「痛み」が判る身体

2001年3月30日
今日は快晴。
だけど、少し肌寒い。

「これで気温が高ければ、竜樹さんの背中の痛みはかなりマシになるのにな…」

そう思う。

日々の天気、気温、季節の移り変わり。
今までそんなに毎日気にしたりなんてしなかったのに、
竜樹さんが死神みたいな病気に憑かれてから以降、毎日気にするようになった。
天候の状態はほぼ竜樹さんのその日の体調に繋がる。
空模様を見ただけで、竜樹さんの体調が慮れるようになった。
それが果たしていいことなのか悪いことなのかはわからないけれど…


竜樹さんと最後に話したのは、先週の日曜日。
それ以降、メールを送っても電話をしても竜樹さんは捕まらない。

…尤も、話す機会を貰ったところでとりたてて話すべきことも無い。

強いて言うなら「借りてたもの、いつ取りに来てくれはりますか?」ってこと。

…ぶっきらぼうな言葉の後ろにあるのは「竜樹さんがしんどいなら、別に出てきてくれなくてもいいから、ただ会って時間を共有したい」っていうささやかな気持ちだけ。
それが今の竜樹さんに必要なものかどうかは判らない。
今の竜樹さんに何が必要なのか、会うか話すかすることで見極めたいな。
そうしたら、少しはこの行方知れずの心も落ち着きを取り戻してくれるんだろうか?


今日は月末、しかも年度末。
体はしんどいのに仕事は山ほどある。
相変わらず残業を食らう。
すべての仕事を終えて、ロッカールームに着替えに入る。

…寒い

その瞬間、「あ、竜樹さんの背中が痛くなる温度だ」って判る。
しかも、どことなく湿度も高い気がする。
ほとんど「確定」状態だ。

…いつになったら、暖かくなるんだろう?
雨降りが減るんだろう?

着替えながら泣きそうになった。


外に出て自転車に乗って駅に向かううちに、雨が降り出した。
もう、これで今日も話すことはできないだろう。

「今日は寒いね。雨まで降ってきたよ。今は辛いだろうけど、日曜は暖かいらしいから会おうね」

読んでもらえてるかどうかすら判らないのに、
「竜樹さんメール」を一つ。
自分の気持ちが少しでも届けばいいと思って送信した。


さっきよりも雨が強くなってきた。しかもますます冷えこんできた。
私の右ひざも痛い。胃も痛くて体もだるい。
嫌なことしか捕えられない「アンテナ」はやたら感度が高い。

…一番痛いのは心だよ

空を睨んで心の中でつぶやいた。


家に帰ってご飯を食べる。
甘めのカツとじ丼。
体が温まったのと同時にちょっとだけ気力が持ち直した気がする。
気を落ち着けてから、竜樹さんに電話。

…やっぱり出てはもらえなかった

こんな天候じゃ間違いなく、出てもらえないことくらい判っていたのに。
自分から「もう電話はかけない」って言ったくせに。
出てもらえない日が続くとこんなに悲しいものだったんだ。
出てもらってしんどそうな声を聞くのも、きつい言葉を投げかけられるのも辛かったのに、背中を向けられるってこんなに痛かったんだ。

「…もう、ダメなんかなぁ?」

ため息はやがて涙に変わった。


お酒を飲んでごまかしても、翌日「逆凪」食らって神経が尖るんだ。
他の人に話したら元気はもらえるけれど、話を聞かされる人はたまったもんじゃない。
家の中ではへこんだ顔はできない。
どうしたら自分ひとりの力で元気になれたのか、
それすら思い出せないんだ。

鈍色の空から暖かい日差しの空に戻って、暖かい日が続かなければ、竜樹さんに私の方を向き直してくれる余裕が生み出せない。

…そんなことは判ってるよ。
でも、それ以前に本当に私は竜樹さんにとって必要な人間?
傍にいることをきちんと請われてる?
基本的に把握してなきゃならないところが、まったく判らないんだ。
今度会えたら、きちんと把握できるかな?
竜樹さんは私にわかるように教えてくれるかな?

…私にとって「いいこと」は何にも判らないよ。


明日は友達と会う約束をしてるから、竜樹さんとは会えない。
日曜日は暖かくなるって聞いてるから、竜樹さんの体調はちょっとはマシになってくれるかな?
そうしたら、春の日差しのように暖かな気持ちで二人は向き合えるのかな?
もう一度、ちゃんと話せるようになるのかな?


部屋がますます冷えてきた。
雨はまだ降り止まない。
竜樹さんの痛みが判る身体になったけれど、竜樹さんの気持ちは判らない心のまま。
それがどれほど胸を締め付けるかなんてことを竜樹さんに判ってもらいたいって願うことは、どうしようもない我儘なんだろうけど。

…でも願ってやまないんだよ。
竜樹さんの身体が痛む環境を察知できる身体と同じくらい、竜樹さんの気持ちがわかる心が欲しいって。

そして、さらに願うんだよ。
竜樹さんが「欲しい」って思う人間になりたいんだって。
それが「私」ならいいのにって。


…竜樹さんに暖かな気持ちを差し出せる、
そんな私でいたいんだって、何よりも願ってるんだよ。

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