携帯の着信音で目が覚めた。
出てみると、竜樹さんからだった。
いつも事前に逢うことが決まってる場合、よほどの用がなければ電話は入らないのに…
多分、起きるのが遅くなってる私がなるべく早く竜樹邸に向かえるように起こしてくれたんだなと気付くのに、そんなに時間はかからなかった(笑)

用意をしながら、今日の夕飯の献立を考える。
けれど、起きてからずっと頭が痛くて、メニューを考える気力が起こらない。
仕方がないので、参考にできそうな料理の本を何冊か詰めて、電車の中で考えることして家を飛び出した。

今日は風が強い。

電車に乗ると、人がいっぱいで頭痛はますます加速していく感じがする。
気がつくと、本を見る間もなく竜樹さんちの最寄の駅に着いてしまっていた。
仕方なく、行きつけてるスーパーに飛び込み、食材を見てメニューを決めることにした。

体調が悪いこともあってなかなか買うものが決まらずに困っていると、豆腐と煮込み用のラーメンが異常に安かったので、鍋にすることにした。
鶏ひき肉と野菜を足し、竜樹邸で不足していた食材を買ってバス停に向かう。
本を読みながらバスを待ち、やってきたバスに乗り込む。
昨日買った本が(私にとっては)とても面白いもので、危うく降り損ねるところだった。
食材を提げて、竜樹邸に向かう。


竜樹邸に入ると、竜樹さんはパソコンを触っていた。
どうやら彼は競馬をしていたらしい(笑)
二人で京都金杯・中山金杯の予想をする。
予想をしてる間も、頬にキスしてきたり、身体に触れてきたり。
いつもと違う雰囲気に、びっくりしてしまったけれど。
竜樹さんを甘やかしながら、私も甘えながらパソコンとテレビの前をうろうろとして時間を過ごす。

競馬の結果は、竜樹さんも私も勝てたので一安心。
だけど、竜樹さんは中山金杯の1着2着を馬連ではなくワイドで買ってしまってたことが不満だったみたいで、暫く拗ねていた。
拗ねる竜樹さんを甘やかしながら、昨日観た舞台の話や友達の話をした。

「…今年はお金貯めて、今年の年末から来年の年始にかけて、近間でいいから温泉にでもいこっか?」

突然、竜樹さんがそう切り出した。
「年末年始は慌しいから、家でのんびりしていたい」と言ってたのもあって、お互いに家族の許に留まっていたのに……?

「家にいてたってじっとしてるだけで、何にも楽しいことないやんか?
それやったら、二人で温泉にでも入ってる方が楽しいやんか?」

私が年末年始腐ってる間、竜樹さんもまた思うところがあったのだろう。
そのことの詳細については聞かなかったし、竜樹さん自身も話さなかったけれど。
二人が離れて過ごした時間が楽しくなかったのだろうこと。
そして、二人で過ごしたいと少しでも思ってくれたのだろうこと。
それが垣間見られたことで、もう十分だった。

「そだね。今年の有馬記念には大勝ちして、行こっか?」
「…いや、そんなアテにならんことでお金作らんと、二人で貯めようや。
ちょっとずつ残していったら行けるだけの金はできるで?」

竜樹さんの言葉に、それを現実のものとしたいって想いが見えた気がした。

「うん。頑張って、お金貯めようね?」

そう笑って、竜樹さんを抱き締めた。


そんな風に竜樹さんの想いの端が見えたせいだろうか?
思惑も何もなく、自分が思ってることを竜樹さんに話し出した。

竜樹さんにとって自分がどんなものなのか?
一昨年の11月のお話は竜樹さんの中でどんな風に形を変えてしまったのか?
どう足掻いても竜樹さんの「一番」にはなれないだろうと思っていること。

年末年始に感じていたことの殆ど全部を吐き出してしまっていた。
意図的に話したわけでなかったとしても、もしかしたら竜樹さんの心に棘のある言葉もあったかもしれない。
わざとでなかったら、何を言っても許される訳じゃない。
そう思うと、何となく竜樹さんの方を向いていられなくて、ちょっと背中を見せるような格好をしてしまう。
「謝らないと…」と思っていると、

「俺の中で、霄はちゃんと一番やで?お前は信じてないみたいやけど。
俺の中ではあの時の言葉はなくなってへんねんで?
手紙にまでして渡した言葉に霄が迷ってるうちに、いろんな状況が悪くなって延び延びになってるだけで…
時期がきたら、あの言葉を実行に移すつもりでいてるねんで?」

そう言って、背中からぎゅっと抱き締める竜樹さん。

「ありがとう」。ただそう言いさえすればよかったのに。

「…なんでなんやろうね?
友達が彼氏に『俺にはお前が一番なんやで。お前だけなんやで?』って言われてるのを聞くと、『わぁ、すんごい羨ましい』って思えるのに、竜樹さんが『俺には霄ちゃんが一番!』って言うと『…うゎ、なんて嘘臭く聞こえるんやろう』って思ってまうねん」

そう返してしまった。

「俺って損や!ちゃんとそう思って言ってても、霄はいつも『嘘くさっ!』って言うねんもんなぁ…」

少し抗議するように、でも笑顔で抱き締めて続ける、竜樹さん。
その手を少し緩めてもらって竜樹さんの方を向きなおす私。
軽くキスをして、私から抱き締めなおす。
そのまま軽いキスを繰り返しながら、時間は流れていく。

長いこと一緒にいてても、見失うものはあるのだということ。
長くいてることで相手の手の内が互いに知れてしまってる状態で、誤解や不安が生じてしまった時、相手の反応をシミュレーションすることで余計に加速していくこと。
一人の時間に加速し続けていった誤解や悲しみは、こうして大切な人に触れれば溶けてなくなるものだということ。

ゆっくり自分の中でいろんなことが溶けていく。
竜樹さんと触れ合うことで溶けていく。

自分の中でいろんなネガティブな思考が溶けていくのを眺めていた。
それはまるで掌に舞い降りた雪がぱぁっと解けるような感じ。
竜樹さんの腕の中で溶けたのは、二人離れて過ごした時間が生んだ誤解と不安。
相手の顔のない、自分の意識の中で勝手に生み出された相手の像。


外が寒かったからかもしれない。
触れ合ってる暖かさが心の中にすーっと染み透ってくるような感じ。
すんごい居心地がよくて、「あぁ、ここが私の還りたい場所なんだなぁ」って実感できた。


「…霄ぁ、お腹、すいたぁ(T^T)」

甘い時間は、竜樹さんの空腹によって幕を下ろしたけれど(笑)

「…うん。ご飯までのつなぎに簡単なものを作るねぇ(*^_^*)」

ほにゃほにゃの竜樹さんの頭をなでなでして、立ち上がった。
機嫌よく、台所に移動した。

「霄、そこの戸は閉めなくてええからなぁ」

台所の冷たい空気が入るから竜樹さんのいる部屋の暖房の効きが悪くなるのに、そんな風に言う竜樹さんがとても愛しかった。


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