今日は朝から雨脚が強い。
起きて第一声がため息だった。

雨が続くと心が塞がるような感じがするのは、避けて通れないことなのかな?
竜樹さんは大丈夫かな?

ぽつりぽつり疑問を抱えながら、家を出る。


電車の中で何気なく目にしたものから、物思いはさらに深く進行していく。
激しい雨が物思いを誘ったのか?
それとも、出会うべくして出会ってしまったのか、よく判らないまま。
後ろ暗い思いだけが頭を擡げていた。


竜樹さんと出逢えたこと。
一緒にいることが出来たこと。
そこにどれほどの道程や苦難があったとしても、そのこと自体に後悔はしたことがない。
むしろ、出逢えたことも一緒にいられることも私にとってはありがたいことなんだけど。
だけど、時々思い出したように頭を擡げることがあるんだ。


…本当に二人は一緒にいてよかったのかな?


私も竜樹さんも互いに思うことがたくさんあって。
きちんと向き合えば、逢いさえすれば、笑顔で満たされることは二人ともに判っているのに。
「何か」が記憶の底に眠るものを揺り起こすんだ。


…二人は共に「業」を背負うものだということ


竜樹さんが私と一緒にいたいと思って行動し、それが叶った頃。
彼は室長というポジションにいて、教室運営自体も問題なかった。
けれど、彼があの席を追われることとなった原因の一つは私の存在だった。
そして、あの死神のような病気に憑かれたのも私といてから。
それまで「再発」することなんて、ありえないと言われてたのに。
もしかしたら、私がすべての災難を呼び込んだのかな?って思うことがあるんだ。

それを口にすると「絶対に霄のせいじゃない」と竜樹さんは言うけれど。

「霄のことを好きになってから、俺はあのポジションを獲得できてんから。
霄は俺にとって幸運の女神みたいなもんやってんで?」

ずっとそう言いつづけてくれていたけれど。
私はずっと自分自身を「災難を齎すもの」のように思ってる。
竜樹さんの隣にいると、暖かな空気に包まれる感じがして、いつのまにか忘れるんだけど。
何かの折に、そんなことを思い出すんだ。

竜樹さんは竜樹さんで同じように思ってることがあるらしくて。

「俺と一緒にいるようになってから、霄はいろんなものをなくした」
そう口にすることがある。
「俺が霄の輝きを奪うようなことはしたくない」
何かにつけてそう口にする。
それは竜樹さんが病に倒れ、闘病生活に入ってから増えた言葉。

竜樹さんと一緒にい始めたころ、金岡本家の方からぼつぼつ縁談の話が舞い込んできてて。
私はそれを片っ端から蹴飛ばしてた。
別に竜樹さんと結婚するつもりがどうとかいうのではなくて、ただやっとの思いで手に入れた恋を手放したくなかったから。
けれど、竜樹さんには違うように映るらしくて。

「俺が待たせたために、やり直すのに『いい年齢』を逃してしまった」
たまにそう言われることがある。

そんな台詞から会話が始まると、まるで竜樹さんが私に災難を齎したように、彼が思っていることを感じるんだ。


…二人の身の上に起こった出来事のすべては、偶発の集まりに過ぎないというのに

二人は未だに囚われ続けているんだ。
なるべく今目の前にいる互いの存在にだけ目を向けるようにしながら、
ようよう騙しながら、「業」を飼いならしながら生きてるような気がするんだ。

けれど、このところ竜樹さんを見ていると、お互いに心を捕らえて離さないような業の部分が形を潜めているように思えるから、少しだけほっとしてるんだ。

竜樹さんの笑顔は私の笑顔を誘い、
二人の笑顔がある場所には「業」の影響が及ばないと判っているから…


自分の心に曇るところのない、「業」のない。
そんな恋がしたかったけれど。
もうそんなところに立ち戻れるはずもないし、
私たちが歩いてきた道程のすべてを否定する気は毛頭ないから。
すべての笑顔と痛みを引き連れて、また二人で歩いていこう。
他の方法なんて何処を探したって見つかりそうもないからさ…

もしも、竜樹さんの心の闇がもっと小さくなったと確認できた時、
私の中に巣食う「業」の部分もまた小さくなってくれるんだろうか?
自分が「業」だと思ってることが、「ただの偶発の集まり」だと心から思える時がきたら、
曇りのない笑顔と心で竜樹さんを包んであげられるようになるのかな?

笑顔も痛みも全ては竜樹さんと共にあるもの。
そのすべてを静かに受け入れよう。
その向こうに二人が笑顔でいられる場所があるって信じて…


やっとの思いで仕事を終えて外に出ると、朝から続いていた嵐のような激しい雨は形を潜め、少し冷えた鈍色の空だけがそこにあった。
自転車をかっ飛ばして、家路を急ぐ。
確かに仕事はそんなに忙しくなかったから、寝不足だってこと以外で疲れる要素はなかったけれど、
思ったよりも長く「業」の話で心が捕まってしまったから。
少しの時間でいいから、竜樹さんに逢いたかった。
竜樹さんの暖かな空気の中でなら、きっとこの泥のような物思いはまた形を潜めてくれるだろうと。
僅かな期待をもってメールを飛ばしたけれど、返事が返ってくることはなかった。

…このことも底を打てば、また元気な私に戻って来れるんだから、それまでは一人で頑張ってみるかぁ

そう思いながら、電車を乗り継ぎ、バスに乗る。
バスが動き出した途端、お弁当鞄の中の携帯から「初恋」が。

…竜樹さんだぁ(*^_^*)

「どこまで帰ってるん?」
「…それがさぁ、もうバスにまで乗ってるんだよねぇ(T^T)」
「惜しかったなぁ。せっかく送ってやろうって思ったのに…」

バスの中だから短い会話で終わったけれど。
家に帰ってから再び電話で話し終わった時には、曇ってた気持ちはすっきりしたような気がしたんだ。

…竜樹さんって、すごい人だよなぁ(*^_^*)

傍から見れば些細なことでも、本人が抱えてるものは計り知れないことだってあるよね?
いつか「お前の『業』なんてもなぁ、『業』のうちに入らねぇよ」って声を笑顔で受け止めれるようになったとき、すべての泥のような物思いが終わるんだろうなって思う。

二人が捕らわれ続けてるささやかなる、でも心に雨を降らせる物思いを笑えるようになる日まで。
二人で支えあって生きていこうって思う。
付き纏う影がどんなものであれ、想いのすべてまでもが後ろ暗いものではないのだから。


自分の中に一つだけ残ってる真実だけ抱き締めて、歩いていこう。
竜樹さんもそう思って歩いてくれたら、いいのにね。

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