7年前の奇跡

2002年3月5日
朝起きたら、鈍色の空が広がっていた。
いつものごとく、身体は重いまま。

「多分、症状的には累積疲労っぽいよなぁ」

数日前に電車の向かいの席に座っていた人の新聞にかかれていた記事の内容と自分の症状を当てはめながら、何かの形に自分自身の状態を置き換えようとしてる。
すっきりしない気持ちのまま、家を出た。

何となく、「雨が降るかもなぁ…」という気はしていたけれど、傘は敢えて持って出なかった。
けれど嫌な予感ほど良く当たるもので。
社屋に入って暫くすると、雨が降り始めた。

…きっと竜樹さん、調子悪いんだろうなぁ

今日の天気と昨日連絡がなかったことで、そのことは容易に想像がつく。
すりガラス越しに映る鈍色の空を見上げて、ため息をひとつ。


…そう言えば。


7年前の今日、竜樹さんと私の歩く道は私的な部分でクロスすることになったんだ。


3月に入ると、新年度からの準備のためにあちらこちらの部署から手伝いの要請が舞い込む。
7年前のこの日、受け持ちのコマがなかった私は経理部の仕事を手伝いに行った。
書類を見ながら、必要事項を入力する作業。
どういう訳かこの時、竜樹さんが処理した書類に沢山お目にかかった。

…竜樹先生って、すんごい綺麗な字をお書きになるなぁ(o^−^o)

感心しながら、カタカタと入力を済ませ、事務所を後にする。


エレベーターで1階に降りると、竜樹さんともう一人知ってる先生に出会った。

「こんばんは。もう終わりですか?金岡さん?」
「はい。後は家に帰るだけです」
「何人かでこれから焼肉を食べに行こうかって話しているんですけれど、金岡さんも一緒にきませんか?」

いつもならやんわり断るんだけれど、この日はどういう訳か参加することになってしまった。
家に少しばかり遅くなることを連絡して、竜樹先生と他数人の先生と一緒に出かけた。


電車で移動して焼肉屋に行くと満員で、小1時間ほど待たないといけないような状態。
そこで、待ちチームと他所の店を探すチームと分かれて行動することになった。
竜樹先生は待ちチーム。
私は、迷った末に他所を探しに行くチームに入ってしまった。
ちょっと複雑そうな顔をしていらっしゃった竜樹先生に、どこか心が引かれる部分はあったけれど、探しチームにずるずると引きずられて行った。
で、結局他所の店を探し当てて、移動してプチ飲み会になる。
その時、竜樹先生の隣の席になったにも関わらず、竜樹先生の隣の先生が竜樹先生を飛び越えて話し掛けてこられるので、ろくろく話も出来ず。
挙句の果てに、竜樹さんはその先生と席替えしてしまうし、私は捕まり続けるし。

「どこまでも縁がないんだなぁ…」って思ってた。

竜樹先生が自分の方を向いてくれないことに対してとうの昔に諦めてた部分もあったし、(当時)数ヶ月前まで付き合っていた前の彼氏とのやり取りがこじれてて、恋愛自体に疲れてたのもあったから。
そういう意味で意識せずにいられたのは、却って気楽でよかったのかもしれない。


多分、予定ではプチ飲み会が終われば、それですべてお終いになるはずだったんだ。


けれど。


飲み会を構成してたメンバーと帰る方向が違うものが2名。
そしてその2人は同じ方向に家があるという。
周りのメンバーはしたたか酔っていて、「ちゃんと送ったれよ〜ヾ(>▽<)ゞ」とはしゃいでる。
タクシーを拾われて、2人は一緒に乗り込む羽目に。


…タクシーに乗った2人が竜樹さんと私。


最初は、(もうすぐ年度が終わるから)「お世話になりました〜♪」とご挨拶。
ところがうっかり、「来年も先生とこでお世話になれるかどうかは判らないんですよぉ」と言ってしまったあたりから、微妙に話はおかしな方向に転がりだす。


…気が付くと、連絡先は聞かれるし、手は繋がれるし。
当時の私なら(今でもだけど)「ぎゃぁぁぁぁぁぁっw(☆o◎)w 」と叫ぶような事態まで…


びっくり仰天なるタクシードライブを終えて、「あぁ、酔っ払いのすることだから、明日になったら忘れてはるでしょう」で済ませる予定だったし、済むはずだったのに。
洒落で聞かれてしまった電話番号は本当に使われてしまい、これまたどういう訳か外で逢うことになる。

…今度は完全に2人だけで。しかも仕事抜きで。


竜樹先生のいろんな風評を聞いていたから、がっちがちに構えてけちょんけちょんにやっつけて。

殆ど自滅するようにこの恋は終わるはずだったのに。


さりげにしょげてる竜樹先生の背中を見て、気持ちが引きずられた。

「これで終わりにして、いいのかよ?」

気が付いたら、手紙を書いていた。
けちょんけちょんにやっつけてしまったことの理由も、何もかも思いつくまま一言箋に書きなぐってた

そして、最後に1行。

「これからも先生といろんなものが見てみたいです」


そして、2人は並んで歩くことになる。


7年前。
もしも経理部の手伝いの話が私に舞い込んでこなければ、エレベーターホールで竜樹先生に逢うことはなかった。
お決まりのようにお誘いを蹴っ飛ばしてたら、プライベートで互いの歩く道がクロスすることはなかった。

そして、帰る方向が同じでなかったら。
互いに手を差し伸べることもなく、まことしやかに流れていくだけだっただろう。


あの日の出来事が2人をここまで連れてきたんだ。
小さな奇跡の積み重ねが、2人をここまで連れてきたんだ。

そんな7年前の奇跡に想いを廻らせてるうちに、業務時間が終わってしまった。
外に出ると、雨脚はいっそう強まっていた/( ̄□ ̄)\
ずぶぬれになりながら家に帰り、身体を暖めて夕食を取り、いろんな作業をしてから竜樹さんに電話してみた。

…今日は出てくれた(*^_^*)

相変わらず、調子が悪そうだったので、今後の食事の作り方や保存方法を話したり、本当に必要最低限の話だけで終えたけれど。

切り際に「いつでも電話してくれたらいいんだからね。いつでもここにいてるから」
普段なら言えないような言葉が飛び出した。
「うん。俺からもちゃんと連絡するから」
これまたいつもなら飛び出さないような言葉が受話器から零れ落ちた。


7年前の今日がその日だということまでは、きっと覚えてらっしゃらないだろうけれど。
あの日の奇跡を抱きながら、互いの心がより素直なものになればいいなぁと思う。


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