衝動
2001年8月26日昨日、またもや午前様だったから、めちゃめちゃ怒られた。
私が一方的に怒られるのは仕方がないけれど、竜樹さんまで悪く言うのだけは許せなくて、こぶしグーの状態のままでずっと黙って聞いていた。
反論すれば、きっとのっぴきならないことを言い出しただろうことは判りきってる。
心の中で言わずに溜めてある言葉、すべてぶちまける用意はあるから。
今それをやれば、間違いなく二度とこの家の敷居をまたぐことはなくなるだろう。
それはそれでいいような気もするけれど、この家にいてる以上はこの家のルールに従うのは当たり前だから。
最終兵器となりえる言葉たちを飲み込んで、ただやり過ごした。
そんな不機嫌な一日の終わりだったからだろうか?
夢に出てきたのは、竜樹さんと一緒にいてる暖かな時間のかけらばかりだった。
昨日、触れ合いながら、ずっと「霄はかわいいなぁ」と言い続けてくれた竜樹さん。
いつも以上に何度も何度もキスを重ねる竜樹さん。
瞼にも頬にも首筋にもキスをくれた竜樹さん。
家を出る前に互いを抱き締めあった時間。
まるで欲求不満なんじゃないだろうかとも思ったけれど、夢の中でだけは嫌なことを忘れていられた気がしたんだ。
そんな夢から醒めた時、漏らした一言は…
「…ずっと傍にいたいよぉ。一緒の家に帰りたいよぉ」
起き上がって、頭をかきむしってしまった。
竜樹さんに言いたいけれど、言えない一言だから。
…「今は言わない」と決めた言葉だから
竜樹さんが闘病生活に入ってから?
それとも、術後の経過が思わしくない状態が始まってから?
今はまだはっきりと思い出せないけれど。
二人の「未来」の話。ずっと一緒にいたいという想い。
私から口にするのをやめてしまった。
それは竜樹さん自身を追い込むことにしかならないと、判っていたから。
私の立場を慮って、早く何とかしようと焦る竜樹さんを見ていて辛かったから。
「もう、竜樹さんを焦らせてしまうような言葉は出さない」
そう決めたのは私だから。
それまではそれでもよかったのかもしれない。
竜樹さんの体調も悪かったし、いろんな面で外でゆっくりしていられなかった。
そんな余裕のなさから心無い言葉が飛び出しても、別々の家に逃げ帰ることができる環境のままの方が、今はよいだろうと思っていたから、こんなことを願う必要も、言えば竜樹さんを焦らせるだけの言葉も口にする必要がなかったんだ。
けれど。
ご飯を作れば、竜樹さんは喜んでたくさん食べてくれる。
二人で暖かな気持ちになれる時間も空間もある。
私がいなくなることを、竜樹さんが寂しく思うようだってことが少し見えてきて。
心の中に小さな衝動が生まれそうになってるんだ。
「もう、別々の家に帰るのはイヤだよ。ずっと一緒にいたいよ」
生活するということは、生半可じゃないことは判ってる。
週末にご飯を作って、ちょろっと竜樹さんの世話を焼く程度のことで、できるつもりになるのがおこがましいことも判ってる。
それを「今」口にしたって、即実現できる環境ではないことも、それを望むことが竜樹さんの心に大きな負担を強いることも判ってる。
…なんで今になって、判りきってることを飲み込めずにいるんやろ?
もう一度頭をかきむしって、部屋を出た。
リビングでは両親が、2週間経っても我が家にやってこないプードルさんのことを話し合ってる。
もしも、治療しても治らないなら、もうプードルさんを引き取るのはやめよう。
そんな話をしていた。
…また、「病気」がネックになるのか!?
竜樹さんと私の前に立ちはだかるのも「病気」
プードルさんがうちに来れなくなるかもしれない最大の理由もまた「病気」
別に竜樹さんとプードルさんのことは全然関係ないのに、なんだか妙にムッとしたんだ。
だから意見を求められても、「自分らで決めたらいいやんか?」と投げやりに返してしまった。
大人気ない態度だったと自己嫌悪に陥りはしたけれど、竜樹さんのことを話すと両親の口から飛び出すフレーズが心を掠める。
「そんな病気を抱えてるような人、とっとと見切りつけなさいよね?」
気持ちがどんどん沈んでいく気がする。
昨日逢ったとこだというのに、無性に竜樹さんに逢いたかった。
昨日の夜のように、ただ抱き締めてもらえればよかった。
ただ、竜樹さんの傍で彼の役に立てることをしたかった。
我儘でも何でも、ただ竜樹さんの傍にいて、彼の笑顔に触れたかった。
そのうち両親はペットショップに出かけていった。
私は家で一人、落ち着かない心のままパソコンを触ったり、本を読んだりした。
時々、竜樹さんに電話をしてみたけれど、話せないまま。
きっととてもしんどかったんだろう。
「…昨日、無理をさせなかったらよかったな」
写真の中の小さな笑顔を見つめてそう思った。
写真の中の竜樹さんはただ優しく笑っていた。
その笑顔だけで、私の中の小さな衝動が私自身を食い破って出てくるのを防いでくれた気がした。
「順序を踏まないと、次にはいけないから。めげずに『今』を乗り越えよ?」
暫くすると、自分の中で小さな衝動はそんな前向きな気持ちに変わっていた。
特別な何かがあって抑えられた訳じゃなく、ただ写真の中の小さな笑顔に救われた。
…ありがとうね、竜樹さん
心の中でそう呟いた。
そのうち両親が戻ってきた。
結局、もう1週間だけ様子を見るということで決着がついたみたい。
行き先が決まらずに、やがては命の行方もわからなくなることだけは避けられたプードルさん。
…病気の壁もいつかは越えられるのかな?
根拠レスだけど、そう思ったんだ。
そう思うことで、小さな衝動をまだ抑えていられそうな気がしたんだ。
常に小さな衝動は、胸のうちに巣食い、私自身をそして竜樹さんをも食い破ろうとするけれど。
いつかは越えられると自分が信じなくてどうするんだって思う。
越えられる、越えてみせるっていう気持ちから生まれる何かがある。
それがどんな力を持つのか、この目で確かめるまで。
衝動に身を任せるわけにはいかないんだ。
あともう少しだけ、気力を繋ごう。
いつか竜樹さんと笑顔溢れる毎日が過ごせるようになる日まで。
小さな衝動に封印をしよう。
私が一方的に怒られるのは仕方がないけれど、竜樹さんまで悪く言うのだけは許せなくて、こぶしグーの状態のままでずっと黙って聞いていた。
反論すれば、きっとのっぴきならないことを言い出しただろうことは判りきってる。
心の中で言わずに溜めてある言葉、すべてぶちまける用意はあるから。
今それをやれば、間違いなく二度とこの家の敷居をまたぐことはなくなるだろう。
それはそれでいいような気もするけれど、この家にいてる以上はこの家のルールに従うのは当たり前だから。
最終兵器となりえる言葉たちを飲み込んで、ただやり過ごした。
そんな不機嫌な一日の終わりだったからだろうか?
夢に出てきたのは、竜樹さんと一緒にいてる暖かな時間のかけらばかりだった。
昨日、触れ合いながら、ずっと「霄はかわいいなぁ」と言い続けてくれた竜樹さん。
いつも以上に何度も何度もキスを重ねる竜樹さん。
瞼にも頬にも首筋にもキスをくれた竜樹さん。
家を出る前に互いを抱き締めあった時間。
まるで欲求不満なんじゃないだろうかとも思ったけれど、夢の中でだけは嫌なことを忘れていられた気がしたんだ。
そんな夢から醒めた時、漏らした一言は…
「…ずっと傍にいたいよぉ。一緒の家に帰りたいよぉ」
起き上がって、頭をかきむしってしまった。
竜樹さんに言いたいけれど、言えない一言だから。
…「今は言わない」と決めた言葉だから
竜樹さんが闘病生活に入ってから?
それとも、術後の経過が思わしくない状態が始まってから?
今はまだはっきりと思い出せないけれど。
二人の「未来」の話。ずっと一緒にいたいという想い。
私から口にするのをやめてしまった。
それは竜樹さん自身を追い込むことにしかならないと、判っていたから。
私の立場を慮って、早く何とかしようと焦る竜樹さんを見ていて辛かったから。
「もう、竜樹さんを焦らせてしまうような言葉は出さない」
そう決めたのは私だから。
それまではそれでもよかったのかもしれない。
竜樹さんの体調も悪かったし、いろんな面で外でゆっくりしていられなかった。
そんな余裕のなさから心無い言葉が飛び出しても、別々の家に逃げ帰ることができる環境のままの方が、今はよいだろうと思っていたから、こんなことを願う必要も、言えば竜樹さんを焦らせるだけの言葉も口にする必要がなかったんだ。
けれど。
ご飯を作れば、竜樹さんは喜んでたくさん食べてくれる。
二人で暖かな気持ちになれる時間も空間もある。
私がいなくなることを、竜樹さんが寂しく思うようだってことが少し見えてきて。
心の中に小さな衝動が生まれそうになってるんだ。
「もう、別々の家に帰るのはイヤだよ。ずっと一緒にいたいよ」
生活するということは、生半可じゃないことは判ってる。
週末にご飯を作って、ちょろっと竜樹さんの世話を焼く程度のことで、できるつもりになるのがおこがましいことも判ってる。
それを「今」口にしたって、即実現できる環境ではないことも、それを望むことが竜樹さんの心に大きな負担を強いることも判ってる。
…なんで今になって、判りきってることを飲み込めずにいるんやろ?
もう一度頭をかきむしって、部屋を出た。
リビングでは両親が、2週間経っても我が家にやってこないプードルさんのことを話し合ってる。
もしも、治療しても治らないなら、もうプードルさんを引き取るのはやめよう。
そんな話をしていた。
…また、「病気」がネックになるのか!?
竜樹さんと私の前に立ちはだかるのも「病気」
プードルさんがうちに来れなくなるかもしれない最大の理由もまた「病気」
別に竜樹さんとプードルさんのことは全然関係ないのに、なんだか妙にムッとしたんだ。
だから意見を求められても、「自分らで決めたらいいやんか?」と投げやりに返してしまった。
大人気ない態度だったと自己嫌悪に陥りはしたけれど、竜樹さんのことを話すと両親の口から飛び出すフレーズが心を掠める。
「そんな病気を抱えてるような人、とっとと見切りつけなさいよね?」
気持ちがどんどん沈んでいく気がする。
昨日逢ったとこだというのに、無性に竜樹さんに逢いたかった。
昨日の夜のように、ただ抱き締めてもらえればよかった。
ただ、竜樹さんの傍で彼の役に立てることをしたかった。
我儘でも何でも、ただ竜樹さんの傍にいて、彼の笑顔に触れたかった。
そのうち両親はペットショップに出かけていった。
私は家で一人、落ち着かない心のままパソコンを触ったり、本を読んだりした。
時々、竜樹さんに電話をしてみたけれど、話せないまま。
きっととてもしんどかったんだろう。
「…昨日、無理をさせなかったらよかったな」
写真の中の小さな笑顔を見つめてそう思った。
写真の中の竜樹さんはただ優しく笑っていた。
その笑顔だけで、私の中の小さな衝動が私自身を食い破って出てくるのを防いでくれた気がした。
「順序を踏まないと、次にはいけないから。めげずに『今』を乗り越えよ?」
暫くすると、自分の中で小さな衝動はそんな前向きな気持ちに変わっていた。
特別な何かがあって抑えられた訳じゃなく、ただ写真の中の小さな笑顔に救われた。
…ありがとうね、竜樹さん
心の中でそう呟いた。
そのうち両親が戻ってきた。
結局、もう1週間だけ様子を見るということで決着がついたみたい。
行き先が決まらずに、やがては命の行方もわからなくなることだけは避けられたプードルさん。
…病気の壁もいつかは越えられるのかな?
根拠レスだけど、そう思ったんだ。
そう思うことで、小さな衝動をまだ抑えていられそうな気がしたんだ。
常に小さな衝動は、胸のうちに巣食い、私自身をそして竜樹さんをも食い破ろうとするけれど。
いつかは越えられると自分が信じなくてどうするんだって思う。
越えられる、越えてみせるっていう気持ちから生まれる何かがある。
それがどんな力を持つのか、この目で確かめるまで。
衝動に身を任せるわけにはいかないんだ。
あともう少しだけ、気力を繋ごう。
いつか竜樹さんと笑顔溢れる毎日が過ごせるようになる日まで。
小さな衝動に封印をしよう。
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