ぎていく。

…啖呵を切らなかったらよかったのかな?

出てしまった結果をやるせなく思うほどに、竜樹さんの傍にいたかったんだなぁと確認する。

…ここまで言われて、「まだ一緒にいたいんです」って思うなんて、随分ヤキが回ったよなぁ

気軽な気持ちで自由行動を楽しめた頃の自分を知るだけに、その記憶までもが自分を責める気がしたけれど…


いずれにせよ、始まってしまったんだ。
自分の心がどんな状態であっても、希うものが何であるのかが毅然と判ってしまった状態であっても。

お構いなしに、それは始まってしまったんだ。


…いつ終わるとも知れない、期限の切られない自由行動の時間が。

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