Paradise Lost
2001年4月2日…本当はあれだけ晴れていたんだから、竜樹さんと会って「お花見」にでも行きたかったんだ。
もう2週間顔をあわせてないから、会いたかったんだ。
少しの時間でいいから、二人の時間共有したかったんだ。
そう思って電話した。
竜樹さんは電話に出てくれた。
それはとても嬉しかったんだ。
「今日は体調はどう?」
「どうもなぁ、(背中の金属を支えるために止めてるボルトがある)腰まで痛くなってきてるねん」
…「会いましょう」って切り出すのを躊躇ってしまった
「返さないといけないものも残ってるし、どうしようかなって思って…
そっちに運びがてら、花見にでもいけたらいいなって思って…」
「1時間くらい花見に行くのは大丈夫だけど…」
…でも、あんまり無理はさせたくない。
その迷いで歯切れが悪くなってしまったのか、
会話の中で「何か」を間違えたのか、
話はとんでもない方向に向かっていく。
「10日から学校が始まるし、そのあともいろいろせんなんことはあるから、
多分、今みたいに自由に時間をとることはできんようになると思う」
それは判りきってることだから、別段ショックでもなんでもなかった。
…ただ、何かが堰を切ったように動き出した。
「ところでさ、11月に話した件、どうなってんねん!?
ずっとお前の両親がどう出るか待ってるのに、どうするつもりやねん?
もう俺が動ける時間、切れたぞ」
今のままの状態で、両親に話してみたところで、「はいそうですか」なんていって貰えるはずはない。
せめて、竜樹さんが学校に通って就職して半年くらい経ってから、
誰もが竜樹さんはもう大丈夫なんだと判ってくれるだけの材料が揃うまで待とうと思ってたんだ。
たとえ、学校に通えばいくらかのお金が出て、それに私の収入と足して暮らしていくといっても、そんなことを通してくれるような人たちじゃない。
そう思ったからこそ黙ってたんだ。
それをきちんと話した。
「…それやったら、お前の両親には俺が誠意持って対応してるってことは一切伝わってないってことやないか?
お前は何を考えてるねん!?」
そこに彼はこう加えた。
「俺が時間取れるのは3月までやって判ってたから、あの時期にお前に話したんや。
そうしたら、俺がお前の両親に会う時間は取れたのに。
お前は何でも俺が組んだ段取り壊して歩くねん、いつもそうや。
もう、俺はお前と一緒に歩いていこうって気がしなくなってきてる。
…もう『別れる』方向で考えようって思ってる」
…最近、様子がおかしかったのは「それ」を視野に入れてたからなんだ。
そうして考えると、おかしな点はすべてクリアになる。
判らなかったことは最悪の展開になって初めて見えてきたんだ。
その後は、殆どなじられる一方。
「お前といるといつも最後は疲れてまうんや」
「お前は俺の足を引っ張ってばっかりや」
「お前と話してる今も鬱入ってんねん」
…反論しようって気すら起こらなかった。
「鬱が入ってる」から私にこれだけのことが言えるのか、
これだけの本音を持って私と話すから「鬱が入る」のか。
「鬱が入った」末で言ってることなら、まだ望みがあるんだ。
彼の言う「鬱の入った状態」で物を話してるときは殆ど「本音」と違うから。
でも、もうそれを問い返す気すら起こらなかった。
「学校に通い始めたら日曜しか休みがなくなるから、会う時間が取れなくなってやがて疎遠になっておしまいや」
「だいたい、どんなに続けようって気があったとしても『経済的』な面で最後は封鎖食らうんや。
会う場所確保するんかってお金がいるねんで?
このまま行ったら続けていくこと事態がもう無理やろ」
「それは私だって収入の中から出したりして何とかしてるやんか?」
やっとの思いでそう返した私に、彼は一言こう返した。
「…俺なぁ、お前から『新しいパソコン買いなおすことになってん』って聞いたとき、
『こいつ、何を考えてるねん。この時期に二人で暮らしていくための資金からパソコンを買うためにお金を使うんか?って。
もうこいつとは、一緒に生活できへん』って思った」
…それは父が私のノートを買い取って使いたいって言ったからじゃない?
そう説明したけれど、
「パソコンが取り立ててどうしても必要なものには思えない」
そう言われたんだ。
確かに、元々パソコンを使う目的は竜樹さんの病気の件を調べるためであって、ネット散歩したり友達と語るために使うものではなかったんだから、
そう言われても無理はないかもしれない。
「ネットで日記を書くねん」って言った時だけは、「面白そうやから、やってみ」
確かにそう言ってくれたけど。
書いてる内容に干渉してくることも、覗き見されることもなかったけど。
でも、ネットの友達の話をすると、嫌な顔をされたんだ。
「所詮架空の世界の人間の話に何を熱くなってるんだ」って。
私が「友達」に話し掛けること、「友達」が私に話し掛けること。
そのすべては認めてもらえなかった。
だとしたら、「自分のパソコンを新たに持つこと」が「経済観念のないどうしようもないヤツ」と取られても仕方のない話だ。
涙がとめどなく落ちてくる。
それを悟られるのがたまらなく嫌で、誤魔化しながら話すのが精一杯だったんだ。
今まで自分なりに一生懸命やってきたことは、竜樹さんには何の役にも立たなかったんだ。
彼の望むことをいつも探りながら歩いてきたつもりだったけど、
彼から見たらそれは結果をなさない、意味のないものでしかなかったんだ。
…もう7回目の春を二人で見ることはないのかもしれない。
何処で間違えたのか、何を間違えたのか。
私一人が悪かったのか、彼も何か悪かったのか。
今まで幾度となくやって来た「試練」は、
「二人が共にあるのは間違ってる」っていう啓示だったのかもしれない。
それを無視しながら、手を取りあって歩いてきた。
でも、それが間違いなら粛清しないといけないのかもしれない。
二人で歩いてきた時間に纏わるすべてを粛清しないといけないのかもしれない。
ページ数の関係で、だいぶ端折ってしまったから、彼一人がとんでもなく悪いやつみたいに見える文章になってしまってる気がしてならない。
それを心苦しく思ってるあたりは、まだ私が彼を諦め切れてないみたいで、
あまりに馬鹿げてて笑えるんだけど。
さてこれからどうしようかな?
彼の心取り返すために、最大の「試練」に挑むのか。
それとも、このまますべてを捨てて0から始めるのか。
…心の中に強い風が吹いた気がする。
もう後戻りはできない気がする。
気持ち閉ざさずに、見つめなおそう。
本当に何が必要なのか、何が大切なのか。
…ここからもう一度、考えてみよう。
もう2週間顔をあわせてないから、会いたかったんだ。
少しの時間でいいから、二人の時間共有したかったんだ。
そう思って電話した。
竜樹さんは電話に出てくれた。
それはとても嬉しかったんだ。
「今日は体調はどう?」
「どうもなぁ、(背中の金属を支えるために止めてるボルトがある)腰まで痛くなってきてるねん」
…「会いましょう」って切り出すのを躊躇ってしまった
「返さないといけないものも残ってるし、どうしようかなって思って…
そっちに運びがてら、花見にでもいけたらいいなって思って…」
「1時間くらい花見に行くのは大丈夫だけど…」
…でも、あんまり無理はさせたくない。
その迷いで歯切れが悪くなってしまったのか、
会話の中で「何か」を間違えたのか、
話はとんでもない方向に向かっていく。
「10日から学校が始まるし、そのあともいろいろせんなんことはあるから、
多分、今みたいに自由に時間をとることはできんようになると思う」
それは判りきってることだから、別段ショックでもなんでもなかった。
…ただ、何かが堰を切ったように動き出した。
「ところでさ、11月に話した件、どうなってんねん!?
ずっとお前の両親がどう出るか待ってるのに、どうするつもりやねん?
もう俺が動ける時間、切れたぞ」
今のままの状態で、両親に話してみたところで、「はいそうですか」なんていって貰えるはずはない。
せめて、竜樹さんが学校に通って就職して半年くらい経ってから、
誰もが竜樹さんはもう大丈夫なんだと判ってくれるだけの材料が揃うまで待とうと思ってたんだ。
たとえ、学校に通えばいくらかのお金が出て、それに私の収入と足して暮らしていくといっても、そんなことを通してくれるような人たちじゃない。
そう思ったからこそ黙ってたんだ。
それをきちんと話した。
「…それやったら、お前の両親には俺が誠意持って対応してるってことは一切伝わってないってことやないか?
お前は何を考えてるねん!?」
そこに彼はこう加えた。
「俺が時間取れるのは3月までやって判ってたから、あの時期にお前に話したんや。
そうしたら、俺がお前の両親に会う時間は取れたのに。
お前は何でも俺が組んだ段取り壊して歩くねん、いつもそうや。
もう、俺はお前と一緒に歩いていこうって気がしなくなってきてる。
…もう『別れる』方向で考えようって思ってる」
…最近、様子がおかしかったのは「それ」を視野に入れてたからなんだ。
そうして考えると、おかしな点はすべてクリアになる。
判らなかったことは最悪の展開になって初めて見えてきたんだ。
その後は、殆どなじられる一方。
「お前といるといつも最後は疲れてまうんや」
「お前は俺の足を引っ張ってばっかりや」
「お前と話してる今も鬱入ってんねん」
…反論しようって気すら起こらなかった。
「鬱が入ってる」から私にこれだけのことが言えるのか、
これだけの本音を持って私と話すから「鬱が入る」のか。
「鬱が入った」末で言ってることなら、まだ望みがあるんだ。
彼の言う「鬱の入った状態」で物を話してるときは殆ど「本音」と違うから。
でも、もうそれを問い返す気すら起こらなかった。
「学校に通い始めたら日曜しか休みがなくなるから、会う時間が取れなくなってやがて疎遠になっておしまいや」
「だいたい、どんなに続けようって気があったとしても『経済的』な面で最後は封鎖食らうんや。
会う場所確保するんかってお金がいるねんで?
このまま行ったら続けていくこと事態がもう無理やろ」
「それは私だって収入の中から出したりして何とかしてるやんか?」
やっとの思いでそう返した私に、彼は一言こう返した。
「…俺なぁ、お前から『新しいパソコン買いなおすことになってん』って聞いたとき、
『こいつ、何を考えてるねん。この時期に二人で暮らしていくための資金からパソコンを買うためにお金を使うんか?って。
もうこいつとは、一緒に生活できへん』って思った」
…それは父が私のノートを買い取って使いたいって言ったからじゃない?
そう説明したけれど、
「パソコンが取り立ててどうしても必要なものには思えない」
そう言われたんだ。
確かに、元々パソコンを使う目的は竜樹さんの病気の件を調べるためであって、ネット散歩したり友達と語るために使うものではなかったんだから、
そう言われても無理はないかもしれない。
「ネットで日記を書くねん」って言った時だけは、「面白そうやから、やってみ」
確かにそう言ってくれたけど。
書いてる内容に干渉してくることも、覗き見されることもなかったけど。
でも、ネットの友達の話をすると、嫌な顔をされたんだ。
「所詮架空の世界の人間の話に何を熱くなってるんだ」って。
私が「友達」に話し掛けること、「友達」が私に話し掛けること。
そのすべては認めてもらえなかった。
だとしたら、「自分のパソコンを新たに持つこと」が「経済観念のないどうしようもないヤツ」と取られても仕方のない話だ。
涙がとめどなく落ちてくる。
それを悟られるのがたまらなく嫌で、誤魔化しながら話すのが精一杯だったんだ。
今まで自分なりに一生懸命やってきたことは、竜樹さんには何の役にも立たなかったんだ。
彼の望むことをいつも探りながら歩いてきたつもりだったけど、
彼から見たらそれは結果をなさない、意味のないものでしかなかったんだ。
…もう7回目の春を二人で見ることはないのかもしれない。
何処で間違えたのか、何を間違えたのか。
私一人が悪かったのか、彼も何か悪かったのか。
今まで幾度となくやって来た「試練」は、
「二人が共にあるのは間違ってる」っていう啓示だったのかもしれない。
それを無視しながら、手を取りあって歩いてきた。
でも、それが間違いなら粛清しないといけないのかもしれない。
二人で歩いてきた時間に纏わるすべてを粛清しないといけないのかもしれない。
ページ数の関係で、だいぶ端折ってしまったから、彼一人がとんでもなく悪いやつみたいに見える文章になってしまってる気がしてならない。
それを心苦しく思ってるあたりは、まだ私が彼を諦め切れてないみたいで、
あまりに馬鹿げてて笑えるんだけど。
さてこれからどうしようかな?
彼の心取り返すために、最大の「試練」に挑むのか。
それとも、このまますべてを捨てて0から始めるのか。
…心の中に強い風が吹いた気がする。
もう後戻りはできない気がする。
気持ち閉ざさずに、見つめなおそう。
本当に何が必要なのか、何が大切なのか。
…ここからもう一度、考えてみよう。
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