時の流れがくれた薬
2001年6月27日昨晩、日付が変わる前にもう一度竜樹さんに電話した。
「検査が終わったよ」
そう一言知らせておきたくて。
けれど、竜樹さんは出てくれなかった。
…まだ、検査の結果が出たという訳ではないから、いいかぁ
終日蒸し暑かったし、竜樹さんも学校行くだけで体力がいっぱいいっぱいなんだろう。
どうせ竜樹さんのことだから、他にもいろいろ用事を片付けてるんだろうし、
早く休ませてあげたい。
そう思って、それ以上電話するのはやめておいた。
日付が変わり、暫くしてそろそろ疲れてきたので、お風呂に入って寝ようと思った。
その時、携帯から「初恋」が。
…竜樹さん、ありがとう(*^_^*)
「検査、どうやった?」
開口一番、そう聞いてくれた。
検査の結果は金曜日にもらえること。でもその日は月末の締め日だから、結果をもらうのは多分その次の週になること。
検査が何時まで引っ張るか判らなかったから、有給をとって一日休んだこと。
多分、心配は要らない(だろう)こと。
私が判ってる範囲のことはすべて竜樹さんに話した。
「…今までの無理が積もり積もっててんなぁ」
そう竜樹さんが言った。
仕事でのストレスはともかく、他のこと…特に竜樹さんのことで無理をしてると思われたくはなかったから、
「夜更かしが過ぎたからやってぇ。大したことないよ、きっと(^○^)」
そう笑い飛ばしておいた。
竜樹さんがこれ以上私の心配なんかしませんようにと、小さく祈りながら。
…竜樹さんは学校でストレス溜めすぎていないかな?
そう思ったので、学校での話を聞いてみたんだ。
相変わらず、学校では面白くないことが続いてるようだけど。
ただ、いつもと少し様子が違ったんだ。
「俺は、前の会社で随分鍛えられたから、こんなことはどうってことない」
「前の会社で鍛えられたことはよかったって思ってる」
竜樹さんは前の会社を辞めるまでに、相当ひどい目に遭っていて。
会社を辞めて闘病生活に入ってからも、前の会社の話題というのは一切触れてはならないことだった。
たまに竜樹さんが前の会社の時の話を口にしても、そこにはあまりいい感情はないみたいだったし、私が前の会社の話をするだけで、彼の中から言い知れぬ恐怖心や嫌悪感が生まれてくることは彼が何も言わなくてもよく判ってたから。
たまに竜樹さんが前の会社の時の話を口にしても、そこにはいい感情なんて微塵もなかったし…
随分長いこと、前の会社でのことのすべては口にしないでいた。
私自身も竜樹さんと関係ないところにあるあの会社での思い出にいいものがなかったから、
それはそれでよかったんだけど…
だから、正直言って竜樹さんが前の会社にいた時のことをいい意味で口にするということに驚いたんだ。
…あ、時間の流れが竜樹さんの心にいい変化をもたらしたんだなって
それがとても嬉しかったんだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、竜樹さんは前の会社の時の話をしはじめる。
不思議なことに、彼の話すエピソードのどれをとっても嫌な話がなくて。
私の知らない彼の足跡を知るものばかりでとても驚いたんだ。
…前の会社は、私が竜樹さんと出会った場所。
一度でも、竜樹さんが自分自身に誇りを持って臨んでいられた場所。
その場所にいた時間がたとえどれほど面白くない時間であったり、彼に言い知れぬ恐怖や屈辱感を与えたりしたんだとしても、いつかは彼の中で「これはこれでよかったんだ」と思ってもらえたらいいなって思ったから。
ずっとずっと願っていたから。
彼の中で嫌なものをそれはそれでいいものに変えてくれた時間に感謝したい気持ちで一杯だったんだ。
そして、やっと少しだけ思えたんだ。
…絶望的な気持ちにさせる出来事にもやがて終わりは来るのかもしれない。
その出来事はいつまでも嫌なものだけを与えることはないのかもしれない。
もしかしたら、「力技」を以って結果を掴もうとしなかったこと。
竜樹さんが病のために、志半ばでいろんなものを失ったこと。
二人が躓きながらここまで歩いてきたこと。
私たちが歩いてきた道程のすべてもいつかは「これはこれでよかったんだよ」と笑顔で受け入れられるようになるのかもしれない。
そうして初めて、二人は本当の意味で「幸せ」に近づけるのかもしれない。
そう思うとなんだか嬉しかったんだ。
一通り前の会社のこと、学校のことを話し終えたとき。
竜樹さんは何気にこう言ってくれた。
「…本当は、昨日もよく眠れなくて、霄のところへ電話しようと思っててん」
「してくれたらよかったのに」
「いや、次の日検査やって聞いてたし、有給とってるって思わなかったから悪いなって思って…」
「背中が痛くて眠れなかったの?」
「うん、ちょっとしんどかってなぁ…」
「何か話したら、辛さも取れるもんね?」
「…いや、そういうのは俺にはないねんけどさ…」
「でも、声を聞いたら眠れそうってことはない?」
「…うん、それはあるねん。霄の声聞きたかってん」
そう言えば、竜樹さんが前の会社にいてる時、よくそう言って電話くれてたよね?
深夜の2時や3時やひどい時は4時ごろ。
いつでも会社から戻ってくるのはそれくらいの時間で、疲れすぎててよく眠れなかった竜樹さん。
…あの時は眠るのに薬を使わなかったから、辛かったんだよね?
ここ数年、そんな言葉を聞かなかったからとても懐かしく、いとおしく思えたんだ。
「眠れなかったら、昔みたいに何時でもいいから電話してくれていいんだよ?」
「…判った。ありがとうな」
そう言って、竜樹さんは電話を切った。
竜樹さんの中で忘れてしまいたいと思っていた記憶は時の流れという名の薬によって、
今を生きるための力や自信になって戻ってきた。
そのついでに(?)あの頃貰って嬉しかった言葉も一緒に帰ってきてくれたのがとても嬉しくて、
今日はとてつもなく寝不足でしんどかったくせに、機嫌よく一日過ごせたんだ。
時間の流れに物事を委ねるのは無責任ぽくって好きじゃないんだけど、
時間が癒してくれた結果が今はとても嬉しいんだ。
…いつかこうして、二人の記憶のいい部分も悪い部分も纏めて笑顔をもって受け入れられますように
そうして二人が歩く糧となりますように。
「検査が終わったよ」
そう一言知らせておきたくて。
けれど、竜樹さんは出てくれなかった。
…まだ、検査の結果が出たという訳ではないから、いいかぁ
終日蒸し暑かったし、竜樹さんも学校行くだけで体力がいっぱいいっぱいなんだろう。
どうせ竜樹さんのことだから、他にもいろいろ用事を片付けてるんだろうし、
早く休ませてあげたい。
そう思って、それ以上電話するのはやめておいた。
日付が変わり、暫くしてそろそろ疲れてきたので、お風呂に入って寝ようと思った。
その時、携帯から「初恋」が。
…竜樹さん、ありがとう(*^_^*)
「検査、どうやった?」
開口一番、そう聞いてくれた。
検査の結果は金曜日にもらえること。でもその日は月末の締め日だから、結果をもらうのは多分その次の週になること。
検査が何時まで引っ張るか判らなかったから、有給をとって一日休んだこと。
多分、心配は要らない(だろう)こと。
私が判ってる範囲のことはすべて竜樹さんに話した。
「…今までの無理が積もり積もっててんなぁ」
そう竜樹さんが言った。
仕事でのストレスはともかく、他のこと…特に竜樹さんのことで無理をしてると思われたくはなかったから、
「夜更かしが過ぎたからやってぇ。大したことないよ、きっと(^○^)」
そう笑い飛ばしておいた。
竜樹さんがこれ以上私の心配なんかしませんようにと、小さく祈りながら。
…竜樹さんは学校でストレス溜めすぎていないかな?
そう思ったので、学校での話を聞いてみたんだ。
相変わらず、学校では面白くないことが続いてるようだけど。
ただ、いつもと少し様子が違ったんだ。
「俺は、前の会社で随分鍛えられたから、こんなことはどうってことない」
「前の会社で鍛えられたことはよかったって思ってる」
竜樹さんは前の会社を辞めるまでに、相当ひどい目に遭っていて。
会社を辞めて闘病生活に入ってからも、前の会社の話題というのは一切触れてはならないことだった。
たまに竜樹さんが前の会社の時の話を口にしても、そこにはあまりいい感情はないみたいだったし、私が前の会社の話をするだけで、彼の中から言い知れぬ恐怖心や嫌悪感が生まれてくることは彼が何も言わなくてもよく判ってたから。
たまに竜樹さんが前の会社の時の話を口にしても、そこにはいい感情なんて微塵もなかったし…
随分長いこと、前の会社でのことのすべては口にしないでいた。
私自身も竜樹さんと関係ないところにあるあの会社での思い出にいいものがなかったから、
それはそれでよかったんだけど…
だから、正直言って竜樹さんが前の会社にいた時のことをいい意味で口にするということに驚いたんだ。
…あ、時間の流れが竜樹さんの心にいい変化をもたらしたんだなって
それがとても嬉しかったんだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、竜樹さんは前の会社の時の話をしはじめる。
不思議なことに、彼の話すエピソードのどれをとっても嫌な話がなくて。
私の知らない彼の足跡を知るものばかりでとても驚いたんだ。
…前の会社は、私が竜樹さんと出会った場所。
一度でも、竜樹さんが自分自身に誇りを持って臨んでいられた場所。
その場所にいた時間がたとえどれほど面白くない時間であったり、彼に言い知れぬ恐怖や屈辱感を与えたりしたんだとしても、いつかは彼の中で「これはこれでよかったんだ」と思ってもらえたらいいなって思ったから。
ずっとずっと願っていたから。
彼の中で嫌なものをそれはそれでいいものに変えてくれた時間に感謝したい気持ちで一杯だったんだ。
そして、やっと少しだけ思えたんだ。
…絶望的な気持ちにさせる出来事にもやがて終わりは来るのかもしれない。
その出来事はいつまでも嫌なものだけを与えることはないのかもしれない。
もしかしたら、「力技」を以って結果を掴もうとしなかったこと。
竜樹さんが病のために、志半ばでいろんなものを失ったこと。
二人が躓きながらここまで歩いてきたこと。
私たちが歩いてきた道程のすべてもいつかは「これはこれでよかったんだよ」と笑顔で受け入れられるようになるのかもしれない。
そうして初めて、二人は本当の意味で「幸せ」に近づけるのかもしれない。
そう思うとなんだか嬉しかったんだ。
一通り前の会社のこと、学校のことを話し終えたとき。
竜樹さんは何気にこう言ってくれた。
「…本当は、昨日もよく眠れなくて、霄のところへ電話しようと思っててん」
「してくれたらよかったのに」
「いや、次の日検査やって聞いてたし、有給とってるって思わなかったから悪いなって思って…」
「背中が痛くて眠れなかったの?」
「うん、ちょっとしんどかってなぁ…」
「何か話したら、辛さも取れるもんね?」
「…いや、そういうのは俺にはないねんけどさ…」
「でも、声を聞いたら眠れそうってことはない?」
「…うん、それはあるねん。霄の声聞きたかってん」
そう言えば、竜樹さんが前の会社にいてる時、よくそう言って電話くれてたよね?
深夜の2時や3時やひどい時は4時ごろ。
いつでも会社から戻ってくるのはそれくらいの時間で、疲れすぎててよく眠れなかった竜樹さん。
…あの時は眠るのに薬を使わなかったから、辛かったんだよね?
ここ数年、そんな言葉を聞かなかったからとても懐かしく、いとおしく思えたんだ。
「眠れなかったら、昔みたいに何時でもいいから電話してくれていいんだよ?」
「…判った。ありがとうな」
そう言って、竜樹さんは電話を切った。
竜樹さんの中で忘れてしまいたいと思っていた記憶は時の流れという名の薬によって、
今を生きるための力や自信になって戻ってきた。
そのついでに(?)あの頃貰って嬉しかった言葉も一緒に帰ってきてくれたのがとても嬉しくて、
今日はとてつもなく寝不足でしんどかったくせに、機嫌よく一日過ごせたんだ。
時間の流れに物事を委ねるのは無責任ぽくって好きじゃないんだけど、
時間が癒してくれた結果が今はとても嬉しいんだ。
…いつかこうして、二人の記憶のいい部分も悪い部分も纏めて笑顔をもって受け入れられますように
そうして二人が歩く糧となりますように。
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