「命」の刻限

2001年5月2日
今日は朝から雨。

…昨日、病院に寄って痛み止めを打って貰っといてよかったね、竜樹さん。

鈍色の空を見上げて実感した。


昨日、竜樹さんがこんな話をしたんだ。

「今通ってる学校には俺よりも身体の障害がひどいヤツもいてな。
あいつらはみんな自分の命があとどれくらいかを知った上で生活してるねん。
だから余計に『今を楽しまな』って感じでいてるんがすごいよく判る」

…あ、そっか

なんか判った気がしたんだ。

…何故、竜樹さんが誰にも執着しないのかってことが…


竜樹さんはあまり自分の昔の話をしたがらない。
友達の話や生活の話はしてもらったことはあるけれど。
付き合ってた女の人の話は殆ど聞いたことがない。
女の人に(何故か?)不自由しなかったことや付き合った女の人が結構いたってことは、彼の弟さんの周辺(笑)や職場の人なんかからは時々聞いていたけれど…

ただ、いつか「執着」の話に及んだ時に竜樹さん、こんなことを言ってたんだ。

「俺がどんなに執着しても、最後にはあかんようになるからな。
してもしょうがないものには執着せえへんことにしてる」

彼の病歴は今かかってるもの以外にも幾つかあって。
体中に手術の痕が残ってるから、見てて時々切なくなるんだ。
傷の数だけ辛いこともあったんだろうって。

…彼にもまた「命」の刻限が見えてた時期があったんだろうって。


命の刻限が見えたとして。
何にも執着しないよう、その場楽しい生活を送ろうと努めて。
でも、もし本当に誰かに「執着」してしまったとしたら、どうするんだろう?
命の終わりが来ることを見て見ん振りして執着し続けるのか。
それとも、執着するって気持ちを見て見ん振りして諦めてしまうのか。

竜樹さんと別れてからずっと考えていたんだ。
そして、思い出してしまったんだ。


…私も「約束」によって絶たれてしまうかもしれない未来があることを


竜樹さんや彼の学校の友達のように切実な問題ではないにしろ。
「あの人」が終結を宣言していない以上、それはまだ生きていて。
私の首には相変わらず縄が巻かれてる状態であることに変わりはなくて。
なのに、こんなにまで竜樹さんに執着してる自分がいてて。
竜樹さんに執着されたい自分がいてて。

ふと、立ち止まってしまったんだ。


竜樹さんの命の刻限はまた見えない状態に戻ってくれたけど。
竜樹さんの身体の中にあるものの状態次第では再び命の刻限は見えてくるのかもしれない。
そうなったとき、「私」に執着させることがいいのか悪いのか、
「私」が竜樹に執着することがいいのか悪いのか。
判らなくなってしまうんだ。


手術してもしかしたら身体のどこかに障害が残る可能性があると判った時、
竜樹さんから「別れよう」と言われたんだ。

俺のいないところででも霄が幸せでいてくれれば、それは俺の幸せでもあるからと…
俺がいなくなってしまっても、お前が一人でも幸せに生きていくことが出来る力を持っていてくれれば、俺は安心できる。

今でもそう言われるんだ。
それを切ない思いで聞く私がいるんだ。


…そして、私もまだ「あの人」に心を凌駕されつづけていて。
あるのかないのかはっきりしない「約束」に刻限を切られていて。

簡単に「執着」させたはいいけれど、最後まできちんと守ってあげたり、
気が済むまでそこにいつづけてあげたりできる保証はないんだ。
そう思ったら、彼に執着を求めること。
彼に執着すること。
その全てに疑問符が付き纏うんだ。


あの人の「約束」の縄が首にかかって以来、、颯くんとの事も含めてずっと考えてたんだ。
自分が執着してしまいそうな人とはなるべく深く付き合わないようにしよう。
友達にしても恋人にしても。
そう遠くない将来、「それ」は履行されるはずだから。
誰かに生半可に執着させたり、執着しちゃったりしたら、救いがないから。

だから、自分の中である程度の外面作れるまで、舞台裏は見せないようにしてきたんだ。

そんな私に親しい友人達は、
「どうして霄はなんでも済んでから話をするの?
その時話してくれたら何にも出来なくたって傍にいることくらいできるのに。
肩抱きしめるくらいできるのに」と真剣に言ってくれたけど。

…言える訳ないでしょ?「執着」しあったら辛いだけの未来が待ってるなんて

そう思うから、「大丈夫やよぉ、何も語らないのは性分だからさぁ〜」ってずっとのらりくらり逃げ回ってた。
竜樹さんとのことも、見合いのが成立するまでの間の恋愛だと信じて疑ってなかったのに。

…私は竜樹さんに「執着」してしまった
 その手を離したくないと願ってしまった…

そのせいで自分にかけられた「刻限」も、竜樹さんの中に潜む「命の刻限が見えることの不安」も見えてなかったんだ。
そして、竜樹さんが私に執着しないことをただ「味気ない」とぶーたれてたんだ。


竜樹さんが最近、何かにつけて温かな笑顔を傾けてくれるのは、
何かにつけて「霄に役立つ話って何かなかったかな?」と一生懸命考えながら話してくれるのは、
「命の刻限」が頭を掠めるから?
手術後、身体の何処にも大きな障害がない状態で徐々に回復してきてるのに、まだその不安が頭の中にあるから?

…私の前からいなくなることを視野に入れてるから?


今、二人で暖かく楽しい時間を過ごせているのに。
竜樹さんの笑顔や話し振りをたまらなく愛しいと思ってるのに。
そんな話を聞いてしまうと、意識は先走っていくんだ。
本当は竜樹さん、「命の刻限」が見えてるんじゃないかって。
二人を否応なく引き離す力が私たちの間にまだあるんじゃないかって。


…何を一人で不安がってるんだろう?

竜樹さん、言ってくれたやんか?

「こないだ買ったデジカメ、動作確認しとけよ。
連休後半戦、一杯使いたいやんか?一緒に出かけて(*^_^*)」って。

笑って言ってくれたやんか?


二人を取り巻く不安たくさんあるけれど。
刻限が迫ってるからとかそんなんじゃなくて、
二人で楽しい時間をたくさん過ごせるよう、笑顔が自然と溢れるよう、
心を閉ざさないでいよう。
大好きな竜樹さんを鎧わない笑顔で包んであげよう。
どんな状態であれ二人でいる時間が大切なものであることに間違いないんだから。


二人の繋がりを「刻限」ごときでぶった切れるもんなら、やってみろよ?
いつか神様にだって手出しできない二人になってやるから。
今はまだ強がりでしかなくても、いつかそれが信念に変わるなら、
きっと無敵の二人になれるんだと、信じたいんだ。


竜樹さんの笑顔を守るのは私で、
私の笑顔を守るのは竜樹さんなんだと。

…そう信じよう。

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