もうひとつの「Still with You」(前編)
2001年4月12日今朝も相変わらず体の調子が思わしくない。
窓を開けると、外は雨だった。
「…竜樹さんの背中、痛いんだろうなぁ。
学校行くの大丈夫かなぁ?」
気がかり一つ抱えて会社に行く。
体調はさえない、気分は重い。
でも、幸い「人中り」は脱出できた模様。
今日は嫌な思いせずに済んだから。
…どんな種類であっても、人に好かれるのは嬉しいんだ。
でも、付き合う付き合わないは本人同士の問題なのに、周りからヘンな干渉を受けるのは嫌なんだ。
こいつら取りまとめたら面白くなりそうやって理由でいろんなことを仕掛けられるのには乗りたくないだけ…
…尤も、先輩のことは私の自意識過剰ってことで片付いてしまえそうだけどね
昼を過ぎても雨はやまない。
雨降りは嫌いなんだ。
雨が降る前後は竜樹さんの調子が悪くなるから。
大好きな人の笑顔が消えるから。
…それと、雨の日はよく「間違える」から…
何気なく、思い返す。
初めての恋がヘンな方向に転がり始めた頃、男の子を好きになることが煩わしくて、意識的に親しく喋らないようにしてたんだ。
…たった一人を除いては
私が唯一親しく話せた「颯くん」は、同じクラスの隣の席の男の子。
何かにつけてはちょっかい出されて話してたんだ。
あんまり怒ることのない、暖かな笑顔の持ち主だった。
一つの恋が終わりに差し掛かる頃、私の中で颯くんはとても大切な存在になり始めてた。
何かにつけて、声をかけてくれる暖かな笑顔をずっと近くで見ていたいって思ってた。
でも、私の友達が颯くんを好きだと言った。
そして、形振り構わず颯くんに向かっていった。
…颯くんは彼女の想いを受け入れた
恋になったかもしれない想いは、そこで終わるはずだった。
彼女に暖かな笑顔を向けるようになっても、颯くんは以前と変わらず接してくれた。
辛いことがあるとき、何気に「大丈夫か?」って顔を覗き込んで聞いてくる颯くん。
私の「痛い」ことを見逃さなかった。
でも、逃げつづけたんだ。
…だって、その暖かな笑顔は「私の」ものじゃなかったから
そんな想いをよそに、颯くんと彼女の思い出は増えていく。
私は見て見ない振りをして、絵を描くことに夢中になっていった。
その過程で「あの人」に捕まってしまったんだけど…
学校を卒業し、颯くんとも彼女とも会わなくなった。
いろんなことを忘れかけた頃、電車の中で彼女に会ったんだ。
彼女はクラス会の委員長だったから、同窓会やるかどうか聞いてみたんだ。
そしたら、「彼とのことが大変でそれどころちゃうねん」って帰ってきた。
颯くんと何かあったのかな?って思って何気に聞いたら、彼女から信じられないような答えが返ってきたんだ。
「颯くんとは別れて、颯くんの先輩と付き合ってるんだ。
先輩は結婚を約束してる彼女がいてて、今、戦ってるんだ」と。
…彼女が悪いわけじゃない。
そんなん判ってるよ。
でも、颯くんは?
あんなに暖かな笑顔を差し出してくれてたのに?
理不尽な苛立ちと言い知れぬ切なさを抱える日々がまた始まったんだ。
その間、何人か付き合ったけれど、いつも「彼」と呼ばれる人の肩越しに颯くんの笑顔が見える。
その度にダメになっていったんだ。
…そして「その日」は突然やってきたんだ
何気なく飛び込んだレンタルビデオ屋。
そこに颯くんがいた。
「…お前、こんなとこで何してんねん?」
「CD借りに来たんだよ。颯くんこそ何してんの?」
「俺はバイトで店員してるんや」
それからレンタルビデオ屋で何回も顔を合わせては、バカみたいな話をしたんだ。
ある年の2月。
こんな風に外は雨が降っていた。
スキーの合宿に行く前に借りてたCDを返しに行ったお店の中に、私服姿の颯君がいた。
少し話をしたけれど、クラブの合宿に行く用意をしないといけなかったから急いで店を出ようとすると、
「雨降ってるし、家まで送ったるわ」
そう言ってくれた。
交換条件として(笑)颯くんの買い物に付き合うということで、二人は並んで店を出た。
スーパーでも並んであぁでもないこうでもないって言いながら買い物をする。
暖かな時間だった。
一緒に買った食材を提げて、駐車場に向かう。
颯くんは私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
…彼女にもそんな風にしたんだろうな
そう思うと少し心が痛んだんだけど。
颯くんの車に乗って、私の家に向かう。
車の中で、昔話に花が咲く。
「最近、誰かにあったか?」
「私の友達の○○さんとかね……
あ、りっちゃん(彼女のこと)にも逢った」
…しまった、と思ったけど遅かった。
空気が凍りついたみたいになった。
颯くんは何も言わなくなった。
…何やってるんだろう、私
助手席で小さくなりながら、早く家に帰ってしまいたかった。
颯くんの傍から離れたかった。
…颯くんの車は私の家の前にたどり着いた。
「お前なぁ、道案内下手すぎ。俺やからそんなんでもいいけど、他の男にそれやったらすんごい迷惑がられるぞ」
「ごめんなぁ、送ってくれてありがとう」
そう言って、足早に車を降りようとしたとき、
「…あ、金岡!!」
颯くんに呼び止められた。
「え!?何?忘れ物しとう?」
慌てて車の外から何気に覗き込むと、見たことのない顔をした颯くんがいた。
ちょっとした間。
何かを言おうとして、でも飲み込んだみたいに颯くんは言ったんだ。
「…いや、何でもない」
「んじゃ、また逢おうねぃ(*^_^*)」
「…おう、またな」
そう言って、颯くんは車を走らせた。
それっきり、二度と颯くんには逢えなくなった。
*****************************************************
…字数オーバーなので、明日に続きます。
結局、今日もまた竜樹さんとは連絡が取れませんでした。
明日こそ、竜樹さんとお話が出来ますように。
ちゃんとこのお話も完結しますように(爆)
窓を開けると、外は雨だった。
「…竜樹さんの背中、痛いんだろうなぁ。
学校行くの大丈夫かなぁ?」
気がかり一つ抱えて会社に行く。
体調はさえない、気分は重い。
でも、幸い「人中り」は脱出できた模様。
今日は嫌な思いせずに済んだから。
…どんな種類であっても、人に好かれるのは嬉しいんだ。
でも、付き合う付き合わないは本人同士の問題なのに、周りからヘンな干渉を受けるのは嫌なんだ。
こいつら取りまとめたら面白くなりそうやって理由でいろんなことを仕掛けられるのには乗りたくないだけ…
…尤も、先輩のことは私の自意識過剰ってことで片付いてしまえそうだけどね
昼を過ぎても雨はやまない。
雨降りは嫌いなんだ。
雨が降る前後は竜樹さんの調子が悪くなるから。
大好きな人の笑顔が消えるから。
…それと、雨の日はよく「間違える」から…
何気なく、思い返す。
初めての恋がヘンな方向に転がり始めた頃、男の子を好きになることが煩わしくて、意識的に親しく喋らないようにしてたんだ。
…たった一人を除いては
私が唯一親しく話せた「颯くん」は、同じクラスの隣の席の男の子。
何かにつけてはちょっかい出されて話してたんだ。
あんまり怒ることのない、暖かな笑顔の持ち主だった。
一つの恋が終わりに差し掛かる頃、私の中で颯くんはとても大切な存在になり始めてた。
何かにつけて、声をかけてくれる暖かな笑顔をずっと近くで見ていたいって思ってた。
でも、私の友達が颯くんを好きだと言った。
そして、形振り構わず颯くんに向かっていった。
…颯くんは彼女の想いを受け入れた
恋になったかもしれない想いは、そこで終わるはずだった。
彼女に暖かな笑顔を向けるようになっても、颯くんは以前と変わらず接してくれた。
辛いことがあるとき、何気に「大丈夫か?」って顔を覗き込んで聞いてくる颯くん。
私の「痛い」ことを見逃さなかった。
でも、逃げつづけたんだ。
…だって、その暖かな笑顔は「私の」ものじゃなかったから
そんな想いをよそに、颯くんと彼女の思い出は増えていく。
私は見て見ない振りをして、絵を描くことに夢中になっていった。
その過程で「あの人」に捕まってしまったんだけど…
学校を卒業し、颯くんとも彼女とも会わなくなった。
いろんなことを忘れかけた頃、電車の中で彼女に会ったんだ。
彼女はクラス会の委員長だったから、同窓会やるかどうか聞いてみたんだ。
そしたら、「彼とのことが大変でそれどころちゃうねん」って帰ってきた。
颯くんと何かあったのかな?って思って何気に聞いたら、彼女から信じられないような答えが返ってきたんだ。
「颯くんとは別れて、颯くんの先輩と付き合ってるんだ。
先輩は結婚を約束してる彼女がいてて、今、戦ってるんだ」と。
…彼女が悪いわけじゃない。
そんなん判ってるよ。
でも、颯くんは?
あんなに暖かな笑顔を差し出してくれてたのに?
理不尽な苛立ちと言い知れぬ切なさを抱える日々がまた始まったんだ。
その間、何人か付き合ったけれど、いつも「彼」と呼ばれる人の肩越しに颯くんの笑顔が見える。
その度にダメになっていったんだ。
…そして「その日」は突然やってきたんだ
何気なく飛び込んだレンタルビデオ屋。
そこに颯くんがいた。
「…お前、こんなとこで何してんねん?」
「CD借りに来たんだよ。颯くんこそ何してんの?」
「俺はバイトで店員してるんや」
それからレンタルビデオ屋で何回も顔を合わせては、バカみたいな話をしたんだ。
ある年の2月。
こんな風に外は雨が降っていた。
スキーの合宿に行く前に借りてたCDを返しに行ったお店の中に、私服姿の颯君がいた。
少し話をしたけれど、クラブの合宿に行く用意をしないといけなかったから急いで店を出ようとすると、
「雨降ってるし、家まで送ったるわ」
そう言ってくれた。
交換条件として(笑)颯くんの買い物に付き合うということで、二人は並んで店を出た。
スーパーでも並んであぁでもないこうでもないって言いながら買い物をする。
暖かな時間だった。
一緒に買った食材を提げて、駐車場に向かう。
颯くんは私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
…彼女にもそんな風にしたんだろうな
そう思うと少し心が痛んだんだけど。
颯くんの車に乗って、私の家に向かう。
車の中で、昔話に花が咲く。
「最近、誰かにあったか?」
「私の友達の○○さんとかね……
あ、りっちゃん(彼女のこと)にも逢った」
…しまった、と思ったけど遅かった。
空気が凍りついたみたいになった。
颯くんは何も言わなくなった。
…何やってるんだろう、私
助手席で小さくなりながら、早く家に帰ってしまいたかった。
颯くんの傍から離れたかった。
…颯くんの車は私の家の前にたどり着いた。
「お前なぁ、道案内下手すぎ。俺やからそんなんでもいいけど、他の男にそれやったらすんごい迷惑がられるぞ」
「ごめんなぁ、送ってくれてありがとう」
そう言って、足早に車を降りようとしたとき、
「…あ、金岡!!」
颯くんに呼び止められた。
「え!?何?忘れ物しとう?」
慌てて車の外から何気に覗き込むと、見たことのない顔をした颯くんがいた。
ちょっとした間。
何かを言おうとして、でも飲み込んだみたいに颯くんは言ったんだ。
「…いや、何でもない」
「んじゃ、また逢おうねぃ(*^_^*)」
「…おう、またな」
そう言って、颯くんは車を走らせた。
それっきり、二度と颯くんには逢えなくなった。
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…字数オーバーなので、明日に続きます。
結局、今日もまた竜樹さんとは連絡が取れませんでした。
明日こそ、竜樹さんとお話が出来ますように。
ちゃんとこのお話も完結しますように(爆)
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